○実積
参考人 中央大学の実積と申します。
思い起こせば、三十年ぐらい前に、官僚の一年生だったときにそちらの方に座っていまして、三十年かかってここまで来るんだと、ちょっと感慨深いところがあるんですけれども。
もう四人目で、
DXという
言葉とかさまざま出てきているんですけれども、私は、今までのお三方と違いまして、主として大学で教えている経済学というものの観点から、少し今回の
法律案について考えてみようというふうに思っております。レジュメは一枚になります。
まず、初めに考えなきゃいけないのは、今回考えていることが
デジタル技術に関する
投資ということであります。
デジタル技術とかICTとか、昔は
ITとかと言ったものですけれども、これに関しては経済効果があるというような、さまざまな形でいろいろ言われているわけで、いわく、
日本の
IT投資というのは
アメリカより低いので何とかふやすべきだとか、ICTを
投資をすることによってGDPの押し上げ効果があるとか、今後の少子高齢化
社会を考えるとICTを使って生産性を上げていくことが重要であるというふうな形で言われております。
実際に、さまざまなところでその研究結果というのが出ているわけなんですけれども、大事なことは、ICTをただ
投資するだけじゃだめだということです。ICTをただ
投資するだけでは単純に資産が積み上がるだけで、先ほど
レガシー資産の問題とかが出てきましたけれども、大事なのは、それにあわせて
ビジネスモデルというか仕事のやり方、
産業構造自体を変えないと、ICTの潜在能力が単純に発揮されない。単純というのは、要らない資産をどんどん買ってきて、それを倉庫に積み上げておく、かつてケインズの話がありましたけれども、穴を掘って埋めるだけでも経済は大きくなるんだという話がありましたけれども、全く同じことになってしまう。
ちゃんと
投資する必要がある。きちんと考える。そのためには、
投資目的に関して、きちんと、私がやったところでは、
投資目的については、のべつ幕なしというか、単純にコスト削減のために
投資するのは余り効果がなくて、お客さんに向けて新しい
サービスとか価値を生み出すためにつくる、それで初めて効果が出るというふうな効果とか、あるいは、業務改革とか合理化の施策というのは、ちゃんと
企業の中でもICTを使えるように構造改革をしていただかないと十分な効果が出ないというふうな結果が出ています。
もう
一つ言えば、
技術。新しい
技術がどんどんどんどん日進月歩の形で、
技術者の人は
提案していただけるんですけれども、
技術を見ただけでは、それをどういうふうに使うかが実はよくわからないものが多いです。
例えば
情報化
投資。インターネットとか
クラウドを使うことによって
企業内あるいは市場との会話、コミュニケーションの効率は非常に上がっております。そのことによって
企業に何が起きたかというと、非常に巨大な、グーグルとかフェイスブックというような超巨大な
企業ができる反面で、すごく小さな
企業、パパママショップといいますけれども、例えば、私がここに持っているスマートフォンがそのまま
世界とつながって商売できる、そういうふうな大きな
企業も小さな
企業も両方できるということになります。そういうことを考えますと、
技術があるからそれに対し何をすべきかというのを決めるというのはなかなか難しい。要は、使い方、どこに使うか、何の目的で使うかが大事だということになります。
さらに、そういった経済分析をするためにはどうしても過去の
データに基づいて分析しなきゃいけないんですけれども、過去の
データがだんだんだんだん使いにくくなってきている。例えばICTとか
DXで使う
クラウドベースのことを考えますと、かつては、各
企業は
投資をしていって、それがBSの中にちゃんと反映されて、
投資収益率という形で分析できました。ただ、最近は
クラウドベースなので費用になっています。費用になってくると考え方が当然違いますので、
投資の収益率をどう計算するのか、今の
データを過去の
データとどう接続して分析するのかというのが非常に難しい状況になってきています。
なので、ここで言いたいことは、今我々が持っている知見、今の知見というのはもう過去のことです、過去のことをそのまま未来に当てはめるというのは、かなり注意しないと、我々はとんでもないところに連れていかれるのではないかというところが
一つ目です。
二つ目になりますが、その中で、最近出てきたプラットフォームと言われている
人たちです。GAFAと言われるのがその代表になりますけれども、GAFAはこれまでの我々が考えているような
企業と行動原理がかなり違います。
ここにいろいろと、ムーアの法則とか規模の経済とかネットワーク効果とかさまざま書かせていただいておりますが、短期的には、特定の市場において
一つの
企業がそれを総取りするという状況になります。大きければ大きいほど強い。マーケットでお客さんを集めるほどその
サービスが価値がある。しかも、
AIを使って、
AIは
データをベースにアルゴリズムをよくしていきますので、一旦アルゴリズムがよくなるとどんどんどんどんよくなって、加速度的にその性能を増していくということになりますから、なかなか、先行
事業者に追いつく、それを追い抜かすというのが難しいような市場になってきています。
ただし、
技術は進歩していきます。ムーアの法則、先ほど遠藤会長の方からありますけれども、十年で百倍、二十年で一万倍、三十年で百万倍の性能アップがあります。そうすると、どこかの
段階で市場はごっそりと入れかわります。その入れかわり方も、競争
事業者が切磋琢磨してだんだんだんだんマーケットシェアが逆転するという方法ではなくて、全く今まで考えもしなかったところから新しいプレーヤーがやってきてその市場をごそっと入れかえる。マーケットティッピングという言い方をしますけれども、そういったことになります。
そうすると、均衡点というか、今の現状では、誰が勝っているかというと一番の
事業者が勝っている、ほかの二番手以降というのは余り
意味がないという状況になりかねない。ただ、じゃ、それが次のヘゲモニーをどうやって狙っていくかと考えると、そのヘゲモニーはどこから来るかというのは、恐らく、我々は過去の経験にとらわれてしまいますから、そうそうなかなか新しい、ここが勝ち筋なのでここに
投資すればいいとなかなか言えないということがあると思います。
なので、プラットフォームで、
技術進歩のスピードを考えますとなかなか将来というのは考えられないし、一旦勝つと、しばらくはその市場支配力が続いて十分な超過利潤を得られるというのが今のマーケットの状況になります。
さらに、三点目ですけれども、問題があるので、じゃ、
政府が何らかのサポートをしていきましょうというのが今回の
法律の趣旨だというふうに理解しておりますが、何でもかんでもサポートしてもいいというものではない。我が国の市場メカニズムというものの効率性というのをある程度信じていきましょうというふうな
社会だと私は信じておりますが、そうすると、
産業政策というものが本当に価値が出るというためには、一定の条件というのがあるというふうに工学的には言われております。
今回は、特定の
事業者に対して
政府の保証をつけていくことによってサポートするということですけれども、場合によっては、特定の
事業者じゃなくして、そこに
お金を供給する金融市場、
ベンチャーキャピタル市場の育成といいますか、そういった
方向の方がより効率的だったりするということになります。
あるいは、十分な
情報。
政府が特定の
産業に関してサポートを行うということは、
政府として、特定の
産業が今後のヘゲモニーを握っていただけるんだ、将来的に、現在のその市場を支配しているところに成りかわって、新しい
産業構造をつくっていくキープレーヤーになるんだという確信が必要なわけですけれども、なかなかそれを、どこの
事業者が今後勝っていく、どこの
産業セクターが今後キープレーヤーになっていくのかというのはなかなか難しいし、それは、
政府だからというわけじゃなくして、新しい
情報というのは基本的に我々が知らないところから出てくるという、冷淡な事実からによるわけであります。そういったさまざまな条件を満たさずにやみくもに
政府が関与するというのは基本的に避けるべきであるというのが経済学の結論になります。
その上で、裏面になりますけれども、今回の
法律の
内容について、少し、詳細といいますかポイントを絞って議論させていただきますと、まず、改正目的に関しまして、
デジタル技術の進展のもと我が国の
産業競争力を維持するためというのは非常に大切なことなので、この点に関しては心から賛成しております。
ただし、神は細部に宿るといいますが、実際にこの
法律を運用していくときというのは、細心の注意が必要である。下手にというか不用意に介入すると、かえって市場の効率的な資源配分を損ないかねないというのが私の懸念するところです。
そのためには、少なくとも
三つ、どこに
支援するのか、具体的にどの
企業にどのタイミングで
支援するのか、しかも、その
支援のときに、本当に
政府が
政府保証をつけるのが望ましいのか、あるいは場合によっては
情報提供にとどめた方がよくはないか、あるいは資本市場、
ベンチャーキャピタルのマーケットを育成する方に注意して、もっと幅広い観点で見た方がよくないかということを常に考えないと、かえって効率性を損なうのではないかというのを懸念します。
各論にいきますと、改正法の第三章に「
情報処理システムの運用及び管理に関する指針等」というところがあります。ここにはポイントが恐らく二つありまして、
政府がきちんとした指針を策定できるかというところがあります。これは経産省の能力が低いと言っているわけでは全くなくて、経産省は一生懸命やっていただけるんですけれども、やはり最先端の
技術というのは霞が関じゃないところから出てくる。大学の研究室だったり、
海外とか、あるいは我々が今まで考えていない途上国の研究者、途上国のガレージで生まれるかもしれないという状況で、我々がどういった正しい将来見込みを持てるかというのは、ここは大きなクエスチョンマークが出る。
僕らが持っている
データというのは、例えばGAFAがすごいという話で皆さん議論されることが多いと思うんですけれども、GAFAが勝っていたのは今までであります。今後、GAFAにかわるプレーヤーというのがどういうところから出てくるか、我々は何の知識も持っていない。
AIとも言われています。先ほど言ったように、
AIは
技術です。どういうふうに使ったらどういう形で
産業にどう役立つのかということを、我々は何ら知識を持っていないということになります。
今回、
DXとか
デジタルガバナンスという
言葉が使われています。緑色の
資料でいきますと、十五ページに、
DXの定義というものが載っております。経産省さんの定義だと、
企業が
ビジネス環境の激しい変化に対応し、
データと
デジタル技術を活用して、顧客や
社会のニーズをもとに製品や
サービス、
ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや組織、プロセス、
企業文化・風土を変革し、競争上の優位を確立すること。これは、定義ではないと僕は思います。
デジタル技術を使ってうまくいったところ、競争上の優位を確立というのは、要はマーケットシェアをとるということなので、マーケットシェアを確立するのがいいということなので、実際にこれを適用するためには一体何をすれば
DX、ここで言う
DXは成功する
デジタル投資になるのかという
情報は、十分な
制度運用はできないというふうに私は思います。
もちろん、これは経産省だけではなくて、その前のスウェーデンの大学のエリック・ストルターマンの定義も同じようになっていまして、ICTの浸透が人々の
生活をあらゆる面でよりよい
方向に進化させること。ICTを活用するということはもちろん
生活をよくするためなので、これは定義ではなく、単にトートロジーの話です。
そうすると、実際の
制度の運用に当たっては、では、どういう
技術をどういう形で運用したら一番望ましいのかという指針がないと、この
制度は運用不可能であるというふうに思っています。
もう一方、将来の話なので、では、曖昧に書くことが考えられるんですが、曖昧に書くと今度はその解釈が問題になります。
今回の指針というのは、後で述べますけれども、一定の経済的インセンティブが伴っております。経済的インセンティブが伴うときに自由裁量の余地があるということは、各
企業は
投資をよくするということにも当然リソースを使うんですけれども、その自由裁量、解釈を自分の
企業に都合のよいようにしようというふうに行動する可能性があります。レントシーキングといいます。これは、経済的には完全に資源の無駄遣いというふうになります。しかもそれは、
企業経営にとってみたら将来の不確実性というか
企業のリスクをふやすことにしかつながりません。
という
意味で、指針は大事だし、今回の法目的は非常に大事なんだけれども、その運用に当たっては、もう少し具体的で明確な、
企業にとってきちんと信頼できるというか、自分のやっていることが後でひっくり返されないといいますか、そういった不確実性をなくすような
制度づくりが必要であるというふうに考えます。
さらに、指針というのがありますけれども、これはボランタリーだと
認識しておりますが、
政府がボランタリーと言うのは民間
企業にとってボランタリーかどうかというのは、大きなクエスチョンマークがつくというふうに思います。
基本的には義務づけになるかもしれない。特に今回は経済的なメリット、
政府の保証がつきますので、
政府の保証がつくためにはこの
DXの指針というものに乗らなければそのメリットが得られないということであれば、
企業としては当然、それに最適化して
企業コードを変えてきます。
先ほど遠藤会長の方から、シンクロナイゼーションという
言葉がありました。各
企業はそれぞれの意思決定をするというのが市場メカニズムですけれども、各
企業がさまざまな
方向を向いていったら、
日本全体としては非効率なことになりかねない。そういうときに
政府が、これが大事なんだ、ここにみんな注力しろ、この
方向に頑張りましょうと言うのは、フォーカルポイントといいますけれども、
日本全体のパワーを結集するために非常に重要な
情報になります。ただ、その
情報が曖昧なものであったり、あるいは実際に実行不可能な、解釈によっては非常にあるものであるということになると、想定する効果というのはなかなか難しいだろうなというふうに考えるところです。
そのほか、
政府保証をつけるというのは、金融市場における価格を変えるということに等しくなります。価格を変えるということは、それ以外の、今回は
DXの対象、特定の
事業者、特定の
産業を対象にしている可能性はありますけれども、それ以外のところに影響が出ます。価格に対する操作をするのはできるだけ少なくした方がいいというのは、経済学的な知見になります。
例えば、そこに書いていますけれども、
認定というものを入札参加条件にして
政府がキーテナントになるとか、そういうことをすれば、価格に影響を及ぼさず、実際には、ネットワーク効果とか、参入の障壁のためになかなかうまく市場で
サービスをテークオフできないような
企業に対しては実際的なサポートができるようになるかもしれないといったこともあります。
なので、
認定の指針というのを具体的に考える、プラス、その開示の方法というのをできるだけマーケットのメカニズムを損なわないようにするというのが必要かなというふうに思います。
さらに、今回の
認定の業務に関しましては、
情報処理を推進するIPAの方に業務としてお願いするというふうなスキームになっているというふうに理解しております。基本的には、IPAがやっても霞が関がやっても、それほど変わりはないというふうに僕は
認識しております。
大事なのは、IPAが決める、決めるというか、IPAが運用する指針の
認定、あるいは経産省でつくられる指針に関して、民間の知恵というか、できるだけ多くのステークホルダーから自由な
意見を入れていただきたい。
そのためには、改正法の五十一条の一項の八号に、調査研究という、IPAで調査研究を行いますというところがあるんですけれども、そこをできるだけ活用していただいて、今回、白坂
先生、
野中先生のような詳しい学術の方がいらっしゃいますから、そういった方も呼んで、できるだけ広い目で指針というものをつくっていく。更に言えば、
一つのこの方針が成功するんだという確信は残念ながら学術界はできないというふうに僕は思っています。
なので、複数の指針、Aという指針だけではなく、AもBもAダッシュもBダッシュもありますよというふうな複数のトラックというものを追求するようにしないと、なかなか変化が激しくて、実際の担当者も、担当者というか実際のキープレーヤーも、次の競争者はどこから来るんだという、戦々恐々としてというような、このプラットフォーム主導型経済の中で、
意味のある目的というか、民間の努力の結集ポイントというのを見つけるのが難しいだろうというふうに思います。
ただ、繰り返しになりますけれども、今回、少子高齢化を迎えて、
産業競争力を維持するためにこういった
法案が必要だという趣旨には賛成であります。
以上です。ありがとうございます。(拍手)