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参考人(
水野英樹君)
意見を述べる
機会を与えていただき、ありがとうございます。
私は、一九九〇年から
日本労働弁護団に加入し、
労働者、
労働組合側で弁護士
活動をしてきました。
日本労働弁護団は、
労働者、
労働組合の権利擁護のために
活動する団体で、現在約千七百名の弁護士で組織されています。
私は、
高齢者等の
雇用の安定等に関する
法律の
改正案に限定して
意見を述べます。
定年廃止、定年延長、継続
雇用制度の導入という現行の高
年齢者
雇用確保措置を六十五歳以上七十歳までの者についても
雇用確保措置として
努力義務を課すことには賛成です。しかし、
雇用とは異なるフリーランスや
企業による
支援措置、
社会貢献
活動への従事に関する
支援措置、すなわち
創業支援等措置をも
努力義務の
選択肢として設けることには反対です。
反対の理由は四点あります。一、
労働者として労働関係法令の
保護を受けられない。二、
就業の
機会を
確保することにつながらない。三、
労使合意は歯止めにならない。四、高
年齢者に配慮した働き方、
企業の負担への配慮は
雇用を
維持してもできる。
理由について説明していきたいと思います。
まず一点目、労働関係法令の
保護を受けられないという点です。幾つかの例を挙げたいと思います。
まず、
賃金関連ですが、
労働者であれば
最低賃金法の適用があります。
労働者でなければそういう規制はありません。
賃金の不払があった場合、
労働者であれば労基署による
支援が受けられます。
労働者でなければ受けることはできません。
賃金との相殺は
労働基準法により禁止されています。しかし、
労働者でなければ相殺は可能ということになります。
損害賠償の予定について、
労働者であれば労基法により無効ということで
保護されています。しかし、
労働者でなければそういう
保護は受けません。使用者に対する損害賠償
責任につきましても、
労働者であれば
責任を負う場合は限定されていますし、
責任を負うにしても、その額については四分の一などというふうに解釈されて
保護されています。
経費につきましても、労働
契約であれば使用者が負担するものというふうに解釈されていますが、労働法でなければそういう規制はありません。
創業支援等措置を導入する場合、成果型
報酬を
採用することとなる事例も多数あると見込まれますが、その場合、働いても成果がなければ
報酬ゼロ、経費負担だけが残ってしまう。結局、マイナスになってしまうということも
想定されます。ワーキングプアを生み出す温床の
一つになりかねません。
二番目、労災
制度の適用外ということです。
高齢者の転倒などによる労災事故の発生率は高いです。厚生労働省の平成三十年労働災害
発生状況の分析等でも、転倒については六十歳以上が約四割を占めています。
休業期間も
長期化しやすいという報告があります。
保護、救済の
必要性が高まるにもかかわらず、対象外とされてしまうのは問題と考えます。事故によって収入を失うばかりではなく、治療費の負担も発生します。
三点目、解約あるいは解雇について規制がないということです。
労働者であれば、労働
契約法十六条や十九条が合理的理由のない解雇や雇い止めを無効として働く者を
保護しています。
労働者でなければこれらの
保護を受けることはありません。民法上、委任
契約などいつでも解約できると定められています。今回の新型コロナウイルスの問題でも、いわゆるフリーランスの人たちがキャンセルが続いて
報酬を受けられず困っているというのは皆さん御存じのとおりだと思います。
理由の二点目、
就業の
機会を
確保することにつながらないという点です。
多くの
企業は、この
創業支援等措置だけとすることを
希望すると思われます。今説明しましたように、使用者としての様々な
責任を免れるからです。
社会保険料の負担を免れることができますし、固定的な
賃金の支払も不要です。経費の負担も
就業者に求めることができます。解雇に比較して容易に解約できます。労災事故についても
雇用主としての
責任は負いません。
企業にとって有利なことばかりですから、
創業支援等措置だけとすることを
希望すると考えられます。
他方、そういうことを理解している
労働者は
希望しないということが考えられます。魅力がない働き方ではないでしょうか。
現行高年法下で起きている問題事例を紹介いたします。
八割程度の
企業は継続
雇用制度を
採用しています。その場合、基本的に
賃金は六十歳よりも低下傾向にあると報告されています。そして、中には到底受け入れ難い労働条件を提示する
企業があります。
これは平成二十九年九月に福岡高等裁判所で判決の出た事例ですが、六十歳まで事務職の方が月給三十三万五千円で働いていました。継続
雇用制度ということで、週三日から四日の勤務、一日六時間勤務、時給九百円という条件を提示されました。これですと、一か月の
賃金は十万円程度になります。判例は、到底受け入れ難いような労働条件を提示する行為は、継続
雇用制度の導入の趣旨に違反した違法性を有するものであるというふうに判示しました。
こういう事案ばかりではないというふうには思いますけれども、現行の
雇用を継続するという
制度でも受け入れ難い労働条件が提案される事例は珍しくありません。
創業支援等措置となれば、このような現状を更に悪化させるものになるおそれがあります。結局、
労働者に選ばれないというふうに考えます。
今述べた
視点と異なる
視点の指摘となりますが、フリーランスの
契約では、六十五歳までの
仕事の経験を生かせる
就業の場を
機会することにならないと考えます。
労働
契約は使用者の
指揮命令下で労務を提供するものをいいます。フリーランスとしての
就業者としての
契約は委任や委託や請負ということだと思いますが、これらはいずれも
指揮命令を受けないということが前提です。そうすると、六十五歳まで
指揮命令下でしてきた
仕事についてフリーランス
契約とした場合には、それまでと同じスタイルでは
仕事ができないということです。
形式的な
契約の名称が委任や委託となっていても、実質的に
指揮命令下で労務を提供していると評価される場合には、それは
実態に即して労働
契約と法的に解釈されます。
実態として
指揮命令を受けての労務の提供ではないと解釈されるようにするためには、
仕事のスタイルを独立性が認められるものにがらっと変えなければならないということになります。これが本当にできるのかというのが疑問です。
仕事のスタイルは従前どおりで、
契約だけフリーランスというのは駄目なんです。
仕事のスタイルをがらっと変えて独立性が認められるものにしなければならないわけですから、そうすると、これまでの経験を生かした
就業の場とするのは難しいと考えます。どんなものであっても、とにかく
就業の場を
確保すればよいということではないはずです。
報告書にも、
活躍の場とあります。これは、それまでの経験などを生かして、自己実現も果たされる、働きがいのあるものであるはずです。これまでの経験を生かした高
年齢者の
活躍の場を提供するというのであれば、
雇用を
維持するのが最適と考えます。
理由の三点目、
労使合意は歯止めにならないという点です。
これまで心配した点は、導入には
労使合意という歯止めがあるという指摘が予想されます。しかし、十分な歯止めにはならないと考えます。
まず、
労働組合がない職場が多数です。多くの職場は過半数代表が選出された上での
労使合意ということになろうと思います。その
労働者代表が民主的に選出されていない職場が多数です。
時間外労働を可能にするためのいわゆる三六協定の締結が過半数代表が選出される典型例と思われますが、私は残業代請求事件を多数担ってきましたが、当該
労働者が三六協定締結のための過半数代表を選出した記憶がない事例がほとんどです。恐らく、使用者が指名して選出したという形を取っていると推測されます。このような職場の
実態ですから、
労使合意は歯止めにならないと考えます。
四点目、高
年齢者の配慮した働き方、
企業の負担への配慮は
雇用を
維持してもできるという点です。
恐らく、
創業支援等措置の導入は、
体力や
健康状態その他の本人を取り巻く
状況などが六十五歳以前のものと比べて
個人差が大きく、より多様なものとなるということへの配慮や、
企業の費用負担に対する配慮であると思われます。しかし、そのことは、
創業支援等措置を導入せず、
雇用という働き方でも十分
確保できると考えます。勤務
日数を減らす、勤務時間を短くする、
責任を軽減した職務を担当してもらう、こういうことで
対応可能と考えます。
最後にですが、
法律の名称こそ
雇用の安定等に関する
法律のままですが、
改正案は
雇用とは異質の
就業なる働き方への転換を正面から認めるものとなっています。
雇用からの転換を正面から認めるということは、今後、
年齢を問わず、
雇用から
就業への転換を大きく認める一歩となりかねません。
労働法が歴史的に
労働者の
保護を推し進めてきた理由は、
労働者が
社会の重要な構成員であり、
労働者及びその家族が豊かで幸せな
生活なくして豊かで幸せな
社会を構築することはできないということを踏まえたものというふうに思います。働く者を
労働者ではないとしてその
保護を後退させることは、より良い
社会をつくり上げていくことにはならないと考えます。六十五歳以上の高
年齢者を労働関係法令の
保護の下に置き、魅力的な働きがいのある
制度とすることが求められていると考えます。
以上です。