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参考人(
大島堅一君)
龍谷大学政策学部の
大島堅一と申します。
この度はこのような
機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私は、
エネルギー利用に関わる
環境経済学、
環境政策論を二十五年以上
研究してまいりました。特に、気候変動問題に関しましては、気候変動枠組条約第一回締約国会議、ベルリンですけれども、に参加して以来、強い関心を持って取り組んでまいりました。
本日は、三点申し上げます。一つは
エネルギー・
環境政策の基本的な考え方、二つ目は
エネルギー基本計画について、三つ目は気候変動問題並びに省
エネルギー政策についてです。
まず、
エネルギー政策の基本的考え方について述べさせていただきます。二ページ目を御覧ください。
なぜ今
エネルギー政策が重要なのか。それは、
エネルギー消費の在り方が
環境問題と不可分になったからです。これは、チェルノブイリ原発事故や福島原発事故、更に気候変動問題を念頭に置けば明らかであります。
エネルギー政策の立案に当たって重要なのは、
環境への
影響を極力小さくし、
環境と
社会を持続可能なものにするという考え方です。
環境と人間
社会が持続しなければ、全ての
政策は
意味がなくなります。それゆえ、持続可能性は最も重要な原則であって、
エネルギー政策に貫かれていなければなりません。
その上で重要なのは、この原則を踏まえた
社会のつくり替えを実行するということです。持続可能性の観点から、必要性がなく無駄になりつつあるのは大胆にリストラクチャリングすること、逆に、次世代に必要な
産業はそれらのビジネスが成り立つような公正な市場
環境を整備することです。
例えば、原子力
産業や石炭
産業は、持続可能性の観点からは斜陽化するのは必然であり、早期の撤退が必要です。逆に、
再生可能エネルギーは、追加的な負担と捉えず、次世代ビジネスのための投資と捉えて、
再生可能エネルギービジネスのための
環境を整備するという必要があります。何もかもが重要、選択肢とするのではなくて、大胆に構造転換を促す必要があります。
エネルギー基本計画には3EプラスSが重要と述べられているわけですが、幾つかの考え方を並列的に、平板に並べているにすぎません。何が根幹になるのか、どのような
社会をつくるのかという点が極めて重要です。このことをまずは強調しておきたいと思います。
次に、三ページ目ですが、
エネルギー基本計画について述べます。
さきに述べた持続可能性の観点からすれば、
エネルギー源として原子力発電や石炭は絶対に推奨できないことは明らかです。言うまでもなく、原子力発電は深刻な事故を引き起こす可能性があり、実際に
日本は福島原発事故を
経験しました。また、事故を起こさなかったとしても、放射性廃棄物を十万年以上にわたって管理する必要があります。原子力は、それゆえ、
環境適合的な電源ではありません。
一方、石炭は、大気汚染を引き起こす上に、最新鋭のものであってもLNGに比べ大量の二酸化炭素を放出します。それゆえ、
世界は石炭への投資を控えるようになっています。資源として存在していてももはや使うことができない資源となるということが予想されています。
こうした資産をストランデッドアセットといいます。座礁資産とも申します。原子力発電と石炭火力発電を
前提としない
エネルギー政策が構築される必要があります。
四ページ目です。
この観点からすると、政府において作成されようとしている
エネルギー基本計画には問題が多いと感じております。このままでは、
社会を誤った方向に導くのは明らかです。
例えば、まず冒頭に、原子力に関して誤解を与える表現があります。
エネルギー基本計画には、避難、被害者に関して、避難指示を受けている者を
対象にということで二・四万人という記述がございますが、現在の、調べましたところ、福島県の即報値で四万六千人いらっしゃいます。それは明らかに過小評価を、誤解を招くような表現ではないかというふうに私は非常に懸念しております。
更に言えば、次ですが、四ページ目そのままですけれども、原子力に関してこのような記述がございます。これは福島原発事故とほとんど全く変わってございません。このような
位置付けであれば、原子力は使い続けましょうということになります。しかも、このようなことは
日本以外に聞いたことがございません。原子力は、本当にこのような理想的な
エネルギー源なのでしょうか。
全ての問題点をここでは申し上げられませんが、原子力の
位置付けのところで放射能汚染の現実は触れられておりません。また、事故の現実やリスクについても触れられておりません。さらに、準国産ということに関しましては、高速増殖炉の開発は政府によっても中止され、もはや準国産ということは言えません。そもそも、準国産というような
経済的な財はないのであって、用語自体が非科学的です。また、運転コストが低廉ということについても大変疑問です。
次のページです。
五ページ目ですが、有価証券報告書や国の予算書などを基礎に実績値を計算いたしますと、火力や水力に比べて原子力は最も高い電源でした。つまり、原子力は最も不
経済です。そもそも東芝が経営危機に陥ったのは、原発の建設費用が高騰したためです。運転コストが低廉の一言で済ますのは全く理解できません。
六ページ目です。
原子力に典型的に見られますが、
エネルギー基本計画は認識の誤りも数多く含まれています。にもかかわらず、その誤った認識を
前提に発電量に占める原子力の割合を二〇から二二%にするというのです。
ごく簡単に試算いたしますと、七ページ目ですが、二〇から二二%にしようとすれば、運転期間を二十
年間延長し、さらに二〇三〇年の時点で、可能性のある原発を全て再稼働させなければなりません。これは計画時点で不可能、ないし控えめに言っても非常に困難な、野心的過ぎる目標です。
八ページ目です。
他方、
再生可能エネルギーの目標は二二から二四%とされていますが、これは低すぎる目標です。二〇一二年の固定価格買取り制導入以降の伸びをそのまま延長したとすれば、これは水力を除いてございますが、二〇三〇年を待たずして達成できてしまいます。原子力については野心的過ぎ、
再生可能エネルギーについては過小です。
このように、
エネルギー基本計画の内容は非常に問題が多いと考えております。このままの内容で
エネルギー基本計画を定めるべきではございません。
最後に、気候変動問題と
エネルギー政策の手法、これに関連して、省
エネルギー政策の問題点について述べさせていただきます。
さて、気候変動問題は、
エネルギー政策と
環境政策が統合的に実施されなければ解決できない最重要
課題の一つです。
九ページ目を御覧ください。
二〇一五年十二月に策定されたパリ協定では、
産業革命以前から
気温上昇幅を一・五度ないし二度未満にすることを求めています。そのためには、できるだけ早めに
温室効果ガスの排出量を
世界的にゼロにする必要がございます。
十ページ目、御覧ください。
原子力や石炭は持続可能な観点から除外されますので、排出量をゼロにするためには二つの考え方の組合せが必要です。第一に、
エネルギー源を
環境負荷の小さい
再生可能エネルギー源へと転換すること、第二は、
エネルギー消費量の絶対量を大幅に減らしていくことです。再エネについてはここでは割愛いたしますが、まだ審議には入っていないと聞いております海洋
再生可能エネルギー発電
設備の整備に係る海域の利用の促進に関する
法律案については、
事業者の後押しをする観点からも早期の成立が必要というふうに私は考えております。
さて、十一ページ目ですが、
省エネルギーについて述べさせていただきます。
これは、
エネルギー消費量が少なくなれば再エネで賄うことも容易になり、また
温室効果ガス排出の大幅
削減も可能になります。それゆえ、
省エネルギーというのは、
エネルギー・
環境政策の柱と考えます。
経済にとっても
省エネルギーは大変よいものです。というのは、
エネルギーに掛かっていた費用を節約できるからです。
省エネ対策の多くは、投資費用を節約金額が上回ります。マイナスの費用、言い換えれば、利益が生まれるのが
省エネルギー対策です。多くの
研究において
省エネルギー対策は最も
経済効果が高い
対策として捉えられております。
十二ページ目を御覧ください。
政策を進めるに当たっては幾つかの手法がございます。ここでは、
環境・
エネルギー政策の手法について四点申し上げます。
第一は、義務や命令を含む規制的手法ないし直接規制。第二は、国や自治体などの公共的主体と民間
企業が一種の契約を結んで実施する協定、ないしは公害防止協定ですね。第三点は、
環境税や排出量取引などの
経済的手法。第四は、
事業者が自主的に
環境目標と施策を定めて実施する自主的
対策です。
日本は、高度
経済成長期に生み出した公害問題を対処するために、協定や直接規制が主に取られ、大きな成果を上げてきました。これらの手法は
企業に対して強制力が働くために、
環境上の目標達成が容易となります。また、
環境上の目標達成だけでなく、規制を満たすために技術開発が進み、かえって
経済的にも利益を生むということもございます。
近年は、直接規制に加えて、
環境税、排出量取引などの
経済的手法が
世界各国で取り入れられて
効果を上げています。しかし、残念なことに、
日本では限定的にしか
使用されておりません。
また、第四の自主的
対策も広がっていますが、各国では拘束のある協定と組み合わされて目標達成が担保されているところが多いと私は認識しております。つまり、自主的
対策といっても、
事業者の自由に任せていては
対策が進まず、
経済的
効果も生み出されないということです。
十三ページ、御覧ください。
その上で、
日本の省
エネルギー政策について申し上げますと、省
エネルギー政策は大きく三つに分かれてございます。第一に
事業者、運輸業者、
荷主の
省エネ、第二には
建築物の
省エネ、第三に自動車と機器の
省エネです。今回の
改正案が第一の事業所、運輸業者の
省エネ中心であることから、この点について述べさせていただきます。
現行の
政策には幾つかの問題点がございます。十四ページ目、御覧ください。
まず第一点目に、自主計画であるということです。言い換えれば、
事業者、運輸業者、
荷主に対しては、
省エネルギーについて義務や目標が与えられていません。そのため、実効性が弱いです。第二に、国に対する内容や計画は国民に対して公開されてございません。そのため、国民によるチェックも、また
研究者を含む第三者によるチェックも行うことができません。これでは、
事業者ができると思うことを報告するだけになってしまいかねません。
政策としては非常に緩い方法であると考えます。
今回の
改正においてもこの構造は変わってございません。つまり、あくまで自主計画であり、内容の公開もされないままです。これでは大幅な
省エネは期待できないのではないかというふうに懸念しております。
十五ページ目です。
さらに、今回の
改正では、問題となるのではないかと思われる内容も含まれてございます。それは
対策の柔軟化というようなもので、これによって
複数連携が可能となり、
事業者によっては、言わばどこの
削減にしてもよいということになるおそれがございます。これでは
エネルギー消費の実態が
政策決定者にも分からなくなってしまうのではないかと考えております。むしろ、これまでの
対策をより
強化して、
エネルギー消費量は個別事業所ごと、
個別工場ごとに燃料別に報告を義務付けて、これを公表するような方向で
改正がされるべきではないかと考えております。
次に、
運輸部門についてですが、今回の
改正によって、
荷主と、
ネット小売
事業者が追加されるとともに、準
荷主として荷受け側が追加されます。実態を踏まえて
対象範囲が
拡大されることについては評価できます。とはいえ、元々
運輸部門の
省エネ対策も自主的なものにとどまるのであって、根本的な
改善策にはなっていないのではないかという懸念がございます。
それでは、より根本的な施策というのはどういうものなのかということを述べさせていただきます。
十七ページ、御覧ください。
第一に、
エネルギー消費量、燃料種別の消費量などの情報は、
会社単位、
工場単位、プラント
単位で報告させるべきです。これによって初めて適切な
政策を取るための情報が得られるようになります。現行の
制度や
改正省エネ法では、大
規模事業所
単位、
会社単位で一括して報告するとされております。これでは不十分です。
第二に、報告内容を国民に公表すべきです。業種によって
エネルギー消費量の態様は異なります。これが分かるよう、丁寧に公表させるべきではないかと考えております。
時間がございますので、二十一ページ目に飛んでいただきます。
次に、より根本的には、自主計画ではなく、
削減義務を含む規制へと転換すべきです。
二十二ページ目です。
大野さんがいらっしゃる前で恐縮なんですけれども、例えば
東京都では
エネルギー消費の
削減義務化に踏み込んでおり、情報も一部の業種で公開するようになってございます。これによって
企業の
対策が進み、
基準年に比べて、
削減義務一五%から一七%であったところ、二〇一六年には平均で二六%の
削減を達成してございます。
二十三ページ目です。
国レベルでは、
省エネ率の向上は遅れておりまして、
東京都に比べて進んでおりません。国の
政策で
日本社会の
省エネ化を進める必要がございます。
以上、簡単に大きく三点に分けて御説明いたしました。
現在は、
環境の持続可能性の観点から
エネルギー政策の抜本的な
見直しが必要な時期にあると考えております。
省エネルギーは
環境政策上極めて重要な施策でありますところから、より抜本的な
制度改正が必要と考えます。
これで
意見の陳述を終わります。この度は、貴重な
機会をいただきまして、誠にありがとうございました。