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参考人(
清水康之君) 本日は、本
調査会で自殺の問題、自殺対策を
テーマに取り上げていただきましてどうもありがとうございます。(
資料映写)
特に、皆さんこれは報道等で御承知のとおり、昨年、十一年ぶりに
全国の自殺者数が増加に転じました。それまでは十年連続して減少していたものが、
コロナ禍において自殺が増加に転じた。特に児童生徒、高校生以下の自殺が過去最多ということになっています。
本日、時間が限られていますので、いろいろと
資料は用意したんですけれども、特に
子供の自殺対策、これをどうすればいいのか、その
現状を踏まえて、皆さんに御提言というか、一緒に考えていただきたい、問題提起させていただこうというふうに思います。
私の自己紹介も少しさせていただければと思いますが、私は元々NHKで報道ディレクターをしておりました。「クローズアップ現代」という夜の情報番組をずっと担当していたんですけれども、二〇〇一年に親を自殺で亡くした
子供の番組を作りまして、そのことがきっかけで
日本の自殺の深刻さを知り、深刻であるにもかかわらず、当時は自殺は個人の問題だとされていて、
社会的な対策が全くと言っていいほどないという
状況でした。
これに対して、何とか番組作りを通して自殺対策進めていただくきっかけをつくれないかと思って番組を何本か作ったんですけれども、なかなか番組作りだけでは対策を進めることができないということを痛感したものですから、二〇〇四年にNHKを辞めまして、このNPO法人ライフリンクを立ち上げて、以来、自殺対策、これ基本法を国会で作っていただいたときにもいろいろと議員の皆さん、特に二〇〇七年に亡くなられた山本孝史さんと本当に二人三脚でずっと生前、対策取り組ませていただきましたし、あと、本
調査室で室長をされていた小林仁さんにも大変お世話になって、自殺対策をずっと私も関わらせていただきました。今日は、山本さん、小林仁さんへの僅かながらの恩返しできればという思いで今日
出席させていただいた次第です。
皆さんにお配りいただいている
資料、
大分ちょっと前半は、先ほど申し上げましたとおり、飛ばします。
コロナ禍において児童生徒の自殺がどれだけ増えているのか、深刻になっているのか、スライド、ページ番号でいいますと二十四ページ、こちら、まず御覧いただければというふうに思います。
これは、
コロナ禍で深刻化する児童生徒の自殺ということで、平成二十二年、つまり二〇一〇年から昨年、令和二年に至るまでの小中高校生の自殺の人数を表にしたものです。令和二年の小中高校生の自殺が四百九十九人ということで、これ、平成二十二年、つまり十年前と比べると四二%も増加しているという
状況です。
どういう
状況の中で
子供たちが亡くなっているのか、実際に実態は分かっておりません。ただ、私
たちライフリンクが行っているSNSの
相談には、やはり日々、中学生、高校生、場合によっては小学生から、死にたい、消えたいという
相談が寄せられているんですが、その一部御紹介したいと思います。二十五ページ目です。
これ、中学生の女の子、夏休み明けから学校に行けなくなってしまい、親や
先生からも見放された感じがしてつらい。高校生男子、コロナで休校後、うつのような症状に。
自分が何で悩んでいるのか分からない。だがもう限界だ。大学生女子、コロナで一人暮らしと大学通学がなくなり、ずっと家にいる。親のストレスのはけ口にされていて、つらい。どこにも居場所がない。死にたい。大学生男子、遠隔授業で友達ができない。勉強への劣等感も強く、この先どうすればいいか分からない。また、十代
女性、
就職できず
家族全員から罵倒されたり身体的な暴力を受けている。居場所がなく、自傷行為をしてしまう。もう消えてしまいたい。
ただ、
コロナ禍において確かに深刻化していますが、この
子供、若者の自殺というのは元々
日本では極めて深刻な
状況にあるんですね。次のスライドです。
こちらは、平成三十年における死因順位別に見た年齢階級と死亡者数、死亡率、構成
割合、つまり年齢階級別に見た死亡原因の順位です。これ、丸で囲っている部分、自殺となっていますが、
日本では十五歳から十九歳、また二十代及び三十代における死亡原因の第一位が自殺という
状況です。特に、この二十歳から二十四歳、二十五歳から二十九歳というふうになっているところの
割合というのを見ていただければ、ここに五二・一、四七・八とありますが、これ何を
意味しているかというと、今、
日本社会で様々な、あらゆる理由で死亡している二十代のうちの実にこの約半数が自殺によって亡くなっているということを示しています。
また、次のスライドを見ていただければと思いますが、これは十五歳から三十四歳、つまり若年
世代の死亡原因、これの国際比較です。
日本は主要先進七か国の中で唯一、十五歳から三十四歳における死亡原因の一位が自殺となっています。一六・三という、これ人口十万人当たりの自殺者数を表すものですが、ドイツやフランスの倍、あるいはイタリアの四倍という高さです。また、
参考に
韓国の
データも加えられておりますが、
韓国も自殺が非常に深刻だということは皆さんこれもう御存じかと思いますが、実は、
韓国と
日本、十五歳から三十四歳の死亡率は一六・三ということで同じです。非常に、ですから深刻なんだということです。
また、今日、本当にいろいろと数字持ってきたんですけれども、
皆様には
子供や若者の声を聞いていただくのが一番いいんではないかと思って、このスライド二十八のところに、NHKのハートネットTVというEテレの番組で死にたい気持ちを投稿できる掲示板を運営しているんですね、そこに投稿されたある一日の、ある一日の投稿の抜粋を皆さんに御紹介したいと思います。
特に恣意的に声を集めたということではありません。もうこの実は翌日にたまたま講演があったので、その前日の掲示板から特徴的なものをピックアップしてきたということです。読みます。
これは十代の男性の書き込みです。この世から消えたい。みんなができることができない。人と接するのになぜ恐怖してしまうのか分からない。過去からやり直せるとしたら、普通にみんなと笑って、遊びに行って、悩み事は
相談して、普通の家庭で育って、ちゃんと生きたい。未来が見えない。
あるいは、十代の
女性です。生きにくい。何でこんな性格なんだろう。周りが怖くて逃げて人生取り返しの付かないことをしてしまった。さらに人の目が気になるようになってしまった。やり直したい。こんな気質なんて要らなかった。こんな性格な
自分が嫌い。戻れるなら戻りたい。早く死んで消えてしまいたい。もう生きていたくない。もし、生まれ変わりとかあるなら次は間違えたくない。
ちょっと飛ばして、これは二十代の
女性です。次のページです。希望が見えない。みんなどうしてこのどうしようもない、怖くてひどい世界で生きていられるの。
社会から負の烙印を押されて生きていてつらい。努力でどうにかなるものとならないものがあるでしょう。努力、努力ってうるさいよ。どうにもできない
自分の無力さで毎日が苦しい。これは全てあなたの
責任だって何も知らない人は言うだろうよ。死ぬなって、死んだら負けだって周りは言うけど、もう既に負けてるし疲れたし申し訳ない気持ちでいっぱい。果たして本当にこの世界は生きていく価値のあるものなのか。誰か教えて。
最後、これも二十代
女性です。とにかく死にたいです。正確にはつらい気持ちから逃げたいのです。私に残っている逃げ道は死だけだと思っています。本当にこの世から逃げてしまおうと何度も考え、実行し失敗しました。どうしたら幸せになれるのか、ずっと考えてきましたが答えは出ません。答えがないなら探しに行けばいい、そんな気力はとっくにありません。毎日毎日、何もできずにその日が過ぎていきます。もうつらい思いに耐えるのも限界です。もう諦めて楽になれば幸せになるのでは、と思うようになりました。精神科に通院して四年が
たちました。診察のたびに薬が増えていくのに、死にたい気持ちはなくなりません。この四年間、無駄にして過ごしました。いつか幸せになれると思って毎日生きてきました。これからも生きていかなければいけないと思うと、絶望しかありません。
自殺のリスクが高まるとき、なぜこれだけ自殺で亡くなる人が多いのか、そのことを考える上で、どういうときに自殺のリスクが高まるのか、これを把握することは非常に重要です。
今スライドに映していますが、これ、三十一ページ目にありますように、自殺のリスクが高まるときというのは、生きることの促進要因、これは生きることを支える、生きることを後押しするものですね、将来の夢であったり、信頼できる人間関係、あるいはやりがいのある
仕事や趣味、ライフスキル、これ何か困難やストレスに直面したときの対処能力とか、あるいは信仰であったり、
社会や地域に対する信頼感、楽しかった過去の思い出といったような、そうした生きることを後押しする、そうした要因の全体よりも、生きることの阻害要因、これは生きることを困難にさせるものです、将来への不安や絶望であったり、失業や不安定な雇用、過労、借金や貧困、虐待やいじめ、病気や介護疲れ、あるいは
社会や地域に対する不信感や孤独といったような、そうしたものの方が、阻害要因の方が促進要因よりも相対的に見て上回ったときに自殺のリスクが高くなる。つまり、死んだ方が楽だ、死んだ方がましだと、そういう感覚になってしまいがちだということです。
日本の自殺の特徴の
一つは、中高年の男性の自殺が多いということです。今二万人余りに、二〇〇三年が最も多かった、そのときは三万四千人だったものが今は二万人ぐらいまで減っています。この減った部分の多くは中高年の男性ということなんですが、これ三人に一人がですね、中高年の男性ということになっています。
この中高年の男性の抱える悩みや
課題というのは割と明確で、
生活が苦しいとか、あるいは借金を抱えてしまったとか、あるいは
仕事の問題、経営の問題といったような、つまりこれ、生きることの阻害要因を取り除いてあげれば、促進要因はしっかりしているんで、その方
たちの自殺のリスクは低下する。つまり、自殺ではなく生きる道を選べるようになっていくんですね。
ただ、
子供や若者の場合は、これ阻害要因を取り除いても、促進要因が削られてしまっているとなかなか自殺のリスクというのは下げることができません。生きることが前提でなくなっているというぐらい、私は、
子供、若者の置かれている
現状を見るとこの
日本社会の未来が脅かされている、それぐらい深刻に私は捉えるべきではないかというふうに思っています。
じゃ、一体どういう対策が必要なのか。ちょっとスライド戻りますが、この三十番目のスライド、ここで、必要な対策ということで四点挙げさせていただきました。
まず一点が、実態の分析です。
自殺が学校で起きますと、あるいは児童生徒が自殺で亡くなりますと、その自殺で亡くなったことに関する
調査、いわゆる背景
調査というものが行われます。私も中学校あるいは高校から依頼されて、その背景
調査の中身を実際に見たことは何度もありますが、もう少なくともファイルで三冊から五冊ぐらいは、大体どの自殺においても、大体学校にそれだけ情報があるものなんですね。ところが、これが
文科省に上がってきていません。
文科省は
子供の自殺の実態を単純に言うとよく把握できていないという、そういう
現状があります。
去年亡くなった児童生徒四百九十九人ですから、私は、これ調べようと思えば、現場に行って、その背景
調査の
資料を読み込んで、亡くなった子
たちにどういう特徴があるのか、学校での直前の何かサインみたいなのがあったのかどうか、家庭環境どうだったのか、何か精神疾患とか何か特性を抱えていた子がどれぐらいいたのか、もうその実態を徹底的に解明をして、それを踏まえて対策をやっていくということが必要だろうと思います。そうでないと、同じような
状況の子が同じようにしてまた自殺に追い込まれるということが起きかねない。
当然ながら、問題
解決の極めて重要な最初の一歩というのは実態の把握です。それが残念ながらこの児童生徒の自殺対策においては十分行われていない。ですから、これを徹底して行うべきだというのが一点目です。
また二点目は、SOSの出し方に関する
教育の徹底ということです。
今の
子供たち、助けを求めたらいけない、あるいは助けを求めるにしてもきちんと丁寧に説明をできなきゃいけない、弱いことは悪いことだといったり、人に頼ることは悪いことだといったような、そういう感覚を持っている子が少なくないというふうな実感を私は持っています。
ですから、全ての学校でもって、いざというときには助けを求めていいんだよ、で、具体的に誰にどうやって助けを求めればいいのかという、この人にあの人にという具体的な
子供が助けを求められる地域の専門家、これ大体保健師が私は適当だと思いますが、保健師さんがいざとなったら私のところに
相談に来てねというふうに学校でこのSOSの出し方に関する授業を行う、そういうことも徹底して進めていくべきだというふうに思います。
また、そうはいってもなかなか助けを求めてくれない、助けを求められない
子供たちも少なくありません。ですので、自殺リスクを察知する、こうしたITのツールも今開発されてきていますので、
子供たちになじみのあるタブレットで
自分の気持ちを選択していくと、それで自殺のリスクが判定できる。もちろん結果は
子供には見えません。ただ、養護の
先生だったり学校側がそれを見て、その子の
支援に当たることができるという、そういうツールが開発されていますので、せっかくそういうものがあるわけですから、これは
子供の自殺を一人でも多く防ぐために、こうしたものも
全国で導入すべきではないかと。今これ新潟県で既に展開されていますし、長野県でも今年度展開していこうということになっていますが、
全国的な広がりまでは見せていませんので、こうしたものも導入すべきではないかと思います。
あと、四番目は、
子供の自殺危機
対応チーム、これも
是非全国で設置すべきではないかと思います。これは長野県が既に昨年度設置していて、私もこの事務局として関わっています。
どういうチームかといいますと、自殺リスク抱えた児童生徒、これ学校側が把握しているケースも少なくないんですね。ただ、
先生が、あるいは養護の
先生、あるいはカウンセラー、スクールカウンセラーがちょっと様子がおかしいなと思っても、でも、じゃ、誰に
相談すればいいのか、その自殺リスク抱えた子にどう接すればいいのかということをちゃんとアドバイスしてくれるような、そういう専門的なチームが
全国的にはありません。長野では、未成年の自殺率が
全国で一番高いという
状況を踏まえて、とにかく
子供の周りには必ず誰か大人がいるわけですから、その大人からSOSを出してもらって、その大人から寄せられた情報を基にして、精神科医や弁護士や、あるいはネットの専門家、PSW、心理司、あるいは我々のようなNPOも入って、じゃ、この子についてはどれぐらい自殺のリスクがあるのか、そのリスクを踏まえて、じゃ、どういう
支援をすればいいのかというその
支援方針まで打ち立てて、それをまた学校に戻していくというようなことをやっています。
ですから、これを長野県で今モデル的にやっていますが、こうしたものがあると、学校の
先生もやはり安心して
子供の接し方を聞ける、聞ければそれによって適切な接し方ができるようになって、
子供の自殺を防ぐことができるというようなことにもつながっていくと思いますので、
是非こうしたものの
全国設置も進めていくべきではないかと思います。
最後、ただ、今
お話ししたことは、既にある枠組みの中でもやろうと思えばできることなわけですが、ただ、枠組みを変えなければできないことについて、
最後、この現行
制度上の問題点ということで、これ御提言させていただきます。
何かといいますと、自殺念慮者あるいは自殺未遂者を
支援するときに、当然ながら、これ関係者間で情報を共有することが重要になってくるわけですけれども、残念ながら今、個人情報保護法の壁というか、個人情報保護法があって、本人の了解を得られない限り、関係者間では情報共有図れないという
状況になっています。
そのため、
支援が明らかに必要であるにもかかわらず、自殺念慮を抱えた方の中には
支援に拒否的な人もいます。そうした拒否的な人にはなかなか
支援を提供できないとか、あるいは、自殺未遂をして搬送されて意識レベルが極めて低い、その人がどういう
状況にあったのか、どういう
支援を受けていたのかということの確認を取りたいんだけど、本人の意識レベルが低いから本人から了解を取れない、結果、関係者が情報を共有できずに
支援が手遅れになるというようなことも起きてしまっています。
あるいは、未成年の場合ですね、先ほど長野の例を学校からSOSを出してもらってということで
お話ししましたけれども、実はこれ、高校からはSOSを出してもらえるんですが、中学校から、小学校からはSOSを出してもらえていません。というのも、高校は県立なので、長野県が行っている個人情報保護運営審議会で審議をして手続をすることによって、高校からは情報を、この危機
対応チーム、これ県の取組なので、上げてもらえる。でも、市町村になると、県で幾らその審議会で手続を取っても、市町村それぞれでも手続を取ってもらえないと、市町村から県には個人情報だということでこれ
情報提供できないんですね。それが壁になって、今、中学校ではこの危機
対応チームのバックアップが全くできていないという
状況です。
ですので、既に要保護児童対策地域協議会、いわゆる要対協ですね、要対協であったり、あるいは
生活困窮者自立
支援制度における
支援会議等ではこの個人情報は適用除外ということで、例外的に、決まった枠組みの中であれば関係者が情報を共有して問題ないという、そういう
制度がありますので、
是非この
制度を倣う形で、この自殺念慮者、自殺未遂者、とりわけこの未成年のリスクのある子
たちの情報を関係者が速やかに共有できるような、それで速やかに適切な
支援ができるような、そうした法的な枠組みを
是非御検討いただけないかと思います。これはもう国会でしかできないことです。現場で幾らやろうと思っても、それが壁になって
支援が届かない、そういう
状況が起きてしまっていますので、
是非皆さんに御議論いただければというふうに思います。
御清聴いただいてありがとうございました。