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参考人(土屋俊亮君) 土屋でございます。
私、
北海道庁で長く農政に携わりまして、この三月末まで農政部長として
酪農、畜産に携わってまいりました。昨年来、国におきまして
生乳流通に関する
議論がなされてまいりましたことから、
北海道庁といたしまして道内の
関係の皆様の御
意見も伺いながら国に要請等を行ってまいりましたけれども、本日は、そうした要請も踏まえまして、この度の改正案に対する
意見を申し上げます。
資料を用意してございますけれども、まず、現行
制度に対します基本的な
認識についてでございますけれども、御承知のとおり、この
制度は、輸送コストの削減とか
条件不利地域の
集乳、あるいは乳価交渉力の
確保、飲用向けと
乳製品向けの調整といった機能を発揮してございます。
北海道では、東側の釧路や根室あるいは北部の稚内などでは冷涼な気候で、米はもとより畑作物も栽培はできないわけでございますけれども、一方で、草やデントコーン、飼料作物は作付けが可能ということで、道東あるいは道北など
条件不利な
地域を主体に全道で
酪農が営まれております。その
酪農は現行
制度が発揮しておりますこうした機能を通じて健全な発展を遂げておりまして、全国の皆様に品質の高い
乳製品を安定供給しているところでございます。
そうした中、
北海道の
農業の粗
生産額は
平成二十七年で約一兆二千億円ございますけれども、
都道府県別では第一位ですが、中でも
酪農の産出額はその
北海道の
農業全体の約四割を占めてございます。部門別の首位でございます。また、
生乳の
生産量も国内の五三%を担っておりまして、年々そのシェアは高くなってございますけれども、その
加工を行うために乳業の大手四社だけで道内に二十一の工場が立地してございます。
また、
酪農は、そうした乳業のほかに餌の製造販売、あるいは畜舎や搾乳機などの機械施設、さらには輸送など裾野の広い関連産業を持っておりまして、雇用や経済も含めて、
北海道にあって
酪農はまさしく
地域そして人を支える
北海道の基幹産業であるということでございます。
そのために、この度の
畜安法の改正に当たりましては、その
酪農を基幹産業たらしめております現行のこうした機能というのが引き続き適正に発揮されておりまして、今後とも
地域と人を守るものとしていくということが大事であるというふうに考えてございます。
次に、具体的な
意見としまして、まずお手元の資料の①でございますけれども、私が大学を卒業して畜産職という職種で
北海道庁に入りましたけれども、それは一九八〇年、昭和五十五年でございました。当時は、昭和四十一年に施行されたいわゆる暫定措置法に基づく
不足払い
制度が講じられてから十数年が経過して、その前の時代を知る職場の先輩とか
地域の
酪農家の
方々からお話をお聞きすると、一昔前までは乳業による
酪農家の獲得競争、あるいは囲い込んだ
酪農家に対して今度は乳価を値切りするとか、
地域も含めた混乱が続いて大変だったんだわとよく聞かされたものでございます。このことは、ある乳業会社が取りまとめた「
酪農風雲録」という本があるんですけれども、そこで
北海道編、府県編ということで、国を取り合うまるで戦国時代のような様子というのが生々しく記されてございます。
こうした混乱の経験を経て、多くの先人の皆様が御苦労されて、暫定措置法に基づいて
指定団体制度というのが創設されたわけでございますが、
制度の果たす機能の発揮ということで、
酪農の発展、そして
乳製品の安定供給が図られてきた。特に、前段申し上げた
北海道にあっては
酪農が大きな産業に成長したということでございます。
こうした措置が、この度、暫定措置と名の付く
法律から畜産物の
需給、そして
経営安定を目的とする
畜安法に恒久的
制度として位置付けられるということは、まずもって私ども評価をしたいというふうに考えてございます。
一方で、今回の改正には、
生産現場から、
生乳需給への影響とか、正直者が損するような不公平な仕組みにならないのかというような不安や懸念の声も多くあるというのも事実でございます。ここを踏まえて整理していかなくちゃいけないということで、各論について
意見を述べさせていただきます。
まず、②についてでございますが、今回の
法案では、
補給金の
交付を受ける
基準として、
年間を通じた
用途別の
需要に基づく
安定取引であるかどうかを国が
確認するとしております。
生乳の
生産量については、猛暑になれば落ちる一方で、飲用の
需要は逆に上がるといった気象
条件による変動、そればかりではなく、夏休みとかゴールデンウイークあるいは年末年始には、飲用
需要の約一割を占めております学校給食がなくなります。そういうことで、
生乳需給というのは常に変動いたします。また、最近では、年末年始のテレビ番組が飲用乳の効果というのを放映したらば、飲用乳の急激な
需要増加もあったところでございます。
そういう中で、新
制度の
確認に当たりましては、飲用の不
需要期に余った
生乳を
加工用に処理するといったような場当たり的な対応を排除していくためにも、できればゴールデンウイークとか年末年始とかということで、月ごとというよりは月の旬別、上旬とか中旬とかということで、そこの
計画及び
実績を
確認してはどうかというふうに考えてございます。
また、その際、
計画と
実績についてぴったりという形にはならないでしょうから、その差の許容範囲、アローアンスについては、補助金の適化法上の
計画変更の
基準値などを
参考にしながら
基準を設定した上で
確認し、無責任な
計画は認めることのないように、また、場当たり的な
生産の
実績には
補給金が
交付されることのないような
条件付け、それを国でしっかり対応していただきたいというふうに考えてございます。
さらに、一般的な補助金と同様に、仮に不適正な受給が発覚した場合、それについては補助金を戻すというだけじゃなくて、発覚後の
一定期間についてはその
事業者について
補給金の
対象にはしないといった措置も講ずるべきだというふうに考えています。
また、こういった
確認に伴いまして国の事務というのも増えてくるんだと
思います。どうも現在もALICを通じながら受託等をしている部分がございますけれども、それに係る受託の予算とか人の対応等含めて、国にしっかり対応していただきたいというふうに考えてございます。
③についてでございます。
生乳の取引というのは民間対民間の契約ということで、
酪農家と取引の相手、そして両者の合意が最優先されるというふうに理解をしてございまして、全量無
条件委託であっても部分
委託であっても、両者が合意をすれば問題ないものと思ってございます。
ただ、
生乳は、栄養豊富であり腐りやすいとか、商品化するためには必ず
乳業工場等で
加工される必要があるとか、そういった特性がございますことから、基本的には全量無
条件委託とした方が効率的ではありますけれども、一方で、
酪農家の
選択肢を増やすというところは所得の向上につながる可能性もあろうかというふうに思ってございます。
例えば、ほかの農産物、米なんかでは、何割を農協に出荷する、残りの何割については自ら消費者の
方々に直接販売をする、そして何割を外食等に販売するというような形で、
農家あるいは
地域ぐるみで、その御意思に基づいて出荷、販売が行われてございます。そして、それぞれの取引相手と
関係構築をしながら、そこを切磋琢磨しているわけでございますけれども、
酪農の世界でもそうした緊張感も持ちながら切磋琢磨できる環境を用意してよいというふうに思ってございます。
ただ、その際、二ページ目になりますけれども、いわゆるいい
とこ取りを排除するために、
指定団体等が取引を拒否できる場合の規定、今農水省の方でも五つほど
条件等を考えられているというふうに聞いてございますけれども、例えば
酪農家と農協など、取引相手の契約に際してその
判断というのが人によってぶれることのないように、具体的な例えば受託規程とかあるいは契約を例示したような事例集というようなことを作成、配布するなどして丁寧な対応をすべきというふうに考えています。
また、
酪農家と取引相手の契約については、場当たり的な対応を防ぐためにも、少なくてもやっぱり基本は一年以上、
年間契約という形で、
事業者の
方々が
計画実績を
判断する以上、一年以上あるいは米等で見られるような複数年契約というものも必要なのかなというふうに考えてございます。
なお、
北海道の現行の
指定団体、まあテレビ番組でも取り上げられたこともございますけれども、ただ、全ての
酪農家の
方々に詳細な
指定団体情報を毎月配布したり、プール乳価の下でも、例えば乳脂肪など固形成分が高い
生乳とか、体細胞、細菌数が低い衛生的な
生乳等は高い値段を設定するということで、プール乳価でも上下比べるとキログラム当たり十円以上の差があるということで、
農家の
方々の
経営改善努力、乳質改善努力を促すような仕組みになってございます。また、乳量に対しては、高値販売をしていく努力とか自ら手数料の低減をしていくというような努力を続けております。
しかしながら、一方で、最近、
団体がそういった詳細な情報を毎月送っても、受け手の
酪農家側が、えっ、そんなの知らなかったというようなこと含めてそういった事案も
発生をして、それが問題になったということもございました。改めてコミュニケーションの大切さというのが課題になってございます。私としては、
酪農家の
皆さんとの、
団体との不断の対話など、
指定団体として努力を積み重ねていく、また、
団体としての力を最大限発揮をして、
酪農家にそれをメリットとして還元していくということで、今は全量無
条件委託というのは
制度をもって
酪農家に義務付けているわけですけれども、そうではなくて、
選択権を持った
酪農家が自らの意思であんたのところにやるということを選ばれるということを期待しておりまして、また、そうしたことはそうした努力を積み重ねるということで必ずできるんではないかというふうに信じてございます。
また、同様の努力の積み重ねということで、各府県にあっては、県ごとの歴史的な経過もございましょうが、多層構造の解消あるいは効率化の進展ということで、将来的には、現行全国で今十あるわけでございますけれども、更なる広域化ということにつながっていくことを併せて期待しております。
さらに、ちょっと資料には書きませんでしたけれども、現行の暫定措置法では、
生産者の積立金契約を結んだということが
補給金の受給
条件になってございます。その発動が
平成十六、十七、十八と三か
年間ございましたが、それは乳価が下がったときなんですけれども、最近ではここ十年以上発動してございません。これが、今回の
法案では触れてございませんけれども、
需給が緩んで価格低下になった場合のセーフティーネットとして、この取扱いというのは今回の改正法には書いていませんけれども、早く整理していく必要があるというふうに考えてございます。
それから、④でございます。集送
乳調整金ですが、今回の改正法では二段階となります補助金のうち、集送
乳調整金に関しては、業務を適正かつ確実に実施できる、あるいは
定款等で一部
地域の
酪農家からあまねく
集乳を行う旨が記載されている者のみに
交付されるとなってございます。
北海道では、道東とか道北、
酪農の盛んな
地域では消費地から遠いわけでございますけれども、新たな
制度がより良いものになるためには、そういった
地域からもあまねく
集乳するということが、
定款等で
確認するのみならず、遠隔地とか例えば小規模な
酪農家に対しては、不当に安い乳価を提示をしたり貯乳タンクなど新たな設備投資を
条件とするなどして、定款ではちゃんとやるよと書いていても実質的には
農家の方から断らせるような、そんな形でやる者は
指定されないような仕組みの整理というのが必要じゃないかと思ってございます。
また、あまねく
集乳ができる能力あるいは実行力ということで、例えば十分なローリーを所持しているとか、運送業者との契約を結んでいるかなど、業務を適正かつ円滑、確実に実施できる者のみが
指定されるような整理を併せて
お願いしたいというふうに考えてございます。
以上が大きな点ですが、最後にそのほか三つ申し上げます。
昨年十一月の
農業競争力強化プログラムにおきましては、公取は、不当廉売など不公正取引について徹底した監視を行うとございます。
今回の改正には、
牛乳を廉価販売することで
生乳を処理していたものをなるたけ
乳製品向けにするというようなことの意図があると
思いますし、
指定団体あるいは乳業が切磋琢磨できるような環境を維持するように、公取には量販店等への適切な対応を
お願いしたいというふうに考えてございます。
また、
北海道は昨年夏、三つの台風が直撃をいたしました。また、その直後の四つ目の台風十号については、直撃はしませんでしたけれども、
北海道の南側をかすめて河川の氾濫あるいは農地の流亡など、全道で甚大な被害が生じました。この被害は飼料作物にも及びまして、その収量、品質低下などから、それまで順調に回復していた
生乳生産、これも去年の八月以降停滞をして今に至っております。
こうした中、現在、
関係者一丸となって復旧復興に努力しておりますが、搾乳ロボットの導入とか放牧
酪農の推進あるいは草地の植生の改善そして乳牛の長命連産化ということで、そうした低コスト化、
生産性の向上にも努力しているところでございます。
今、TPP11なども検討されている中で、産地の努力の後押しのためにも、いわゆる畜産クラスター事業とか
酪農の働き方改革予算そして草地の基盤整備など、
生産基盤の強化に向けた力強い施策を
お願いしたいというふうに考えてございます。
最後でありますが、改正法が
成立した場合についてその施行期日は来年の四月一日を
予定しているというふうに聞いてございますが、施行まで時間が限られるという中で、
酪農家の
皆さん、取引相手と契約する必要がございます。このため、国におかれましては、
成立した場合には、全国の各
地域で
関係者への
説明会を開催する、あるいは先ほど申し上げた具体的な事例集などを作成、配布などしていただくことで現場の不安そして懸念を払拭をして、
生産者の
皆さんが、よし、あしたに向けて頑張っていこうというような形で意欲の向上につながる丁寧な対応をよろしく
お願いをし、私からの
意見とさせていただきます。
どうもありがとうございました。