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参考人(藤田
友敬君) 東京大学の藤田でございます。
本日は、この
委員会にお招きいただき、意見を述べさせていただく機会を与えられたことにつき感謝いたします。
今回の
会社法の一部を
改正する
法律案、以下
改正法案と呼ばせていただきますが、これは、法制
審議会において本年一月十六日に採択された
会社法制(
企業統治等
関係)の見直しに関する要綱に基づき作成されたものと理解しております。私は、この要綱の作成のために設けられた
会社法制(
企業統治等
関係)部会において、
委員として議論に参加させていただきました。もちろん、個々の論点につき、個人的な意見がないわけではございませんけれども、なかったわけではございませんが、最終的には要綱全体について採択に賛成しており、したがって、この
改正法案による
会社法改正が成立することを
期待しているものであります。
平成十七年に制定されました
会社法は、他の
法律の
改正等に基づく技術的な
修正を除きますと、
平成二十六年に一度
改正され、今回は二回目の大きな
改正ということになります。前回の
改正では、
取締役会改革やグループ
企業のガバナンスといった重要なテーマを取り扱っておりましたが、今回の
改正法案も、
株主総会の規律、
取締役の
報酬や
責任に関する規制等、我が国の
企業や投資家、さらには
資本市場の在り方にとって大きな意義を持つ
内容を含んでおります。
今回の
改正法案の
提案理由は、「
会社をめぐる
社会経済情勢の変化に鑑み、
株主総会の
運営及び
取締役の
職務の
執行の一層の
適正化等を図るため、」と述べてありますが、
会社法制は、
企業社会が健全に発展するための重要な
制度的インフラの一つであり、時代と
社会の要請に応じ、絶えず適切にメンテナンスしていくことが求められるわけで、今回の
改正もまさにそのような試みの一つです。
ただ、ここで一点だけ注意していただきたいことがございます。
会社法は、
企業組織や
資本市場を支える重要な
制度インフラの一つではあるのですが、決して唯一のものではございません。例えば、
上場会社の規律には金融商品取引法が重要な
役割を果たしております。金商法は、内部者取引や相場操縦規制のように
資本市場の秩序を維持する規律も行っていますが、同時に、最近では、議決権
行使結果の開示ですとか役員
報酬の開示に見られるような
コーポレートガバナンスをめぐる重要な規制ツールでもあります。
また、最近では、ソフトローと呼ばれる規制の意義も強調されています。ソフトローは、
会社法や金商法のようなハードローとは異なり、国が作成し、国がエンフォースするような規範ではありませんが、近年、
コーポレートガバナンス・コードですとかスチュワードシップ・コードといった重要なソフトローの存在感が増してきております。このように、
企業組織あるいは
資本市場の在り方を支える重要な
制度的インフラとして
会社法以外にも重要なルールは存在しており、
会社法はそれらと合わさって適切な結果がもたらされることが
期待されているものであります。
このように、ソフトローとハードローの間、あるいはハードローの中でも
会社法と金商法の間のすみ分け、
役割分担、こういったことは
会社法制部会の議論でも常に意識されてきたところであります。
改正法案の条文だけを見ると何か物足りないというふうに思われることがあっても、それは規制なく野放しにせよという
趣旨ではなくて、ソフトロー等による規制を
期待しているという場合もあるということに御留意いただければと思います。
以上は
改正法案全体に係る意見でしたけれども、以下では、主要な
改正事項についてごく簡単に述べさせていただければと思います。お時間の制約もございますことから、今回の
改正の中でも中心的な
内容となっております
株主総会関係と
取締役関係を中心にお話しさせていただければと思います。
まずは、
株主総会関係です。
株主総会関係の第一の
改正点は、
株主総会関係資料の電子化であります。
現在の
会社法の下では、
株主総会の招集通知と一緒に、書面による議決権
行使のための必要な参考書類等が併せて郵送されております。今回の
改正法案は、これらの書類、条文では
株主総会参考書類等というふうに呼んでおりますが、これについて電子提供すればよい、典型的には、
ウエブサイトで
株主総会参考書類等を掲載し、招集通知にはアクセス方法を記載すればよいという形にしております。もちろん、現在でも、
ウエブサイトに
株主総会参考書類等を掲載している
会社はかなりの数あると思いますが、それをしても、別途書類は郵送しなければならないとなっていたところを、そうしなくてもよくなるわけであります。
同時に、
会社法案は、電子化に対応できない
株主についても配慮をしております。書面交付請求権というのを認め、
株主が今後も書面で
株主総会参考書類等を下さいと
会社に請求すれば、書面での提供が保障されるということにしております。
改正の意義には、一つには費用の節約、
会社にとっても
社会にとっても無駄な紙を減らすということは望ましいことではありますが、それに加えて、電子化により印刷の時間が節約できると情報がアップされる時間が早められ、総会への準備がより充実することにもつながります。また、書面の郵送にこだわると、送ることのできる情報に質的、量的な制約が生じるところ、電子提供を認めれば、より充実した情報開示につながる可能性もあります。
なお、念のために付言しておきますと、今回の
改正法案が
提案しておりますのは
株主総会関係資料の電子化でありまして、
株主総会それ自体を電子的に行い、物理的な意味での会合は存在しない、いわゆるバーチャル総会ですとか、あるいは
株主が電子的に総会にアクセスし、質問したり議決権を
行使したりするという話は取り扱われておりません。こういった問題、重要じゃないというわけでは決してないと思うのですが、ただ、こういった問題についてハードローである
会社法で規制するのはいまだ時期尚早と考えられ、まずは書類の電子化という手堅いところから法制化しようとするものと考えられます。
株主総会関係では
株主提案権についても取り扱われており、具体的には、
提案数の上限規制が設けられるように
提案されております。
株主提案という
制度は諸外国にもあるのですが、その場合、
提案株主は、自分の費用でその
提案を他の投資家に知らせ、委任状を取り付けるという形で
会社に対抗するのが通常であります。これに対して日本の
株主提案は、
提案株主は、一定の要件の下、
会社の費用で
議案の要領を他の
株主に通知してもらうように求めることができることとなっており、その意味で手厚い保護が与えられていることになります。
しかし、総会直前に膨大な数の
提案が、
提案権が
行使されますと、
会社としては、要件を満たす
提案がどれで、そうでないのはどれかといったことを区別する作業などが大きな負担になってきます。また、総会当日も、特定の
株主の
提案が
株主総会の相当時間を占めてしまうという事態も生じ得ます。
実際、こういったことが、
会社、さらには、より重要なことには、
提案株主以外のその他の
株主の
共同の
利益を害しているのではないかということが問題視されるような事件が現実にも起きてしまいました。この
改正法案は、それに対する規制を導入しようとするものと理解しております。
次に、
取締役関係です。
第一は、
取締役の
報酬等です。
役員
報酬の規制は、
世界的にも
コーポレートガバナンスの中心課題として注目されております。日本の
会社法は、
定款で定めない限り
株主総会決議を要求するという点では、例えばアメリカ等に比べると
報酬規制が一見厳しそうにも見えるのですが、求められる決議
内容は、例えば金銭
報酬の場合は、
取締役全員の
報酬総額の合計の上限だけを決めればよく、また、総額を変更しない限りは、
取締役が入れ替わっても決議し直す必要はないなど、やや形式的な規制になっている面はございます。
改正法は、
取締役の
個人別の
報酬等の
決定方針を
取締役会で定めることを要求しております。背後にある問題意識は、適切な
コーポレートガバナンスという観点からは、
会社から出ていく金額の総額だけではなく、誰にどのような性格の
報酬をどのような形で与えるのかということこそが重要なので、この点についての方針をきちんと決めさせようという、そういうことなのだと思います。
次に、
取締役の
責任との
関係で、
会社補償及び
会社役員賠償
責任保険という
制度が
提案されております。
会社補償というのは、
会社の業務
執行に当たって
役員等が第三者に対して
責任を負った場合、一定の要件の下、
会社から補償を受けるというもので、
改正法案はその旨の契約を締結することを認めております。諸外国では割とよく見られるものなのですが、日本の現在の
会社法には
会社補償
制度は存在しません。ただ、
民法六百五十条三項に基づいて、
会社に対して一定の場合請求する可能性があるにとどまります。
そこで、今回の
改正法案は、
会社補償
制度を
新設し、一定の
内容の
補償契約の締結を可能にし、かつ、そのための
手続を整備すると同時に事後的な開示を要求し、
透明性を
確保しようとしております。
注意していただきたいのは、
役員等の対
会社責任の免除、軽減についての厳格な規制が形骸化しないように
改正法案は留意しているということであります。具体的には、問題の
取締役等の行為が、第三者に対する
責任に加えて
会社に対する
責任をも惹起し得るものである場合には
補償契約の対象とはならない、補償の対象にはならないとしていることであります。
次に、
会社役員賠償
責任保険は、一般にはDアンドO保険などと呼ばれておりますが、これについて、
会社が
保険契約を締結する場合の
手続や開示に関する規制の導入が
提案されております。
時折誤解が見られるのですが、これは、今回の
改正によって初めて可能になるというものでは決してございません。DアンドO保険は、既に我が国においてもかなり広く利用されております。しかし、現在の
会社法にはこれについての
規定が存在しておらず、締結のための
手続も必ずしもはっきりしません。
改正法案の性格は、これまでできなかったDアンドO保険の利用を可能にするといったものではなくて、むしろ、既に存在するDアンドO保険について、その締結のための
手続を明確化するための規律を置き、これに加えて、事後的に開示を要求することで
透明性を高めるというものです。あえて乱暴な言い方をさせていただきますと、規制を強化するといった性格のものと理解すべきだと考えております。
最後に、
社外取締役について二点ほど
提案がなされております。
第一点は、
社外取締役の
設置強制であります。
平成二十六年
改正の際には、議論の末、
設置強制は見送られたのですけれども、今回
設置強制を導入したのは、
会社法というハードローで
社外取締役の
設置を
確保することが、我が国の証券市場への信頼を高めるために望ましいという考えからだと理解されます。
また、
社外取締役への業務
執行の委託という条文も
提案されております。
社外取締役は業務を
執行してはならず、業務
執行すると社外性を失うというのが現在の法制であります。しかし、
社外取締役が行うにふさわしい業務もあるのではないかということが、近時、
指摘されるに至っております。
例えば、いわゆるマネジメント・バイアウト、MBOの際に、一般
株主を保護するために
社外取締役を中心とした特別
委員会を
設置し、そしてその特別
委員会によって条件の向上を図るといったことがなされることがしばしば見られるわけでありますが、その
委員会の長である、特別
委員会の長である
社外取締役が買収者と価格交渉をして買収価格を上げるように努めるといった活動が典型であります。しかし、これは業務
執行に当たる可能性がありますので、現行法の下では、
社外取締役が行うことはできないのではないかという疑念があるわけですが、実質としては、まさにこれは
社外取締役が果たすべき
役割ではないかと思われます。そこで、
改正法案では、こういったことを可能にするために、限定された範囲内ではありますが、
社外取締役に対して業務
執行を委託することを認めることとしております。
以上の
コーポレートガバナンス関係の
改正のほかに、
改正法案では、
社債に関する
改正、あるいは
株式交付と呼ばれる新しい名称の
制度の
新設も
提案されております。これらが決して重要ではないというわけではありませんが、多分に技術的な性格が強い
改正であるために、私の意見陳述では省略させていただければと思います。
以上、今回の
改正法案における主要な
改正事項、とりわけ
コーポレートガバナンスに関わる
改正点について意見を述べさせていただきました。膨大な
改正条文について短時間でお話しさせていただくためにどうしても話が大ざっぱになり、しかも相当早口になってしまい、申し訳ございませんでしたけれども、以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。
どうもありがとうございました。