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参考人(
今井一男君) 誠に申訳のない次第でございまして、御
審議を妨げたことについては重々お詫び申上げる次第であります。あいにく
社会保障制度審議会の小
委員会で私の立案の
説明をやらされてお
つたもので、つい遅れまして、申訳のないことをいたしました。
今回の
専売裁定につきましては、相当
理由書にも書いておきましたので大体御
承知と思いまするが、まあ成るべくこの
理由書の文章の中に載
つておりませんような点につきまして着手私
どもの考えましたことを申上げまして、御
審議の御
参考に資したいと思います。
先ず第一に、私
ども仲裁委員会の
立場でございますが申すまでもなく
労使問題は
労使間の自主的な話合いによりまして、お互いに
責任を持
つて判を押し合うとそうい
つた結果によりまして行われます経営、勤労でありますれば、これは産業の発展のためにも極めて有効と考えられまするが、これに対しまして第三者が
口出しをする、まあ時には
口出しのほうがいい場合もございましようが、特にそれが権力的な形における
口出しをするとこうい
つたことは、結果的に非常に面白くないようなことになる慮れが多分にございます。
仲裁裁定は御
承知の
通り両
当事有の
意思にかかわりなくこれを拘束いたしまするが故に、
法律の
建前からいたしましてもこの出動の範囲は極めて限られるように、少くとも
仲裁委員会がそのイニシアチブをと
つて発動するようなことは一切禁止されるような仕組にな
つております。私
どもその
法律の精神を受けまして、成るべく
両者の
意見を中心にしてものを判断して行く、
両者の
意見の合わない
部分だけを何とか合わせるように工夫上、どうしても合わない
部分について我々の
意見を挿入すると、そういう
考え方に相成
つて参るわけであります。即ち、例えば
賃金で申しますれば、すでに我々のほうでは
賃金はかくあるべしだとこうい
つたような仮に
観念がございましても、その
観念の下に出て来だ問題に対して答えを出すというような方法はわざわざ控えております。即ち
労使の
意見を十分聞き、
十分闘つて頂いて、そのうちで合理一的なものを取上げて
行つて、そこに
一つの線を出そう、従いまして、私
どもは言い換えれば一個の
企業体におきましての
労使問題、一個の
企業体におきましての
賃金問題を
解決して行くという
立場からこの
仲裁を行な
つて参
つて来ておるのであります。勿論その
意見の合致しない
部分につきまして私
どもが独自の
見解を加えます際には、極力世間の良識なり輿論なりというものを頭に置いて考えることは申すまでもございませんが、少くとも
両者が
意見の一致した
部分に我々が割
つて入るということは絶対にいたさない
建前をと
つておることを冒頭に御了解願
つておきたいと存ずるのであります。
それともう
一つ、特に今回の
専売裁定で申上げておきたいことは、これは二人の
仲裁委員によ
つて行われておる極めて異例な、いわば前例のない
裁定であるということであります。この七月に
公労法が
改正になりますまでは、
仲裁委員会には
補欠委員という
制度がございまして、一人に事故があるときにほすぐ
補欠の人が代
つてその
手続に遺憾なからしめてお
つたのでありますが、
公労法の
改正によりまして、この
補欠委員制度がこの八月からなくなりました。
仲裁委員の二人であります
福井盛太氏が
衆議院議員に立候補のために八月末辞職されました。その後任は
公労法によりまして
中央調停委員会が推薦しなければならん。従来の
公労法では中労委が推薦してお
つたのでありますが、今度は
中央調停委員会にその権限が移りました。ところが
中央調停委員会が十月の十七日まで任命されない、即ち福井
委員がやめられてから一カ月半以上も推薦すべき
委員会がない、こういう事態にぶつかりまして、而も推薦した候補者につきまして、
労使双方がお互いに
意見を闘わしてこれが合致すればよろしうございますけれ
ども、なかなか一致しませんというと更に一カ月間の
期間をとりました上でそこで総理大臣が任命する、かような
法律に相成
つております。従来の
公労法でありますれば、二人の
委員の
裁定は明かに私
どもは無効と考えます。この
公労法の
改正によりまして
補欠委員制度がなく
なつたということは、果して二人の
委員でやることが合法的かどうかということにつきまして、私
ども非常に疑問を持
つたのであります。少くともそれほどまでの趣旨で
公労法が
改正に
なつたものとはどうしても認めがたいのであります。而もこれに対しまして、我々といたしましてはやはり
一つの又独立機関ではありましても一個の行政機関でありますので、権威ある何が法制局等から頂けるならば、又考えようもあ
つたのでありますが、そのほうも頂くことができませんでしたが、併しながら
労使問題の
解決は決して時間的に延ばすことが適当でないことは申上げるまでもないのでありまして、その間に非常な苦慮をいたしたのでありますが、結局十一月の八日になりまして、
労使双方から書面で二人の
委員だけでや
つてくれとこうい
つた公式の
意思表示がございました。私
どもは
法律解釈から申しますれば、疑問を感じたのでありますけれ
ども、
仲裁手続というものが
労使のためにあるという見地から、利害
関係者がそれでよろしい、即ち拘束を受ける利害
関係者がその二人の出した
裁定でよろしいとこうい
つたことでありますならば、労働常識として他の面から苦情が出る筋もあるまいとかように考えましてあえて二人で取り急ぎまして
裁定いたした次第でございます。恐らく今後も例のないことかも知れませんが、非常に異例な例として特にお耳に入れておきたいと思います。
次に
賃金でありまするが、
賃金につきましては、
組合は当初からマーケット・バスケット方式によられたのでありますが、我々は一般に世間で言われますように、マーケット・バスケット方式は頭から排斥しようという
考え方は持
つておるものではございませんが、まあ併しながら
公社側からこの
意見は全面的に容れられなか
つたのでありますが、それにいたしましても、
一つの
企業体におきましてのペース、
賃金の基礎としては適当でなかろう、即ちこの
立場は
生産性の変化でありますとか、労働条件でありますとか、或いは企業の支払能力でありますとかいうものが考慮の中に入れられない意味におきまして私
どもは
両者の
意見の合致しないこの問題につきましては、これはとり淡だばと認めたのであります。併しながら
組合側が一部において主張されました、すでに
専売の一切の事業成績、
労働生産性等が
戦前の
水準まで戻
つている以上、
賃金も少くとも
戦前の姿までは戻
つてもよろしいのではなかろうかというような主張に対しましては、合理的な根拠があるものと考えまして、その線に従いましてそろばんを置いて参
つたのであります。又一方
公社のほうからは具体的には幾ら幾らまでは出したい、当然だ、こうい
つたような
意見は遂に聞くことができなか
つたのでありますけれ
ども、それにいたしましても、
賃金の基礎としてどういうような裁量が先ず一番よろしかろう、こうい
つた見解はこれを得ることができましたので、その線に従つでも一応の
検討をいたしました。結局我々といたしましては、本来申せば
両者が具体的な
数字を出し合
つて、その根拠を明らかにしてその食い違いを解明にして行くのが一番都合のいい
手続でありますけれ
ども、遂に
公社側からは公式に具体的た
数字が得られなか
つたのでありますが、それにいたしましても
公社が
補正予算の作成に際しまして、
大蔵省との折衝の結果、内定した
数字は少くとも
公社側の公式の
意思表示に代るものと、こうい
つた推定はいたしたのであります。そうい
つた三者の
数字をひつくるめまして出しました
数字が今回の
調停案のペース
賃金の基礎にな
つております。問題はこれを何月から支給するかという点でありますが、
公労法の古い
規定には、七月までの
規定には
労使は必ず年に一回は
団体交渉をやらなければならないという明文がございました。この明文は今回の
改正によりまして
現行法では削除されておりますけれ
ども、恐らくその意味はそうい
つたことまで干渉するのは余計なことであるとい
つた意味合いだろうと想像するものでありますが、それにいたしましても年一回ずつ必ず
団体交渉をやれと、こうい
つた法律の趣旨は少くとも
賃金につきまして毎年一回は必ずお互いに再
検討してみようと、こうい
つた趣旨であろうと考えられます。
組合側が三月の末に問題を提起いたしました
関係から、これを直ちに四月遡及ということも若干労働常識上問題かとも考えるのでありますけれ
ども、それにいたしましても、本来ならばもつと早く処理さるべき問題がいろいろの事情のために
裁定が遅れた、遅れた不利が
組合側にかかるようではこれは決して公正な扱いとは考えられないのであります。その間に立ちまして、私
どもといたしましては、本年から新たに少くとも実質的に夏季手当が半月分だけ
組合側に渡されたと、こうい
つた点、これは
生産報償金が払われたものでありまして、見方によ
つては
生産報償金とも言えるのでありますが、実態を調べますというと、実質的には夏季手当とも十分考えられるものであります。これに着目いたしまして、若干
組合側に気の毒な感を持ちながらも、先ず八月という即ち
調停案を示しました月というものでまとめるのが妥当と、こうい
つた結論に
なつた次第であります。この配分
関係その他につきましてはいろいろ議論があ
つたのでありますけれ
ども、私
どもとしては大体におきまして、
両者間の話合いが多分つくであろうという線を出したのでありまして特に申し上げることもございませんが、最近にな
つて問題にな
つております年末手当につきましては、これは実は年末手当というものが
労使間の
紛争の対象にな
つておりませんので、
両者いずれからも御
意見がなか
つた関係上、冒頭申上げました
調停委員会の原則に立返りまして、我々としてなんらこれに触れるところはなか
つたのであります。併しながら先ほど申しました夏季手当の問題は、
生産報償金をもら
つておるに過ぎませんので、少くともその分だけは
生産報償金を穴埋めすべし、そうしなければ八月遡及というバランスを失する、こうい
つた見地に立ちまして
生産報償金の問題につきまして一項を加えておいた次第であります。
その他特に今回第六項として
業績賞与の一項を加えたのでありますが、今回の
補正予算に見られますように、
専売公社に与えられました下半期の課題は極めて大きいものがございます。恐らく私
どもの推算では月々二十時間を超える超過勤務をやらなければこの国家の要請に応えることができないのではなかろうか、こうい
つた非常に皺寄せということは、これは労務者にとりまして気の毒な面も若干考えられますし、更に先ほど申上げました四月遡及の
関係からいたしましても、私
どもといたしましては多少不足気味の点も感じましたので、そこで一案といたしまして、若し国から与えられた課題以上の
責任を遂行し、それ以上の利益を上げた場合、その利益というものを或る
程度組合に還元することによりまして、その穴を埋めてもらうという
制度によ
つてこれを
解決しようという案を考えて入れたのであります。実はこうい
つた性質のものは
専売に対しましての第一次
裁定、丁度今から三年前の
裁定の中にも抽象的ながら一個条入
つていたのでありますが、これは未だに何ら実現の緒についておりません。まあこのついておらないことは、
労使間でよろしいと投げ出されたのか、研究中なのか、その点は我々としても詳らかにしないのでありますが、少くとも今回の本
年度の
賃金については、これだけのものは埋める必要があるという見地から前の
裁定と離れまして、又仮にこれが二重になりましても別に何らの弊害はないと認めまして、こうい
つた項目を特に一個条加えた次第であります。これらの
賃金の支払に要します
資金は、まあ大ざつぱに申すと四億内外かと考えられるのですが、この四億内外と申しますものは、すでに
補正予算案に計上されております
数字以外のものでありまして、
補正予算に加えるに四億
程度という
数字を生み出して頂けば十分支払い得られるであろう、こういう見通しであります。歳出
予算の規模が八百億でありますから大体二百分の一という
数字であります。従来の
専売公社の事業実績等から考えまして、私
どもとしてはこれだけのことは
専売の事業運営上少々努力をいたしたならば十分やりくりはつくであろう、又のみならずこのことによりまして毫も
専売事業の運営には支障はあるまい、のみならずこうい
つたことによ
つて労使ともに努力が重ねられるならば、却
つて国家の要請する
専売益金以上のものを生み出し得る基礎にもなるのではないか、その意味においてはこの
経費は国家的に見ても却
つて有効に使われ得るものではないか、こうい
つた見地におきまして、我々としてはこの点はいわゆる企業の支払能力の面から見ましても問題はないし、又是非考慮さるべき
数字であるとい
つた考え方に立ちまして、特に詳しく経理
関係を
検討するという
手続はとりませんでした。
ただ最後に一言申上げたいのでありますが、まあ今回は、実に先ほど申上げました事情から相当の長
期間を要しておりますけれ
ども、由来
仲裁委員会の
仲裁は政令によりまして三十日以内に出せとい
つた建前にな
つております。私
どもとしてもこういう異例の場合を除けましては、原則としてその
建前を厳守して参りました。片手間にやります仕事でもございますし、又極めて僅かな十名ばかりの
職員を使いまして出します
裁定でございますので、これが裁判所の行います判決等のように自分たちの納得の行くまで問題を掘下げるという余裕はございません。その意味におきまして私
どもの
裁定の内容自身がそうく威張れるもの、こうい
つたうぬぼれは持
つてはおらないのであります。批判の余地は十分あるものと考えておるのであります。併し私に言わせますと、
賃金というものは恐らく本質的にい
つてそういう虞れのある問題ではないか。見方によ
つては高いと言う人、安いと言う人が必ず出て来得る問題ではないか。
従つて止むを得ないからこういう
公労法の
建前のときは最後に誰かにきめてもらう、即ち結論よりも
手続の民主化によりましてこういう労働秩序を保
つて行こう、こういう意図であろうと考えるのであります。無論今申上げましたように、私
どもは私
どもの
裁定自身につきまして決して自慢がましいことは申上げ得ないのでありますが、そうい
つた見地に立ちますというと、この
数字に対してはやはり単に
両者間の拘束のみならず、世間的にも形式的な尊重は是非頂かないというと、これは調定案や人事院の勧告と違いまして、両
当事者のイエス・ノーを許さない
建前にな
つておるものでありますので、少くとも権衡論からする議論は私の考えでは、これも差出がましくな
つて恐縮でありますが、これは皆さんがたというよりも、世間によくあることでありますので申上げるのでありますが、おかしいのではないかと思います。但し私
どもは何も
専売の経理問題なり何なりにつきまして決してそう権威のあるものではありません。こうい
つた点につきましては
公労法に
定めがありますように、
国会が特にその
予算を
審議されるお
立場にありますので、その見地におきまして然るべき御判断を頂くことにつきましては、これは別に何らの
意見を申上げようというつもりはございません。
甚だまとまらんことを申上げましたが、若し何らかのお足しになれば仕合せでございます。