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土屋参考人 皆さん、おはようございます。
ただいま紹介いただきました、東京農工大学、国立の大学ですが、東京農工大学の方で林政学という分野で教員をしております
土屋と申します。
このような場を今回提供いただきまして、
意見を述べさせていただくのを非常に光栄に思っております。短い間ですが、よろしくお願いいたします。
皆さんのお手元に簡単な、いわゆるレジュメというようなものがおありではないかと思います。全部で十項目があるんですが、それに従ってお話をさせていただきたいと思います。
いつも、講義等でも、ちょっと興が乗ってしまいますと
最後の方が駆け足になることが多くて、学生からよく文句を言われているもので、ちょっと今回も怪しいなと思っておりますので、その点はぜひ御質問の方で補填していただければと思います。
それでは、始めたいと思います。
まず、
参考人の専門は、今申しましたように、林政学という分野です。これはちょっと聞きなれないかもしれませんが、いわゆる
森林政策学とか
林業経済学といったようなのがその分野に入っているような、そういう学問体系です。そこで、実はその内容については、一番初めに発言をされた
参考人の
立花さんが御説明した内容とかなりダブっているので、それではなくて、この「
参考人の立場」に書いてありますように、少し、政策の検討過程に即した形での
意見を述べさせていただきます。
この
法案の検討時に、私は、林政審議会がありますが、そこの施策部会長をやっておりました。この件については、特に施策部会で検討を行って、それを踏まえて林政審議会の本審で検討を行うというスタイルをとっておりましたので、そこの施策部会長として、検討の責任者としていたということになります。林政審の本審では、その検討結果の提案者でもあったという立場です。ですので、
余りそこから外れたことは申し述べられないという
制限もございますが、その過程で、実は個人的な
意見もかなり陳述しております。その陳述内容を主に中心にしてここでは発言をさせていただきます。
初めは、かなり前提的な話になりますが、三番の
国有林の公共性についてです。
皆さん、恐らく
日本の
国有林の成立経緯については御承知のことと思いますが、かなり成立経緯は複雑なところが各国と比べてもあるのが
日本の
国有林の特徴なんですが、そういった経緯はともかくとして、
国有林が、国が所有する
森林としてずっと維持されてきた、明治以来維持されてきたのは、
森林の持つ公益性が、公共としての国が所有することを正当化した、つまり、別の言い方をすれば、国が所有することによって公益性を担保する、そういう役目が
国有林にはあるというふうに考えております。
今、御承知のとおり、
国有林野の会計は一般会計化をしております。この一般会計化の意味というのが今の公共性と絡んで非常に重要だと思っております。つまり、国が責任を持って、公共性を担保しつつ
国有林経営を行う姿勢のあらわれとしての一般会計化というのがあるのではないかと思います。
一九九八年、平成十年に
国有林野事業の抜本的改革があったのは
皆さんも御承知のとおりだと思います。それを更に踏まえて、二〇一三年、平成二十五年からは
国有林野事業の一般会計化が始まっております。つまり、今ちょうど五
年間が経過したということになります。つまり、その五
年間の経験といったことをやはり我々はまずは重視すべきだというふうに考えております。
そこでは、いわゆる
国民の
森林(もり)若しくは
国民の
森林としての
国有林ということでさまざまな
努力がされてきたというふうに、比較的近くで見てきた者としては思っております。
例えば、民国連携という言葉がありまして、
民有林の方の
事業者や
関係者と
国有林の担当者がさまざまなところで協力する。例えば、
森林法に基づく市町村
森林整備計画や更にその下の
森林経営計画の策定等でアドバイスや一緒に策定をするようなことをする、それから、研修等でさまざまな
国有林を研修の場に提供したり、そこでの研修をともに行うといったようなこと。実はこれはそれ以前からもやっていたんですが、一般会計化後、非常に目立って熱心に取り組まれているというふうに評価しております。
更に言えば、公共性の
一つの担保である自然保護若しくは生物多様性の保全等について、御承知のとおり、世界自然遺産
地域、それから国立公園等においては
国有林の割合が非常に高くなっています。そういったところでの協働型
管理ということで、そこの
森林所有者若しくは
管理者である
国有林若しくは
林野庁と、それから
環境省やさまざまな
関係機関や
関係者の間の協働に、これもまさに現場で私はかかわっているのですが、そこでの参画の度合いが目に見えて非常に熱心若しくは前向きになってきているということを感じております。
こういった、これは単なる一例、二例ということですが、こういった形での、
国民の
森林(もり)としての
国有林の立ち位置、こういったことを私たちはかなり重視すべき若しくは尊重すべきというふうに考えております。
では、そういったことが
海外の先進諸国でどうなっているかということをごく簡単に申し上げます。それは四番です。
経営の公社化、つまり、国が直接
経営するのではなくて、民間活力を導入したような形で、民営化ではないんですが、公社化を図る、そういった形はかなり一般的に先進諸国では行われているというふうに認識しております。ただし、これは、
経営を完全に私企業に委ねるような、いわゆるコンセッションのような形は、これは実はすごく昔からの例であるカナダぐらいでして、ほかは
余り見られないというふうに考えられます。更に言えば、
国有林の
人工林の
部分について
経営権をほぼ売却するような形は、ニュージーランドを除いては、ほぼ
先進国ではないというふうに認識しております。
つまり、
経営の効率化を図るために民間の活力の導入ということは
一定程度進めるというのは世界の流れですが、そのことと別に、
国有林の公共性ということは国が主導して担保する、責任を持って担保するというのが一般的なやり方ではないかというふうに考えております。
日本でもそういうふうな形での
方向性が今も続いているというふうに考えております。
ここから少し、今回の政策についての内容について、少しかかわった者として考えを述べたいと思います。五番、六番です。
今回の政策立案過程の
部分ですが、この
部分については少し批判的な言い方になるのを御承知おかれたいんですが、少し唐突であったように私は感じております。つまり、これは内閣府やそれから官邸の成長投資
会議等での提案に基づくもので始まったというふうに考えておりまして、そこの
委員構成を見ますと、専門家が必ずしも多い形ではない形で、トップダウンで行われたということがわかると思います。そういった形は、これまでも申しましたように、長い、複雑な成立経緯を持って、多様な
公益的機能をあわせ持つ
国有林の重要な
経営判断を行う場合は、やはりそういう少数の非専門家に委ねるべきではなかったというふうに、実はこれは林政審議会の場でも私は発言しておりますが、思っております。
ただし、それを補填する意味で、今回の林政審の検討過程を見ますと、先ほども申しましたように、施策部会で二回、集中的に審議を行っておりますし、林政審議会の本審の方でも一回、かなりの時間を割いて検討を行っております。その
期間は実は短い、十一月に集中したんですが、短
期間という制約の中では必要最低限の検討はこの中でできたというふうに考えております。
もちろん、本来は、先ほどの、一般会計化のときの二〇一一年、平成二十三年のように
国有林部会のようなものをつくって、かなり、たび重なる検討を加えるというようなことは今回の場合も必要であったというふうに私は認識しておりますが、そこまではいかないにしても、関連
法案としての
森林経営管理法、これは
民有林についてのものですが、そのときの検討時に林政審の検討がかなり不十分であったのと比べると、今回は最低限の検討は行われたというふうに自負しております。
今回の
法案の私的評価です。
これについては恐らくこれから御質問等があると思いますので、ここでは簡単に述べますが、先ほども申しましたが、私企業に
経営を委ねるコンセッション方式とは異なる形です。別の言い方をすれば、国が
国有林の
管理者として
経営を差配する力をぎりぎりのところで確保できたというふうに考えております。
しかし、この
部分というのは多分に
林野庁の裁量の範囲内で、若しくは
林野庁の良識で、そういった判断で確保できるといったような構造になっているというふうに今度の制度を
理解しております。ですから、そういうのがもしも失われた場合は、危険性としてはさまざまな問題が生じる
可能性もある、危険性もあるということでもあります。
ただし、そういった意味では
国有林のコントロール力がかなり強いので、私企業の立場からしますと、
事業としてその採算性についてはどうなのか、若しくはそれに対して意欲と能力のある者がどれだけ手を挙げてくれるかということについては、これからの実際の実施過程で見守っていく必要があろうというふうに考えております。
今のことも
関係しますが、八番、試行としての認識です。
日本の
国有林ではこれまで、これは少し見解が
立花さんと異なるかもしれませんが、実施した経験はない、つまり、これだけの長
期間にわたって大面積の
部分を委ねるといった形は経験がないというふうに考えております。さらに、これも説明しましたように、
海外でも同様の条件での事例はほとんどないというふうに考えていいです。それから、既存の、これはいわゆる
森林関係ではないさまざまな天然
資源や自然
資源等の制度等でも、
日本でも
余り類似の制度はないというふうに認識しております。
つまり、今回のは非常に革新的若しくは先進的な
一つの
取組というふうに考えられます。そのこと自体は私は評価するんですが、ただし、それは試行という側面が非常に強いというふうに考えております。
そのことは、今回の
法案の中を見ますと、五年後の見直しということが明記されております。このことを私も非常に評価いたしますが、その影響や効果の評価を、公平性、公益性の観点から、さらには
民有林の方で行われております、先ほども申した
森林経営管理法に基づく、それから
森林環境譲与税も
関係しますが、新たな
森林管理システムへの効果、それとの連携、そういったこともここでは評価する必要があろうかと思います。更に言えば、今回の施策部会等の検討は最低限のところはしたんですが、より広い
国民諸階層や各界からの
意見聴取も更に進めるべきというふうにも考えております。
こういったことを、五年後の見直しということにまでいく前に、前倒しで検討を始める必要が私はあるのではないかと思います。
そこの検討については、別の言い方をすればモニタリングということになります。九番になります。
このモニタリングに一体どういう機関が適当かということなんですが、
一つは国会であることは、これは言をまちません。ですが、国会以外の
部分で考えると、
一つのありようとしては、林政審議会という、
国民の
関係各階層の
委員によって構成される常設機関、公的な常設機関である林政審議会もその任の一部を担うことが可能ではないのかというふうに会長として考えております。つまり、ここでは、成立した後の当面のモニタリングの機能というのを林政審議会である
程度果たすべきではないか。そこでは、当然ながら、
民有林部分での新たな
森林管理システムとともにそれを考えていくといったことが必要じゃないかというふうには思っております。
林政審議会は当面ということを言ったのは、場合によっては、将来的に第三者
委員会的なものが必要になるかもしれないというふうに個人的には少し考えておりますが、これについては、この五
年間の検討の中で、見直しの検討の中で議論すればよいことだと思っております。
それでは、
最後です。十番目です。
ここは私の
意見的な
部分を前面に出しておりますが、御承知のとおり、二〇〇一年に
森林・
林業基本法が成立しております。我が国の
森林政策、
林業政策はこの
森林・
林業基本法に基づいて行われていることは
皆さん御承知のとおりです。その中で、第二条と第五条というのをここでは挙げました。
第二条は、これは全体的なところで、「
森林については、その有する国土の保全、水源のかん養、自然
環境の保全、公衆の保健、
地球温暖化の防止、林産物の
供給等の多面にわたる機能」、これを
多面的機能と申しますが、「が持続的に発揮されることが
国民生活及び
国民経済の安定に欠くことのできないものであること」を非常に重視して、将来にわたってその適正な整備及び保全が図られるということが重要であるということを述べております。これは、単に
林野庁だけではなく、国全体の大きな責務としてこれが書かれていると認識しております。
その中で、第五条で、実は、ここでは
国有林について述べております。「国は、基本理念にのつとり、
国有林野の
管理及び
経営の
事業について、国土の保全その他
国有林野の有する
公益的機能の維持増進を図るとともに、あわせて、林産物を持続的かつ計画的に
供給し、及び
国有林野の活用によりその所在する
地域における
産業の振興又は住民の福祉の向上に寄与する」、この三つの目的があるわけですが、「寄与することを旨として、その適切かつ効率的な運営を行うものとする。」この精神は、今回の
法案の審議に当たっても我々は忘れてはいけない、私自身も忘れてはいけないことというふうに考えております。
その意味からいきますと、今後の、これは国の政策を決定していく
皆さんに対しての要望になりますが、
国有林の公共性をより強化する
方向でさまざまなことを御検討いただければと思っております。もちろん、今回の
法案もその中の一部というふうに考えられますが、今のところ、まだ公共性の担保という面では、
国有林野の果たす役割は十全に発揮できていないというふうに考えております。
例えば、これは私の専門に近いところでいいますと、野外レクリエーションの分野やそういう機会の提供、それから生物多様性の保全、そういった面において、各国、特に先進諸国と比べると、資金若しくは人材の面で非常に見劣りするというのが現在の
状況であります。こういったことを、先ほど言ったような
国有林の公共性といったことに基づいて更に高めていくということが、これからの人口減少社会の中で非常に重要になってくるというふうに考えております。
以上、非常に雑駁な、かつ、一応時間内におさまったと思いますけれども、内容でした。
以上、ありがとうございました。(
拍手)