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参考人(
松村敏弘君)
東京大学社会科学研究所の
松村と申します。今回は、この
検討会の
構成員を務めていた関係で
お話をさせていただきます。言いたいことを言い損ねないようにということで、言いたいことを全部書いて配付いたしておりますので、適宜御参照ください。
今回の
住宅宿泊事業法、いわゆる
民泊新法に関しては、私は全面的に賛成です。
宿泊施設の逼迫というようなことがあり、そのためにいろんな問題が起こっているというようなことは
検討の
一つの大きな契機であったのは間違いないと思いますが、それだけが唯一の
原因でも最大の
原因でもないと思っています。
これは、
日本全体で今後もいろんな形で発生してくるであろう
遊休資産あるいは低
稼働の
資産というのをより効率的に利用して、それによって
日本全体の
生産性を高める、
経済成長につなげていくという、こういう大きな視野に立った上で、この
住宅という重要な
ピースというのに関してきちんと手当てをしようという、こういうものであって、ITの発展によって可能になった
シェアリングエコノミーというのを
日本全体で
推進していって、これを適切に育成していくという
制度を
日本がちゃんとつくることができるということを世界に示すというようなものの重要な
ピースだというふうに考えています。今回の
新法というのはその重要な一歩になるというふうに考えています。
もちろん、今回の
新法というのだけで本当に問題が全て解決できるということではないと思いますが、今後も継続的な監視というのと
制度改善のためのいろんな工夫、それから、これから更に出てくる
政省令の
整備というのに関して、あるいはさらに、
運用というものに関してもとても重要になってくると思います。この点について十分見ていかなければいけないと考えています。
おめくりください。
今、
生産性を高めるということを言ったわけですが、
民泊は、数が多くなれば多くなるほど
生産性が高まって良いというものではもちろんありません。
民泊に伴って、既に
違法民泊では顕在化している様々な
外部不
経済、典型的には
近隣に迷惑を掛けるだとかという、そういうようなことですが、そういうようなことというのが起こった結果として、むしろ
資産価値を損ねてしまう、
地域全体の
資産価値を損ねてしまうなどというようなことになればむしろ逆効果だということになりますので、そのようなことを抑える、つまり
外部不
経済を最小にしながら
資産の
効率性というのをできるだけ高めていくという、こういうことがとても重要になってくる。そのためには、優良な
民泊を
社会全体で大切に育てていくということがとても重要だと。
そうすると、今回の
法案というものの
メリットというのは、優良な
民泊というのを育てるということに対してどれぐらい大きな
メリットがあるのかということを中心に考えていかなければいけないと思っています。
逆に言えば、今回のような
新法ができて、新しい
ルールができたのにもかかわらず、なお
水面下に潜ってしまうというような
違法民泊というのをむしろ助長しかねないというようなことがもし万が一あるとすれば、今の
新法にはそのような要素はないと思っていますが、もしあるとすれば、そのようなものは適切に
規制していくということを今後の
政省令の
整備などで、あるいは
運用などで適切にやっていくということは当然の前提として、今回の
新法というのはこのような
目的に沿ったものだと考えています。
今回の
民泊新法ができても、なお地下に潜ってしまうような、
現状のような
野放し状態の
違法民泊というのが完全になくなるかというと、それは完全になくなるということはもう
相当に難しいと思います。
しかし一方で、今回の
新法ができて、今まで全く位置付けられていなかった
プラットフォーマーというのが明確に
法律上位置付けられ、
管理事業者というのもつくられ、しかも、それも
行政がちゃんと把握するという手段もつくられ、
合法の
民泊に関しては
ホストの
情報もちゃんと得られるという、こういう
状況になったということになり、しかも、その
規制というのは異常に厳し過ぎるものではなく、とても合理的なものだ、公益的な
目的のために
必要最小限の
規制になっているという、こういう
状況になっていたとすれば、違法な
民泊というのはこちらにどんどん移行してくるということになる。そうすると、違法な
民泊自体の数が
相当に減るということになり、そもそも
規制はしやすくなるのではないか、
取締りがしやすくなるのではないか。
さらに、
社会的に見ても、まともな
民泊というのは全部
合法民泊に移行します。そうすると、
違法民泊として残っているのは
相当悪質なもの、これだけ緩い
規制であるのにもかかわらず、なお登録しないような、なお届出しないような
相当違法性の高いものというのだけが残るということになれば、そこに対して厳しい
取締りをするということについても
社会的な
理解も
相当に得やすくなるのではないかと思っています。
そういうような
観点から見ても、今回の
新法というのは、違法なものが残るのに対してどうするんだという問題、依然として残るのは間違いないと思いますが、今回の
新法によって、その
取締りというのに関しても
実効性が増すというふうに考えています。それを更に増すためには、今後の
政省令の
整備だとか
運用だとかというのはとても重要になってくるというのは事実だと思いますが、今回の
新法は明らかに助けになっているというふうに私は評価しております。
おめくりください。
民泊は、そもそも主な
用途が
住宅であるという、こういう
資産の低
稼働の
状況というのの
生産性を高めるというのが
目的なので、元々
住宅であるものというのが使えないと
意味がない。そういう
意味では、
住専地域で展開できるということがなければ全く無
意味になってしまうと考えています。その
意味で、今回の
新法というのは、
住専地域でも展開できるということにした点は高く評価すべきだと思います。
一方で、
日数の
制限というのが掛かったというのは、主な
用途が
住宅であるという
立て付けの下で、もう必然的に掛からざるを得ない
規制だと思います。これに関しては、一部の
事業者の方からは、
日数制限があったら
採算性が取れなくて
事業の展開ができないという形で批判というのを
検討会でも随分受けたと思いますが、それでも、これは
住宅地で展開するというものであって、
住宅地では展開できなかった、
住専地域では展開できなかった
旅館業法に基づく
旅館とは違うものだということを明確にするためには
日数制限は不可避であるということで、
日数制限というのは当然に課すべきだということになり、その下で最も合理的な
規制というのが今回の
新法で提案されたと思います。
さらに、これは上限百八十日というのは、これを
地方自治の
観点から、うちの
地域では百八十日よりももっと多くしたいとかということは原則として想定されていないけれど、この
地域の
実情に応じてもう少し低い
日数にするとかというようなことは一応想定されているような、そういう
立て付けになっていると
理解しています。
これに関しては、例えば
都市部では何日以下、それ以外のところでは何日以下というふうに乱暴に集権的に決めてしまうのではなく、
地方の
実情に合わせて
追加規制ができるということをしたのは、
地方自治という
観点から見ても、
地方分権という
観点から見ても望ましい
制度設計だったのではないかと考えています。
地方分権の
観点からも合理的に説明可能な
最小限の
規制ではあるけれど、しかし
地域住民にとって不可欠であるというそういうような
規制だけが入ってきて、それで今回の
新法の
趣旨にきちんと適合するような
追加規制というののみが出てくることというのを切に願っております。
民泊新法というのは、
現時点でとても良い出来になっていると私
自身は評価しているのですが、今後の課題として幾つかまだ残っていると思います。
まず第一に、この
民泊新法というのは本当に正しく
理解されているかどうかということは若干心配しています。
例えば、これ、
プラットフォームというのを
二つに分ければ、それぞれ百八十日ずつオーケーで、そうすれば年中可能ですと、そう誤認している人がいるのではないか。法の
趣旨からしてそんなこと絶対あり得なくて、
二つに分割したってトータル百八十日というのに決まっているわけですが、そのように誤認している人が現にいるという事実を踏まえれば、そのようなことは違法ですよというようなことを懇切丁寧に説明していただきたい。そういうことによって、誤って悪意なく違法なことをしてしまうというような
ホストが現れないようにということについては徹底していかなければいけないと思います。
あるいは、友人泊めればこの
規制は掛からないんですよ、友人泊まったと強弁すればいいんですよなどというようなことを平気で言う人というのもいる。これはもう明らかに法の
趣旨に反しているわけで、対価を取って泊めていれば、それは友人であろうと何であろうと当然に
規制の対象だなどというのは当たり前なんですけど、それを誤認している人が現にいるということを踏まえた上で、この
新法の
趣旨というのがきちんと伝わるように、広報も今後周知徹底していただきたいと考えています。
次、おめくりください。
外部不
経済の問題というのは、
現時点で、
違法民泊においてはかなりの程度顕在化している。これが
合法民泊に移行して、そういうようなものが極めて起こりにくい優良なものが育っていってほしいというふうに考えています。
違法民泊あるいは
合法なんだけれど迷惑ばかり掛けるとかという、それを防ぐための方策というのはいっぱい取られているからその
可能性は低いとは思うんですが、もしそういうようなところが頻発するということになったとすると、もう
民泊の印象がとても悪くなってしまって、
社会的受容性が大きく下がる。
民泊なんてもう
迷惑施設だというようなことになると、優良な
民泊を大切に育てていくというのを、もうはなからつまずいてしまうという、こういうことになりかねません。
そのためには
行政側の
努力というのもとても重要ですが、一方で、私
自身がとても期待しているのは、
プラットフォーム事業者あるいは
管理事業者というのが、
ホストを教育するというのはちょっとおこがましいかもしれませんが、適切な
情報提供をし、こういうようなことをするとトラブルが起きにくくなりますというようなことを積極的に言っていって、その結果として、この
プラットフォーマーに預けると、ある
意味で、いろんな
情報もくれるし、いろんな有益な
情報によって
近隣被害とかというのも防ぐことができる、そういうような優良な
プラットフォーマーに
情報を掲載しようという、こういう好循環が生まれてくるという、こういうことで、
業界全体としてもそういうものだけが生き残るというふうになってほしい。その
意味では、
政府の
規制も重要だけど、
業界の
自主規制のようなものというのが適切に行われて、うまく機能するようになってほしい。
業界の
自主規制というのがもう全く機能しなくて、
違法民泊を助長するような
事業者がばっこするというようなこと、これはこの
法律からすると基本的にはないはずのことですが、そういうようなことが起こったとすれば、今後は
規制強化というようなこと、更なる
規制強化もやむを得なくなってくると思いますが、それは、そういう行儀の悪い
事業者というのがばっこしたせいだというようなことであれば更に
理解は得やすくなると思います。
出発点として、この
民泊新法の
規制はとても良い
規制だと思っています。
それからさらに、必要があれば
旅館業法の
見直しというのもとても重要だと思います。
今回の
法案の
範囲の外だと思いますが、既存の
旅館の
資産の
生産性を高めるということももちろんとても重要なこと、そのために、余計な縛りがある結果として活躍できないという
状況があったら困るということで、公益的な
目的を満たすための
最小限の
規制は何かというのを考えていかなければいけないのは
旅館業法も同じということで、この
規制というのは、もう既に
規制改革の
動きは既に出てはいますが、この点は、
業界の要望というのを十分聞いて、
旅館の
生産性も高めるというような
改革も同時にできるように
努力すべきかと思います。
最後、おめくりください。
基本的にこの
民泊新法というのは、
シェアリングエコノミーというのの
推進のためにもとても重要な
ピースだと、この
視点を決して落としてはいけないと思っています。
外部不
経済を抑制するために、
行政の
規制とともに
事業者の適切な
努力というのを大きく期待しています。
今後は、
運用だとか
政省令の
整備だとかいうのに関しても優良な
民泊事業者を育てる、非
合法な違法な
民泊を
合法な
民泊の方に移行しやすくしていくというような
視点というのを決して落とさないように是非お願いします。
それから
最後に、
旅館業法の
見直しというのも継続して行っていくべきかと思います。
御清聴ありがとうございました。