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参考人(
梅垣緑君) これについてもお答えします。
まず、いらっしゃる国
会議員の
皆さんに申し上げたいと思いますのは、
大学院生の本業って
研究ですけれども、
研究そのものが、ある種、既に
イノベーションの要素を含んでいるということです。
我々院生は自分の興味、関心に基づいて
研究のテーマを決めるということになりますけれども、その際、まず第一に行うのは先行
研究の徹底的なレビュー、批判ということになります。つまり、既に分かっているということに
研究する価値はないわけです。その点で、日々院生が
研究生活、
研究活動を送りながら生み出されてきているのは、オリジナルの新たな知見という
意味では既に
イノベーションであるということを知っていただきたいということがあります。
その上で、
衆議院の方も含めて議事録を拝読した部分あるんですけれども、
研究に元来含まれているようなこういうオリジナリティー、創造性、新規性、こういったものをどう担保するかということの
議論がなかなかされてきたと言えないのではないかと思います。
今回の
改正でいわゆる
イノベーション重視の
方向性が打ち出されていることには、
イノベーションがこういった市場経済の下で成長に資するものとされている点、それから、それが国によって上から指導されるという点に大きな危惧を寄せております。
ちょっと済みません、長くなりますが、その上で二点述べさせていただきますと、短期的な目線でいわゆる
イノベーションにつながるかどうかという判断を
研究に下す、要するに出口をあらかじめ設定をするということ、しかもそれに基づいて
予算配分を行うことが、院生などの若い
研究者が既存の枠組みを超えて知的な創造力を発揮することを妨げるのではないかということです。特に、
基礎研究分野、人文
社会科学分野、自由な
課題設定が非常に重要である、しかもこれまで取り残されてきた、取り落とされてきたという
分野で、これが
イノベーション重視によって解決されるとはなかなか
考えづらいというのが実感です。
先ほど述べたとおり、院生、厳しい生活
環境に身を置いているために、本来、自由に自分の知見、自由な知見を、関心を広げていくというところが、できるだけ設定された出口に寄せようとするという動機が強く働くと思います。その結果起こると思われるのは、表向き
イノベーションとされる
研究にできるだけ寄せられた実のところ狭い関心、切り取られた、そういう窮屈な
研究ばかりになるのではないかと思っています。自由に自分の関心に沿った
研究をしようとする
基礎研究、人文
社会科学研究などといった
分野で結果としてキャリアを形成できない、学問的
状況がより貧困になるということが、危惧しています。
もう一点ありますが、そもそもどのような
分野であったとしても、学問
研究というのは真理の探求のために行われるという点です。その成果というのは、ある種、
一つの国単位にとどまらない普遍的な価値を持つということがあります。例えば、技術にしても、人間
社会全体の幸福に資するかどうかという点で
意味が生まれるというところで、経済成長、
イノベーション重視の
方向性が打ち出されて、国がこれを
目標として強く位置付ける、しかも
大学にその責務が課されるということで、
大学や
研究現場に大きな統制が強まるんじゃないかということを危惧しております。
特に、私、一橋
大学に在籍しておりますけれども、二〇一四年の学教
法改正や国立
大学法人
法改正、運営費交付金の削減、こういったことで選択と集中を前面に掲げる
体制になって、教
職員、学部生、
大学院生の風通しが非常に悪くなっております。重大なハラスメントが解決されない、授業料や学生寮の寮費が値上げされる、学生が不利益を被るような
制度の変更が事前の
説明、話合いなく一方的に決められる、こういったことが起こってきております。
科学や技術も、教育によってその最先端の知見を学生に伝えるということ抜きには担い手の再生産はできないということです。先ほど申し上げたとおりなんですけれども、学問
研究や技術、そして高等教育、こういったものの公共性に照らして、国による統制が果たしてこれ以上強まっていいのかということを率直に申し上げたいと思います。