○
増島参考人 御指名いただきました、森・
濱田松本法律事務所、
増島でございます。おはようございます。
本日は、このような
機会をいただきまして
法案に
意見を述べる
機会をいただき、大変光栄に存じます。
今般
審議されております
生産性向上特別措置法について、少し御
意見を申し上げさせていただきたいというふうに思います。
本日の私の
参考人としての役割は、既存の法令が想定していない新たな
ビジネスモデルというのが起こってくる、こういうことに対して、
民間の
事業者の方と各省庁の
担当官がみずからの職務に忠実であればあるほど
イノベーションを推進する芽を摘んでしまう、こういう現象が
世界で共通して起こっている、こういうふうなことに今なっておるわけでございまして、この
メカニズムを打破するために開発された新たな
政策枠組みとしてのレギュラトリーサンドボックス、これが一体何を狙っているのか、どのように
機能していくべきなのか、こういうお話を少しさせていただいて、
審議の
参考としていただきたいというふうに思っております。
まず初めに、私が本日この場で
法案審議についての
参考人として呼ばれている
背景について少しお話しすることをお許しください。
私は、東京に主たる
事務所を構えております、
国内の各都市のほか、
アジア各地に拠点を置いて国際的な
法律業務を担当しております森・
濱田松本法律事務所でパートナーとして勤務しております。
リーマン・
ショックの直前の二〇〇六年、二〇〇七年のころに、米国のシリコンバレーにあります、元
駐日大使を務められたジョン・ルースさんが
代表をやっておりましたウィルソン・ソンシーニという
法律事務所で勤めておりまして、現地の
イノベーションのダイナミズムというのを実地で
経験してまいりました。
帰国後は、
金融庁の
監督局におきまして
課長補佐として保険と銀行の
行政を担当しまして、こちらで
行政庁における
意思決定の
メカニズムみたいなものを学んでまいりました。
二〇一二年に
民間に復帰後は、
金融業、これは
情報産業であろうというふうな確信を得まして、
IT、
情報技術の観点から、
金融機関に対する規制の
アドバイスですとか
MアンドAの
アドバイスなんかに取り組みながら、また同時に、革新的な
技術や
ビジネスモデルを持つ
スタートアップ企業に対する
リスクマネーの円滑な供給という
テーマで活動に従事しておりました。
その中で、
金融と
ITをかけ合わせた新たな
事業領域としての
フィンテックというのがこれからどうも
世界を席巻しそうだというふうに見えまして、
日本の
金融全体が
海外の新しい
金融の勢力にディスラプトされる前にみずから革新を起こしていかなければいけないんだということを訴えまして、これに共感する
事業者の
皆さんと革新のために行ういろいろな試行錯誤の実践を支援する、こういうことをやってきた、こういう出自でございます。
我々、こういうふうな活動をしていく中で、
イノベーションに取り組むということをやるわけですが、このときに直面する重大な
課題の
一つとして、革新的な
技術を採用した新たな
ビジネスモデルの適法性というのを検討するわけですけれども、そのときに既存の法令がその
ビジネスモデルを想定していないということが往々に起きてまいります。特に、
事業者の活動を規制する業法の
世界は、制定時の社会とか
技術環境をもとに法令をつくっていますので、いかに一般的、抽象的な法令を書いたとしても、必ず後ろ側に想定する
技術とか
ビジネスモデルが存在しております。
現在、第四次
産業革命と呼ばれる
IT分野における急速な
技術革新が進展をするというふうな中で、既存の法令が想定した
技術や
ビジネスモデルとは異なる
技術とか
ビジネスモデルを使う、こういうものが出てきて、これに既存の法令を一生懸命当てはめるということをやっているわけですけれども、それで適法性を判断してくださいというふうなことになるわけですが、我々法律の実務家からしても、もともとこれは法令が想定していないので適法なのか違法なのかよくわからないということが非常にいっぱい発生してきている、こういうことでございます。
こういうものに対する
民間の方の対応の
一つとしては、
一つは、割と
リスクテークをするプロアクティブな
事業者は、弁護士なんかと相談をしまして、これは適法だというアーギュメントを
自分でつくって、それで前に進む、こういう方もいらっしゃるわけですけれども、他方で、
行政庁による法令解釈と違う解釈で前に進むということに
リスクを感じる
事業者さんというのも、やはり特に大
企業さんなんかを中心におりまして、そうすると、
行政庁にやはり事前に法令照会をして
自分の
事業の適法性を確認するということをすることになります。そうすると、そもそも法令が想定していないので、
行政庁に行ってこれは適法ですかと言っても、確とした回答が戻ってこないということが普通に起こっているということであります。
これも、
行政庁の現場の
担当官の立場からすると、一生懸命
皆さん、先例を調べてくださったりなんかして方向性を出すために頑張ってくださるんですけれども、結論が出ないということが非常に多くあります。彼らもほかの業務がいっぱいありますので、そんな中で、何とかしなきゃいけない、結論を出せというふうに言われますと、一番安全な回答としては、法令に適合していない可能性があります、こういう回答をするわけでございます、これが一番安全だということでありまして。
でも、もともと、よく考えてみると、法令上黒か白かよくわからない、こういうものでありまして、これを
民間の人が持っていって、おまえ、これを白と言えというふうに言われても、白ではないので白とは言えないわけですね。グレーという言い方をするのが許されるのであれば、グレーはグレーであって、それはどんな
行政庁であっても白にも黒にもならぬだろう、こういうふうなことでございます。しかも、彼らは大体二年でさまざまな部署をローテーションしているゼネラリストでございますので、彼らに専門的な見地からこれを適法かどうか判断してくれというのもちょっと無理があるのではないか、こういうふうな感じがしているわけでございます。
このような形で、
民間と
行政の方々がそれぞれ真面目に法令を解釈する。まずは
民間の
人たちが、法令が想定していない新しい
ビジネスモデルがある、じゃ、これの適法性を判断してもらおうというふうなことで
行政庁に行く、そうすると、真面目な
行政庁の
担当官が、非専門家の立場でありながら可能な限り職務に忠実に働こうとすると、適合していない可能性があります、こう答えなければいけない、こういうふうになりまして、この結果、結局、革新的な
ビジネスモデルの実施が頓挫してしまう。これが今起こっている
課題だというふうに思っております。
このような状態の中で、本来どういうふうな活動であるべきなのかというふうなことで、少し法令の話をさせてください。
そもそも、法律を支える正当性というのは、立法事実というものに支えられているということになっております。ビジネスというのは、その法律の上で展開をされている。こういう三段構造になっているというふうに理解をしているわけですが、
技術の進展というのは、まさにこの立法事実という土台が変動する、こういう状態だというふうに思っております。
この土台である立法事実が変動したときに起こることは何なのかというのが、ここで大事なポイントであります。
土台である、
技術が変動したときに、何か法律が自動的に変わりまして、自動的に変わった法律の上に新しいビジネスが起こるというのは、これは全くの幻想だというふうに思っております。立法事実が動くと、まず初めにこれに反応するのは実はこの三段目にあるビジネスの方だ、こういうことでございます。まずビジネスが動いて、そのビジネスが多数の人々に支持される、要するに、みんながそのビジネスを使ってくれる、こういうことになると、このようにみんなに支持されているビジネスの法律上の位置づけが明確でないのはおかしいということで、民主主義の力が法律を変えていく、こういうことだというふうに思っております。
決して、法律が抽象的に変わって、その上に法律に適合したビジネスができてくるなんということは起こらないというふうに思っております。まさに、新たなビジネスなくして法改正というのは起こらないだろう、こういうふうなことでございます。
もしそうでありますと、今般の
技術革新の大波みたいなところで、我々、我が国が生き残っていくということを考えたときには、まず新たなビジネスを試してみないとわからない。試してみて、これが人々が支持するかどうか、要するに、この
ビジネスモデルが成立するのかどうかというのを試してみないとしようがない。試してみて、もし本当に多くの人々がそれを支持するのであれば、この民主主義という偉大な力が、そのビジネスが適法になるように法律を変えるはずでございます。
具体的に、いい例として、恐らく、エアビーアンドビーというのがあると思います。まずビジネスがあって、これがみんなの役に立つ、みんながこれを使うということになる。でも、法律がうまく当てはまらないねということになって、でも、みんながこれは新しい法律をつくらないといけないよねと考えて、民主主義の力で住宅宿泊
事業法というのができたのではないでしょうか。
これが恐らく現実だというふうに思っておりまして、実は、私がかつて勤めていたシリコンバレーではこのサイクルが高速に回っていまして、ルールを変える、ルールを変えると、そこは定義上ブルーオーシャンになっていますから、ここのブルーオーシャンを切り開いて、それを
世界じゅうに広めて、先ほどありました
ユニコーンと呼ばれる
メガベンチャーを数多く輩出する。これが実はシリコンバレーの
メカニズムであります。
さらに、もっと申しますと、実はこれは中国も全く同じ方式でやっておりまして、中国もこの方式で
イノベーションのサイクルをつくっている。これが今の中国の躍進につながっているんだというふうに思っております。
日本を始めとする多くの国は、多分、コンプライアンスに対する考え方がこのシリコンバレーのようにはなっていないんだろうというふうに思っております。なので、先ほど申しましたように、官民の各
プレーヤーが社会から期待されるところに忠実に動く、動けば動くほど
イノベーションが起こらない、こういう構造になっているのではないかというふうに思います。
この構造を変えるために、新たな枠組みとして各国で提唱されているのがレギュラトリーサンドボックスでございます。
もともと、このサンドボックスというのは、テクノロジーの
領域で新たなシステムを導入する際に行われる、一定の
領域を切って新たなシステムを本番
環境に入れてみて稼働
状況を試す、こういうふうな
ITの用語であったわけですけれども、これをもとに、ビジネスの
世界で、
イノベーションを起こせない大
企業の
組織体制を打破するための
経営手法として、オープン
イノベーションの文脈で開発されたのがビジネスサンドボックスと呼ばれているものであります。
このビジネスサンドボックスの要素というのは三つございまして、
一つはまず、
組織のトップが
イノベーションにコミットするということでございます。
イノベーションは既存の
組織ではできないので、トップのコミットメントが第一に大事だ、こういうことであります。
第二に、
イノベーションを専担する小さな
組織をつくれというふうに言われています。
イノベーションの担当部署というのは素早く
意思決定をする必要があるので、なるべく小回りがきく部署がいいというふうに言われております。
第三に、既存の決裁パスとは異なる決裁パスをつくれというふうに言われています。この既存の決裁パスというのは、既存のビジネスに適合するようにつくっておりますので、そのような既存の決裁パスの中に既存のビジネスをディスラプトするようなビジネスアイデアを通そうとしても、まず潰れるでしょう。企画が潰されちゃうんですね。これは、仕組みが正常に動いていれば動いているほど企画が潰れてしまう。なぜなら、既存の
ビジネスモデルを推進しようとする決裁パスだからであります。
そういうふうに考えますと、結局、
イノベーションにコミットしたトップと
イノベーションを専担する小さな
組織を直結させて、
イノベーションの部署はトップに直接報告して決裁を仰ぐ、こういう仕組みを既存の
組織の中に
一つ通しておく、これがビジネスサンドボックスと呼ばれているものであります。
これを入れますと、既存の
組織とは離れたところで、既存の
ビジネスモデルを壊しかねない革新的な
スタートアップと協業することができるわけであります。その協業を通じて、失敗もありますけれども、発見された成功事例みたいなものが大
企業の古い
ビジネスモデルを動かしていく、こういうことが起こるのでございます。
英国を始めとする各国は、厳格な規制がしかれている
金融分野を中心に、
フィンテックを推進するんだというのを目的に、このビジネスサンドボックスの仕組みを
行政部門に応用しております。これがレギュラトリーサンドボックスの成り立ちだ、こういうことになるわけです。
このレギュラトリーサンドボックスのもと、
民間事業者が、規制が想定していない新しい
ビジネスモデルを一定の
領域を切ってまず試してみる、こういうことをします。それが利用者保護ですとか
金融システムに悪影響を与えることがなく、人々の支持を得ることに成功するのであれば、これは許される
モデルだろうということになりまして、そのサンドボックスの中で、成功のもの、失敗のものがあるわけですけれども、これでデータを集める。このデータを使って、次の法令の改正、規制をどういうふうに変えていくかということを考える。これをぐるぐる回していくというのがレギュラトリーサンドボックスの真髄でございます。
今般
審議いただいています
生産性向上特別措置法案というのは、
金融分野に限らず、幅広い規制
領域でレギュラトリーサンドボックスを展開することを可能とするものというふうに承知をしております。この点は、恐らく、各国でも余り見ない、
日本独自の工夫であろうというふうに思っております。
また、この
法案は、新
技術等実証計画と呼ばれている個別の対象プロジェクトに、主務官庁とそのプロジェクトに当たる
事業を所管する
担当官庁の両方を関与させる形で、対象プロジェクトを評価、認定をして、これを適切に行わせるよう支援する仕組みというふうに承知をしております。
プロジェクトの評価に当たって、
民間の専門家から構成される革新的
事業活動評価
委員会というのが
意思決定を支援する、こういう形をとることによって、先ほどお話をしました、職務に忠実な余り決めることができない
行政担当官というボトルネックを打破しよう、そういう仕掛けが施されているものだというふうに承知をしております。
諸外国で展開されているレギュラトリーサンドボックスは、またそれぞれの諸外国の
モデルがあるわけですが、今回のものは、それを
参考に、我が国の官僚機構の行動パターンみたいなものを恐らく冷静に分析をしまして、
民間の専門家の力をかりて、仕組みによって、
行政庁の
意思決定を
イノベーション促進的なものに変えていこう、こういうことだというふうに理解をしておりまして、私としては、すぐれた仕組みだというふうに考えております。
最後に、本
委員会の先生方のリーダーシップによって、今回、このサンドボックスのもとで適法性や安全性を確保しつつ、我が国の
民間事業者の
イノベーションが力強く推進される仕組みが
日本の法制度の中にインストールされる、これを我々は確信しておりますし、そのために私がお答えできること、また、それ以外にも何かお役に立てることがあれば何なりとお申しつけいただければと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)