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参考人(
白石隆君) それでは、私は、済みません、パワーポイントは使わないで、お手元にございますスライドでお話しさせていただきます。
私の今日お話しさせていただくテーマはかなり広く取っておりまして、
世界の動向と
日本の安全保障というふうにしておりますが、実際には、
日本の
外交と安全保障とそれから
国際経済、これ全てについて触れさせていただくつもりでございます。
大きく申しまして、
世界の動向ということでは、
世界全体の動きが今どうなっているのか、それから米中対立というのがどうなっているのか、それからアジアが今どういうふうに動いているのか、それをかいつまんでお話ししまして、その後に、それでは
日本としてはどういう
政策的対応が私の見るところ求められているんだろうかと、そういう形でお話ししたいと思います。
まず、一枚めくっていただきますと、これはマクロの構図でございまして、
世界全体の動きでございます。
二枚目に参ります。
新興国の台頭、アジアの台頭というふうに書いておりますけれども、ごく簡単にまとめますと三点ございまして、二十一
世紀に入ってちょうど今年で二十年目でございますが、第一番目に、
先進国が地盤沈下して
新興国が台頭している。大体二〇二三年ぐらいになりますと、つまり三年後ぐらいにはG7の
経済規模と
新興国、
途上国の
経済規模が同じになるというふうに
予測されております。
二つ目に、いろんな言い方がございますけれども、最近の
日本政府の言い方に従いますとインド太平洋、あるいはもっと一般的にはアジアが台頭していて、既に二〇一〇年には
ヨーロッパ、北米よりも
経済規模としてはアジアの方が大きくなっており、二〇二〇年代の半ばには恐らく
世界の
経済の三分の一を占めるようになるだろうと。
それから三番目に、アジアの中では、残念ながら
日本の
経済は停滞しておりまして、存在感も落ちておりますが、
中国が非常に台頭しており、しかも、ASEAN、インドも順調に
経済成長しておりまして、二〇二〇年代の終わりまでには
日本の
経済規模を超えるだろうというのが、これが
予測でございます。
一枚めくっていただきまして、今申し上げたのは
経済の規模でございますが、今度は、一人当たりの所得が
世界全体でどうなっているのか。
これ、非常に有名な、象の頭ということでよく使われる資料でございますけれども、
世界の人口を所得の上の方から五%ずつに二十に切りまして、それぞれの所得層の一人当たり所得が二十
年間、これ少し古いです、一九八八年から二〇〇七年までの二十
年間でどのくらい伸びたのかということを見ますと、A、これは
世界のまさに中産階級、国としましては
中国、ベトナム、インドネシア、マレーシア、あるいはバングラデシュ、それからインド、こういう国でございますけれども、ここの言わば
世界の中産階級あるいは中間層の所得が七五%ぐらい伸びたと。B、これは
先進国、
日本も含めた
先進国の所得の中の下層以下のところの人たちの所得というのはほとんど伸びなかったと。それから、C、これはいわゆるグローバルエリート、大体
世界の所得のトップの〇・二%というふうに言われておりますけれども、ここの所得が六五%伸びたと。
ということは、また一枚めくっていただきますと、
先進国では、中下層の所得が伸び悩んでエリートの所得が伸びましたから、当然のことながら格差が拡大して、ポピュリズムになって、反グローバリズムになって、排外的なナショナリズムが高まっていると。
新興国の方では、中間層が拡大してグローバル化の恩恵を非常に大きく受けたんですけれども、決してグローバル主義にはなっていなくて、二十一
世紀は自分たちの時代だということでナショナリズムが強くなり、しかも現在の
先進国主導の
世界秩序に対する不満はあると。
地球温暖化についてはその
一つの例でございまして、
先進国が地球温暖化で脱炭素といって例えば石炭火力を使うなと言いますと、
ヨーロッパはそれは十九
世紀に発展して、そのときには好き勝手にやったじゃないかと、何で我々は同じことできないのかという、こういう形でナショナリズムが出てきていると。これは、正直申しまして、決して理不尽だといって片付けるわけにはいきません。ですから、そういう非常に大きな亀裂が今
先進国と
新興国の中で起こっていると。
また一枚めくりまして、
新興国の課題と書いておりますが、これはもっと正確に言いますと
新興国台頭がもたらす課題でございまして、いろんな課題がございます。
まず最初に、
新興国それ自体の課題としましては、
新興国の人たちというのは、過去二十年ないし三十年、非常に生活水準が向上しましたので、当然これからも生活は良くなると思っております。この期待に応えられないと政治は不安定化します。これが実は非常に大きな問題でございます。
ただ、そのときに、それじゃ、国民の課題に応えるために
経済成長をどうするのかというところになりますと、これは二〇四〇年まで、ごめんなさい、ここに二〇二〇年までと書いております、これ間違いでございます。二〇四〇年まで、これから二十年先まで見通しますと、今の趨勢が続けば、
中国、インド、ASEANの
エネルギー消費はそれぞれアメリカ、
ヨーロッパ、
日本の現在の消費量
程度また伸びていく、大変な量伸びると。
その結果、二〇四〇年になっても化石燃料の消費というのは
先進国で五三%
程度、
新興国で六五%
程度、つまり化石燃料消費というのは六〇%ぐらいにとどまると。決して再生
エネルギーで全て賄えるということには遠い、つまり化石燃料は重要なままであるというのが、これが
一つエネルギーについては申し上げたい点でございます。
と同時に、現在の中東の混迷、これは格差、拡散、特にイランの核
開発が恐らくまだしばらく掛かると思いますけれども、これが仮に現実に至ったときには、
中国の格差、核拡散、それから中東の混迷というのは今よりももう
一つ深刻なものになります。そういうところで、アジアの
新興国には、化石燃料を中心とする
エネルギー調達が決して順調にいかないような事態になったときに直ちに危機に陥るような国もございます。
ですから、その意味で、今まで
日本は
エネルギーの自立ということで自分たちの、我々の国だけの
エネルギー消費、
エネルギー調達を考えておりましたけれども、
日本の
経済がアジア大に拡大していることを考えますと、アジア全体を考えた
エネルギー安全保障を考える必要があるだろうというのが、これが
一つ、ここには、レジュメでは書いておりませんけれども、申し上げたい点でございます。
それから、もう
一つは石炭についてでございまして、今政府の方で高効率の石炭火力
技術、これを輸出するかどうかということについて議論があるのはよく承知しておりますけれども、脱炭素というのは、これは石炭を使わないということと同じではございません。石炭は
世界中にございます。問題は、石炭のCO2をどう
技術的に有効利用するかと。いわゆるカーボン
リサイクルについての
技術的な投資を行うということが、私としては非常に重要な課題ではないだろうかというふうに考えております。
次に、
世界の動向の
二つ目、今度は米中対立でございます。
もう二枚めくっていただきまして、米中対立は、アメリカから見るのと
中国から見るのでは少し景色が違います。
アメリカから見ますと、現在の米中対立というのは、要するに、アメリカを中心としてつくり上げた戦後の秩序が
中国とロシアによって挑戦されているというふうに見えておりまして、その前提としましては、一九九〇年代に、クリントン政権のときに、
中国は
経済成長をすればそのうち民主主義で市場
経済になると、そういう言わば前提の上に
中国に対する関与
政策をやってきておりましたけれども、これは間違えていたというのが、これが非常に根本的な判断でございます。
現在は、その上に立って、
中国は地域覇権を目指していると、それから産業と安全保障の鍵となる先端
技術、新興
技術の優位を目指していると、しかも
米国の雇用を奪っているんだというのが、これがアメリカから見た対中
政策の基本的な判断でございます。
ここで
一つ、一枚めくっていただきまして、私は、この米中対立で特に、アメリカの方から見ましても、
中国から見ても、実は
日本にとっても、大事なのは
技術の問題だろうと。今出てきております
技術は新興
技術というふうに言われますけれども、これは英語で申しますとエマージングテクノロジーという言葉でございまして、エマージングというのは今登場しつつある
技術でございまして、したがって、これが将来誰が何のために使うのかということはまだはっきりとは分からない
技術でございます。だけれども、安全保障にとっては、例えば脳波で動くドローン
一つ考えていただきましてももう明らかでございますけれども、二十一
世紀の産業と安全保障にとっては物すごく重要な意義を持っていると。これをどう守り、どう育てるのかというのが非常に大きな争点になっていると。
一枚まためくっていただきまして、アメリカはこの十四の
技術分野というのを新興
技術の分野として指定しております。
また一枚めくっていただきまして、これを
中国の方から見るとどう見えるかと。少なくとも、習近平主席が政権を掌握しましたときには、あるいはその直前ですね、二〇〇八年から二〇〇九年の
世界金融危機の頃には、
中国の指導者は、
中国はこれからも台頭する、アメリカは衰退する、だから今
チャンスだと。しかも、アメリカがつくり上げた国際システム、これは通商システムとか金融システムがございますが、こういうのにはまだただ乗りできるという、こういう判断があって、韜光養晦、自分の能力を隠すということから自己主張するというふうに移ってきたということだろうと思います。
その結果、特に二〇一〇年代に入りまして、先生方御承知のとおり、
中国は、南シナ海において人工島を建設し軍事化をしましたし、それから新興
技術あるいは先端
技術を持つ
ヨーロッパ、
日本、あるいはアメリカの企業を買収しましたし、それから一帯一路ということで勢力圏の構築に動いた。
だんだんとそれが難しくなっているというのが、これが現状でございまして、その結果、習近平政権は、現在、自力更生ということを言うようになり、同時に、これは余り
日本のメディアでははっきり指摘されておりませんけれども、必ずしもアメリカの攻勢に正面から対応するんではなくて、むしろ、
中国版のGPSを整備するだとか、
中国の企業に
海底ケーブルを整備させるだとか、それからファーウェイの5Gの通信規格を
世界中に広めるだとか、あるいは監視システムを輸出するだとかということをやっていると。つまり、アメリカと同じゲームはしないようにしながら自分に有利な地歩をつくっているというのが、これが現在の
中国の対応だろうと思います。
また一枚めくっていただきまして、それじゃ、かつての冷戦と今の米中対立、あるいは人によっては新冷戦と言いますけれども、この違いというのは何かと。
冷戦は、もう御承知のとおり、かつて自由陣営と
社会主義陣営というのがあって、この
二つの陣営の間、特に米ソの間では熱核戦争の
可能性がございました。だけれども、現在の米中対立では、私は熱核戦争の
可能性というのは極めて小さいと。むしろ、それよりは、インド太平洋を自由で開かれたものとして維持できるのか、
技術の優位はどちらが取るのか、貿易はどうなるのか、それから
データの流通のためにどういうシステムをつくるのか、こういうことが大きな課題になり、その最も根本のところには、どういう国内体制をそれぞれつくっていくのかという問題があるというふうに考えております。
ただし、ここに
一つ、レジュメで書いておりませんけれども、是非強調しておきたいことは、こういう米中対立、あるいはそれに影響を受けて
世界は今非常に大きく変わっておりますが、にもかかわらず、人類全体が直面するグローバルな課題というのは現にございます。私は、新型肺炎というのは今そういう問題として登場しつつあると思いますし、
気候変動への対応、脱炭素への対応、脱炭素をどうするかということも、これもグローバルな課題だろうというふうに考えてございます。
また一枚めくっていきまして、それでは
日本にとってこういう冷戦と新冷戦というのはどういうふうに違うのかと。
ちょっとここではドイツとの比較を考えておりましたが、時間も押しておりますので
日本についてだけ申しますと、
日本は、
新興国がいっぱい集まっているアジアの中にあって、しかも最も台頭した
中国の隣国であって、そのため、
日本の外部
環境というのはこの三十年でがらりと変わったと。
それにどう対応するのかというのが大きい課題で、安全保障のためには
海洋、特に
海洋の安全保障と科学
技術の振興が極めて重要ですが、同時に、
日本の貿易を見てみますと、
中国、それからASEAN、アメリカ、それから
ヨーロッパ、大体非常に
バランスよく貿易しておりますので、
世界の自由な貿易体制をどう維持するのか、それを支える金融体制をどう維持するのかというのは二番目に大きな課題でございますし、三番目に、アジア、この
成長するアジアをどう自由で開かれて、しかも繁栄するアジアにするかというのが実は
日本の安全保障にとって極めて重要だろうと思っております。私は、アジアの
エネルギー協力ということは、これは決してアジアの他の国々の
エネルギー安全保障だけではなくて、
日本の安全保障、
日本の
経済安全保障にとっても極めて重要だろうと。
一枚めくっていただきまして、それじゃ、今の課題は何かと。
もう時間ないので特には申しませんが、今、メディアではよくデカップリングという言葉が言われますけれども、実際に企業の経営者などと話しておりますと、例えばある製品を作るときに、その部品、部材のまた部品、部材のそのまた部品、部材になると、どこで誰が作っていて、それをどうやって調達するのか分からなくなってくると。今の
サプライチェーンというのはそのくらい深いものでございます。ですから、デカップリングと簡単には言えますけれども、これは本当に始まりますと大変なことになります。ですから、そこのところをやっぱりよくよく考えておく必要があると。
最後に、三つ目、もう時間なくなりましたので、アジアの現状と展望についてはごく簡単に申し上げますが、大きく申しますと四点ぐらいあります。
中国は
経済的に台頭しております。ASEAN、インドも
成長しております。大体、ASEAN、インドはもう二〇二〇年代の末までには
日本よりも大きくなります。消費も伸びております。ここは
日本のこれからの非常に重要なマーケットでございます。中産階級も拡大しております。その中で期待が膨らんでおりまして、この期待に応えられないとアジアは不安定化いたします。
一番最後のページに移っていただければと。
じゃ、その中で
日本はどうしたらいいのか。課題のところで、
日本としては、
世界の安定、アジアの安定、
成長を守りつつ、いかにして豊かで自由で安全な生活を守るか、あるいは維持するかというのが課題だというふうに私は考えております。
これはどういうことかと申しますと、アメリカは、豊かで自由な生活というのが、これがアメリカの国民に対する約束でございます。
中国は、豊かで安全な生活というのが国民に対する約束でございます。だけど、この
二つは実は対立するものではございません。
日本だとかあるいはスカンジナビアの国だとか、こういうところは豊かで自由で安全な生活を現につくっております。これをどうやって守るのかということが、我々にとっては
日本の
外交、
国際経済政策、あるいは安全保障、これを考える上での一番根本であるのではないかと思います。
申し訳ありません。時間を少し超過いたしましたが、これで私の報告は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。