○武見敬三君 私、この
外交防衛委員会で
質問に立たせていただくのは十五年以上ぶりでございまして、本当に久しぶりにこうした機会を頂戴したことを心から感謝申し上げる次第であります。
さて、
外務大臣、
外交と
安全保障政策というのを考えるときに、私は意図と能力という二つの視点に分けて考える必要があるだろうと常々考え、思っております。
この意図と能力に分けた上で現下の
国際情勢というのを見たときに、
我が国の隣国には、年々軍事力を増強して、そして、かつまた力で
現状変更をしようとしている強大な国家が出現している。明らかに
安全保障上の相対的な関係は、政治的な時間でいえば先方により有利に働く可能性が極めて高い。またさらに、脆弱な体制でありながらも極めて強権的で、そして反日的な敵対的な姿勢を持ち、そして非常に未熟な若い指導者がその実権を握っている。その国が核弾頭付きのミサイルを開発して、そして配備することはもはや数年のうちに実現することが見込まれている。こうした厳しい地政学的な
国際情勢下に
我が国は置かれている。
他方において、今度は人、物、金、情報というものが国境を越えて行き交ういわゆるグローバライゼーションというのは、たとえ
米国のような強大な国家にトランプ
政権のような国内志向の
政権ができたとしても、この傾向は変わりません、止めることはできません。その結果として、この二十一世紀は、引き続き国境を越えた共通の課題というものが確実に増えていく、こうした時代
状況の中に
我が国は今置かれているように思います。
そういったときに、
我が国の中には、
外交・
安全保障政策を考えるときに二つの大きな系譜があります。一つは平和主義の系譜であって、この平和主義の系譜というのは、まさに戦争で三百二十万もの多くの国民の命を失って、そうした経験をも踏まえた上で反戦平和論という形で
我が国の中に存在してきている。他方で、今度は、
我が国の中のもう一つの系譜が現実主義であって、この現実主義というのは、やはり冷戦のさなかにおいて、
我が国が主権国家としての
立場を守り、国民の生命と財産をしっかりとその現実的な
脅威から守るために、当然のこととして現実主義の政策が組み立てられてきた。過去においては常にこの平和主義と現実主義というのは相対峙するものとして認められてきて、二分論的な形でこの両者の間で論理的対立的な関係が生まれて議論が重ねられてきた。これは多分に不毛な議論であったと私は思います。
その上で、この系譜を踏まえつつ、
我が国の置かれた現下の
国際情勢を踏まえて、意図と能力という観点から
我が国のあるべき
外交・
安全保障政策というものを考えたときに、私は、意図という観点については
我が国の平和主義というものをしっかりと確立し発展させていくことが必要であると。
この観点から、ちょうど一九九〇年代の中頃ぐらいから、いわゆる戦争体験を持った世代の方々がだんだん少なくなってきて、戦争体験に基づく反戦平和論というものがその勢いを失い始めた頃から、自民党の中では、小渕
内閣で、この反戦平和論を継承する新しい未来志向の強靱な平和主義として人間の
安全保障という考え方を組み立てて、それをもってまず
我が国の平和主義を実践する政策概念として位置付けました。以来、安倍
内閣に至るまで、
我が国の平和主義の一つの骨格を成す政策概念として継承をされ、特にODA政策、ODA大綱の中では平和主義の一つの基本概念として、この人間の
安全保障というものが常に位置付けられてきました。
他方で、現実主義の方を見たときに、我々は、今度は意図と能力の能力という観点から見たときに、私たちは常にあらゆる軍事的
脅威に対してしっかりと対峙できる、あらゆる
意味での軍事的な抑止の体系を確立していかなければなりません。
我が国は、自国の防衛力の強化を図りつつも、
日米同盟というものをしっかりと強固に定着をさせて、特にその核の傘の信憑性を常に維持、強固なものとすることによって、このあらゆる軍事的
脅威に対峙し得る軍事的抑止の体系というものをつくり上げてきました。これは、まさに
我が国の能力という観点から考えたときに極めて適切な現実主義的な方法であると思います。
したがって、意図と能力に分けて、意図に関しては平和主義を、そして人間の
安全保障の概念をより積極的な平和主義の一つの概念として発展させていくこと。他方に、現実主義という観点からは、この
ACSAの三
協定もそうであります、こうしたまさに具体的な政策を通じて、
日米同盟を基軸として
我が国の
安全保障の体制をより強固にしていくことが必要であります。
したがって、
我が国の
外交・
安全保障の概念を考えたときに、意図においては平和主義を、能力においては現実主義を取ることによって、この二つを対立する概念として捉えるということではなくて、いかにこの二つの考え方を共存させて
我が国の
外交・
安全保障政策というものを展開していくかということが
我が国の取るべき道だと私は思います。
その上で、この人間の
安全保障という考え方は、アジアで初めてノーベル経済学賞を獲得されたアマティア・セン教授がその概念を形成する上で重要な
役割を担いましたけれども、個々人にその
安全保障の
対象を求め、そしてその
目的として個々人がより有
意義な人生を歩むことのできる選択肢を増やすということをその目標として設定しています。
その際に、実は、今日の本題でもあります健康の問題というのは、健康だけでは有
意義な人生の選択肢を増やすことはできませんけれども、健康を損なってしまいますと、あらゆるその他の選択肢が大きく損なわれるという性格を持っております。したがって、この人間の
安全保障の考え方の中では、健康という分野はまさにその中核的な分野として優先的に捉えられてきております。
したがって、
我が国は、二〇〇〇年の沖縄サミットのときにはこの人間の
安全保障の考え方に基づいて沖縄感染症イニシアチブというのを提唱し、なおかつそのときに、三十億ドルと記憶しておりますけれども、資金の
提供を約束をし、このことによって二〇〇二年にエイズ、結核、マラリアの世界基金が発足をしている。
それから、二〇〇八年のG8洞爺湖サミットのときには、こうした垂直的な感染症ごとの
対応というアプローチでは不十分であるという
認識に基づいて、水平的な視点から今度は保健システム強化ということを強く提唱をして、そしてこの保健システム強化アプローチを
国際社会の中で定着させる上で大変大きな
役割を担いました。
しかも、この保健システム強化の
目的として、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ、WHOの定義によりますと、全ての人々が負担可能なコストで予防を含む適切な医療にアクセスすることができるというこの概念が、一昨年の国連総会で二〇三〇年までに達成すべきとされた持続可能な開発目標の中の一つとして設定をされました。こうした流れをつくったのも実は
我が国日本であります。
こうしたことを踏まえて、今度は昨年のG7伊勢志摩サミットにおいて、
我が国は、この垂直的なアプローチと水平的なアプローチを組み合わせて、垂直的なアプローチとしては危険な感染症に対する危機管理体制の確立というものを一つの大きな柱として打ち立て、かつまた、このユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成をもう一つの大きな柱として組み立てて、そして危機管理体制というものの準備を整えるための政策とそれを予防するための政策をこの二つの柱を結び付ける橋として、ブリッジとしてその位置付けをして、総合的なグローバルヘルスに関する戦略を提示をいたしました。
この戦略に基づいて、実は総理は、G7伊勢志摩サミットのちょうど一週間前だったと記憶しておりますけれども、十一億ドル相当の資金をこうした
国際保健、グローバルヘルスの分野に投入することをお約束されました。やはり、紙の上での文書だけではなくて、一定規模の資金的な
協力することを約束することによって実際にその政策が実現するという大きな流れを
我が国はつくっているわけであります。
その上で、この
我が国の
枠組みに基づいて実際に、世界銀行というのは、これは銀行であると同時に援助機関でありますから、ただしここは多分に経済のインフラ
整備などに多くその資金を投入してきたところであります。しかし、財務省は、世界銀行に
働きかけて、その世界銀行の中のIDAの資金をこうしたグローバルヘルス、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ及び危機管理体制の強化にも活用できるようにその
枠組みを広げました。
他方で、厚生労働省は、WHOに
働きかけて、WHOが新たにジュネーブの本部の中に危機管理局を設けて、そして各
地域事務局及び各国代表事務所というものをより直接的につなぐ危機管理体制を整えようとしております。ここにも
我が国は資金
協力を約五十億ほど約束をして、そしてそれが一つの大きな資金源になって実際にこうした新たなWHOの危機管理能力の強化が進められています。
そこで、
外務省は、こうした保健
外交を戦略的に進める上において、その総合調整としての重要な
役割を担っていただくことが私は求められているように思います。いかに財務省と
連携をしつつ世界銀行を動かし、いかに厚生労働省と
連携をしてWHOを動かし、そして、特にこれをグローバルなレベルで、WHOのみならず国連の危機管理体制を受け持つ人道支援局、OCHAなどのようなところも
連携をさせて、そしてグローバルなレベルでの危機管理の体制を整えて、エボラ出血熱のときの
対応のような出遅れがないようにさせる。
なおかつ、コミュニティーとカントリーのレベルにおいて、それぞれ脆弱な保健システムしかないような国家において、この世界銀行の資金の活用をして、そして今度はWHOの危機管理の技術的な指導というものを上手にこれと組み合わせて、なおかつJICAが二国間関係での支援で受入れ国
政府の中央
政府及び地方
政府の能力強化に支援を行い、これによってマルチの
枠組みの世界銀行とWHOを組み合わせて、さらにバイの
我が国の支援体制をそこに更に組み合わせることによって、こうした
国際社会の中で定められておりますインターナショナル・ヘルス・レギュレーションという大きな
枠組みの中で、メンバーステーツとしてそれぞれの国々がその責任ある
役割を担えるように、その能力強化を
日本が大きくこのバイとマルチの
枠組みを活用して支援していく。これがまさに伊勢志摩サミットで総理が提言した内容であって、それがいよいよ実現する体制を整えなければならないという
状況になったと私は理解しております。
こういったときに、
国際協力局の中には
国際保健政策室というのがあって、そこがこうした総合調整を行う上での重要な
役割を担うことになってきておりますけれども、果たしてその今の体制で本当に十分なのか。その
国際協力局の中の
国際保健政策室というその位置付けだけではなくて、そこで求められる、かなり保健医療分野に専門的な知見を持った人材がそこにおりませんと、世界銀行、WHOを股に掛けて大きくこうしたマルチの
外交を展開し、総合調整するということはなかなか難しいと思います。
今後、保健医療分野だけではなくて、あらゆる国境を越えた共通課題が人類社会の中にこれから更に沸き起こってくるときに、
我が国は国内に比較優位を持ったそうした分野に特に優先的な順位を置きながら、こうした国内の総合調整の
外交体制を整えていかなければ、こうした
我が国の積極的な平和主義、そして人間の
安全保障に基づく
国際的な貢献というものは実行できないだろうと思います。
この点についての
外務大臣の御
所見をまず伺っておきたいと思います。