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山下参考人 山下でございます。
参考人として
意見陳述ということで言われたんですけれども、実は、この件については、それほどよくフォローしてきたわけじゃないんです。というのは、何が
議論されているのかというのが、私は、はっきり言って、さっぱりわからなかったわけでございます。
実は、この問題について全く素人じゃなくて、私は、
平成元年に当時の農林水産省の
畜産局
牛乳乳製品課というところに行きまして、そこで
酪農の
制度とかいろいろ勉強してきたはずなんですけれども、今回のいろいろ規制
改革から端を発した
議論については、私は、はっきり言って、何を
議論しているのかさっぱりわからなかったわけです。そういう私の疑問も含めて、きょうは
意見開陳をさせていただきたいというふうに思います。
まず、
発言のポイントというところで、資料で、大体こういうふうな話をしたいというところを述べています。
まず、バターの不足から問題が端を発したんじゃないかと思っているんですけれども、間違った認識に基づいて
議論が進行していったんじゃないかなというふうに思います。
先ほどから
酪農家の
所得向上とかいう話があるんですけれども、実は、一九六五年以降、農業
所得は勤労者世帯の
所得を上回って推移しているわけです。有名な農業経済学者の、農業経済史をやっている人で暉峻衆三さんという方は、
日本の農業、農村から貧困はもう消滅したんだ、そういうふうなことを言っているわけですね。
現に、後ろの
参考資料を見ていただくとわかるんですけれども、
酪農家の平均
所得は一千万円です。一千万円の人の
所得を向上するのか、それが農政の
目的なのかというのは、私は若干疑問があるというところでございます。
それから、
現行制度の骨格について御説明をして、
現行制度の骨格というのは用途別
乳価だ、これが
現行制度の基本的な中身であって、これから指定
生産者団体制度とか
プール乳価とか、いろいろな
制度が派生しているということでございます。
それを踏まえて、今回の
法案は
目的を達成しているのかという
議論をさせていただきたいと思います。
端的に申し上げまして、六次
産業化ということなんですけれども、これは今の
現行の
制度でもある程度対応できますし、特にチーズなんかは今の
現行制度で十分です。それ以上の
改正は必要ありません。そういうふうなところで、果たして六次
産業化に貢献するのかという疑問があります。
それからもう
一つ、これは重要なところなんですけれども、
年間の
販売計画を
指定団体、
生産者団体が決めるというところが、今回、農業界の
意見としてこれが
法案に反映されたんだと思うんですけれども、実は、製品をつくって売っているのは
メーカーなんです。
メーカーが、実需者の
需要に合わせて、
飲用にどれだけ回すのか、
乳製品にどれだけ回すのか、そういうことを決めているわけですね。
乳業メーカーが決めて、
酪農団体に対して、実は
飲用としてこれだけ売ってほしいというのが、普通というか今の現状だというふうに思います。普通の現状だと思います。
端的に言いますと、新日鉄は鉄板をトヨタに供給しています。でも、トヨタがどれだけ自動車を
販売するかというのを、新日鉄が鉄板の
販売計画を決めて、それに従ってトヨタに自動車を
生産しなさいよ、そういうようなことを言っているようなものなんです。
したがって、今回のこの
法案というのは、かなり基本的なところで問題点があるんじゃないかなというふうに私は思っております。
それから最後に、本当に正しい
酪農政策というのはどうあるべきなのかという話をさせていただきたいと思います。
まず、資料をちょっとめくっていただきたいと思うんですけれども、
バター不足についての説明は本当かということなんですけれども、新聞報道があったんですが、これに私は本当にすごい違和感を感じました。
私は大体三十年ぐらい
酪農政策とか
酪農の
状況をフォローしているはずなんですけれども、私が担当した
平成元年ぐらいも、ぬれ子の価格が、子牛の価格がかなりよくて、
酪農経営も相当よかったわけです。それに比べても、今の
酪農経営というのは、はっきり言って絶好調です。果たして
所得向上が必要なのか、
酪農の
経営が赤字なのか、これは大きな疑問があるんだと思います。
五ページ目を見ていただくとわかるんですけれども、結局、バターが不足したのは何かということなんです。
基本的に、端的に言うと、いろいろ関税で保護したとしても、国内の価格が上昇して、ある一定のところ以上に上昇して、輸入した方がもうかるということであれば、輸入が自動的に行われて、供給がふえて、価格は下がるはずなんですね。
バター不足も起こらないはずなんです。
ところが、ALICという、国家貿易
制度を設けていて、これに対して農林水産省が、いつ、どれだけのバターとか脱脂粉乳を輸入するかというのを指令するわけですね。したがって、自由な市場というのがうまく
機能しない。
したがって、本当に、規制
改革会議がバター問題を取り上げるのであれば、ALICによる国家貿易
制度を
廃止する、こういう
提言をすべきだったというふうに私は思います。
それから、六ページのところなんですけれども、
現行酪農制度の本質というのは何かというと、基本的には、六六年の
不足払い制度施行以前は一物一価だったわけです。
飲用向けも加工向けも同じ
乳価だったわけです。
したがって、何が起こったかというと、加工向けで、
乳業メーカーは、
乳製品の価格が安いわけですから、それで一般と同じような
乳価をやろうとすると赤字になってしまう。したがって、一般の
飲用の
製造についても、黒字を出す必要がある、つまり価格を抑える必要があったわけですね。したがって、
乳価紛争が絶えなかったわけです。
これを防ごうと思ってやったのが今の用途別
乳価制度と
不足払いなんです。つまり、今の加工向けの
乳価を抑えて、
不足払いも入れて抑えて、
飲用向けの
乳価を上げる、こういうことで
乳価紛争がおさまったわけです。
先ほど、
飲用向けについては
補償制度がないということは指摘があったんですけれども、それはそうなんですけれども、実は、
加工原料乳について
不足払いをすることによって、しかも用途別
乳価制度を導入することによって、
乳価紛争は全くおさまってしまった。つまり
都府県の
飲用乳価格の安定に貢献したんだ。これは多分、今までの
酪農政策が決して間違っていなかったということの証拠だというふうに思います。
ただし、七ページを開いていただきたいと思うんですけれども、用途別
乳価をする、そうすると、ある
生産者が加工向けに
販売する、あるいは別の
生産者が
飲用向けに
販売する。そうすると、それぞれによって、たまたま
飲用向けに
販売すると高い
乳価が得られて、加工向けに
販売すると低い
乳価である、それでは不平等だというので、
一元集荷、
多元販売制度、
指定団体制度ですね、一気に
指定団体が集めて
販売して、いろいろな
乳価をプールして加重平均した
乳価を
生産者に支払う、こういう
制度ができ上がったわけでございます。
ただし、この
指定団体制度が本当に
機能しているのは、私は
日本でホクレンしかないんだと思います。極めて強力な独占を持っていまして、価格
交渉についても価格決定権についてもほとんどホクレンが主導してやっております。それから、乳業工場の配乳権、これも、ほとんど
都府県の
指定団体ではここまで持っているところはないんだと思います。ただし、ホクレンは、
不足払い法施行以降、配乳権を確立したわけです。極めて強固な権能を持っている。したがって、実はホクレンのみが
飲用向け、加工向けの用途別
生乳の配乳権限を持っているということなんです。つまり、今の
法案の趣旨に一番合致しているのはホクレンだということなんです。
ということから考えると、もしホクレンの独占的
機能が失われれば、用途別の
販売計画というのは不可能になるということであります。何が起こっているかというと、もし
生産者に対して
選択肢を
拡大しようとすると、第二ホクレン、第二
指定団体を
北海道でつくらざるを得ない。そうすると、配乳の
販売計画というのは不可能になるということなんですね。
逆に言うと、今のホクレンそのままを維持するということになれば、この
法案の
販売計画というのは意味を持つことになります。だけれども、その場合には、
法案の
目的である
生産者の
選択肢をふやすという
機能は、法の趣旨、
目的は全く達成されないということになります。
下の方で、ほとんど
都府県は
飲用向けだというデータを示しております。
今申し上げた話は九ページ以降に書いております。論理的に言うと、もし
北海道で第二ホクレンをつくったとします。今のホクレンは、ほとんどが加工向け、バター、脱脂粉乳向け、生クリーム向け、チーズ向けですから、
プール乳価は低いわけです、八十五円ぐらいなんですね。ところが、第二
指定団体になると、当初は
飲用向けが主体だと思います。そうすると、
生産者としては、同じ
プール乳価が第二ホクレンの方が高いわけですね、
飲用乳価の方が。そうすると、
生産者はどんどんどんどん第二ホクレンに
生乳を
販売委託しようとするでしょう。
そうすると何が起こるかというと、論理的に言うと、何もしなければ、第二ホクレンは全て
飲用牛乳、ホクレンは
加工原料乳のみというふうな形も予測されるわけです。ただし、本当にそういうことが起こるのかねということなんです。
ホクレンというのは、大変力の強い独占的な事業体であります。かつて、一九九〇年代だと思いますけれども、ホクレンに対抗して別の
農協をつくって、肥料とか農薬を安く農家に供給しようとした
北海道広域
酪農というのがございます。ただし、この
北海道広域
酪農というのは、韓国から肥料を輸入してホクレンよりも三割安い価格で供給した、そういう成功はあったんですけれども、残念ながら、いつの間にか
北海道広域
酪農というのは消えてしまったということでございます。何が背景にあったのか、私は十分承知していません。いろいろな人に聞くんですけれども、なかなか的を得た答えが返ってこないということでございます。
それでは、十ページ、なぜ六次
産業化に貢献しないのかという話なんですけれども、
酪農家が
飲用牛乳をつくる場合には、
酪農家にとって、
飲用乳代のコストというのは
プール乳価なんですね。これは経済学で言う機会費用という概念なんですけれども、
プール乳価で自分は
生産できるわけです。だから、
飲用工場のように、
乳業メーカーのように高い
飲用乳価を払うよりもはるかに有利になります。
それから、チーズ向け
乳価、
チーズ生産ですけれども、チーズについては、
酪農家が例えばホクレンに
生乳を売って
プール乳価で代金を得ます。その後にホクレンからその
生乳を買い戻して、買い戻すというのはチーズ
乳価で物すごい安い価格で買い戻すわけです。そうすると、
酪農家としては、高い
プール乳価で売って安いチーズ
乳価で買い戻して
チーズ生産した方がはるかに有利なわけです。つまり、
現行の
指定団体制度のもとでも、この
チーズ生産については十分、むしろそっちの方が有利だというふうなことになるんだろうと思います。
それから、十一ページ以下は、いろいろな今の
酪農団体が言っていることがはっきりよくわからない。冬場に加工向けに向けるというんですけれども、冬場であっても
飲用向けの
需要はすごいあるわけですね。しかも、ここに書いているように、
飲用向けがキロ百円で、
加工原料乳が
補給金込みでも八十五円だという状態のもとで、誰が安い加工向けに、冬場であっても
販売しようとするのか。このロジックが私はさっぱりわからないということでございます。
そういうふうなことをいろいろ、以下に書いております。特に十四ページなんですけれども、
販売計画の申請をするんですけれども、ホクレンが
北海道の
生乳の一〇〇%を自分が
販売するんだというふうな提案をしてきた、
販売計画を提出してきた。ところが、第二ホクレンが、いや、うちは五〇%の
生乳を扱うんだというふうな申請をやってきた。その場合に、全体の一五〇%の
生乳の
販売計画が二つの団体から出てくるということになります。こういう場合に、では、どういうふうに調整するのか、私はよくわからないわけでございます。
はっきり言って、
乳業者の契約書を添付しろというんですけれども、ホクレンの意向をそんたくした
乳業メーカーが、第二ホクレンとそんな契約は交わしませんよと言われたら、今までどおりのホクレンの一〇〇%の
生乳の
販売計画が通ってしまうわけですね。そうすると、法の
目的は達成できないというふうなことになります。
それから、十五ページなんですけれども、今まで御指摘された人と違って、私は、今回の措置というのは、完璧な、農林水産省の、悪い言葉で言うと焼け太りだというふうに思います。
実は、
加工原料乳の
不足払い法は、
北海道が市乳供給地帯になるまでの
暫定措置法だったわけです。当時の
畜産局長だった檜垣徳太郎さんという人が答えて、どれぐらい続くのか、いやまあ、続いて五年か十年ぐらいだろうなと。そういった
制度が五十年も続いてきたわけですね。
したがって、今の
状況から見ると、ほとんど今、
北海道は、生クリーム向けというのを加えて辛うじて
加工原料乳地帯になっているだけであって、従来のバター、脱脂粉乳からすると、もう
加工原料乳地帯ではなくて、市乳供給地帯になっているということで、また新しい
仕組みを検討する必要があるんじゃないかなというふうに思います。
あと、最後になりましたけれども、十九ページなんですけれども、いろいろその途中の
過程の
前提を省略して申し上げますと、もう輸出を考えて、国内の
需要はどんどん
減少していきます。
飲用牛乳についても、お茶の消費が伸びたために、
飲用牛乳の消費が落ちたわけですね。そういうふうなことを考えると、輸出にしても価格
競争力をつける必要がある。そうすると、今の用途別
乳価という
制度をやめて、もう一遍単一
乳価に戻して安い価格で供給する。そういうふうなことをやらないと、なかなか、短期的な
酪農、乳業の、一時的な延命措置はいいんですけれども、将来、人口
減少時代で、
日本の
酪農、乳業が将来とも存続するというためには、オーストラリアが二〇〇〇年に
制度改革をやったように、単一
乳価に戻すべきだというふうに思っています。それで、なおかつ、国内の草地を使っている農家についてはEU型の単一直接
支払いを導入すべきだというふうに私は考えております。
最後に、今、農本主義という言葉が盛んに言われるようになりましたけれども、戦前の農本主義の代表者と言われている石黒忠篤の言葉を引用させていただいて、終わりたいと思います。
ここに、黄色に書いておりますように、国の本なるがゆえに農業をたっとしとするんだ、国の本たらざる農業は一顧の価値もないんだ、したがって、諸君に、真に国の本たる農民になっていただきたいと。これを言ったときの真の国の本たる農民というのは、
国民、
消費者に食料である農産物を安く安定的に供給する、これが石黒忠篤が考えた真の農民だったということでございます。
どうも御清聴ありがとうございました。(
拍手)