○
参考人(
山本健司君)
弁護士の
山本健司と申します。本日は、このような
意見を述べる
機会を与えていただき、誠にありがとうございます。
私は、本日、
日本弁護士連合会
消費者問題対策
委員会の
委員として
消費者被害の救済に取り組んでいる
弁護士という観点及び今回の法
改正に
消費者契約法専門調査会の
委員として関与させていただいた者としての観点から、現在御審議をいただいております
消費者契約法改正法案について、七点
意見を述べさせていただきたいと思います。
お手元の
意見要旨と別冊の
参考配付資料を御覧ください。
第一は、賛否の
意見です。
この法案は、
我が国の
消費者保護を一歩進める法案であり、今
国会での成立をお願いしたいと思います。ただし、一部の
要件については、専門調査会報告書の趣旨、
内容に適合した
解釈、
適用範囲を明確にしていただきたいと思います。
第二は、四条三項三号及び四号の「
社会生活上の
経験が乏しい」という
要件に関する
意見です。
この
要件は、専門調査会報告書には存在しなかった
要件です。専門調査会報告書では、不安をあおる
告知や
人間関係の濫用といった方法で合理的な
判断ができない心理状態の下、
消費者に
契約をさせる行為そのものを不当
勧誘行為として
取消し権の対象としております。対象者の年代による法範囲の限定などは設けておらず、
高齢者や
中高年など若年者以外の者に対する法
適用も念頭に置いております。
具体的には、添付の配付資料六、四枚目の表から裏になりますけれども、第三十一回専門調査会資料二抜粋のとおり、専門調査会において不安をあおる
告知の具体的
事例として議論されていた問題
事例は、就職への不安や頭髪への不安や家族の健康への不安をあおって
契約させるような行為です。これら就職への不安、頭髪への不安、家族の健康への不安といったものは若年者に固有の不安要素ではありませんし、これらの問題
事例も若年者のみを対象とした
事案内容ではありません。
また、添付の配付資料五、これは三枚目裏になりますが、専門調査会報告書抜粋、及び、配付資料七、五枚目の表から裏になります、第四十四回専門調査会報告書一抜粋のとおり、専門調査会において
人間関係の濫用の
典型例とされていた問題
事例は、婚活サイトで未婚女性に近づきマンションを買わせるといった
被害事例です。そして、添付の配付資料九、これは七枚目裏からになりますが、
国民生活センター報道発表資料のとおり、婚活サイト
事案の
被害者の多くは三十代、四十代の女性であり、
被害者の平均年齢は三十五・一歳です。
人間関係の濫用は、このような婚活サイト
事案の
被害者等を典型的な救済対象として立案されたものです。
さらに、添付の配付資料八、これは七枚目表になります、四十四回専門調査会議事録抜粋のとおり、専門調査会における議論では、
人間関係の濫用の具体的
事例として、婚活サイト
事案以外にも、
高齢者の依存という
人間関係を濫用して
契約させた
事例も含まれることが確認されておりました。
このように、専門調査会における議論及び報告書では、不安をあおる
告知についても、
人間関係の濫用についても、
高齢者や
中高年など若年者以外の者に対する法
適用も念頭に置いておりました。
ところが、専門調査会終了後に、法案
作成の過程で
消費者庁により、「
社会生活上の
経験が乏しい」という
要件が付加されました。もし万一、本
要件が、不安をあおる
告知や
人間関係の濫用の
規定による
被害救済の範囲を若年者に限定するとか、若年者以外の
消費者の
被害救済を劣後させるといった意味
内容なのであれば、先ほど述べましたような専門調査会報告書の取りまとめ
内容を逸脱した、極めて問題のある
要件の付加であると言わざるを得ません。
もっとも、
消費者庁は、この
要件はそのような意味
内容の
要件ではないと説明をしておりました。具体的には、本年五月十一日の衆議院本会議における福井大臣の答弁のように、この
要件が付加されても専門調査会で問題とされていた
被害事案は基本的に全て救済される、
高齢者等であっても、
契約の
目的と
勧誘の態様との
関係で本
要件に該当する、
霊感商法等の悪徳
事業者による
消費者被害については、
勧誘の態様に特殊性があり、通常の
社会生活上の
経験を積んでいた
消費者であっても、一般的に本
要件に該当するという説明がなされておりました。
確かに、「
社会生活上の
経験が乏しい」という
要件の意味
内容が、この衆議院本会議答弁のように、悪徳
事業者による
消費者被害の
被害者は一般的に本
要件に該当するという意味
内容なのであれば、この
要件があっても、先ほどの婚活サイト
事案のような悪徳商法における三十代、四十代の女性も問題なく保護できるのかもしれません。ただ、そのような意味
内容の
要件であるということは、法文を一読しただけでは分かりにくいという問題点は残るように思います。
このように、法文の意味
内容が分かりにくい「
社会生活上の
経験が乏しい」という
要件については、三号、四号の
規定の
適用範囲を若年者に限定しかねない、専門調査会報告書で救済対象と位置付けられていた婚活サイト
事案等の
被害事案を問題なく全て救済できるのかについて懸念を生じさせるという意味において、本来的に削除が最も望ましい
対応であろうと考えます。この点は、衆議院の
参考人意見で河上前
委員長や野々山
弁護士も述べておられたとおりであり、私も本来的に同
意見です。
しかし、もし諸般の事情から、「
社会生活上の
経験が乏しい」の削除がどうしても難しいという場合には、不安をあおる
告知、
人間関係の濫用による
消費者被害の救済範囲を専門調査会報告書の取りまとめ
内容から縮小、後退させる結果とならないよう、この
要件に関する柔軟な
解釈とその
明確化が必要不可欠であると考えます。
具体的には、本年五月十一日の衆議院本会議における大臣答弁のように、この
要件は柔軟に
解釈されるべき
要件であることや、悪徳
事業者による
消費者被害の
被害者は一般的に本
要件に該当するといった
解釈指針を
明確化しておいていただくことが必要不可欠であると考えます。
この点、衆議院における審議では、本
要件に関する大臣答弁の
内容が、五月十七日、五月二十一日の答弁で、悪徳
事業者による
消費者被害は、若年者であれば一般的に本
要件に該当するという狭い
解釈に修正されるという出来事がありました。
五月二十一日及び二十三日の衆議院
委員会審議で問題となりました、添付の配付資料一、一枚目表の「大臣本会議答弁の修正について」と題された書面では、悪徳商法の場合の本
要件の一般的な該当対象を、通常の
社会生活上の
経験を積んできた
消費者から若年者に答弁修正した、これまでの柔軟な
解釈よりも本
要件の
適用範囲が狭まったという記載があります。
しかし、本会議での法案の
内容説明にも反し、専門調査会報告書の取りまとめ
内容にも反するこのような答弁修正ないし
解釈変更は、手続的にも
内容的にもあってはならないものであると考えます。
また、この書面については、衆議院の
参考人の
意見引用が不正確、不相当であるという問題点や、もし仮に、この書面に記載されているような狭い
解釈に答弁修正、
解釈変更がなされたと仮定すれば、婚活サイト
事案など重大
事案の
被害者が救済範囲から抜け落ちかねないという問題が生じてしまうように思われます。
これらの点に関する
参考資料として、添付資料四、二枚目裏の野々山
参考人の
意見書、配付資料二及び三、一枚目裏及び二枚目表の説明図面を、本日、
委員会の
皆様に配付させていただいております。時間の
関係でこれらの書面に関する詳細な説明は割愛させていただきますが、御参照賜りますようよろしくお願い申し上げます。
幸いにして、このような大臣の答弁修正については、五月二十三日の
委員会で大臣御
自身により謝罪、撤回され、五月十一日の答弁
内容が維持されました。また、その後の衆議院の
委員会審議及び参議院の審議でも、五月十一日の本会議答弁を維持するという答弁が繰り返しなされており、その点は極めて重要なことであると思います。
一方、本
要件を満たすのは若年者及びこれと同視すべき者であるという答弁については、もし仮に、悪徳
事業者による
消費者被害の
被害者は一般的に本
要件に該当するという五月十一日の答弁
内容との整合性のない答弁
内容なのであれば、問題が残されているように思われます。
参議院の今後の審議におかれましては、本
要件の
解釈問題について、本年五月十一日の衆議院本会議における大臣答弁のように柔軟に
解釈されるべき
要件であること、特に
霊感商法等の悪徳
事業者による
消費者被害については、通常の
社会生活上の
経験を積んできた
消費者であっても、一般的には本
要件に該当するということを
立法者である
国会の意思として附帯決議で明確にしていただき、そのような
解釈と運用を
消費者庁に逐条解説等で周知させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。
第三は、四条三項三号及び四号の「告げる」、「困惑」という
要件に関する
意見です。
実務への指針という観点から、専門調査会における論議の際に確認されていた、「告げる」という行為には黙示に告げる行為も含まれること、「困惑」とは精神的に自由な
判断ができない
状況をいう広い概念であり、恋人商法に見られる幻惑といった表現の方がふさわしいような
消費者が精神的に自由な
判断ができない心理状態も包含するものであることという
要件解釈について、
国会質疑や逐条解説で明らかにしておいていただきますよう、お願い申し上げます。
第四は、衆議院で新たに付加された五号、六号に対する
意見です。
これらの
規定は、原案より
消費者保護を一歩前進させるものであり、その
立法に賛成いたします。ただ、「著しく
低下」という評価を伴う
要件については、
高齢者等の救済範囲を不当に狭いものにしないか懸念があります。
高齢者等の救済範囲を不当に狭めることがないよう、「著しく」を削除するか、削除が難しい場合には、厳格に考えるべき
要件ではないということを
国会の附帯決議で明確にしていただき、そのような
解釈と運用を
消費者庁に逐条解説等で周知させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。
第五は、いわゆる付け込み型不当
勧誘取消し権等に関する
意見です。
添付の配付資料十、九枚目表になります、内閣府
消費者委員会の答申書で喫緊の課題として付言された三つの事項に関しては、追加措置の可及的速やかな
実現をお願いいたしたいと思います。
特に、同答申書二の
高齢者、若年成人、障害者等の
知識、
経験、
判断力の
不足を不当に
利用し過大な
不利益をもたらす
契約の
勧誘が行われた場合における
取消し権、いわゆる付け込み型不当
勧誘行為に対する包括的な
取消し権の創設は、
高齢化の進展に伴って
我が国で増加している
高齢者の
消費者被害への抜本的な
対応策であるという観点からも、もし民法の成年年齢が引き下げられた場合に増加することが懸念される若年者の
消費者被害への抜本的な
対応策であるという観点からも、非常に重要な
立法課題です。
添付の配付資料十三、十四枚目から十六枚目になります、のとおり、
消費者の
知識、
経験、又は
判断力の
不足に乗じて
契約の締結を
勧誘する行為は、既に全国の地方自治体の
消費生活条例等で
規制されている不当
勧誘行為です。
また、添付の配付資料十二、これは十枚目以下になります、のとおり、大阪府、京都府、東京都などの地方自治体が付け込み型不当
勧誘取消し権の創設を求める
意見書を採択しております。付け込み型不当
勧誘行為に対する包括的な
取消し権の創設について、可及的速やかな
立法措置をお願いいたしたいと思います。
第六は、九条一号、平均的損害に関する
消費者の立証責任の緩和に関する
意見です。
専門調査会報告書で措置すべき事項とされながら、今回の法案に含まれていない九条一号、平均的損害に関する
消費者の立証責任を緩和するための
規定について、可及的速やかな
立法措置をお願いいたしたいと思います。
最後に、第七、
消費者契約法専門調査会報告書で継続審議とされていた諸事項に関する
意見です。
専門調査会報告書では、
実務上は重要な問題ながら、検討時間の
不足等の
理由によって継続検討事項とされた論点が少なくありません。それらの諸論点に関する検討の継続と、できるだけ早い追加措置の
実現をお願いいたしたいと思います。
これで私の
意見陳述を終わらせていただきます。
御清聴いただき、ありがとうございました。