○
参考人(田中
誠一君) ただいま御紹介いただきました
日本船舶技術研究協会の田中と申します。本日は、かようなプレゼンの機会を与えていただきまして、誠にありがとうございます。
船舶技術研究協会、ちょっと長い名前ですが、こういう組織を御存じない方がほとんどだと思いますので、まず簡単に当協会の説明をさせていただきます。
お手元の
資料二
ページ目でございますが、
日本は、
世界第二位の海運国であり、そしてまた第三位の造船国でもあり、また、それを支える舶用機械メーカー群、公的機関、あるいは
研究所、大学といった一大海事クラスターを形成しております。私
ども研究協会は、この海事
産業の国際
競争力向上に資するような
研究開発及び国際基準・規格化に一体的視野で戦略的に対応しております。
船舶はある
意味公海であればどこの海でも行けますので海上の安全を担保する必要がありますし、また、海洋汚染や大気汚染、それらを防止するための一定のルールや基準が必要となります。その基準やルールを策定しているのがこの図の左にありますところのIMO、国際海事機関でございます。
また、これらの基準に基づいて、船舶というのはいろんな部品とかあるいは製品を組み立てて造りますので、これら基準に基づいた各種製品の今度は規格を定める必要がありまして、それらを、規格の決定しておりますのがISO、国際標準化機構ですね、それから、
電気関係でいえばIEC、
日本国内であればJISということで、これらの国際機関あるいは
国内の機関と折衝する、あるいは連絡する窓口が私
どもの協会でございます。
二
ページ目でございますが、IMOでは当然その様々な重要なルールが決定されます。IMOは元々国連の専門機関でもありますが、その審議に向けた対応方針とかあるいは
日本提案の文書につきましては、基本的に国土交通省が関係団体と密接に協議をして決定しております。
特に重要な案件やあるいはほかの
産業界にまたがるようなそういう事案につきましては、都度、国土交通省あるいは関係団体が参画する
委員会、我々はこれをプラットフォームと呼んでおりますけれ
ども、そこで
日本の方針を決定しております。
私
どもの協会が事務局を務めており、IMOの
会議にも国土交通省の代表者と一緒に
出席をいたしまして、結果を素早く業界内で共有して、対応に向けた検討を開始するという
役割を担っております。
四
ページ目、次はGHGゼロエミッションプロジェクトについて御説明させていただきます。
御存じのように、気候変動、地球温暖化といいますとCO2削減が本当に喫緊の
課題であり、国際海運に対しましても船舶から排出されるCO2の削減が強く要請されております。
GHG、グリーンハウスガスですけれ
ども、これは非常に広義な
意味ですけれ
ども、ここではCO2とほとんど同義語で使っておりますので言葉が入れたり入ったりしますけれ
ども、ここはちょっと御容赦いただきたいと思います。
五
ページ目でございます。
国際
エネルギー機関、IEAの統計によりますと、二〇一八年の
世界のCO2の排出量、総量は三百三十五億トン、そのうち国際海運の排出量は七億トンということで
世界の二・一%、分かりやすく申し上げますと、ドイツ一国に匹敵する量を排出しております。今後、
世界の貿易量は伸びていきますし、当然海上荷動き量も着実に増大することが見込まれておりますので、何も対策を取らないと二〇五〇年までに約二十億トン以上、七%程度まで増加するとの予測が出ております。
六
ページに移ります。
海上輸送と一言で言っても、国際海運は様々な国が関係、関与しております。この六
ページ目に非常に分かりやすい例がありますけれ
ども、これは中国から製品をカナダに輸出するという、じゃ、その中でどういうふうに国が関係しているかがこの説明でございますが、これはギリシャのオーナーが
日本の造船所で建造した船をパナマに、船籍国ですね、パナマに登録をして、その船を
日本の海運会社に貸し出して荷物を運ぶと、ただし、その船員はほとんどがフィリピンといった形で。
通常の国連の気候変動枠組条約では各国のいわゆるCO2の排出の規制をしておりますけれ
ども、これ国ごとにやっても、船舶はいろんな国にまたがっておりますのでできませんので、ここの
部分を同じ国連の専門機関であるIMO、先ほど御説明したIMOに委託した形でトータルのCO2の排出量をコントロールしようとしております。逆に、内航船の方は
日本の政府が逆にコントロールできますので、こちらはいわゆる国連の気候変動枠組条約の範囲でコントロールができることになっております。
日本は、先ほど申し上げましたように、
世界第二位の海運国、そして
世界三位の造船国ということで、IMOでも非常に大きな存在、最近も
理事国としてトップの得票を得て再選されており、IMOの活動に大きく貢献しております。
七
ページ目に移りますが、GHG、グリーンハウスガス、CO2の規制につきましては、
日本は常に主導的な立場で長らくIMOをリードしてきました。ちなみに、IMOの中でも非常に注目を浴びているMEPCという
委員会、これは
海洋環境保護
委員会があるんですけれ
ども、この
委員長に国土交通省の斎藤英明
技術審議官が二〇一八年より就任しております。
日本が
環境問題、なかんずくGHGの削減問題でもリーダーシップを取っていることを御理解いただけると思います。
八
ページ目でございますが、これは
日本が海運のGHG削減にいかに貢献してきたかの歴史でございます。船舶のハードウエア、
技術的な側面と船舶を運航するオペレーションの両面での規制に
日本が非常に主導的な
役割を果たしました。
EEDI、これは一トンの荷物を一マイル、一シーマイル運ぶときに発生するCO2の量のことですけれ
ども、既に二〇〇八年より新造船のCO2削減を目指してEEDI規制、数値を新造船のデザインの中に規制として盛り込むことの検討を始めまして、二〇一一年にIMOで採択され、実際に二〇一三年より実施の運びとなっております。
それ以外、オペレーションの方ですけれ
ども、船舶
エネルギー
効率管理計画書の提出の義務、あるいは燃料消費実績報告の義務と、これらの規制も
日本がリードしております。最近では、今まで新造船に限っておりましたけれ
ども、既存の船舶に対するCO2の排出を規制する今度はEEXIという指標の制度を提案しまして、昨年IMOの承認を得て、今年はこれを採択することで今尽力中でございます。
以上で規制の方の枠組みというのは大体できましたので、今後は経済面でのアプローチということで、幾つかの船舶関連団体が提唱しておりますIMRFという、これはインターナショナル・マリタイム・リサーチ・ファンドの略でございますけれ
ども、分かりやすく申し上げますと、消費燃料一トン当たりに例えば二ドルの資金を拠出を義務付けまして、大体五億ドル程度の資金を集めまして、これをRアンドD、すなわち低炭素
技術の費用に充てるというアイデアでございます。これは
日本も賛同しておりまして、今後この規則を成立させまして、最終的には燃料油の課金などの制度につなげて脱
炭素化を加速する戦略を考えております。
九
ページ目でございますが、今御説明しましたように、GHG削減に関しましては、いわゆる規制とそれから
技術開発を両輪として対応することが非常に重要と考えております。先ほど申し上げましたEEDI規制を始め、各種の規則の話は、私
どもの協会がプラットフォームとなり、産官学公で検討を行って、IMO宛てに提起、提案をしてまいりました。
日本政府は並行して
技術開発のため三十二億円の資金支援を行い、いち早く
日本建造船の省
エネ性能の向上を果たしまして、結果として、私もマーケットを見てきましたけれ
ども、
日本建造の新造船が非常に高い評価を得るに至っております。実際の造船シェアも、二〇一三年の一三%から二〇一五年の三二%までシェアを回復いたしました。
十
ページ目でございます。
IMOは、二〇一八年にGHG削減の目標値を決定いたしました。二〇三〇年までに平均燃費の四〇%削減、二〇五〇年までにGHGの総排出量、CO2の総排出量を五〇%削減する、そして今世紀中のできるだけ早い機会にGHG排出ゼロに持っていくという計画を承認しました。この図はIMOの予想図ですが、最初に申し上げましたように、何もしなければ二〇五〇年には貿易量、海上荷動き量の増加に伴ってGHGは二十億トンを超える予想となっております。
我が国も、このIMOの目標を実現するために、私
ども日本船舶技術研究協会とそれから国土交通省が共催で国際海運ゼロエミッションプロジェクトを立ち上げました。
日本の造船、海運、舶用工業、海事関係、公的機関、大学、
研究所をメンバーといたしまして、高性能な船舶への代替促進、あるいは新燃料への代替、それから船上炭素回収
技術、一般的にCCSと言われているものですけれ
ども、これらの
技術のイノベーションの促進を含むロードマップを策定しております。
このプロジェクトで燃料転換、今まで百年近く船というのは重油をたいて動いてきたわけですが、完全にこれから新燃料に転換するという、我々の感じでいくと歴史的な大転換にあるわけですけれ
ども、ゼロエミッションプロジェクトで大きく分けて
二つの燃料転換
シナリオを考えております。
右、左とありますけれ
ども、どちらも二〇三〇年までは基本的にLNG燃料が貢献していると。それ以降はいわゆるゼロ
エミッション船が大幅に増加する
シナリオになっておりますが、最初の
シナリオ、
左側の
シナリオは、いわゆるカーボンリサイクルメタン、すなわち、
電気分解をして水素を作って、回収したCO2と合成してメタンを製造して、そのリサイクルメタンが主流となるものでございます。LNGの九〇%の成分は基本的にメタンですので、LNG燃料
技術がそのまま活用できます。
右側のもう
一つの
シナリオは、水素やアンモニア、これらは本当にCO2フリーの燃料ですが、これらの燃料が主流となってくるという
シナリオでございます。
典型的な
二つの
シナリオを用意しましたけれ
ども、当然のことながらこの中間もありますし、これがいろいろミックスした形での
シナリオも当然考えられます。どちらの
シナリオも、非常に難しい
技術的
課題、特に燃料インフラあるいは
サプライチェーン、最終的にやはり経済性等々ですね、不確定性の
要素が、あるいは克服すべき問題が、
課題が山積みとなっております。
ページ十三は、先ほ
ども申し上げましたゼロエミッションプロジェクトのロードマップです。
当然のことながら、
研究開発、船もありますし、それから特にエンジンですね、
開発、これを並行して
技術の
実証を行いながら、逆に、今のままですと経済性悪いので、これをいかに
導入していくかということで
市場メカニズムやファイナンスの面で検討もしなくてはいけませんし、当然新燃料になりますので、関連ルール、特に安全とかですね、船員も、LNGが取り扱えるような船員も増やしていかなきゃいけないということで、最終的に二〇二八年―三〇年ぐらいの間に完全なゼロエミッションの船を実船投入するという計画でおります。
ゼロ
エミッション船というのは一体何だということになりますが、これが十四
ページに一応イメージということで、本当にこれが実現するか、あるいはこのとおりにいくのかというのはちょっと別にして、我々が今現在考えられるゼロ
エミッション船というのはこの程度ということで御理解いただければと思いますが。
まずは、やっぱり最初申し上げました水素燃料、CO2フリーの、燃料とした船舶ですね。これでCO2の発生はゼロになるんですけれ
ども、
技術的には水素燃料電池という形ではなかなかいけなくて、やっぱり大出力が船の場合必要なので、加えて航続距離の観点でも恐らく小型船に限定されるものと思います。
結果的にはやはり水素だきの内燃エンジンが絶対に必要になってくるわけですが、水素というのは、御存じのように、非常に発火点が低くて、かつ燃焼速度も速いということで、爆発性の危険性があるわけですね。こういう
技術的
課題が残ります。一方でまた、水素をどこで調達するんだと、
競争力のある水素が本当に手に入るのかといった問題も残ります。
絵の上の
右側の方の船は、既に受注を重ねておりますLNGだきの船に加えて、
風力、まあ昔の帆船と同じですけれ
ども、帆を船の上に付けて、その
風力等を使ってのハイブリッド船ということでございます。
左手下は、今度は水素の代わりにアンモニアを使う船でございます。アンモニアも御存じのようにCO2はフリーでございます。ただ、アンモニアは、逆に燃焼速度が非常に遅くて、簡単に言うと火が非常に付きにくい燃料なんですね。これをいかに、どうやって向上していくかというところに非常にテクニカルなイノベーションが求められるところであります。加えて、アンモニアは劇薬でもありますので、その辺の安全性も求められると。
最後の船は、いわゆる排気ガスからCO2を回収するCCSを使って、エンジンを回しながらそのCO2を回収していくという船なんですが、もうこれは本当にプラントがどのぐらいの大きさになるのか、あるいはCO2をどのぐらい回収できるのかといった
技術的
課題も残っております。
ちょっと筋がそれるかもしれませんけれ
ども、次に現在の
日本の造船業を取り巻く状況につきまして御説明したいと思います。
十六
ページでございます。
一九八〇年代―九〇年代までは、
日本はナンバーワンの造船国でありました。その後、韓国が台頭しまして、今世紀の初頭には
日本と韓国が肩を並べ、二〇一〇年以降はやはり韓国と中国に抜かれ、
日本は第三位となっております。
中国、韓国の設備状況、特にリーマン直前の船腹の大量発注によりまして、今もなお大幅な設備過剰問題あるいは船腹過剰問題を抱えて、加えて直近のコロナもありまして、新造船需要が激減しております。手持ち工事量、普通は二年必要なんですが、これが一年を切るような今危機的な水準にあります。
次の
ページ、十七
ページでございますが、この造船不況、あるいはその受注が本当に消失しちゃったという状況は中国も韓国の造船所も同じなんですけれ
ども、非常に厳しい状況なんですが、基本的に大規模な政府の公的支援を受けまして、中国も韓国も政府主導で救済合併や統合が行われておりまして、
日本の造船業は相対的にますます厳しい状況に置かれております。
その次は、中国・韓国造船業の
技術力のキャッチアップということなんですけれ
ども、十八
ページでございます。
技術力につきましては
日本がまだまだ優位性がありますが、実際に、十八
ページのこの表は、燃費消費率、これブルーが
日本の建造の船で、要するに下にあるほど燃費がいい船です、消費量が縦軸になっておりますので。
こういう形で、先ほど、政府の御支援もあって、非常に燃費のいい省
エネ船ということで
日本は高い評価を得ているんですけれ
ども、今後は、この省
エネ船に加えて、ゼロ
エミッション船の
開発というのが
日本の造船業を再生、維持していくためにはキーになるものと判断しております。
十九
ページ、二十
ページは、ゼロ
エミッション船、これは海外でございます。
十九
ページは
欧州の発展状況なんですが、これはどれも基本的に水素燃料電池を使った電動船です。ただ、これ、フェリーとかプッシュボートとか非常に小型の船にやはり限られております。
二十
ページは、中国も同様にやっておりますけど、これも非常に水素燃料電池ということで小さい船ですね。サムスンと大宇はアンモニア燃料船をやっておりますけど、これは基本的に、ドイツのMANという舶用機械エンジンメーカーがございますけど、このアンモニアだきエンジンを
開発するのにお互いにタイアップしてやっているということで、このゼロ
エミッション船の
開発という点では各国一線の状況となっております。
二十二
ページ目に入ります。
生き残りを懸けましたゼロエミッションの
開発戦略ということで、燃料転換は、先ほど申し上げましたように、重油からガス燃料に移換すると。まずはLNG燃料が主力燃料としていきますし、いずれは水素やアンモニアというものが追随していくという考え方です。
自動車の
世界では、水素などの燃料電池車は、トヨタさんのミライが一番分かりやすいんですが、もう実現化しておりますが、船の場合は、もう圧倒的に水の抵抗あるいは波の抵抗が強いものですから、大出力、大容量の出力が要求されるということで、現実的にはやはり内燃機関、エンジンでしかこれは対応できません。これは、逆に言えば、造船とか舶用メーカーの海事クラスター全体がこれを対応していくことが必要で、私
どもの協会はプラットフォームとして機能を提供していくつもりです。
是非とも、やっぱり海事クラスターを何とか強力なまま維持していくということが安全保障あるいは経済安全保障上、絶対に必要です。特に、グリーンイノベーション基金等を使いながら、リスクを取った
事業者を支援しながら、まずはLNG
事業の
競争力、そして、ひいてはゼロエミッションの
開発、
実証を
世界に先駆けて成功すれば、必ずや造船業あるいは海事クラスターを強力に維持することができると思っております。
二十三
ページ目は、様々なゼロ
エミッション船の問題点を記載いたしました。これはもう先ほど口頭で申し上げましたように、水素は爆発性があるとか、アンモニアは燃焼速度が悪い、そういうものが盛り込んだ内容でございますので、一応割愛させていただきます。
二十五
ページ、最後のまとめでございますけれ
ども、これも今私が御説明しました要点を一応書き並べたものですが、最後の
三つだけですね。
ゼロ
エミッション船の実現というのは非常に海事クラスターをつなぐプラットフォームとして重要ということで、我々協会はしっかり海事
産業競争力をアップ、つなげていきたいと。
それから、やはりゼロエミッションの
開発はお金が掛かります。リスクを取る民間企業に対しては、グリーンイノベーションファンドのみならず、政府の格別の御支援を
お願いしたいと思っております。
最後に、先ほど御両者、
佐藤さん、
真鍋さんから
風力発電の話を御説明いただきましたが、これは非常に、
浮体式は特に造船の
技術が生かせる分野でもございますし、それに伴った
風車、あるいは特にサポートするための船がたくさん必要になりますので、こういった
意味でも……