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参考人(
樋口進君) それでは、
意見を述べさせていただきたいと思います。
ギャンブル等依存症は、大きな健康、社会、
家族問題です。この実態を明らかにするために、私どもは平成二十九年に我が国成人の
ギャンブル等依存に関する全国
調査を行いました。
対象者は、全国三百地点の住民
基本台帳から無作為に抽出した一万人です。その結果、五千三百六十五名から回答が得られました。また、
ギャンブル等依存症に関する
調査項目、すなわちSOGSの
日本語版の有効回答数は四千六百八十五名でした。
SOGSは、一九八〇年代の後半に米国で作成された
ギャンブル依存のスクリーニングテストで、
世界で最も汎用されています。この
調査結果によると、
調査前十二か月間にSOGSにより
ギャンブル等依存が疑われた者の割合は〇・八%、その推計数は約七十万人、また、過去のどこかで
ギャンブル等依存が疑われた者の割合は三・六%、その推計数は三百二十万人でした。
さて、ここでは
ギャンブル等依存が疑われる
本人の推計をしました。しかし、
依存症にまで
進行した場合には、
本人を取り巻く周囲の者にも多大な悪
影響をもたらします。
ギャンブル等依存症となると、例えば、
家族の知らないところで次々に借金を作り、返してもまた作る、
ギャンブル絡みで
家族に頻繁にうそをつく、
家族内でもめ事、暴言、暴力が絶えない、別居、離婚に至る、子供への悪
影響、詐欺、窃盗、横領を働く、うつ病、自殺などの問題が頻繁に起きます。
家族はこのような問題に常に振り回され、心の休まるときがなく、このような問題は次世代の子供
たちにも
影響します。したがって、
ギャンブル等依存症にまつわる問題は、単に推計数だけでは捉えられない社会的に大きな問題を包含していると言えます。
さて、
ギャンブル等依存症とはどのような
人たちでしょうか。これを理解いただくために、私どものセンターを受診された百十三名の
患者さんの
概要をお示しします。
初診時の平均年齢は三十九歳。男女比は、男性が十に対して女性が一ぐらいの割合です。既婚者は五七%、離婚は一〇%。正規、非正規雇用を含めると七〇%の者が働いていました。
アルコールや
薬物依存症に比べると、全般的に社会的安定性は高いというふうに思われます。
ギャンブル等の開始年齢の平均は二十歳と若く、借金のある人が九〇%に及びました。
ギャンブルによる今までの借金の総額は平均約六百万円で、初診時に平均二百万円
程度の借金を抱えていました。
ギャンブルに
関連して、窃盗、詐欺などの警察沙汰を起こしていた者が一六%いました。
依存している
ギャンブル等では、パチンコ、スロットが九〇%と圧倒的に多く、次いで、競馬二〇%、マージャン六%、競輪、競艇五%の順になっていました。
ギャンブル等依存症では、その他の精神的問題が高率に合併することも知られています。中でも、ニコチン
依存症や
アルコール依存症などの物質
依存症、うつ病を含む気分
障害、不安
障害などが多いと報告されています。
また、自殺の問題も重要です。既述の私どものセンターを受診した
患者さんの場合でも、その四四%は過去一年間に希死念慮を持ち、一二%は自殺企図に至っています。適切な
治療や借金対応により、このような方々の貴重な命を救うことができます。
次に、診断について簡単に説明します。
現時点で最もよく使われている診断基準は、米国精神医学会が作成した精神
疾患の診断統計マニュアルの第五版、これDSM—5というふうに呼ばれていますが、この中の
ギャンブル障害の診断基準です。先生方に配付されている資料の中にこの基準が掲載されていますので、御参照ください。
依存症の診断基準は、いわゆる
依存行動と
依存の結果として起こる健康、社会問題の組合せで構成されています。このDSM—5の基準は全部で九項目ございますが、九項目の中で過去十二か月に四項目以上を満たす場合には
ギャンブル障害というふうに診断します。
つい最近まで、この
ギャンブル障害は病的賭博という名前で、衝動制御の
障害という
疾患群に分類されていました。個人の衝動がうまくコントロールできないために起きてくる
疾患という意味です。病態を考えると、その
対策としては専ら個人に対する
予防的、
治療的アプローチになります。
依存症の
モデルは物質
依存症です。病的賭博の症状、経過、
ギャンブルに伴う脳内の機能変化、合併精神
障害のパターンなどを見ると、衝動制御の
障害よりも物質
依存症と類似していることが次第に判明し、DSM—5では初めて
依存症の一
疾患に分類されるようになりました。
私どもが日常の診療に使用しているガイドラインは、
世界保健
機関が作成した精神及び
行動の
障害に関する国際疾病分類を踏まえた臨床記述と診断ガイドラインです。現行の分類では依然病的賭博になっていますが、今年六月にWHOから発表された新しいバージョンの草案ではやはり
ギャンブル障害と改名され、いわゆる
依存に分類されるようになりました。
ところで、
依存症に分類されることで何が変わるでしょうか。
依存症は個人の特性、
依存対象物の種類や特性、環境などを総合的に考えて、
予防や
治療対策の立案、施行ができるものがあります。また、衝動制御の
障害に比べると
治療に関する
エビデンスも豊富で、より良い
治療の提供が可能となるということが挙げられます。
ギャンブル等依存症の
予防や
対策を考える場合、その危険要因の評価は非常に重要です。危険要因に適切に対応できれば、
ギャンブル等依存症のリスクを軽減できます。また、危険要因を有するハイリスクグループを同定し、適切な
予防対策を講じることも可能になります。
ギャンブル依存症のリスク要因を今から幾つかお話し申し上げたいと思います。
まず、人口統計
関連の項目で、若年者、男性、失業などがそのハイリスクに入っています。
依存対象としての
ギャンブル関連の要因としては、まず、利用しやすさが挙げられています。利用しやすさの中には、距離的に近い、時間的にいつでもできる、賭博場の雰囲気が良い、自由に入場できるなどがあります。
一般的に、
依存はその開始年齢が早いと
依存のリスクが高くなると言われています。また、
本人は
ギャンブルをしなくとも、幼少のうちに
ギャンブルに暴露されると将来の
依存リスクが高くなるという報告もございます。その他、うつ病や他の
依存症が併存している場合や高い衝動性、刺激追求性のような性格傾向は
依存のリスクを高めると報告されています。
さて、
ギャンブル等依存症の
対策にお話を進めてまいります。
まず、厚労省が、平成二十九年度から、
依存症に対する二つの
事業、すなわち
依存症全国拠点
事業及び
地域依存症対策事業を始めました。
依存症の
対象は、
ギャンブル等依存症を含めた
アルコール及び
薬物依存症です。全国拠点に私どものセンターが指定され、
依存症医療に関わる
地域の指導者のマンパワー育成を行っています。
ギャンブル等依存症関連のマンパワー育成に関しては年々
拡充され、平成三十年度は四コース、七日間の研修が
計画されています。全国拠点の他の
事業として、情報発信及び
調査研究事業があり、こちらも前進しています。
一方、
地域依存症対策事業では、
都道府県は
地域の専門
医療機関及び
地域拠点
機関を指定します。拠点
機関は、
地域のマンパワーの育成の役割を果たすとともに、
医療連携を図り、
依存症医療の向上に貢献することが期待されています。また、
依存症の専門
相談員を
精神保健福祉センターに配置し、
家族などの
相談に当たる
計画です。
厚労省
関連の
対策はこのほかにもありますが、その説明は割愛させていただきます。
さて、最後に、
ギャンブル等依存症の
予防対策に関し、現状と今後期待される
対策について私見を述べさせていただきます。
まず、
ギャンブル等依存症の
発生予防です。ここでは、まず、
国民の
ギャンブル等依存症に対する知識の普及及び意識の向上が必要です。この中には、
ギャンブル等に対する間違った認識の修正、
ギャンブル等依存症は
治療可能な疾病であるという理解及び困ったときの
相談先の情報なども含まれています。このためには、
ギャンブル等に問題のある
本人や周囲の人が
相談できる体制が整わなければなりません。
次に、学校での
予防教育です。この
有効性に関する欧米での
研究によると、
ギャンブルに対する正しい知識の普及や間違った認識の修正は可能であること、しかし、これが実際の
ギャンブル等の
行動修正にどの
程度影響するかについては必ずしも明確でないということでした。
次に、
早期発見、
早期治療導入です。あるいは、
早期発見、
早期介入ですね。
依存症は、精神
疾患の中でも
治療の必要な人が専門
治療や
相談機関に最もつながらない
疾患であることが知られています。
ギャンブル等依存症は、物質
依存症に比べて更にその傾向が強いと言われています。
家族から、保健所等の
地域や
民間の
相談機関から、他の
医療機関から、借金
相談のための法的
機関から、また、
ギャンブル等の提供施設から専門
治療相談機関への
連携を強化する体制づくりが必要だと思います。
次に、
ギャンブル等の
行動が頻回だったり、使う金額の多い人、既に問題はあるが
依存症まで至っていない人、又は、軽症の
ギャンブル等依存症を
対象にした有効な簡易
治療プログラムの開発と広範な施行も重要です。この点に関しての
研究は
世界的にも少なく、今後発展が望まれます。また、このような方々に適切な
支援を行う
相談機関の
充実も必要です。
最後に、
治療、
再発予防、
回復支援です。
私どもが平成二十八年度に行った厚労科研
研究では、全国に
ギャンブル等依存症の専門
治療機関が百二か所存在し、その中で入院可能な施設は四十四でした。これは
アルコール依存症の専門
医療施設より
かなり少なく、更に広範な
整備が必要です。
ギャンブル依存症の
治療に関しては、
世界的に認知
行動療法を主体にした心理
行動的アプローチが有効とされ、これをサポートする
研究が
海外で報告されています。我が国でも、現在外来ベースの標準的
治療プログラムの開発とその
有効性検証のための
研究が進んでいます。この
有効性が確認された場合には、このプログラムを専門
医療機関のみならず一般精神科でも広範に施行していくことが望まれます。
また、他の
治療方法の開発も重要です。他の心理社会的
治療に加えて
薬物治療の開発も不可欠です。
ギャンブル依存症に関しては、使用の認められた使用
薬物は
世界的に今存在しません。しかし、
ギャンブル依存症に伴う諸症状に対する
治療については、候補
治療薬は挙がっており、この
効果検証と臨床使用が望まれます。
ギャンブル等依存症の最も大きな問題の一つは借金です。この借金の適切な対応が
回復には必要です。
医療機関と借金処理のための法的
機関の
連携の発展も期待されます。
再発予防や
回復支援では、
自助グループや
回復施設の果たす役割は重要です。
ギャンブル等依存症の
自助グループは、
ギャンブラーズ・アノニマス、GAで、その
家族のためのグループがギャマノンです。現在、GAは我が国に二百近いグループがありますが、偏在傾向もあるので、均てん化と数の増加が望まれます。既述の厚労科研で
回復施設の
調査を行っています。
ギャンブル等依存症を受け入れているという施設が我が国で五十四ありましたが、今後更に
拡充が望まれます。
さらに、既述のとおり、
ギャンブル等依存症では
家族など周囲に多大な悪
影響をもたらします。しかし一方で、
本人の
回復のためには、この
家族の、あるいは
家族からの
支援が重要です。この点を踏まえ、
家族が気軽に
相談できる体制、
相談機関の見える化、受診
支援などの
整備が必要です。
最後に、このような
対策を行っていくためには、その基礎となる情報の提供が必要です。
まず、
ギャンブル等依存症のモニタリングのための実態
調査の定期的実施です。また、縦断
研究などによる我が国におけるリスク要因の同定、自然経過などの情報も必要です。また、より有効な
早期介入技法や
治療技法の開発は特に重要で、この方面の
研究成果が待たれます。
以上です。ありがとうございました。