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参考人(
鈴木達治郎君) ありがとうございます。
長崎大学核兵器廃絶研究センターの鈴木と申します。よろしくお願いします。
先日、
衆議院でも同じような機会を与えていただきまして、引き続きこの件について
参考人として
意見を述べさせていただく機会をいただきまして、ありがとうございます。
私の方はお手元にパワー
ポイントの資料がありますので、それに基づいて御説明したいと思います。
最初の、二ページ目になりますが、要旨でありますが、私の
ポイントは四つであります。
まず、歴史的に考えまして、今回のこの
日印原子力協定のそもそもの発端は、
アメリカの
政策転換、これは
原子力供給者グループ、この中で
インドを例外化するということを
アメリカが申し出して、これが全ての発端なんですが、そのときも私は反対はしたわけですが、
核軍縮・不
拡散という
立場から考えますと、
インドを例外化する、国際不
拡散体制の柱であります
NPTメンバー外の国に対して
原子力協力をするということについて非常に大きな
懸念を持っているということをそのときも申しましたが、これが今でもやはり問題ではあると私は考えております。
そのとき、
日本政府の対応、二点目ですが、非常にぎりぎりまで考えられて、考慮されて、最終的に合意するということを決定されたわけです。そのときはっきりと、
核実験をしたら
協力破棄すべきであると決意表明されております。したがって、私は、そのときの
日本政府の決意表明が一体どういうふうに今回の
原子力協定、
日印原子力協定に反映されるかということに注目してまいりました。
残念ながら、今回の日
印協定とその附属公
文書を読ませていただいた限りでは明文化にはなっていないということで、これははっきり言って玉虫色というふうに呼べるかと思います。両
政府の
交渉の結果だということですが、これでは先ほどの
日本政府の決意表明と比べて残念ながら不十分だというのが私の
意見であります。さらに、濃縮、再処理についてこれを認めるという、これは他の
原子力協定と比べても大変緩い条件でありまして、結果的に間接的に
インドの軍事プログラムを
支援する
可能性があるという点で私は大変
懸念を持っております。
最後に、現在の国際情勢ですが、
北朝鮮の問題は非常に問題になっておりますが、
北朝鮮に対しても悪いメッセージを与えてしまう。かえって、核開発をした方が結果的に
原子力協力を、緩い条件で
協定を結ぶことができるというメッセージを送るんではないかと。それから、国際的な
原子力市場についても当時とは大きく変わっておりまして、非常に厳しい、リスクが大きい
原子力市場になっておりますので、現在の
日本の
状況を考えましても、
被爆国としての
日本の責任ということを考えましても、この
原子力協定を結ぶことは
日本の核不
拡散・軍縮
政策の信用度を落とすということにもなりますので、大きなマイナスになるのではないかというのが私の
意見であります。
では、内容について
お話ししたいと思います。
まず、次のページは、御存じのとおり、既に
アメリカと
インドの
原子力協定が、中身見ますと、大分
インドに寄り添った、
アメリカとして非常に大きな譲歩をしてしまった
協定ではないかと。
核実験についても記述はありませんし、濃縮、再処理についても認めるということで、この米印
原子力協定よりも厳しいものを私としては是非結んでほしかったというのが正直なところであります。
次のページに行っていただきますと、この
NSGの
インド例外化に当たりまして、
日本政府はかなり最後まで合意しなかったんですが、これは
外務省のホームページに載っかっている文章ですが、
我が国としては大局的
観点からぎりぎりな判断として加わったと。明確にこのときに書かれていますけれども、
核実験モラトリアム維持がされない場合は、例外化も失効だし、それから
原子力協力を停止すべきであるということを
日本政府としてははっきりおっしゃっておられます。
二〇一〇年に、当時の民主党
政権だったんですが、私は
原子力委員会におりまして、この
日印原子力協力協定についての見解文を書かせていただいたわけですが、そのときの文章ですけれども、ちょっと読みにくい文章ではありますが、要は、約束と
行動を守るということを、先ほどの文章を守るということは最低条件であって、更により強い条件を結んでほしいということがその二番目の文章であります。これは特に、
被爆国日本の
交渉ということでありますから、国民の強い願いを十分に踏まえて、
核軍縮に向けて一歩でも前へ進むような
協力協定にしてほしいということをお願いしたわけであります。
次に、中身に入りますが、先ほど申しましたように、私が注目してきたのは、
インドが
核実験を実施したら
協定を破棄するということが明文化されるかどうかと。先ほど既に
戸崎参考人の方からもありましたが、六年も多分
交渉掛かった最大の
理由はここにあるんではないかと私も思っております。
それで、次の
ポイントとして、この
協力協定によって
インドの軍事プログラムが少しでも
支援されるような形にならないかということを私は心配しておりまして、最も大きな
ポイントとして、再処理、濃縮技術の移転、あるいは再処理、濃縮を認めるかどうかと。これは原理原則の問題でありまして、実際にこれがどういうふうに文章に書かれるかということを注目してまいりました。
残念ながら、この
二つとも私は期待を裏切られたということであります。
核実験の条件は玉虫色でありまして、さらに、機微な技術移転、濃縮、再処理を容認しているということであります。これが、その下に書かれています第二条、第十一条ですね。特に第十一条は、濃縮、再処理を認めるだけではなくて、
インド国内で再処理することができるに加えて、高
濃縮ウランも可能というふうに、同意が必要になっていますが、認めているというところは大変心配なところであります。
再処理を認めるということは、
インドの、これは
保障措置下に置かれるというふうに書かれていますが、既に
インドが行っている再処理に加えて更に再処理
能力を高めることになりますので、それから、平和利用とはいえ、兵器
転用可能な核物質であるプルトニウムの生産量を増やすことになりますから、これ自体、私自身は反対でありますので、この点が非常に大きな問題として今後
懸念されるわけであります。
次のページは例の公
文書の文章なんですが、これは既にもう
戸崎参考人の方から
お話がありましたとおり、この文章を読んで、両国が確認したというだけでは自動的に
協定破棄とはなかなか読めないと。これは、自動的に破棄にならないということは
交渉しなきゃいけないということですので、これは米印
原子力協定と大差ないというふうに私は読んで解釈しております。
次に、八ページに書かれているのは、
日本が本来結ぶべき
原子力協定のモデルとして、既に
日本が結んで
締結しているものの中で最も優れているものと私が解釈しているのがヨルダンとの、あとはUAEもそうですが、明確な濃縮、再処理の禁止と。
日本政府は、原則として濃縮、再処理については移転も行わない、それから、できればそれぞれの国で濃縮、再処理はしてほしくないという原点を、
政策を持っておられるというふうに解釈しているんですが、残念ながら明記されていないんですね。
アメリカの場合には国内に核不
拡散法というのがありまして、濃縮、再処理技術の移転禁止、それから濃縮、再処理加工を認めないということがあるわけですが、
日本はそういう技術移転の禁止もありませんし、それから原則として
各国で濃縮、再処理を認めないという
政策を明記されておりませんので、
各国に応じて、
状況に応じてこういう条件を付けるということになっております。
私としては、現在、国際的に兵器
転用の核物質というのが更に増えている
状況を考えますと、濃縮、再処理をできるだけ避けていくと、できるだけ広げていかないという
政策が重要ではないかというふうに考えております。したがって、このモデルとなるヨルダンとの二国間
協力のような
協定を今後も結んでいただきたいというふうに思います。
次のページは、
日本パグウォッシュ会議、私、パグウォッシュ会議の
日本の代表でもあるのですが、そこで
インドとの
原子力協定についての
意見を述べさせていただいて、ここでも、
日本がもし
インドと
協定を結ぶのであれば、他国の
協定より厳しい条件で結んでほしいということを要求いたしました。
ここで、三番目ですね、特に再処理、濃縮の技術移転禁止、あるいは
インド国内における再処理、濃縮の原則禁止ということを是非言っていただきたい。それから四番目、これは今、
戸崎参考人からもありましたが、やはり
協定を結ぶことによって
インドが
核軍縮により積極的に取り組むように持っていくべきであって、その辺も今回は明確にはされていないということは残念であります。
次のページですね、これが私が今申しましたプルトニウムの生産量の推移なんですが、
世界的には五百トンもあるプルトニウムで、ここで見る限りは
インド、イスラエル、
パキスタンは現在も生産しているところなんですけれども、ほかの核保有国は全て軍事用のプルトニウムはもう生産を禁止しております。
この
インド、
パキスタン、イスラエルだけが生産をしているわけですが、
インドのプルトニウム在庫量を見ますと、このグラフでは〇・五トンぐらいになっておりますが、これは実は
インドが、
インド自身は
民生用と呼んでいるんですが、
保障措置に掛かっていないプルトニウムが約二・一から八・一トンの間、したがって五トン近く持っていると。これはいつでも
核兵器に
転用できると。これを戦略的備蓄というふうに彼らは呼んでいまして、これを我々の
核兵器廃絶研究センターの方では
民生用とは呼べないということで軍事用の方に入れています。そうしますと五・七トンという量になるわけですが、このように
インドは、平和利用とはいえども、いつでも軍事利用に
転用できるような形でプルトニウムを生産しているわけですから、これがますます今後増えていくということについて私は大変
懸念を持っているということであります。
最後、結論ですが、現在の国際
環境下におかれますと、今
北朝鮮の核開発に対して
日本は厳しい対応をしているわけですが、その一方で、既に核開発をしてしまった
インドに
原子力協力を進め、さらに濃縮、再処理を容認するという条件で結んでしまいますと、
北朝鮮に対しても悪いメッセージを送ると。
それから、韓国、実は韓国は
日本が再処理を進めていることに対して、韓国も再処理を進めたいと、で、米国にそれを要求しているわけですが、これが、
日本が自分は再処理を持っていると。それによってほかの国に、例えばヨルダンには認めないけど
インドには認めると。結局、持っている国に対してはいいよと言って、持っていない国に対しては駄目よと言って、そういうふうな不公平感がこの
協定後やはり拡大していく
可能性があると。こういう再処理についての不公平感というのは今後大きな問題になると私は
懸念しておりまして、今後、是非
世界中で再処理を抑えていく方向で
日本国内でも考えていただきたいと。
それから最後は、
原子力輸出に対するニーズは減少しているということですね。リスクが非常に大きくなっていると。それから、
原子力でなくても、エネルギー問題、ほかの技術もあるわけですから、温暖化対策として、
日本と
インドの
関係を進めていく上で、別に
原子力以外の
分野ででも拡大をしていくことはできるんではないかということで、現時点で
日印原子力協定を批准するリスクはメリットよりも大きいというのが私の
意見であります。
以上でございます。清聴ありがとうございました。