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参考人(
奥脇直也君)
奥脇でございます。
現在、
日本海洋政策学会の
会長も務めておりまして、その関係で今日は何かしゃべることを求められているんだろうと思いますけれども、私自身の専門は、国際法、
海洋法、国際紛争解決というようなところが主でございますので、本日はそういう国際法の立場から、
海洋政策を通じて
日本が国際貢献、先駆的な国際貢献をしていく道はどういうところにあるのかということを少し考えてみたいと、こういうふうに思っております。
今お手元にレジュメとそれから若干詳しめの参考
資料とありますので、それを見比べながら話を聞いていただければいいと思いますが、今後のことを考える上については、少なくともこれまではどうであったかということを簡単に、図式的で申し訳ないんですが、簡単にしゃべりたいと、こういうふうに思います。
そのために、一番で
海洋秩序の構造変化と、こういうことを書かせていただいております。
つまり、従来の海の秩序、これは公海・領海二元論と、こういうことで成り立ってきたと。領海というものについていえば、これは主権の海、排他的主権の海と。それから、公海というのは包括的な自由の海である。つまり、公海は自由勝手に使っていいと、領海については主権を及ぼしていいと、こういうことで。もちろん、それぞれに例外があって、通航権とか、公海においては海賊という重要な例外はあるわけですが、しかし、基本的に公海というのはなぜ自由であったかというと、それは基本的に、公海は広い海、これは管理不能なんだと、同時に管理が必要ない。つまり、
資源は無尽蔵であり、あ
るいは自然の浄化力というものに頼っていけばよろしいと、こういう考え方ですね、考え方。
もちろん、それが大陸棚
制度とか出てくると成り立たなくなっていくわけですが、そういう海底
制度の変化ということに伴って、特に、そういう二元的な
制度では駄目だという考え方が非常に強くなって、第三次
海洋法
会議における
海洋法条約の成立、こういうことに至っていくと、こういうことだろうと思います。
その
海洋法条約、UNCLOSの
制度の一番重要なところというのは、一つは
排他的経済水域制度ということにあるわけで、
排他的経済水域制度、広大な海、今までは何やってもよかった海。ちょっとそれは語弊がありますが、簡単に言うために申し上げると、何やってもよかった海。それに対して、どうも広い海でも何やってもいいというわけではないと。例えば、
資源保存とかあ
るいは環境の
保全、特に大型のタンカーの就航等によって非常に
海域における船舶起因汚染というのが重大な問題になってくる、これをどうしたらいいかと。
こういうようなことで、やはりそういうのを責任持って任せられるのは沿岸国ではないかと。つまり、沿岸国は
資源保存に当然利害、関心があるはずだし、当然関心がある、あ
るいは汚染についてもそうであると。そういう場合に、一体、沿岸国にどの限度で任せるかというのは非常に難しい問題ではあったわけです。
資源保存ということでいえば、今では
EEZの
資源というのは沿岸国のものだという何か領海化された考え方になってしまっていますが、当初はやはりその
資源保存の責任の上に立った
EEZと、こういうことだっただろうと思うんですね。その責任の部分がだんだん希薄化されているのは確かにそのとおりかもしれませんが、
環境汚染、油汚染ということに限って言えば、油汚染というのも、実はこれは船舶の通航権との非常に微妙な練り合わせの中でようやく認められているのであって、したがって、国際基準による締め付け、制約、非常に大きいと。
しかし、いずれにしても、従来、公海自由である、そこで行った汚染行為についてなかなか沿岸国が手を出せない。特に、公海・領海二元論の中では、船舶の国籍というものを介して
海洋秩序を守ると、こういう考え方が基本であるわけですから、したがって基本は旗国主義と。汚染船舶見付けても、結局は旗国に対して通報して、その旗国に、いずれ船舶は旗国の港に戻るというのを前提に、戻ってきたところで処理してもらうと。要するに、
政府の責任として自国の船舶を管理しろ、こういう
体制だったわけですが、しかし、多国籍船舶が、便宜置籍とかそういうことになってくると、なかなかそういう責任も果たしてもらえないと。
そうすると、やはり
海洋汚染についても沿岸国というものに何らかの大きな役割を認めていった方がいい。特に寄港地国、こういうものに役割を認めていこうと、こういうようなことで、
EEZの
制度とともに、そういう新たな管轄権、つまり、
EEZという機能的
水域であって、それは領海ではない、しかし、その代わりに、沿岸国に特別の関心を持っているような事項について特別の権限を与えていこうと。簡単に言うと、そういうのが
海洋法条約であると、こういうふうに思います。
ただ、それで
EEZをつくって全てが完成したわけではなくて、そこに参考として五十九条というのを載っけてありますけれども、要するに、
EEZの
利用、つまり、広い海の
利用というのは今後ともいろんな形で
発展していく、
発展していくときに、そこで新たな利害の衝突、紛争、こういうものが起こる
可能性がある。そういう場合にどうするかというと、そこに書いてあるように、当事国及び
国際社会全体にとっての利益の重要性を考慮して、衡平の原則に基づき、かつ、全ての関連する事情に照らして紛争は解決するんだと、こう書いてある。これ、書いてはあるわけですが、どうやって実現するのか、大変な問題だろうと思います。
ですから、そういう意味で、この未帰属の権利というものがうまく調整できるようにしていくためには何を
国際社会としてまずやるべきか。
私自身は、基本的にはやはり
海洋について我々が知るところが余りに少ないわけですから、客観的というか、
科学的な根拠をもって議論ができるような
体制に持っていくと。そのためには、やはり
日本のように非常に
海洋科学というものが発達している国がその先駆的な役割を果たしていく、特にサイエンスとテクノロジーと、こういうものを通じてそうした役割を果たしていくべきであると、こういうふうに思っているわけです。
これが私の今日の結論でもあって、あとは、それがどういう部分でどういう形で現れるか、こういうことを少しお話をしていきたいと、こういうふうに思っているわけです。
最初に、公海について、
排他的経済水域の外にまだ公海はあるわけで、その公海について規制を何とかしなくてはいけないということで、公海
漁業協定、国連公海
漁業協定というのがあったりして、その境界、
海域区分ということでいうと、公海と領海、公海と
排他的経済水域の間は人為的に
海域区分はできるわけですが、
海域区分というのは、人為的な管轄権、国家の管轄権の抵触を避けるという意味では非常に重要なんだけど、そしてまたそれが国際法の基礎なんですけれども、しかし、魚は
海域区分関係ない、汚染も関係ない、これをどういうふうに抑え込んでいくかと。非常に大変な問題がある。
特に、公海、
排他的経済水域の外側の公海とその隣接する
EEZ、この間の調整というのは非常に難しい。というのは、
EEZにおける
資源管理措置、これは沿岸国にもう基本的には任せていると。ところが、魚は公海にも泳いでいる。そうすると、例えば、
EEZの外側、
EEZの沿岸国が
漁業資源保存のために当面の間漁獲ゼロという禁漁措置をとっている。そうすると、その外側の公海には非常に多くの魚が出ていると。そうすると、そこを待っていて、それを全部捕ると、こういう国も出てくる。こういうのは、実際にカナダとスペインの間で起こった事件とかあるわけですね。そういうのをどうしたらいいか。
やはり、そういう無責任な
漁業、こういうものは抑え込んでいく必要があるんだということでこの公海
漁業協定というのができるんですけれども、じゃ、その保存措置をどこで、つまり沿岸国がとっている保存措置でいくのか、
EEZのですね、それでいくのか、公海について何らかの機関を設けて、これは
地域漁業機関というのが、RFMOというのがあるわけですが、それが定めたもので従ってやるのか。つまり、そのRFMOという
地域漁業機関の保存措置というのでいくということになると、沿岸国の
EEZに対する権限がそれだけへこむということになる。
これをどういうふうに調整するか。これ、なかなか調整付いている問題ではないんです。調整付けるとすれば、それは、やはり
科学的根拠、
漁業資源についての
科学的根拠、これをもって議論する以外にはない。しかし、残念ながら、最近の
国際社会ではそれを、
科学委員会というのがある国際機関はいろいろあるんですが、
科学委員会の客観的なエビデンスに基づく措置というのはなかなかとれないと、こういうことが多分起こってきている。捕鯨の問題もかなりそうですが、ミナミマグロ事件なんかのマグロの問題も多分そういう面があると。
つまり、責任ある
漁業をするためには、そういう、イリーガルはもちろん、アンレポーテッドな、あ
るいはアンレギュレーテッドな
漁業、これをやはり規制していかなくちゃいけない。これ、IUU
漁業というわけですが、そのためにいろいろな
科学的、客観的な情報、こういうものが必要になるんだと、こういうことになっていくはずなんですが、なかなかそうなっていかない。
日本なんかは、そういう意味では非常に、例えばIWC、捕鯨についてもIWCなんかに非常に多く貢献をしているわけです、データとしてはですね。しかし、それを全く無視されるわけですから、それは
日本として、まあ、これは脱退したのがいいか悪いかの評価は私はできませんが、少なくとも
日本がいなくなったらIWCも困るわけですね。つまり、データが、正確なデータがない。
日本は、お金使って、物すごいお金使ってそういうデータを提供していたわけですから、これを誰かがやるか、あ
るいは
日本が
日本周辺の
EEZについてだけデータ出すか、この辺が非常に難しい話になってくるでしょうと、こういうふうに思います。
いずれにしても、そういう
科学的根拠に基づく措置というのがますますとりにくいことになりかねない。そういう意味で、そういうアンレポーテッドなもの、こういうものをできるだけ少なくし、かつ客観的な、
漁業ですから、なかなか
科学的根拠に基づくというのを、言うのは易しいんですが、非常に難しいというのがありますが、しかし、公海で
漁業を外国
漁船がやっているときに、そこに入っていって立入検査をするとか、あ
るいは、ちょっと時間がなくなるので後で話すのを今お話しすれば、最近では、寄港地協定、要するに、違法な
漁業ないしはアンレポーテッドな
漁業をやった、漁獲をした船がどこかの国に寄ろうとしたときに
協力して措置をとる、つまり港に入れない。
これは、ちょうど小笠原の
サンゴのときにも問題になったように、
日本は現場でその違法な
サンゴ漁を規制するのを非常に苦労する。なぜかというと、
漁業の場合、やはり現場で現行犯で捕まえないと、とても法令違反を問うことが難しいと、こういうことがありまして、そこでうまく捕まえられないということがあったわけですね。そのときに、実は中国に要請して、中国がそういう
サンゴ漁をやって持って帰ったものを港に入れないとか、あ
るいは市場に出さないとか、いろいろそういう措置をとってもらうようにやったと思います。それで、かなりその
サンゴ漁というのは減少はしたと。今でも出てくるみたいですが、それは中途でシャットアウトすると、こういうようなことをやって、余り最近は新聞種にならないと思いますが、そういうようなことがあった。
それと同じように、違法な
漁業あ
るいは無報告の
漁業によって持ち帰ったものは、持ち帰ってくる船、これは寄港させない、寄らせないと、こういうようなことで寄港地の措置をとる、こういうような協定というものを結んでいるわけです。
そういうようなことで、
海洋の管理というのを必要になったから
EEZもできたし、あ
るいはその外側に、更に海底、大陸棚についても深海底
制度という別途の、言わば深海底の
資源、こういうものは
国際社会全体の利益として、言わば地上でそうした類似のものを産出している国とか、あ
るいは
発展途上国とかそういうのに言わば分配していくと、こういうような
体制をつくったわけですね。
そういうことで、
EEZについても、基本的にはやはり海の連接一体性というか、それに基づいて言わば
協力しなければ、その機能的な目的である
漁業資源の保存であるとか汚染の防止であるとかできませんよと、こういうようなことになって、
海洋管理ということが国際的な
協力によって行われると、こういうことにならざるを得なくなってきている。この傾向はどんどん強まってはいるわけです。
それを
海洋協力としてどういう形で実現していくかと。これはなかなかまた難しい話ですが、少なくとも、当初、
海域の秩序というのは、三番目の点ですが、二元的な
海域区分と、それと旗国主義、これは先ほどお話ししたとおりで、それによって
維持されたんだけど、それはできなくなってくると。
そこで、その実質国際法的規制というようなことで、多国間条約、国際機関の基準を設けて、それに従ってもらうということになって、さらにそれを、基準に従わない国がいっぱいいると、それを更に抑え込むためにどうするかというと、UNCLOSで、管轄権の機能的な拡張、汚染に関しては寄港国主義とかあ
るいは沿岸国主義とか、そういうものを取り込んで、しかし、汚染に関して船舶起因汚染で抑え込もうとしても船舶の通航に余り影響があっては困る、したがって国際基準を厳格に守らせる、その国際基準を
実施する国内法令であれば、その寄港国が適用をしたり、あ
るいは沿岸国が取締りをしたりということは認めましょうと、こういう
体制になっている。だから、船舶の通航利益と、こういうものを害さないということが第一の重要な論点であると、こういうことだろうと思います。
また、その管轄権の機能的拡張ということでは、先ほども述べた公海
漁業協定とか、あ
るいは寄港国措置協定とか、そういうような新たな管轄権というものを生み出して新たな
国際協力をつくり出す、こういうことが行われるようになってきているわけです。
さらに、UNCLOSには先ほど言った深海底
制度というのがあると。これは、人類の共同遺産として、コモン・ヘリテージ・オブ・マンカインドと言われていることであるわけですが、しかし、その人類の共同遺産というのは決して深海底機関が独占的に
開発するということではなくて、基本的にはそれが、ある部分はその国家、
開発を求める国家、したい国家、こういうものに認め、かつ、そこから上がる収益の一部をISA、国際深海底機関に上納させて、それで今度は深海底機関が行う
開発、こういうことに使っていくと、こういう
体制はつくったわけです。
しかし、どういう形でその深海底を国家が
開発する部分、これを分配していくか、これはなかなか難しい問題があるんですが、なぜそういう深海底
制度ができたかというと、これは、
皆さん御存じのマンガン団塊の所在が分かって、マンガン団塊を一生懸命先行投資して
開発しようとすると、言わば努力もしないで、例えばアメリカの船が一生懸命マンガン団塊を
開発しようとし始めると、隣によその国の船が来て勝手にやり出す。公海が自由である限りでは、それも認められるということになる。つまり、クリームスキミングをやる国が出てくると。これは、特に鉱業
開発、二十年、三十年の鉱区の独占がなければ採算合わないわけですから、そういうようなことでは深海底の
開発はできないということで、深海底の
開発というものをするためには、深海底機関、こういうものもやらなくちゃいけない、こういうことになってきたわけですね。
それで、そういう意味では、深海底機構をつくることには取りあえず賛成したんだけど、しかし、深海底の
開発となると、これはなかなか、またいろんな問題が起こる。特に汚染の問題があり得るわけですね。深海底という新しい部分を
開発する。これは、同じことが、海底の新しい
利用である海底炭素貯蔵であるとか、あ
るいは先ほどもお話にあった
メタンハイドレートとか、あ
るいは熱水鉱床とかレアメタルの掘削とか、こういうのもいずれも同じことが言える。
海域は連接一体を成しているわけですから、どこかで大きな事故が起こったときに、その海底の掘削に基づく汚染というのが、油汚染とは違うレベルで極めて海を広く滞留すると、こういうようなことが言われているんですね。ちょうど火山が噴火して空を噴煙が覆う、これがずっとそこに滞留するというようなことがあると、非常に地球環境に大きな損害が生ずる。つまり、これもまた
海域区分ではやっていけない。
そのために何をやっていくかというと、今やっているのがやはり環境影響評価。
日本なんかは、環境影響評価の基準って多分非常に慎重で、
メタンハイドレートにしても熱水鉱床にしても、ある意味では、このぐらい慎重にやっていれば何とかそういう重大な汚染は生じないということがあると思いますけれども、しかしそれは、
日本が、逆に言うと、そういうものの
開発がなかなか進まない一つの原因でもあると。ここは非常にジレンマが大きいと思うんですね。だから、今のところは非常に慎重にやっている。国によっては非常に慎重でない国もあります。
そういうようなことがあるので、
海洋科学研究の成果を生かして
資源開発にしても海底
開発にしてもやっていくためには、やはり
日本のそういう基準というのを国際化していく、つまり先駆的なそういう今やっていることを
国際社会に広げていく、こういうことが重要なんだろうと、こういうふうに思っています。
そういう
日本の
海洋科学に関する情報というのは、例えば南太平洋諸国に対する援助としても非常に有効であるわけですし、そういうようなことをやりながら、基本ですね、それは。もちろん
安全保障とかいろいろあります。ちょっと飛ばしましたけれども、先ほどお話にあったMDA、こういうのも、必ずしも狭い意味での軍事ではなくて、広い意味での
安全保障、つまり
科学情報を含めた
安全保障、こういうことになってくるんだろうと、こういうふうに思っております。
その点は、既にこのMDAのイメージとして
海洋政策本部でつくられました
制度でも、やはり全ての人が共有できるデータ、それ以外に、やはり官庁のみで共有する、さらには軍事と共有する、こういう軍事関係の自衛隊と、海保とか、そういう極めて特定の部局でしか共有できないデータ、これを分けているわけですが、どういうデータがどれに当たるか、これはなかなか重要な問題で、これをしっかりとやっていかなくちゃいけないんだろうと、こういうふうに思っております。
ちょっと長引いて申し訳ございません。