○
武見敬三君 これからますます
事態が緊迫していく中において、こうした漁業権をめぐる争いに関わる
我が国の対応、やはりしっかりと守るべく立場で御指導よろしくお願いしたいと思います。
その上で、実際、今度は漁民を解放し
北朝鮮に帰すという話になってまいりますと、一体どこを窓口として選択をし、
北朝鮮に帰すそうした交渉をするのか。そして、その過程というものが今後の
北朝鮮との様々な交渉を進める上において一体どういう意味を持つことになるのか。非常に、実は
危機管理の基本であると同時に、長期的な
北朝鮮との交渉というものをどう進めるかという上においても大事な意味を持ってくるだろうと思います。
是非、こうした当面の
危機管理の観点と中長期的な
北朝鮮との間の様々な交渉の在り方を考えながら、そしてまた、それらの窓口が不必要にまた
北朝鮮の軍事力をかさに掛けて
我が国に
圧力を掛けるような窓口に逆にならないように、相当慎重に考えながらこうした返還のための
手続、交渉もしていかなければならないんだろうと思います。その点についての御配慮もよろしくお願いを申し上げます。
その上で、今日の本題の国家ビジョン、一についての質問をさせていただきたいと思います。
実は、
我が国はもう本当に大きな内政上の曲がり角に入ってまいりました。
総理は、選挙のときにも二つの危機を指摘されて、そして、こうした
北朝鮮の核の危機というものと同時に、少子高齢化、そして人口の減少というものを通じて、
我が国の国内における危機があるということを御指摘になりました。私は全くそのとおりだと思っております。
要は、こうしたその少子高齢化、人口減少というものを通じて、
我が国が真綿で首を絞められるような形で実際に衰弱をしていく過程が現実に見て取れる。これをどのようにして活力のある健康長寿社会に組み替えていくのかということが非常に大きな課題になってきているように思います。
その中で、実は歴史をたどってみますと、
総理のおじいさまでおられる岸信介
内閣のときに、一つのモデルとしての異次元の
政策パッケージをつくって、そして戦後の荒廃から改めて日本の社会をどのような社会にするかというビジョンを持ちながら、こうした
政策パッケージをつくって成功した歴史が日本にはあります。
これをちょっと御覧いただきたいと思いますけれども、(資料提示)明らかにその実現すべき目標とされていたのは、健康で教育レベルの高い中産階級社会というものを実現しようとされていた。したがって、その経済十か年計画に関しても、従来、経済成長だけが目的であったものが、所得の増加、後にはこれは所得倍増計画になっていきますけれども、
国民の所得の増加を経済
政策の要の中に一つ入れ込んだというのも実はこの時期であります。
それから、また同時に、所得税の累進課税率を七五%まで引き上げて、そして
政府の所得分配機能というものを強化したのもこの時期であります。そしてまた、雇用者保険であるとかあ
るいは生活保護といったような制度についても、実は充実させたのもこの
内閣なんです。
さらには、医療保険を見てみますと、健康保険法の改正や
国民健康保険法の改正を通じて、三千五百あった保険者の中で、いずれも診療報酬の改定については、同一の診療報酬の改定基準を当てはめることによって、どの保険者に属していても同じ給付サービスが受けられるようにしたのも実は岸
内閣であります。その結果として、一九六一年に
国民皆保険制度というものが完成をしました。その時期、実は
国民年金法の改正も行っていて、同時に
国民皆年金制度も達成したわけであります。
これら、いずれも非常に複雑な異次元の
政策を組み合わせてつくり出されています。しかも、そのタイミングは絶妙でありました。
次、お願いをいたします。実は、これは民間の方であります。
総理は、今、経団連などを通じて民間の企業に賃金の引上げを求め、さらには働き方改革というのを求められておられますけれども、実際にこの時期、言うなれば、夜汽車に乗って
上野の駅に到着した若者たちが金の卵と呼ばれて、若い労働力が非常に重要視された。そして、それを受けて企業も安定した雇用機会を確保するために、終身雇用制、年功序列といったような仕組みもこの時期に定着をした。この結果として、同時に、給与の体系を見ても、これは十人以上の民間の企業で官公庁の方は除いた賃金格差を示したグラフなんですけれども、高度経済成長期の一九六〇年代、七〇年代を見てみますと、こういった民間の企業の給与体系の中で、言うなれば
社長さんの給与と一般サラリーマンの給与の格差というものがむしろ縮小しているんですよ。多くの欧米の企業などを見ていくと、こうした経済成長がする時期になると、確実に企業の中で
社長の給料と一般社員の給与というのは物すごい勢いで拡大をしていった。しかし、日本のこうした企業の賃金体系や雇用関係というものは、そうはさせずに、それをむしろ抑制する
効果を持つような、そういう制度を導入した。
このような
政府の所得分配機能の強化と、そして民間のこうした人事やあ
るいはこうした給与に関わる制度設計というものが相まって、
我が国はこの高度経済成長の時期においても貧富の格差というものを抑制したという、誠にもって優れた経験をしております。
次、お願いをいたします。これを見ていただくと、そのタイミングが絶妙であったことが分かります。すなわち、一九六〇年前後、高度経済成長に入る前、東京オリンピックの前の
段階でこういった
政府の仕組みをつくり、民間も連動したことによって、この東京オリンピックを契機として一気に高度経済成長に入った時期において、見事に所得の再分配機能というものが発揮をされて、そして貧富の格差抑制にその
効果を持ったわけであります。
次をお願いをいたします。次のグラフは私の大好きなグラフで、これ世界中で宣伝して回っているんですけれども、これは所得の格差を示したジニ係数なんです。これを見てみますと、このブルーの折れ線グラフを御覧いただきますとお分かりになると思いますとおり、一九六〇年代、七〇年代というのは、言うなればこの所得の再分配
効果が非常にうまくいって、貧富の格差というものがむしろ縮小をしているんですよ。こんな国、今ありません。
今、多くの国が、中進国あ
るいは最近の発展途上国の中でも経済の成長を謳歌する国がたくさん出てきました。しかし、それらの国々は、いずれもこうした官民連携した所得分配機能をつくることに失敗をして、こうした所得の分配ができずに実際に貧富の格差が広がり、それが社会問題になり、政治問題になっている。
中国なんか、ある意味でその典型的なところでもありますけれども。
こういったようなことが日本で起きなかった。起きなかったのは、ほっておいてもこうなったんじゃないんです、皆さん。これはやっぱり
政府がきちんとしたそういう方針を持って、そして異次元の
政策パッケージをつくって、そして民間と連携してこうした大きな所得分配のシステムを国の中につくり上げたからこそ、このように高度経済成長時期においても、
我が国はこうした健康で教育レベルの高い中産階級社会を実現をして、この国の安定化を成功させたわけであります。私は、我々の先輩のやったことは見事だったと思いますよ。しかし同時に、これは一つの大きな曲がり角に入ってまいりました。
次、お願いをいたします。これは人口動態の変化であります。この成功例の後、やはり一九九〇年代の中頃、九六年ぐらいが一つの分岐点になっています。これはちょうど、ここにありますように、高齢化率というものとそれから出生率というものがちょうど行き交うときです。出生率の方が高ければ人口は増えていく、高齢化率の方が高ければ人口は減っていくんです。この場合に、出生率が低くなって高齢化率が高くなったというのがこの九六年前後なんです、皆さん。ここが一つの私は戦後の時代の大きな転機だったと思います。
そして、それを受けて、二〇一三年頃から
我が国の人口は減り始めた。そして、この
状況下において、改めてどのように社会の活力をつくり直すか、そして高齢化の中においても、実際に社会的にも経済的にも活力のある健康長寿社会をどうつくるかということが実は大きな課題になってきたように思います。
私は、
総理、いろいろなことをやって、非常にこの時代
状況の中で新しい指導力を発揮していただいていることについては私は本当に敬意を表したいと思います。実際に、最初の
安倍内閣の中で出された三本の矢、それから新三本の矢、それからさらに一億総活躍、そしてさらに今度は生産性革命から働き方改革、そして全世代社会保障、そしてさらには人生百年構想というふうに、いろいろと構想や新たなスローガンをお出しになっているわけですよ。
ここで、
国民が今知りたくなっていることは何かといえば、こういう新たなこうした様々なスローガンや構想を打ち出しておられることを通じて二十一世紀の日本の社会というものをどのような社会にしようとされているのかという大きな枠組みが私はまだ十分形成されていないというふうに思います。
その点について、実際に、それぞれの構想については私は賛同するものが大変多いんですけれども、それを通じて
総理は一体この二十一世紀、日本の社会というものをどのような社会にしたいとお考えになっているのか、この大きな視点からの御
所見をいただきたいと思います。