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浜中参考人 おはようございます。
アジア経済研究所の
浜中慎太郎と申します。
本日は、
衆議院外務委員会の場で
RCEPについて
意見を述べるという大変光栄な
機会をいただき、非常に喜ばしく思っております。
最初に一点申し上げなくてはいけないことがあるんですが、それは、本日私がこの場で申し上げる
意見というのは、私の個人的な
意見でありまして、私が属する組織の見解とは必ずしも一致するものではないということであります。
それで、早速ですが、本題に入りますけれども、私の今日
お話しすることの
一つ大前提があります。それは、
関税の
交渉、
関税というのは、
FTA、
RCEPを含む
FTAの大きなパッケージの
一つの
側面にすぎないということであります。
当然、
関税の
効果はあります。いろいろな
経済モデルを回してみたりすると、恐らく
日本には相対的に大きい
影響が来る、プラスの
影響があるというふうになることは間違いないと思います。これはある
意味当然のことでありまして、
RCEPのメンバーのうち、今、
FTAが
主要国で欠けているのが日中、
日韓ということになります。では、この日中、
日韓が
RCEPによってカバーされることによって
日本に相対的な大きな
影響が出るということは、ちょっと裏返して言うと、
日本が
周辺諸国と比べて
FTA外交で乗り遅れていたという事実を反映しているにすぎないわけだから、当たり前のことであります。
それから、
日中の間で
貿易が大きく増えるのは、これは事実なんですけれども、相対的に
日本への
影響が大きくなる、これは相対的に
日本経済が巨大化していく
中国経済と比べて縮小しているということなので、これもある
意味当然のことだと思います。なので、
経済的なインパクトが
日本に相対的に大きいという事実をもって、
交渉をうまくやったということには必ずしもつながらないんだというところは注意して見ていく必要があると思います。
私が思うのは、やはり
関税だけじゃなくて、
ルールというのが非常に今後重要になっていくと思います。
日本政府は常に
ルール・ベースド・オーダー、
ルールに基づく統治、秩序が重要だということを言っております。これは南シナ海を含む
安全保障の
分野でも当然なんですけれども、
国際経済分野においても、この
ルールというのが今後一層重要になっていくと思います。
そういう
意味で考えていくと、
ルールというものと
関税というものの
両方があって、もし仮に
関税の
部分で
日本が若干得をしているのであれば、裏返して言うと、
ルールの
部分で若干損しているかもしれないなというぐらい注意して、
ルールの
交渉というふうに
RCEPを見ていく、
FTA全体を見ていくということが必要なのかもしれないというふうに思っております。
二〇二〇年というのは、私は非常に大きな
世界史的なターニングポイントの年になったのではないかというふうに思っております。これは、当然、コロナの
パンデミックがあったということもそうなんですけれども、やはり
アジアが
RCEPという
ルールによってカバーされたということは非常に重要だと思います。
我々は、近い将来、非常に重要な問題に直面すると思います。
RCEPが
ルールであるということで、非常に重要な問題、すなわち、近い将来、
RCEPのメンバーシップがいずれ拡大していくと思います。これに対して
日本がどういうふうに対応していくのかということであります。
RCEPというのは、本当に
日本にとって望ましい
ルールなんでしょうか。もし仮にそうだとするならば、私は、もう今後の
FTAの
交渉というのは
RCEPを
ひな形にやっていく、
アジアの多くの国で
合意した
ルールなら、これを
ひな形にやっていく、そのぐらいの心構えでいいと思います。
もし仮にそれができないんだとすれば、なぜでしょうか。やはり
RCEPの
ルールに若干不満があるんじゃないでしょうか。だとしたら、その点はやはりちゃんと我々は認識するべきだと思っています。
それで、
RCEPは、後ほど
お話ししますけれども、若干やはり
中国の
意向が強く反映されている
ルールであるということは否定できないと思います。今後我々が直面しなくちゃいけないのは、
RCEPの
ルールを
世界中に拡散させていくのか、あるいは
TPPの
ルールを
世界中に拡散させていくのか、こういう非常に重要な問題で、ここを
日本は考えなくちゃいけない。
仮に、
RCEPに入ろうと思っているんだけれどもと特定の国が
日本に相談を持ちかけたときに、
日本も、よし、
RCEPに入ってくれと言うのか、あるいは、ううん、もっと頑張ってやはり
TPPに入った方がいいんじゃないかという逆提案をするということもあるわけで、そういうことについても、今、
日本は考えていかなくちゃいけない時期にかかっていると思います。
RCEPの
成果についての
評価なんですけれども、
ルールという観点では、ある程度の
成果があるのは事実でございます。
サービス、
投資、
知的財産権、
政府調達、
電子商取引、こういう
分野で、ある程度の
ルールメイキングというのはできております。
ただ一方、やはり不十分な点もありまして、例えば
投資の場合、いわゆる
ISDSというのが入っていません。
ISDSというのは、
日本企業が
外国に
投資した場合に、
外国政府が
政策を変更することによって
投資の
効果が見込めなくなった場合に
外国の
政府に補償を求めるというような国際的なメカニズムなんですけれども、これが抜け落ちております。
TPPには入っておりますし、
日本が今まで
締結してきた主要な
FTAには入っております。これは、私の見るところ、やはり
中国がなかなかのみ込んでくれなかったということであります。
それから、
電子商取引の
分野においても、ある程度の
ルールができてはいますけれども、非常に重要な点で、これが
ディスピュート・セトルメント、
紛争処理には使えないということになっております。これは、例えると、画竜点睛を欠くといいますか、
国内法で言うならば、法律は作ったけれども裁判所はない、そういうような
状況でありまして、これは非常に私は憂慮する
状況だと思います。
例えて言うならば、だから、ある程度の
ルールはあるんだけれども、完璧ではない。
ワインのボトルに半分
ワインは入っている、半分空になっている、これをハーフエンプティーと言うのかハーフフルと言うかという問題で、ハーフフルだと言うのはいいんです。ただ、ハーフフルだからいいんだとそこで終わっては駄目なので、ではどうやってフルに持っていくんだということを我々としては考えていかなくちゃいけない。
例えば、
ISDSの場合は、二年以内に再
交渉するということになっております。それから、
電子商取引の
ディスピュート・セトルメントについても、いずれの
タイミングかでもう一度
交渉するということになっています。
日本には、こういう再
交渉の場を利用して、こんなもの、仮に
両方とも取れないんだったら
日本は
RCEPから出ていくよ、そのくらいの強い
立場で
交渉を進めていくということが私は必要だと思っております。
それから次に、
プロセスについて述べたいことがあります。
プロセス、いわゆる
主導権をどこの国が持っていたということであります。
よく、
日本が実は
RCEPの
主導権を持っていたというような話を聞く
機会があります。そういう場合は、大体、話では、
電子商取引の場で、二〇一七年の四月に
ASEANの
関係閣僚が和歌山に来た際に
根回しをして、翌月の二〇一七年五月の
RCEP閣僚会議で、
日本が
RCEPに
電子商取引を入れるべきだと提案する。これに対して、
中国がそんな話は聞いていないということになったけれども、事前に
根回しをしていた例えば
ベトナム等の支援を得て、結局
日本の
主張が通った。これをもって
日本の
主導権、
日本主導でやったというような
議論があると思います。
でも、最終的には、先ほど述べましたように、
ルール自体は
中国の
意向をかなり強く反映したということで、だんだん
主導権が
中国に移っていったんだという
評価ができます。
私がここで言いたいのは、
中国が
主導権を取っているからけしからぬということではないんです。
日本はそろそろ
主導権という
考え方をやめませんか。ちょっと悪い言い方をすると、やはり
主導権ごっこというものに陥っているという
側面がどうしてもあると思います。
日本がやらなくちゃいけないのは、やはり
リーダーシップを発揮することだと思います。
中国を排除した場で
根回しをして、
中国に聞いていないよと言われて、でも、
日本がその
主張を押し切る、これを中立な第三国が見たらどう思うでしょうか。
日本はすばらしいことをやった、
日本はすばらしい国だと思うでしょうか。私は個人的には思いません。だから、そういう
意味では、本当の
意味での
リーダーシップを
日本に発揮してもらいたいというふうに思います。
それから、もう
一つ関連することなんですけれども、
存在感という概念があります。これも先ほどの
主導権と一緒で非常に
日本的で、
日本が
交渉する場合は、
交渉において
存在感を示すというのがよくあります。でも、実質的には、
存在感のある国が
交渉に招かれて、
交渉の場において
意見を聞いてもらえるわけです。
では、
存在感のある国は何なんだ。いろいろな要素があるんですけれども、私が
一つ非常に重要だと思っているのは、明確な
ポジションを持っているということだと思います。
日本は、一部の
分野においては非常に明確な
ポジションを持っています。例えば
農業の米の問題、漁業、捕鯨の問題、こういうところでは
日本は非常に明確な
ポジションを持っているので、いや応なしにも
国際交渉でスポットが当たって、
日本が明確に、いろいろな、ある程度の
影響力を発揮することがある、ネガティブ、ポジティブ、分かれ目がある。
それに対して、今私が申し上げた
投資、
電子商取引、
日本に明確な
ポジションはあるでしょうか。私が思うに、
中国は明確にあったと思います。
日本はなかったんじゃないのかという疑問を私は持っています。
そういうことがあるんですけれども、では、そうすると、最終的に大きな問題として考えなくちゃいけないのは、どういうふうに
交渉に取り組んでいくのか。新しい
交渉もありますし、次の再
交渉もあるんですけれども、それをどうやっていくんだということなんです。
私は、
中国と張り合っていくということではないと思います。今回、
中国は、やはりある程度
自分たちの
リーダーシップをうまく発揮した。それはもう認識した上で、
日本としては、やはりオール・ジャパンで、どういう
国際経済ルールが
日本にとって望ましいのか、
世界にとって望ましいのかということを、やはり産官学、
市民グループを交えてちゃんと
議論した方がいいと思います。
日本にとっていい
ルールが必ずしも
世界にとっていい
ルールではないこともあると思います。そこは、ではどっちを優先するんだということをやはり
日本は考えていかなくちゃいけない。
私が強調したいのは、
日本国内の
交渉ですらまとめられないのであれば、
世界的な
交渉をまとめる、引っ張っていくのは無理です。なので、
日本国内の
交渉を避けて、国際的な
交渉で何かうまくやろうというのは無理なんじゃないかというふうに思います。
もう時間もほとんどないので、最後、一点あるんですけれども、今回の
RCEPの
交渉を見ると、明らかにやはり情報が不足していて、不透明な中で行われたということがあると思います。
守秘義務がある、これはもうしようがないんだと思うんですけれども、前回の
TPPのときと比べても、やはり明らかに透明性が欠けていたと思います。この点について、どういうことがあったのかというようなことをやはり解明して、今後の
交渉に役立てていくということが必要なんじゃないのかというふうに思っております。
以上で終わります。ありがとうございました。