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増田参考人 公益社団法人全国消費生活
相談員協会の
増田と申します。
きょうは、このような機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
消費生活センターで相談を受け付けている
立場から、きょうは
意見をお伝えしたいと思います。
お手元に資料を配付させていただきましたので、それに基づきましてお話しさせていただきます。
きょうは、
未成年者契約の
取消権を中心に、事例を踏まえて説明をさせていただければと思います。
まず、公益社団法人全国消費生活
相談員協会というのは、全国の自治体の
消費生活センターに勤務する消費生活
相談員の団体でございます。会員は約二千名おりまして、平日は通常、
消費生活センターに勤務しておりますが、夜とか土日とかそういう休みのときに、私どもの
活動に取り組んでいただいています。
主な
活動内容としましては、自治体の窓口がお休みの土日とかそういうときに、週末電話相談室を開設して個別の
被害回復をすること。また、適格
消費者団体として
被害の未然防止をする。また、一番大きいのが、
消費者啓発、
消費者教育をしております。そういうような
活動の中から、
消費者の生の声を集約して、そして皆様のところにお届けしたいというふうに考えております。
スライドの二をごらんいただけますでしょうか。
マルチ取引の傾向を示すグラフでございます。
若者のトラブルの特徴としてマルチ取引があるわけなんですけれども、マルチ取引自体は全体としては減少傾向にあると思います。ただ、二十歳代ではごらんのとおり増加傾向にありますし、よく見ていただきますと、十歳代もわずかずつですが増加していますので、大変注意が必要なところだと思います。
マルチ取引自体は先ほど
伊藤先生の方から詳しく御紹介ありましたけれども、特に地元の同じ
高校の出身者によって、
成人直後に勧誘をするということが多く見られます。そうしたとき、同じ地元で育って、そしてそこの
地域で学んだということから非常に深い信頼関係がありますので、そこで勧誘をされると、あいつの言うことだからということで
契約をしてしまうということはよく見てまいりました。
そして、更に困ったことに、
自分はやめたいんだけれども、友達を残したままやめることはできないといってその組織に残り続けるケースとか、そしてまた、その勧誘された人も、これはよくないからやめるようにといって
消費生活センターに二、三人がかりで連れてくるわけなんですが、
消費生活センターの一室で、私の前で泣きながらけんかをして、そしてやめさせるように説得をするというような、そういう場面もあります。
それだけ
人間関係が深いところでのやりとりがあるということが考えられると思います。そして、経済的な負担だけではなく、やはりそういう信頼関係が壊れるというようなことから、
人生のスタートにおいて非常に深い傷を負うということがあります。
以前は、サプリとか化粧品とかの商品を扱うことが多かったんですが、最近は、投資用DVDであるとか、もうけることを学ぶためのセミナー、それからオンラインカジノというようなことで、その価値がよくわからないもの、
自分にとっても仕組みがよくわからないもの、そういうものについて、ただもうかる、利益があるというようなことに引かれて
契約をしていくということが多くあるように思います。
スライド三をごらんください。SNSをきっかけとした相談件数の推移です。
若者は、SNSの利用頻度が大変高いので、相談件数もほかの世代と比べて多いと思います。二十歳代前半を中心に二〇一四年から増加が顕著となっていますけれども、特に女性の相談が多く寄せられていますけれども、これは健康食品の定期購入のトラブルが多発したことが原因と考えられます。
スライド四の事例をごらんいただけますでしょうか。これは、私ども週末電話相談室に寄せられました
若年者からの相談のごく一部を御紹介しております。
本協会の週末電話相談室に全国から寄せられました相談は、平成二十八年度は二千六百九十四件で、このうち、十歳代の方からの御相談が百件、二十歳代の方からの御相談が四百三十五件で、十歳、二十歳代で約二割を占めています。
1の事例を御紹介させていただきたいと思うのですが、モデルのレッスンを受けるよう勧められて十五万円の
契約をし、クレジットカード十回払いにした。その後、三十六万円かかるが所属モデルにならないかと言われた。払えないと断ると、二十万円でいいと言われ、承諾した。しかし、高額で払えないので、やめたい。
こうした事例は、
成年年齢がもし引き下げられた場合、十八歳、十九歳にも発生するというふうに考えられますし、モデルなどの勧誘というのは、むしろ十八歳、十九歳の方からすれば非常に強い興味があるんだろうと思います。また、
未成年であればクレジットカードの利用もかなり限定的ですが、
成人となれば一定の利用が可能になりますので、
契約が成立してしまうということになってしまいます。
この事例においては、一回目の
契約はキャッチセールスですのでクーリングオフの適用になりますけれども、期間が経過していれば活用できません。二回目の
契約は、一回目からどのくらい期間が経過しているかにもよるかと思いますけれども、特
商法の適用については争いが残るというふうに思います。そうしますと、
消費者契約法と
民法の活用ということになる。なかなか交渉が困難になっていくということになります。
もう
一つ御紹介したいのですが、スライド五をごらんいただけますでしょうか。5の事例でございます。
友人に食事に誘われて行ったところ、貸し
会議室でのオンラインカジノのビジネスセミナーだった。オンラインカジノサイトに登録し会員になるとカジノで遊べ、勧誘した人が会員になると利益になると勧められた。登録料は二十万円だったので持ち合わせがないと断ったが、キャッシングして払うよう言われ、断り切れず入会し、払った。
この内容自体も、どういうサービスなのかということも非常に難しいところなんでございますけれども、オンラインカジノの会員
契約のために二十万円をキャッシングして支払ってしまいました。
今は、先ほどお伝えしたとおり、もうかる、利益がある、簡単に稼げるという言葉をキーワードに、
若者たちがすぐに飛びついていくという傾向があるかと思います。こういう話は、二十歳代にとどまらず、十八歳、十九歳になればもっと魅力的になるのかなというふうに思います。
この事例も、
未成年であればキャッシングに制限がありますけれども、やはり
成人だったために二十万円が借りられてしまった、そういう事例でございます。
次に、スライド六で、相談が寄せられた場合の
消費生活センターにおける対応について御説明したいと思います。
まず、
未成年者の
契約の場合は、当然ながら
未成年者契約の
取消権を活用いたします。
年齢の立証という非常に簡易な方法で取消しができますので、私
たちは、まず
若者たち、
若者だと思った相談者からは、必ず一番最初に
年齢を確認します。そうすると、
未成年であると本当にほっとするんですね。ああ、よかったと思いながら相談を聞き取りをしていきます。
成人していて、かつ現金で払ったというような場合は、本当に暗たんたる思いをしながら相談を受けている、そういう
状況でございます。
そういう
意味で、
未成年者契約の
取消権というのは強固な防波堤になっているということと同時に、キャッシングなどの制限をしているということで、付随的に防波堤になっている。そして、消費生活
相談員として
感じることは、やはり
未成年者の相談自体が少ないです。これはデータでもわかることだと思いますが、
相談員としての実感があります。
やはり、
事業者の方が、
未成年者契約の
取消権を行使されればすぐに取消しをされてしまうということからも、なかなか
未成年者にはアプローチしづらいんだろうというふうに考えております。
成人の
契約なんですけれども、この場合は特
商法や
消費者契約法を活用することになります。そのためには取引方法や要件の検討が必要ですので、ただ、勧誘方法が今非常に複雑になっていますので、簡単にこの適用を相手方は認めません。
そこで、まず、適用されるのであるということを説得するところから始まります。さらに、返金の交渉をするということになりますので、消費生活
相談員としては、聞き取る力、説明力、交渉力、説得力そして調整能力と、非常に高いレベルの能力が求められているというのが
現状でございます。
そして、最近は、一度払ってしまいますと回収することが非常に困難なケースも多くなっています。でも、一方では、先ほど
スマセレの代表の方がおっしゃったように、
若者は裁判をするというようなことは非常に少ないですので、
消費生活センターのレベルで解決をするということを望んでいます。そうしますと、やはり解決ができないということもありますので、それをそのまま負債として抱え込んでしまうというようなことになっております。
スライド七でございます。
若年者の
消費者トラブルの特徴ということでまとめてみました。
二十歳直後から勧誘されることが多く、
未成年者からの相談件数は
余り多くありません。消費生活相談においては、
特定商取引法の適用のない取引も多く、また、
消費者契約法においてもつけ込み型の取引の手当てが不十分な中、
未成年者契約は
未成年者契約取消権により救済されることが多いです。その反面、二十歳になった途端に
被害の回復に時間がかかってしまうということがあります。
二つ目ですが、SNSなどバーチャルな
人間関係を
根拠なく信用しやすく、反面、リアルな友人あるいは親に相談しないというようなことが見受けられます。
3ですけれども、インターネットは駆使していても、広告や情報の真偽を確かめるというような作業をすることが少ないのではないかと思います。これはほかの年代にも共通して言えることなんですけれども、インターネットの利用頻度が高い二十歳代は更にトラブルになることが多いのではないかというふうに思います。
インターネット広告とかSNSがきっかけになったり、アフィリエイト、ドロップシッピング、バイナリーオプション、さまざまなアプローチ、新しいサービスが次々と出てくる中で、応用力というのが身についておりませんので、トラブルに巻き込まれてしまうというふうに思います。
4として、
契約に関する知識が乏しく、どのような場合に
契約が成立になるか、一旦成立した
契約は簡単には解約ができないというようなことの理解がありません。
5、その場の雰囲気を壊さないようにしたいという気持ちが強いので、
事業者からの勧誘をきっぱり断ることができないというのが実情です。
6、
自身の支払い能力について十分な判断ができないため、借金やクレジットということで分割での支払いを提案されると、将来的に困難になるという予測がつかず、それを受け入れてしまう、そういう傾向があると思います。
そして、スライド八ですけれども、こうした
状況において、
若年者の
消費者被害防止、
被害回復のために必要な手当ては何が必要かということを列挙させていただきました。
まずは
消費者教育ですけれども、
教員自身の
指導方法、教材の活用方法の習得、
消費者教育を実施できる環境の整備ということを挙げさせていただきましたが、これは、実際に超多忙な
先生方の間でこれが実行できるのか、非常に不安があります。それから、
地域の
消費生活センターとの連携とか、
教育の
現場に外部の
専門家を活用する仕組みを整備していただきたいと思います。
消費者庁、文科省、法務省、金融庁の連携、これは既に四
省庁関係局長
連絡会議として発足していただいていますので、今後これが、一番トップのところではなく、
現場にまできちんと
実効性があるような形でおりてきてもらうということを期待しております。そして、自治体と
教育委員会との連携をしていただきたいと思います。
私どもの団体では、無償で
消費者啓発
講座を展開しております。ここ三年間、毎年二百件から三百件を全国でやっています。無償でやると言っても、時間がなくて開催していただけないというのが
教育現場なんですね。ですから、そういうところにぜひ私どものような講師が行って話をさせていただきたいといつも考えております。
そして、特
商法、
消費者契約法のさらなる整備、そして、
事業者による
年齢や
状況に応じた配慮というものが必要だと考えております。
そうしたことが、では、果たして今現在できているかということについて不安があるということを述べているのがスライド九でございます。
1のところで、文科省が平成三十年一月に発表しております平成二十八年度
消費者教育に関する取組
状況調査、百十九ページに出ておりますけれども、「
成年年齢の
引下げを踏まえ、新規・拡充した取組の有無」については、「新たに、もしくは拡充して実施することとなった取組はない」八三・五%が最も多く、約八割を占めている。一方、「新たに、もしくは拡充して実施することとなった取組がある」九・五%と、「現在はないが、今後実施予定」というのが七%、いずれも一割未満となっているということが報告されております。
また、
高校における新
学習指導要領の完全施行は二〇二二年でございますので、それが
現場で効果として実感できるのは一体いつのことなのかということが非常に不安に思っております。
そして、
消費者志向経営を目指す
事業者においては、
年齢や
状況に応じた配慮をしていただきたいと考えております。
現状においては、それが十分かどうかというのが不安に思います。確かに、
若者の
消費者トラブルは悪質な
事業者によるものが大変多くあるのは事実です。ただ、優良な
事業者が、果たして
若者に適切なサービス、商品を提供しているかとなったときに、そこもやはり問題があるのではないかというふうに思います。
事例を御紹介しておりましたけれども、その中のスライド五で、結婚式場の事例がございます。
結婚式場の説明に行き、当日
契約をしたら割引になると言われて
契約をした。だが、二軒目の式場の方がよかったので、翌日キャンセルを伝えると、予約金三十万円を払うように言われた。約款では、
契約成立後のキャンセル料は予約金三十万円となっていた。ほとんど何もサービスを受けていないのに三十万円も払うことに納得がいかない、そういう事例でございます。
結婚式というのは必要なサービスでございます。ただ、
人生においてそう何度も経験する人は少ないです。しかも、親の関与が非常に大きい、そういう
契約だと思います。百万円、二百万円の
契約でもあります。そうしたときに、
契約をとりたいというのは
事業者の方としては当たり前だとは思うんですけれども、やはりそういう特性を考えていただいて、親に相談したのかとか、どういう結婚式が希望なのか、予算は幾らなのか、そういうことをいろいろ聞いて、プランを幾つか用意して、こういうプランがありますよ、親に相談してくださいというようなことまでも言っていただくのがあるべき姿なのではないかというふうに思います。
もちろん、
消費者の方も、よく考えるべきところを、今だけ、きょうだけ、あなただけの
商法をここでやられて
契約してしまうということはあってはならないわけですけれども、やはり、優良な
事業者であれば、
消費者に対する
年齢や
状況に応じた配慮というものをぜひしていただきたいというふうに思っております。
そして、スライド十でございますけれども、やはり、知識、
社会的経験、判断力、資力が不足しているばかりではなく、そして解決方法自体も知らない
若者が多くいる。そういう中から、今、
成年年齢を引き下げることによって、今の二十歳よりもっと未熟な十八歳、十九歳が悪質
事業者のターゲットになって、
若者の
消費者被害の増加が容易に予測されます。
若者は国の宝だと思います。
人生のスタートで負債を抱えることは、将来にわたってマイナスの
影響を及ぼすと思います。こういうような
状況において
成年年齢引下げは、今、時期尚早ではないかというふうに私どもとしては考えておりますので……