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公述人(原
英史君) 原でございます。本日は、このような
機会をいただきまして誠にありがとうございます。
私は、政策コンサルティングの会社を運営しております。その以前は、二十年ほど国の役所に勤めておりました。また、現在、本業のほか、
政府の
規制改革推進
会議や国家戦略特区のワーキンググループの
委員などを務めております。そうした経験を踏まえて、公文書
管理の
在り方、行政の
在り方に関してお話しいたします。
まず、公文書
管理の
在り方、とりわけ政策決定過程に関わる文書の保存についてお話ししたいと思います。
政策決定
プロセスを事後的に検証、分析できるようにするため、正確で十分な文書情報が残されることは極めて重要です。公文書
管理法の目的にもあるとおり、これはまさに民主主義の根幹を支えるものだと思います。
私
自身は政策決定に
二つの立場で関わっております。
一つは、純粋に民間人として
政府の外側から政策決定を見て、これを分析するなどの
仕事を行う場合、もう
一つは、先ほど申し上げました
規制改革推進
会議、国家戦略特区ワーキンググループの
委員などとして政策決定の内側で関わっている場合です。
前者の立場で
政府の外側から政策決定を見ようとするときは、しばしば得られる情報が不十分で、どんな経過で決定がなされたのかよく分からないと感じることがあります。一方で、後者の立場で、内側で自ら政策決定に関わっているときには、不正確な情報が平気で残されている、これが大変気になることがあります。両方の立場から考えますに、正確性、十分性という双方の観点で公文書
管理の
仕組みには改善の余地があるのでないかと思います。
正確性と申し上げましたが、さらに、保存段階での正確性、それから作成段階での正確性という
二つに分かれると思います。
保存段階と申しますのは、一旦残された記録が後から
都合よく書き換えられるなどといったことなく正確に維持されるということであります。作成段階というのはそれ以前の段階で、そもそも文書を作る段階で事実が正確に記録されているかどうかという問題であります。ここ数日大問題になっているのは、保存段階の正確性の方の問題かと思います。
そこで、以下では、保存段階の正確性、それから作成段階の正確性、十分性という三つの観点それぞれについて、現状にどのような問題があって、どのような
改善策が考えられるのかをお話ししたいと思います。
第一に、保存段階の正確性です。
今回の
ケースもそうなのかと思いますが、特に紙媒体で
管理をしている場合、後から差し替えられることがごく容易になされる
可能性があります。これは、電子化を進めること、そして、文書に誰がアクセスして誰が修正したのか、こういった履歴を全て残すようにすることで
一定程度問題の解消が可能です。ここ数年、国の行政機関でも電子決裁への移行が急速に進められています。この場合は、今回のような単純な差し替えは生じにくくなっているものと思います。
さらに、今後に向けては、ブロックチェーンの活用が重要な方策になり得ると思います。先週の当
委員会でもこの御議論があったと承知をしておりますが、ブロックチェーンは、分散
管理によって改ざんを事実上不可能にし、低コストで人手を介さず事務処理を可能にする技術です。
ブロックチェーンというと、仮想通貨、フィンテックが思い浮かべられがちかと思います。また、コインチェックの問題が最近あって、大丈夫なのかと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、仮想通貨をめぐって現在起きている問題は関わる事業者の信頼性の問題であって、ブロックチェーン技術そのものの信頼性の問題ではないと思っております。
ブロックチェーン技術は、金融
分野以外でも様々な事務処理、転々と移転、変更が生じる場合の履歴
管理などに幅広く活用ができます。世界各国では、公共部門において、登記、文書
管理、個人認証など様々な形でこれを活用する取組が始まりつつあります。
例えば、エストニアでは官民で
データを共有して活用するプラットフォームにブロックチェーン技術を活用しています。また、ガーナやホンジュラスなどの途上国で土地の登記システムにブロックチェーンを
導入する実証実験が始まっています。これは、遅れていた国が中間を通り越して一気に最先端に飛び出す、言わば階段飛ばしの事例かと思います。また、ドバイ
政府は、報道によれば、
政府の全ての公文書
管理を二〇二〇年までにブロックチェーンに移行し、情報の永久保存、省力化を実現しようという取組を始めています。
今回の問題を契機として、是非最先端の文書
管理システムへの移行を検討すべきでないかと思います。
第二に、作成段階での正確性の問題です。
現状では、文書を作成する段階で、事実が必ずしも正確に記載されていない場合が決して少なくありません。
一つ例を申し上げます。今月、三月五日の毎日新聞で、私が関わっております国家戦略特区に関わる話ですが、自動走行の実験を円滑化する
制度を新たに設けることについての記事が出ました。記事の中で、
制度創設までの調整段階で、国家戦略特区の
会議の民間
委員と警察庁、国土交通省などの
関係省が激しく対立した、民間
委員が官邸の影響力をちらつかせて譲歩を迫って最終的な決着に至ったと記載されています。
この民間
委員というのは、名前は記事では書かれていないんですが、明らかに私のことでございまして、そして、官邸の影響力をちらつかせたという
部分は全く事実ではありません。私は、国家戦略特区や
規制改革の
会議では
関係省に対して改善すべきことを改善するように求める役回りでありますので、厳しい指摘はするんです。このときも、
関係省に対して、皆さんがやっていることは閣議決定違反じゃありませんかといった指摘を繰り返しいたしました。
しかし、官邸の影響力をちらつかせたというのは、これは全く事実ではありません。この件で私は官邸の方とお話ししたことも全くありませんので、そんなことをするいわれもありませんでした。この議論をした
会議は公式の
会議でした。記録の要員も入っていましたし、二十人以上の同席者もいましたので、私はこれは事実を実証できるんです。
ただ、問題は、記事として表に出たのは氷山の一角であって、このように誤解や悪意に基づいて私の言動をゆがめて記録している文書が恐らく
政府内には大量に残されているのだろうということです。それも、私の目には触れないままに残されているんだろうということであります。
今、私はあえて自分の例を挙げましたが、日頃行政官に対して厳しい指摘をなさっていらっしゃる
国会議員の先生方におかれましては、恐らく私とは比べ物にならない規模でそうした記録が大量に
政府内に残されている、これはもう間違いないと思います。これは、いつ何どき表に出されて悪用されるか分からない、公文書
管理の
在り方として大変危うい状態ではないかと思っております。
この点について、昨年十二月、
政府では、行政文書
管理ガイドラインの改正がなされました。外部の者との打合せなどの記録に当たって、可能な限り相手方による確認などにより正確性の確保を期する、また、相手方の確認ができない場合はその旨を判別できるように記載する、つまり、この
部分は先方の確認が取れていないといった記録を文書上に残すという指針が示されました。
こういったルールの明確化がなされたことは大きな前進だと思います。ただ、問題は、これを今後どうやって
運用していくのかです。相手方の確認を得るということは、文書ではそう書いても
現実的でない場合が少なくありません。例えば
国会議員の先生方、恐らく毎日のように役所の
人たちから説明を聞いて、無数のもう数限りない指摘をされているのでないかと思います。しかし、そこでのやり取りについて役所の担当者から、記録を作りましたので確認してくださいという連絡が来たことは恐らく余りないのではありませんでしょうか。逆に、あらゆる打合せについてそんな依頼が来たら、とてもお
仕事にならないんじゃありませんでしょうかと思います。
そこで、解決の方策として考えられるのは、自らに関わる記載はいつでも閲覧、チェックできるようなシステムを整備するということでないかと思います。
国会議員の先生方や私のような民間
委員また他省の職員などが、行政機関の中に残されている記録文書のうち、自分の
発言などに関わるものについてはいつでも閲覧できるようにする、さらに、確認してそれで構わない場合はそう記録し、認識が異なるという場合には指摘して修正を求める、あるいは少なくとも認識が異なりますよということを追記できるような
仕組みを構築する、こういったことができないかと思います。
いつでもチェックできると言われてもチェックしている暇なんかないよと言われるかもしれませんが、それでも本人がチェックできる
仕組みにするというだけで、少なくとも、客観性に十分配慮して事実をねじ曲げることのないよう、
一定の抑止力は働くと思います。先ほど申し上げましたブロックチェーン活用の
可能性も含めて、こうしたシステムの整備を是非早急に御検討いただけないかと思います。
第三に、十分性の問題です。
必要な記録が十分に残されていない、また、保存期間が短くて必要なときに廃棄されてしまっているといった問題が続けて起きました。昨年十二月のガイドライン改正では、この面でも
一定の前進が図られたと思います。行政機関内部の打合せ、外部の者との折衝など、政策立案や事務事業の実施方針などに影響を及ぼす打合せについては文書を作成しなければいけないとの指針が示されました。また、保存に関しては一年未満で簡易に廃棄されてしまうということが問題になっていましたが、意思決定過程などの検証に必要となる文書は原則として一年以上の保存期間を
設定しなければならないとされました。例外的に保存期間を一年未満にできる文書の類型も明確にされました。これは前進だと思います。
ただ、残された問題が幾つかあると思います。
一点目は、期間の問題です。
現状では一年、五年、十年といった期間がありますが、これは元々紙での保存を
前提として、保管スペースの限界を考えて
設定されたもののはずです。今後電子化を進めれば、保管スペースの問題は大幅に解消します。紙の
前提から電子化の
前提に切り替えて、保存期間の
設定については抜本的に見直すべきでないかと思います。
二点目は、規則
設定、
運用が各省ごとに委ねられていることです。
現状では、
政府統一のガイドラインは一応示されていますが、実際に拘束性を持つ規則は各省ごとに制定することになっています。
報道でも出ていますが、財務省は、今回の問題を受けて契約決裁文書の保存期間を五年間にするという規則
改正案を示されたそうです。ただ、この規則は財務省だけに適用されるものです。こうしたことは、省によってルールや
運用が異なるということが妥当なのかどうか、より統一的なルール
設定についても検討すべきでないかと思います。
三点目に、記録を正確、迅速に作成するための手間とコストの問題です。
今後、技術の進展によって音声認識などによる自動記録も進むのでしょうが、少なくとも現時点では記録の作成、確認には相応の手間が掛かります。私
自身もいろいろな
会議の記録確認に相当の時間を費やしています。さらに、公式な
会議以外での打合せ、折衝などの記録も残そうとすれば、それは膨大になります。全てをテープに取って専門業者にテープ起こしを頼むなんてことはできないわけです。行政官や政策決定に関わる者は記録を残すのは当たり前だというのはそのとおりなんですが、精神論だけでは片付かないと思いますので、手間とコストについても是非目配りをいただきたいと思います。
以上、公文書
管理については、ブロックチェーンの活用、自らに関わる記録の閲覧、チェックをできる
仕組み、保存期間の抜本
見直し、規則制定などの統一化、文書
管理の手間への配慮など、是非更なる改善を図っていただければと思います。
最後に、行政の
在り方についても
意見を申し上げます。
今回の事案については報道以上のことを存じ上げませんが、仮に国会答弁とのつじつま合わせのために不正な書換えがなされたとすれば、到底あってはならないことだと思います。
その上で、今後に向けて不正防止のために何をすべきかと考えますと、横断的にできる重要な方策は外部
人材を組織に入れることでないかと思います。役所に限らず、組織において、同質性の高い閉鎖的な組織では、組織が良い方向に向かうときは良いのですが、一旦不正に向かったときにはそれを止められなくなりがちです。組織の中に内輪の論理から離れて物事を見られる人がいれば、内部の
人たちもその人の目を意識して立ち止まって考え直す
可能性があります。その
意味で、組織の中に
一定数の外部
人材、平たく言えば、
上司に従わなければ一生冷や飯といった類いの心配にとらわれなくてよい
人たちを入れておく、これは重要なことだと思います。官民の
人材交流は公務員
制度改革の
分野で長年の
課題ですが、まだ道半ばだと思います。行政全般において更に進めていくべきかと思います。
以上で私の公述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。