○
岡原政府委員 今回御審議を仰ぎます
刑事訴訟法の一部を
改正する
法律案につきまして、一応
改正の要点を逐條的に御説明申し上げたいと存じます。御審議の便宜にと思いまして、先般私どもの方でまとめました
法律案の
解説書がございますが、それを中心といたしまして、重要な事項を取立てて申し上げたいと存じます。と申しますのは、この
改正が全部で五十数箇條にわた
つておりまして、中には非常に技術的にこまかい面にのみとどまるものもございますので、大体大きい問題を三つほど特に御説明申し上げたいと存じます。
その第一は、第八十九條の
権利保釈の
除外事由に関する点、並びに第二百八條の
起訴前の
勾留期間の
延長の件であります。いずれも
被告人、
被疑者の身柄の問題でございます。八十九條の
改正点は、ちよつと法文を読み上げますと、八十九條の第一号中「無期の懲役」を「無期若しくは短期一年以上の懲役」に改める、これが一点であります。第五号中の「氏名及び住居」を「氏名又は住居」に改める、これが第二点でございます。次に「
被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき」という一号を加える。ざらに「
被告人が、
被害者その他
事件の
審判に必要な知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる充分な理由があるとき。」これを加える。これが
権利保釈の
除外事由の
改正点でございます。すなわち
現行法の八十九條におきましては、五つの
権利保釈の
除外事由が掲げられておりますが、その第一号の「死刑又は無期の懲役若しくは禁錮にあたる罪」というのを、いわゆる
重罪事件、すなわち「短期一年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」これに
除外事由を認める、かように
改正しようとするものであります。次は「氏名及び住居」とあります
現行規定の第五号、これを「氏名又は住居」に改めることによりまして、そのいずれかがわからないときは
権利保釈にならない、かような
改正でございます。次は「
被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」という一項目を加えまして、いわゆる内乱、
騒擾等、あるいは
集団強盗等の、
集団犯罪といわれるような
事件におきましては、
通常通謀あるいは
証拠隠滅の
蓋然性がきわめて高度でございまして、
犯罪を遂行する際に通謀するのみならず、さらに
犯罪の
証拠の
関係についても隠滅の通謀がきわめて多く行われやすい。従来の経験に徴するも、また実際の
事件を通しでみましても、その点はきわめて明らかでございますので、かような
事件につきましては、この
権利保釈の
除外事由に加えまして、この
蓋然性をこの文字によ
つて表わす、特に
証拠隠滅のおそれがあるというような明白な立証がつかぬでも、大体さようなものは
証拠隠滅のおそれがきわめて明白であるという
蓋然性からして、その
権利保釈を除外する、かような趣旨でございます。かような
事件につきましては、外部に身柄を出しますると、とかく一緒に
犯罪に当りました連中がまた一緒に協議いたしまして、かような多
衆犯罪において
被告人同士がお互いに証人的な立場に立
つておりますその
証拠関係をくずす、あるいは新たなる偽証あるいは
証拠隠滅等のことをはかるという点を防止しようとする趣旨でございます。
次は「
被告人が、
被害者その他
事件の
審判に必要な知識を有すると認められる者の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる充分な理由があるとき。」これは俗に
暴力団等の
お礼参りとい
つておりますが、
被害者が何か
被告人に不利な証言をいたしましたために、その
暴力団の
親分等がやられた。そうすると、それを根に持ちまして、保釈をされたあとで、どうもあなたのおかげでちよつと臭い御飯を食べて参りましたというようなことを
言つて顔を出す。そういたしますると、
被害者の方は後難を恐れまして、後日証人に呼び出されるようなことがございました際には、自分の真意に反して、
被疑者、
被告人をかばうというような現象がきわめて顯著でございます。さような明白な理由がありました際には、これを
権利保釈から除外いたしまして、も
つて後日
証拠の收集あるいは
審判の上に妨害的な結果が及ばないように防止しよう、かような趣旨でございます。
なおこの新しい四号になりました「
被告人が多衆共同して罪を犯したものであるとき。」という点に若干問題があるだろうと存じますので、一言これを敷衍いたしますると、この新しい第四号中の「多衆」とございますのは、従来
暴力行為等処罰に関する法律第一條、あるいは
選挙法第二百三十條、刑法第百六條等に用いられておる言葉で
ございまするが、それぞれの
立法趣旨によりまして、若干の意義の違いはあり得ると思うのでございますが、少なく
とも二人とか三人とか、あるいは十人
とかいつたような
少い数を予想しておるのではないのでございまして、いわ
ゆる
集団犯罪という実体にふさわしき
程度の人数であることを要する、かように理解しておるのでございます。
次に「共同して罪を犯し」というのは、これは
暴力行為等処罰に関する
法律等に若干の判例もございまするが、この
被告人たちがさような
犯罪を犯すについて、現場において
共同正犯の地位に立つのが最もテイピカルな例でございますが、それに加功したとき、これも判例に
従つて「共同して罪を犯し」に入る、かように理解しております。
なお
お礼参りの点の「
事件の
審判に必要な知識を有すると認められる者」とありますのは、
現行法の二百二十六條に、「
犯罪の捜査に欠くことのできない知識を有すると明らかに認められる者」という概念よりもやや狭いつもりでございまして、
事件の
審判に必要な証言をなし得るものというふうな程度の意味でございます。
次は身柄の問題の中の第二の点の二百
八條関係に移りたいと思います。二百八條の次に一條を加えまして、
起訴前の
勾留期間に七日以内の再
延長を認めようという趣旨でございます。すなわち二百八條の二に「
裁判官は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる
事件につき、
犯罪の証明に欠くことのできない共犯その他の
関係人又は
証拠物が多数であるため
検察官が前條の
期間内にその取調を終ることができないと認めるときは、その取調が
被疑者の釈放後では甚しく困難になると認められる場合に限り、
検察官の請求により同條第二項の規定により
延長された
期間を更に
延長することができる。この
期間の
延長は、通じて七日を超えることができない。」としたのでございます。
現行法の
起訴前の
勾留期間は
最大限二十日になるのでございます。実際問題として、この二十日の
期間をフルに動かしまして、最後の段階に
至つて公訴を提起すべきかどうかという決定ができない特殊の事情の生ずる場合がございます。と申しますのは、たとえば集団的な
暴力事犯のごとき、あるいは特殊の大規模な
詐欺事件、
偽造事犯等におきましては、
被疑者、
関係人が非常に多く現われまして、またその相互の
関係を次々に追いかけて行くということになりますと、最初の
被疑者の
起訴、不
起訴を決する段階に至らずして二十日間の
期間が過ぎてしまう。そういたしますと、その
共犯者、あるいは
牽連犯等で次々と追つかけている
事件関係者が検挙される前に釈放しなければいかぬ。もしもこれを大体
事件の見通しをつけて、たいてい間違いないだろうというふうなことで
起訴することがあ
つては、これまたたいへんである。さような
事件がちよいちよいあるのでございます。さりながら、この
勾留期間の
延長の問題は、
事人身の拘束に
関係いたしまして、この点につきましては單に
捜査機関の便宜のみをも
つて事を律するのは都合が悪い。さような次第で、その
延長につきましては特別な配慮をいたしまして、いろいろな條件をこれに附加したのでございます。まず勾留の再
延長を
事件の種類によ
つて制限しようといたしております。すなわち「死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる
事件」要するに比較的重い
事件、
ちようど現行法二百十條に
緊急逮捕の規定がございまするが、その許される範囲と同じ程度の罪でなければならないというのが
一つの條件でございます。
次は
犯罪捜査の状況によ
つて場合を限定してございます。すなわち第一には、「
犯罪の証明に欠くことのできない共犯その他の
関係人又は
証拠物が多数である」こと、第二に、そのために、
検察官の
起訴前の
拘留期間が第二百八條二項によ
つて延長された二十日
の間で
取調べの終了がどうしてもできないという場合、第三に、もしも
被疑者の身柄を釈放したのでは、それらの
関係人あるいは
証拠物を
取調べることがはなはだしく困難になると認められる場合、さような状況の点から三つの要件をかぶせたのでございます。ここに申します「
犯罪の証明に欠くことのできない」というのは、
現行法二百二十七條の捜査に欠くことのできないというのよりさらに狭い意味でございまして、
犯罪事実の
証明そのものを中心として考えなければいかぬ、かようなことでございます。また「共犯その他の
関係人又は
証拠物が多数である」というのは、多数の
関係人または多数の
証拠物が存在するということを必要とするのでございます。しかもそれらは、いずれも
犯罪の証明に直接欠くことができないものであることを要します。次に「前條の
期間内にその取調を終ることができない」すなわち第二百八條一、二項によりまして、通計二十日の
期間をも
つてしましてもこの重要な心証及び物証の
取調べを終了し得ないことを要件といたしております。しかもその
取調べをその
期間内に終ることができるかいなかの認定は、もつ
ぱら勾留を決する
裁判官にあることにな
つて参ります。次に「その取調が
被疑者の釈放後では甚しく困難になる」ということを要件といたしておりますが、これは、たとえば、これを釈放い
たしますれば罪証を隠滅する危険が非常に多い、あるいは釈放いたしますると社会的な影響が
関係人等に及んで、結局その
人たちの間の
関係で調べが非常に困難になるというふうな場合を申すのでございます。次に「この
期間の
延長は、通じて七日を超えることができない。」「通じて」と申しますのは、数回にわた
つて延長することも妨げないのでありますが、合計七日以内でなければならないという趣旨でございます。現在の二百八條第二項とまつたく同じ趣旨でございます。
この七日という
期間につきまして、昨日いろいろ問題が提供されたのでございまするが、
法制審議会の答申におきましては、この再
延長の日数は五日というのが主文にな
つております。これを本案におきまして七日に改めてございます。この再
延長の
期間をはたして何日までにするのがいいかという点につきましては、昨日各
参考人からお話がございました通り、
法制審議会におきまして最後の最後までもめた問題でございまして、そうしてその見解が、ある者は全然
延長すべからず、ある者は五日にすべし、さらにある者は
十日にぜひ希望するというふうな意見が対立いたしまして、その間
小野部会長もたいへん苦労されたようでございました。で、最後の部会から一、二回前であつたと思いまするが、いろいろ議論が出ました結果、結局
小野委員長が、この点はたいへん議論の多いところであるから、しばらくこのまま議論をさまさせよう、と申しますか、休もうというふうなことに相なりまして、結局一月半というもの話がつかずにそのまま経過したのでございます。ところで本国会に提出いたします
閣議決定の最後の日に間に合いかねるということになりますると、私どもとしては、本法案の通過を一日も早かれと祈
つておりました
関係上、ちよつと事務的に困る面も生じましたので、諸般の状況上五日ということを主文に書き、十日の案を付記いたしまして
法制審議会が
通つた、かようなことに相な
つたのでございます。そこで私どもといたしましては、その間の諸般の
速記録等をしさいに検討いたしました結果、なるほどこの五日、七日もしくは十日につきまして、各委員の具体的な一票一票の採決はいたしませんでしたけれども、全体の空気がほぼ七日ということでまとまり得るものと認定いたしまして、この七日の案を提出した次第でございます。なお機会がございますれば、その間の詳細の事情を申し上げたいと存じます。
すなわちかようにいたしますると、身柄の拘束につきましては、現在の逮捕の四十八時間、二十四時間、合計七十二時間すなわち三日、これに勾留の二十日と七日と二十七日、
総計最大限三十日ということに相なるわけでございます。私どもといたしましては、現在の
刑事訴訟法の全体の建前が、人権の擁護、ことに身柄の
拘束等につきまして、細心の注意を拂
つておることももとより承知いたしておりますので、かような例外的な
延長を認めるにつきましては、單に法文上かように各種の制約を重ねたのみならず、その運用につきましても十分の措置を講ずべく、
目下最高検察庁と協議中でございます。なおこの点に関しましては、かような
勾留期間の
延長ということなしに
現行法のままに、人員または
物的施設を擴充することによ
つて、これを対処し得るのではないかという議論もごもつともでございます。そこで私どもといたしましても、その点は
大蔵省その他
関係当局に熱烈に希望いたしまして、漸次若干の改善に向いつつあるのでございますが、何分にも
犯罪捜査の中心となる
検察官につきましては、その性質上その資格を下げるわけには参りませんので、現在の
司法修習生から採用するという建前は、これは当分堅持しなければならぬと思います。さようなことに相なりますると、その人的な面から毎年非常に制約を受けまして、まだ
相当数の欠員が検事についてはあるのでございますが、まだ埋まらずにおるような次第でございまして、少くとも検事の増員については、事はたいへん困難であるという事情を申し上げたいと思います。なお副検事につきましては、現在七百二十二名おるのでございますが、副検事はその性質上
資格要件が検事に比して若干ゆるい
関係から、もしこの採用に当
つて素質の悪い人が入
つて来るようなことがあ
つては相ならぬということで、副検事の増員につきましは極力これをセーブいたしまして、増員につきましても今
大蔵省に強く主張しないというふうな建前にな
つておるのございます。
なお物的な施設につきましては、やはり一定の限度がございまして、たといその物的の施設をわれわれが現在考えられる完璧な程度といたしましても、結局かような多
衆犯罪等におきまして、ある程度身柄を拘束して相互に人証をかためまして
事件を立てて行くという方法は、いかに
物的施設が完全にな
つても必要になるのでございまして、この点は今後も努力して行きたい
と思いますが、やはり限度があるということだけ御了承願いたいのでございます。
次に大きな問題の第二といたしまして、
簡易公判手続についての御説明を申し上げます。
法制審議会におきまして、いわゆる
簡易公判手続を新たに設けようという問題を取上げまして審議いたしたのでございますが、そのねらいとするところは、
被告人がまつたく事実を争わない
事件につきまして、
公判審理手続をすべて型通りやるということは実情に沿わないものがある。さようなしかつめらしい
手続を簡略化いたしまして、その結果多少なりとも生ずる余力を一般の複雑困難な
事件の審理に向ける。そして全般的に
刑事裁判の促進をはかり、またその
適正化をはかるということであります。この点につきまして参考になりましたのは、いわゆる英米における
アレインメントの制度でございますが、
アレインメントの制度をそのままの形で、すなわち
被告人が
有罪答弁をいたしただけで
被告人を
有罪として認定するということは、わが国の憲法の精神に沿わないものがある。また実際問題といたしましても、
被告人が虚偽の
有罪答弁をする場合もあらう。さような無実の罪を認めるということがあ
つてはなりませんので、この法案におきましては、
被告人が
有罪の
陳述をいたしましても、それですぐに
有罪の判決を下すというのではなくて、必ず
公判廷において他の
証拠も
取調べなければならない。そして
裁判所がこの
被告人の
有罪陳述と、調べた
補強証拠とによ
つて総合して
有罪の心証を得た場合に
限つて、初めて
有罪の判決をすることができる、さような建前にいたしたのでございます。すなわち、この法案における
有罪の
陳述というのは、英米における
有罪答弁、あるいは
民事訴訟におきます請求の認諾とは、まつたくその本質を異にするのでございます。
なおこの
簡易公判手続が一般の
公判手続とどういう点において違
つておるかということを申し上げますと、第一には、
伝聞証拠に関する
証拠能力の制限を緩和した点でございます。すなわち
検察官、
被告人または
弁護人が
証拠とすることに異議を述べた場合を除いては、
伝聞証拠についての
証拠能力の制限をつけないこととしたのでございます。これは
有罪の
陳述をした
被告人は、一応その
犯罪事実に関する
被害届、
参考人の
供述調書、その他
伝聞証拠の
取調べに同意しているものと推定することもあながち無理ではないと思われますので、特に異議が申し立てられれば格別、それがなければこれらに関する
証拠能力の制限を撤廃してその
証拠を自由に
取調べ得るものとしようとしたのであります。第二に、
証拠調べの
手続を簡略化しようとするのでございます。すなわち
公判法廷において
検察官が
冒頭陳述をいたしますのを省略し、証人や
証拠書類の
取調べを
裁判所が適当と認める方法で行うことができるものとした点でございます。もちろん
当事者には
証拠調べの
請求権が認められております。また
証拠調べに関して異議を
申立てることも許されておるのでありますが、
当事者に異論のない場合には
証拠書類の朗読を省略し、または朗読にかえてこれを展示する等の適宜な方法で
証拠調べができる、すなわち
関係書類が厖大であるような場合には、これによ
つて著しく時間の節約ができるものと考えます。
また
有罪の
陳述のあつた
事件について、右に述べた一般の場合に比較して比較的簡易な
公判手続を行う結果、
被告人が錯誤によ
つて、あるいは他人の
身がわりとな
つて有罪の
陳述をするような場合には、無実のものを処罰するようなことになりはしないかという心配がございますので、次の三点においてその配慮をいたしてございます。
すなわち第一に、
被告人が
有罪である旨を
陳述してもただちに
簡易公判の
手続に移るのではなくして、あらかじめ
検察官及び
被告人または
弁護人の意見を聞き、その
陳述が
被告人の真意によるものであ
つて、かつ虚偽の
陳述でないことを十分に検討した上で、初めて
裁判所が
簡易公判手続によ
つて審判をする旨の
手続としたわけであります。なお
被告人または
検察官が
簡易公判手続によ
つて審判することに異議を申し述べた場合には、通常の
手続で
審判される、かようなことになるのでございます。
第二に、このように慎重な
手続によ
つて決定をいたしましても、その後傍証の
取調べを
行つた結果、
裁判所は事案の真相について疑いを抱くような場合もございます。あるいは
被告人から、先ほどは
有罪の
陳述をしたけれども、実際は真意でなかつたというような申出をする場合もあります。さような場合におきましては、
裁判所が
簡易公判手続によることは相当でないと認め、先ほどの
簡易公判手続による旨の決定を取消して、
公判手続を更新し
通常手続によることができることにしておるのでございます。
第三に、いわゆる
重罪事件については
簡易公判手続により得ないものといたしました。たとい
被告人が
有罪の
陳述をいたしましても、必ず通常の
手続によらなければならない、かようにいたしてございます。なお、
被告人に対しましては、あらかじめ
起訴状の謄本が送達されることにな
つているばかりでなく、
公判期日には、
検察官が
起訴状を朗読し、
裁判長が黙祕権を告げた後において初めて
有罪の
陳述をすることができるものであるとされていることはもちろん、
刑事訴訟規則の
改正によ
つて簡易公判手続により得る
事件については、
裁判長から
被告人に対してわかりやすく訴因の内容を説明し、かつ
簡易公判手続を理解させるために必要な事項を説明することになろうかと思います。すなわち
簡易公判手続というものはこういうものである、それによ
つてやるつもりなら、そういたすということをわかりやすく説明することになろうと思います。
最後に、
簡易公判手続によ
つて審判する
事件においても、一般の
公判手続による場合と同様に、
公判廷で刑の量定に関する
証拠調べを行うことはもちろんでございまして、
簡易公判手続によ
つて審判を受けた者も、
一般手続による控訴の
申立てができることは、これまた申すまでもないことでございます。なお
簡易公判手続の詳細につきましては、二百九十一條の二以下に規定がございまするが、技術的にこまかい面にわたる点もございまするので、いずれ御質疑に応じてさらに敷衍いたしたいと存じます。
今回の
改正の大きな第三点は、
控訴審における
取調べの範囲に関する
改正でございます。すなわち法案「第三百八十二條の次に次の一條を加える。」云々、これ以下に出ておる点でございます。現在の
控訴審は、原則として第一審の判決当時
裁判所に提出されている資料に基いて、第一
審判決の当否を判断するものとされておるのでございます。すなわち
控訴審が第一
審判決の当否を判断するという意味において、いわゆる
事後審と称しておるのでございます。逆に申しますと、
控訴審におけるその当時の事情によ
つて、
事件の真相についてみずから判断をするという建前ではないのでございます。これに反しまして、もとの
刑事訴訟法は、いわゆる覆審という建前をとりまして、全然新たに
事件を調べ直すというふうなことにな
つておりました。また民訴におきましては、若干の例外もございまするが、いわゆる続審というような性格を中心といたしておるのでございます。かように
控訴審の建前につきましていろいろの考えがあるのでございまして、現在の
刑事訴訟法におきましては、大体
事後審という性格を強く浮き出して、この線にすべてまとめておるのでございます。しかるに実際の運用にあたりましてこの点が若干問題になりまして、
裁判所によりましてこの第一審の判決の当否を判断する際に、現在の
刑事訴訟法三百九十三條一項但書によりまして、かなり広汎に事実の
取調べをする
裁判所があるかと思いますると、いわゆる
事後審の性格に徹しまして、第一審の判決を純然たるその当時の事情によ
つて判断するということから一歩も出ない
裁判所もあるやに聞いております。すなわちこの点に関する取扱いが若干区々にわかれておりまして、実務上たいへんむずかしい問題が出て参
つたのでございます。さらに
現行法は、第一
審裁判所の
審判の過程に現われなかつた資料は、
控訴趣意書に援用できないものとしております。ただその資料が第一審の
弁論終結前に
取調べを請求することができなかつたもので、その事由の疎明されたものは、刑の量定の不当または判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に
裁判所がこれを
取調べなければならないという規定を置いておるのでございます。先ほど申しました三百九十三條一項の但書でございます。
今回の
改正は大きく申しまして二点でございます。その第一点は、
控訴審が第一
審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状を考慮して原判決の量刑の当否を判断することができることとした点でございます。すなわち三百九十三條第三項として「控訴
裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一
審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。」という規定を置き、さらにこの規定によ
つて取調べました結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができるという規定を別に置いたのでございます。
第二点は、第一
審裁判所の
審判の過程で現れなかつた資料でありましても、一定の條件がある場合においては、これを
控訴趣意書に援用できるこ
とといたした次第であります。この点は三百八十二條の二に「やむを得ない事由によ
つて第一審の
弁論終結前に取調を請求することができなかつた
証拠によ
つて証明することのできる事実であ
つて前二條に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原
裁判所において取り調べた
証拠に現われている事実以外の事実であ
つても、
控訴趣意書にこれを援用することができる。第一審の
弁論終結後判決前に生じた事実であ
つて前二條に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。」という規定を置きまして、この点を明らかにしたのでございます。かようなことに相なりますると、
控訴趣意書に第一審の
裁判所の
審判の過程において現れなかつた事実を援用できることになりまする
関係上、三百九十二條で、これが当然
取調べの対象となり、現在のいわゆる
事後審という性格が若干くずれまするけれども、いわゆる第一審重点主義が緩和され、事実の真相というものが割合に究明できるのではないだろうか、また情状でについての新たな有利な事情等も援用することができるということにな
つて、
被告人にも有利になるであろうというのがこの
改正の趣旨でございます。
冒頭に申し上げました通り、今回の
改正案の大きな点は以上三点でございます。その他は技術的にこまかい点もございまするし、御質疑に応じまして順次お答えいたしたいと存じます。一応逐條の簡略なるところを申し上げた次第でございます。