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本田参考人 おはようございます。東京大学の
本田由紀と申します。
本日は、
日本における
クラスサイズの現状と
課題というレジュメと、あとほかに二つ
資料をつけてあります。これらを使って御
説明していきたいと思います。
私は、御存じいただけている方もいらっしゃるかもしれませんけれども、ほかの十二名の
教育研究者とともに、昨年の七月から、少
人数学級化を求める署名キャンペーンというのを続けてまいりました。この署名キャンペーンでは、二月半ばまでに二十四万四千筆以上の署名が集まっております。今日つけてあります
資料の二つ目は、こちらの署名キャンペーンで昨年の秋に作成し無償配付しているパンフレットです。このパンフレットには、私ども呼びかけ人の基本的な認識を分かりやすくまとめてありますので、まずはそちらを使いながら、どういうことを考え、主張してきたかということを御
説明していきたいと思います。
まず、このパンフレットの二から三ページを見ていただきますと、なぜ少
人数学級が必要であるかということについて、要点のみですけれども、まとめてあります。
それらは、今現在求められる
学びの質が大きく変容しているということ、また、
児童生徒の中にも、ケアが必要な
子供を含め、非常に多様化が進んでいるということ、また、
教員の労働環境がもう限界まで悪化しているということ、そして、一斉休校の後に
学校が再開した際に、分散登校という形で、半分に
学級を分ける形で
学校が始められました、その際の経験を踏まえて、あれがとてもよかった、本当によかったという
保護者や
児童生徒の、あるいは
教員の声というものが非常に多いわけですね。それも踏まえまして、やはり少
人数学級が必要だということを主張してまいりました。
パンフレット四から五ページに関しましては、少
人数学級に関する近年の
研究をまとめてあります。
これも御存じのことが多いかもしれませんけれども、少
人数学級は
学力にも
効果があります。特に家庭の
社会経済的背景が不利な
児童生徒に
効果があります。それだけでなくて、
教師、
児童生徒関係であったり、
児童生徒相互の
関係であったり、あるいは個々の
児童生徒の心理状態にもよい
効果があるということは既に明らかになっています。
このように、
研究の蓄積はありますけれども、まだまだ足りない点もありまして、例えば、近年の精緻な、計量的な
検証においては、前年の
学級規模が独立変数として使われることが多くて、個々の
児童生徒がこれまで何年間にわたって少
人数学級を経験してきたかというような長期的な
効果に関しては、まだまだ
検証が遅れているところです。
重要なことを申し上げておきたいんですけれども、
日本の少
人数学級の
効果ということに関して、
学力ということが言われる場合が多いんですけれども、例えば、国際比較で見た場合に、
日本の
児童生徒の
学力というのは、かなり高いところに、多少変動はあって一喜一憂されているところはありますけれども、総じて高いところに位置しています。
日本の
児童生徒が国際的に見て非常に大きな
課題を持っているのは、そこに図一をつけてありますけれども、
学力以外の、
学びの意義の実感や、あるいは自由な思考を伸ばすような経験が明らかに不足している。これがこれから先の
教育の変革に最も重要なことであって、こちらを従属変数として使った少
人数学級の
検証ということが必要であるというふうに考えております。
次に、パンフレット六から七ページに関しましては、これまで、地方の努力によって、先ほど
清水委員長からもお話がありましたけれども、加配や独自財源によっていろんな努力が続けられているわけですけれども、もうそれが限界に来ている、そのために非正規の
教員が多数採用されて、不安定な中で
担任を持ったりしている、そういう
対応ではもう限界だということを、六から七ページでは述べてあります。
ここまでがパンフレットの主な
内容になります。
もう
一つの
資料は、済みません、これは私が作ったものではないにもかかわらず、
文科省が作成されたものなんですけれども、非常に重要な論点が多数含まれていると思いまして、今日、お配りしました。
これは、少
人数学級は必要ないのだという、端的に言いまして、財政
制度審議会財政
制度分科会における財務省側の
資料に対して、興味深いことに、翌日に、
文科省が即座に、機敏に全部反論したという、これに関しては私はすごいなと思って見ておりまして、そこに多数の重要な点が含まれております。
レジュメの一ページの一番下に書いてありますけれども、私として注目したいのは、都道府県における
学級規模のばらつきということ、そしてまた全国の一定の
教育水準の均衡を図る環境
整備が是非必要だということは、これはとても重要な論点だと思っております。これは、次の二の二で御
説明します。
ページをめくっていただきまして、レジュメの二ページになりますけれども、一の五に書いてありますのは、大変恐縮ではありますけれども、昨年十二月に今回の法案に具体化されている方針が発表されたときに、この署名キャンペーンの呼びかけ人で記者会見をいたしまして、そこで、私を含む数名で、その方向性に対して申し上げたことです。恐縮ですけれども、削減幅は少な過ぎる、スピードが遅過ぎる、
学校段階が限られ過ぎている、
教員の
確保及び雇用労働環境
改善のための方策が不十分過ぎる。
つまり、今回の法案は、四十年以上ぶりに
法律の
改正に至ったという点で高く評価する方ももちろんいるのは存じ上げておりますけれども、目指すべき方向に照らしたときに、いかにも不十分である。これはもっとスピードアップして、もっと大幅にこの現状を
改善していくということを、法案にも、例えば附帯決議だとかいう形で盛り込んでいただく必要がどうしてもあるというふうに私どもは考えております。
次の二のところは、パンフレットでは十分に展開できなかった追加的な論点について、新しい
データも含めてまとめてあります。
まず、二の一は国際比較を示してあります。これは、OECDのエデュケーション・アット・ア・グランス二〇二〇という一番新しい国際比較
データを使いまして、
小学校と
中学校の平均
クラスサイズを示してあります。一目瞭然で、
日本は左端にあります。
日本に関して目立つのは、オレンジ色の線で描かれている
公立中学校に関して、国際
標準と比べても極めて多いということなんですね。中ほどにOECDアベレージというのがありまして、これを見ると、
中学校の平均
クラスサイズは二十三人です。ところが、
日本は三十二人という、
中学校において、国際比較で見ると非常に大規模であるということにもっと注目していただく必要があると思います。
こうした
クラスサイズに関しましては、先ほど、
研究が既にかなりあるというふうなことを申し上げましたけれども、諸外国では、もう七〇年代から、
研究の
研究というか、どういう知見が蓄積されてきたかということに関するメタアナリシスという、これまでの
研究で明らかになっていることを多数集めて
分析するという形の
研究が行われておりまして、有名なのがグラスとスミスによる
研究ですけれども、それが次の、レジュメ三ページの図三につけてあります。
二十人ぐらいよりも
クラスサイズが減ると、
小学校もそうですけれども、特に、
中学校、セカンダリースクールにおいて
学力が非常に
改善する、
学力だけではなくて、メンタルの状態であるとかも
改善するということは、もう七〇年代の末から明らかになっております。それに基づいて、世界各国では、特に先進国では、
学級規模を小さくしていく努力を必死で進めてきているわけです。
ところが、
日本は、図二にあるような、
小学校はもちろん、
中学校に関しては、ひどいと言っていいような
状況にあります。これは、先ほど
清水委員長からのお話にありましたように、これまで
学級編制標準の
改善が四十年間にわたり停止してきてしまったということがあって、この間に国際動向から
日本は完全に遅れてしまっております。この、特に
中学校段階の問題ということに関して、是非関心を持っていただきたいと思います。
今のは国際比較ですけれども、国内比較を見ましても、先ほど、
文科省の
資料の、都道府県間のばらつきということを改めて図にしてみたものなんですけれども、これは、
中学校に関して三十人以上の
学級が占める比率を棒グラフで表しまして、オレンジ色の点は通塾率です。この通塾率に関して、回帰直線を引いてあります。グレーの折れ線が
学力ですね。
これを見ていただきますと、三十人以上
学級の比率というものには都道府県間で非常に差があります。緩やかにですけれども、三十人以上
学級が多い都道府県ほど通塾率が高いという右上がりの回帰直線になっています。つまり、
学級規模が大き過ぎてきめ細かく手当てをしてもらえないものを、家庭が高額の費用を払って
子供を塾に行かせて何とか補ってきたことによって、グレーの折れ線は、多少凸凹はありますけれども、そんなに都道府県間差が大きくないという結果になっております。
つまり、申し上げたいのは、大人数の
学級が多い都道府県では、通塾によってぎりぎり補っている、その
負担、負荷というのは全部家計に押しつけられている、塾に行けないような
子供たちはこの中で放置されている、こういう都道府県間
格差が存在するということを示しています。
次に、ページを繰っていただきまして、四ページの図五は、これは、
学力だけではなくて、
全国学力・
学習状況調査で分かる都道府県別の自己効力感
スコアの平均点と、やはり三十人以上
学級比率との
関係を散布図で見たものです。これは都道府県単位ですし、いろんな要因をコントロールしていませんので、粗い
分析ではありますけれども、やはり大人数の
学級が多い都道府県ほど
生徒の自己効力感は低いのです、下がっています。
粗い
分析ではありますけれども、こういう既存の
データを生かした
検証結果を見ても、やはり
中学校に関しても、都道府県間のばらつきというか、むらをならす形で、より小さい規模の
学級というものを
実現していくことが必要であるというふうに考えています。
次の二の三は、これは
新型コロナウイルス感染症対策の観点ですけれども、
感染症対策分科会の
資料には、かなり
教育施設でもクラスターは出ている、特に高校であるとかあるいは
中学校でクラスターや感染者が出ているということが既に指摘されています。
高校で部活動が
原因とも言われたりしていますけれども、明らかになっている数だけ見ると、部活動によるものは四分の一にすぎません。つまり、高校に関して、四分の三は部活動以外の通常の
学校活動の中で感染しているということが分かります。
つまり、申し上げたいのは、感染拡大、クラスター発生予防の観点からも、高校においても、あるいは高校に次いで感染が多いのは
中学校ですので、こういう、体も大きくなり、活動も活発になり、
教室が混み合う度合いが高くなるような
中学校、高校における少
人数学級化が喫緊の
課題であるというふうに考えております。
二の四は、これは一月の中教審答申を示してありますけれども、このような方向で変革が必要だということが既に中教審答申という形で明らかになっております。
特に、この答申では、高校の普通科改革ということが言われております。普通科改革を本当に進めていくのであれば、普通科以外の学科やコースに関しては、よりきめ細かい
教育の
在り方が必要になってきますので、これまでのような高校
標準法を維持していては目指されている高校改革も
実現できませんよということを申し上げたいと思って、触れておきました。実際に、図七では、ほかの多くの国においては、普通科の方が大きめの
学級規模で何とか運営されているケースが多いです、ここには
日本の
データはありませんけれども。
つまり、普通科以外の様々な学科やコースをこれからつくっていくのであれば、高校に関しても、より少
人数化が必要であるということです。
次に、三に、これから求められる施策について、五点にわたってまとめてあります。
まず、最も強調しておきたいのは、三の一にありますように、
学級規模の縮小幅、スピード、ほかの
学校段階、つまり中高について、より踏み込んだ施策ということを是非急いで進めていただきたいというのが、私ども署名キャンペーンの呼びかけ人の総意です。
つまり、三十人
学級、せめて三十人
学級をこれから先どう
実現していくかに関して、それをやっていきますという方針表明や、あるいは工程表を示していただきたいと考えています。
小学校に関しても、
学年進行に伴い五年間ということが言われておりますけれども、先ほども
清水委員長がおっしゃったように、一年でも早くという切実な思いが
学校の
教育現場には充満しております。できるだけ早く、そのために、それが可能な自治体に対しては予算措置をするなどといったような施策が必要と思っています。
中高に関しても、早急な少
人数学級を是非方針として表明していただきたい。既に首相が
中学校の三十五人
学級について口にされたということは大変ありがたいことではありますけれども、これを是非具体化していただきたいと思っています。
効果検証のために必要なことも幾つか並べて書いてありますけれども、これは
末冨委員からもお話がありましたが、ちょっとかぶるところもありますけれども、もう時間もちょっとないんですけれども、まとめて申し上げますと、抽出調査にしていくということです。
全国学力・
学習状況調査というのは悉皆ですけれども、これは物すごくコストがかかっている割に
分析が十分にされていない、役立てられてもいないということ、これを抽出調査にしていく。
また、現在、過去にまだ一回しか実施されていないきめ細かい調査、
保護者調査ですね、これをむしろ抽出調査に関して必ずやっていくようなことが必要です。
教員調査も不可欠ですが、これは処遇に結びつかない形での
教員調査が必要です。相対的な
学力と絶対的な
学力の基準ということを両方用いる必要がありますし、
学級規模の経年把握や、あるいは多様な従属変数を使った
検証が必要と思っています。
あと、三の三が
教員の
確保策、三の四が校舎、
教室の
確保策、三の五が
教育方法の
改善に関してですけれども、もう時間が過ぎておりますので、ここまでにしたいと思います。
駆け足で恐縮です。以上です。(拍手)