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高山参考人 私は、
TOC条約の
早期締結に賛成する
立場です。それと同時に、この
法案には反対する
立場です。このような観点から、刑事法の専門家といたしまして、本日は四つの点についてお話をしたいと思います。
まず、第一点目です。今般のこの
法案の内容を見ますと、五輪開催のための
テロ対策をその内容としているものではないと考えます。
第一に、
テロの中でも、たった一人の犯人が行う単独犯の
テロの
計画、それから、継続した
団体のためではない、単発的な集団の
テロというのが射程に入ってきておりません。確かに、
テロは意図的に除外はされておりませんけれども、
テロの中の重要な部分はこの
法案の
対象からは初めから外れているわけです。
それから、五輪の
関係で申しますと、
東京五輪の開催が決まりましたのが二〇一三年の秋でございますが、この後に出されました政府の
犯罪対策の
計画の正式な文書でも、
犯罪の
準備段階で
処罰する立法の内容と、それから
テロ対策の内容とは全く別々の章に
規定されており、五輪招致が決まった後でも両者がリンクして論じられていることはありませんでした。
そして、
テロ対策については既に立法的な手当てがなされております。五輪の開催は二〇一三年九月に決定いたしましたが、二〇一四年に改正されました
テロ資金提供
処罰法の新しい条文により、
テロ目的による資金、土地、建物、物品、役務その他の利益の提供、これが包括的に
処罰の
対象に新しくなったわけです。これでほとんどの
テロ目的の
行為はカバーできていると理解いたします。これをもって五輪
対策は、事実上、
テロの観点で申しますと完了しているように思われます。
それからさらに、ごく最近の
最高裁判所の裁判例の展開を見ますと、詐欺罪や建造物侵入罪の
適用が大変広くなってございます。これは、以前に共謀罪
法案が
議論されていたよりも後の展開でございます。
例えば、通帳を他人に譲渡する
目的でもって自分の名義の銀行口座を開設する
行為が、通帳をだまし取ったということで詐欺罪。また、飛行機に他人を搭乗させる
目的で自分の買った搭乗券の受領を行う
行為、これも搭乗券の詐欺罪とされております。さらに、暴力団
関係者がゴルフ場を利用すると、ゴルフ場を勝手に使った罪ということで、場合により詐欺罪が成立する。暴力団
関係者が銀行口座を開設する
行為も、そうではないというふうに偽って通帳をだまし取ったということで、通帳に対する詐欺罪が成立してございます。建造物侵入の観点で申しますと、他人の暗証番号を盗撮する
目的で、誰でも入れるATMコーナーに立ち入った
行為、これが建造物侵入罪の既遂として
処罰されている。
というように、違法な
目的を持って何かを入手する
行為、これは
テロに限られません、違法な
目的を持って入手する
行為や、ある場所に赴く
行為、入っていく
行為というのがかなり広い範囲で、新しい裁判例によって
処罰の
対象になっているという面がございまして、
テロの
対策としては、かなり、
日本は諸
外国と比べましても広い
処罰範囲を既に有していると言うことができます。
次に、第二点、
TOC条約との
関係を申し上げたいと思います。
私は、
締結に賛成しますけれども、そのためにこの
法案を可決することには反対という
立場でございます。
条約に対する
各国の
参加の仕方というのにはいろいろございます。
確かに、
TOC条約は、五条におきまして、
参加罪あるいは結集罪と呼ばれる類型か、それとも共謀罪の類型か、どちらかのタイプを選んで、両方やってもいいんですけれども、
組織犯罪に対処してくださいということを求めています。しかし、この五条という条文だけを見て、それを形式的、しゃくし定規に全部
国内法化して
犯罪対象にしなければならないものではありません。
国連が二〇〇四年に公表しております、
各国のための参考資料としての立法ガイドという文書がございますが、この五十一項は、
参加罪や結集罪の制度か、共謀罪の制度か、その
一つの制度を欠いている国が必ずしもそれを導入する必要はないという趣旨のことを述べています。
条約の全体を見ますと、
各国は
組織犯罪対策として
国内法の基本原則に適合するように対処することを求めているのでして、憲法の範囲で対処してくださいということを言っています。
それから、一カ条のみを形式的に理解して、その内容を形式、しゃくし定規的に全面的に
国内法化することは求められていないわけです。例えば過失犯という類型を考えますと、過失犯というのは認識がないものをいいますから、それを
計画するということは論理的に考えがたいわけでして、懲役、禁錮四年以上の刑を含んでいたとしても、過失犯は、これは
条約は
計画段階での
処罰を求めていないということが明らかであります。
形式的な
適用は求められていないというものを示す一例といたしまして、共謀罪を
処罰している典型的な国であるアメリカ合衆国は、
幾つかの州の
刑法が共謀罪の一般的な
処罰規定を持っていないために、
処罰がない部分があるということを背景といたしまして、
条約に留保を付した上で
参加をしているわけです。共謀罪の包括的な
法制度がない、一部欠けているので、その部分については留保をして
参加するということを行っています。
日本にちょっと引き直して見てみますと、
日本には、明治以来の
組織犯罪対策の伝統である共謀
共同正犯という制度があるんですけれども、これは共謀罪ととても似ているものですが、
実行準備行為のところがより
限定的で、実質的な危険のある
行為でなければならないというふうになっていますので、例えばアメリカが留保ができるのであれば、
日本も留保はしようと思えばできると考えられます。
それから、
日本のこれまでの国際法上の対応でも、形式的に、
条約の一部分だけを見てそれに対処するということを行っていない例が
幾つかございます。例えば、海賊
行為の普遍的な
処罰を求めている
国連海洋法
条約というのがありますが、
日本はこの
条約を一九九六年に
批准しましたが、国内の対応の
法律である海賊
行為対処法を制定して海賊
行為処罰規定を導入したのは十年以上後の二〇〇九年でございます。国内の対処は後でもいいんですね。
それから、第一次安倍政権下の二〇〇七年に国際刑事
裁判所規程に
日本が
参加したときにも、国際刑事
裁判所規程の中には
犯罪の定義が非常に細かく広範囲にわたって
規定されているのですが、これに対応する
国内法の改正を行っての
処罰範囲の拡張というのは一切行っておりません。また、
対象犯罪については時効にかからないことというふうに規程ではなっているんですが、
日本では
殺人罪を除いて公訴時効の撤廃は行われておりません。なぜこれが問題ないのかといいますと、この規程の一条には、「国際的な関心事である最も重大な
犯罪」が管轄の
対象だからだと書いてあるからです。
要するに、一カ条だけ形式的に見るのではなく、
条約全体の趣旨、
目的を考慮して、
各国それぞれの
法制度に合った
対策をとればよいということになります。
そして、
国際協力の範囲を他国に合わせるために今般の
法案の可決が必要であると言われることもあるんですけれども、
日本の
現行法の
処罰は既に他国よりも広範なケースが多いのであります。例えば、共謀罪のある国でも、抽象的危険犯や
予備罪などの
処罰が
日本のように広く行われていない国もございます。また、結集罪、
参加型の立法を行っている国で、そもそも
団体の結成の当初からの
目的が
犯罪でなければならないというふうに
限定している国、あるいは
予備罪処罰がそもそもないといった国では、かなり
処罰の
対象は大幅に
限定されているわけです。
そこで、
日本がこの
TOC条約を
締結するに当たっても、いろいろな
方法が考えられます。
海賊の場合と同じように、先に
条約を
締結してしまってから
国内法の内容については慎重に考えるということもあり得るでしょう。
先ほど
小澤参考人から、
各国の
大使によって、なぜ
日本が
条約に加盟しないのかが理解してもらえないというお話がありましたが、当然だろうと思います。ほかの国の方から見れば、
日本はこの状態ですぐに
条約に
参加できると見えるからではないでしょうか。
それから、立法ガイドの監修に当たりましたアメリカ・ノースイースタン大学のニコス・パッサス教授という方がいて、私と同じ学会に所属しているメンバーなんですが、この方にお聞きしましても、
条約への
参加の仕方はいろいろあるので、まずその
条約を
締結して、その後で
国内法についてより改善していくというやり方も十分認められるというようなお答えをいただいております。
さて、今般の
法案の
対象が
限定されているのかどうかにつきましては、先ほど
井田参考人がおっしゃった問題でございます、これが第三の点です。
井田参考人は、私の聞き間違いでなければ、
最高裁判所の
平成二十七年九月十五日の決定の結論に反対のお
立場を述べておられたかと思います。集団が結成された当初の
目的が
犯罪でない場合、その集団の一部が詐欺を始めたという場合が問題になったケースなんですけれども、これに
組織的詐欺罪が
適用されるというふうにした最高裁の決定でございます。
もし、オウム真理教のように、当初は宗教
団体として、市民の
団体として結成されたけれども、一部の人たちが
犯罪を始めたといったケースに
適用をしないのであれば、当初の全体の集団の結成
目的が
犯罪でなければならないという
要件を課すことができるかと思います。しかし、含めようとするのであれば、
団体の一部が性格を
犯罪的なものに一変させた場合も
対象に含めざるを得ません。一般人の通常の
団体として結成された場合は除外できないことになります。
それから、
犯罪の
計画につきまして、これも、
計画というのは
行為であるので、それを具体的に事実認定できなければならないということが言われましたけれども、その
計画の成立
自体が黙示の合意、順次的な合意、未必的な故意による合意を全て含むことが従来の判例からは推測されますし、また、事実認定といたしましても、従来の
犯罪でも、何月何日何時何分に何が起こったというところまでの認定が要求されているわけではありません。
例えば、ある家の中から白骨化した子供の死体が出てきたということであれば、いつ、どのように亡くなったのかという詳細はわかりませんが、家族が遺棄して子供が死んだ、あるいは殺してしまったか、どちらかであろうということはわかるわけで、それで誰も
処罰されないということにはならないわけです。事実の認定は、それほど、神様が見ているような形で厳密に必要となるものではありません。
それから、最後の
実行準備行為でございますが、今般の
法案の条文の書きぶりは、構成
要件要素ではなくて客観的
処罰条件です。特段の
危険性がその条件として要求されておりませんので、外形的な
行為であれば特に
限定なく「その他」の中に全部含まれるという読み方ができるかと思います。
最後に、四番目に、本
法案の
対象犯罪が選別されているやり方が理解できないものであるという問題点を指摘したいと思います。
これは、法定刑が比較的軽い
犯罪が除外されているのではなく、そうではないんですね。特に
TOC条約との
関係で懸念される点が
幾つかございます。
まず、公権力を私物化するような
行為が含まれるべきであると思われるんですけれども、それが除かれている。公職選挙法、政治資金規正法、政党助成法違反は全て除外されております。それから、警察などによる特別公務員職権
濫用罪、暴行陵虐罪は重い
犯罪ですけれども、除外されています。
先ほど、
小林参考人から御経験のお話がありました。一旦その不当な取り扱いを手続の中で受けてしまいますと、これが正当な扱いに回復するまでには
相当の時間と労力がかかります。先日出されました、GPSを使った違法な捜査、これの最高裁の判断が出るまでに五年かかっております。そのほか、私が関与しました大阪風営法裁判のダンス営業
規制の
事件も、四年がかかって最高裁でやっと判断が出たということで、一旦強制権力などが使われてしまいますと、正しい扱いを受けられるようになるまでには
相当な時間がかかってしまいます。
ここ最近の
犯罪情勢は非常に好転しておりまして、一番
犯罪の多かった二〇〇二年から、最新の統計の二〇一五年までの違いを見てみますと、
犯罪の認知件数は年間当たり二百万件以上が減少し、四十数%にまで落ち込んでおります。これに対し、警察職員の人数は、同じ年間で二万人の増員になっています。本来ですと、そのふえた警察の人員は適切なマンパワーとして適材適所で使っていただかなければならないんですけれども、これがもし
濫用されるということになりますと、回復されるのに
相当な年数がかかってしまいます。
それから、公用文書、電磁的記録の毀棄罪などのような重大な
犯罪類型が除外されています。
もう
一つの類型は、
組織的な経済
犯罪が除かれている。これも
条約との関連では問題となる点です。一般に商業賄賂罪と呼ばれ、諸
外国で
規制が強化されてきているような、会社法、金融商品取引法、商品先物取引法、投資信託・投資法人法、医薬品医療機器法、労働安全衛生法、貸金業法、資産流動化法、仲裁法、一般社団・財団法人法などの収賄罪が
対象犯罪から除外されております。
また、加重類型も除外されているんですが、これはなぜなのかよくわかりません。加重類型が
計画された
犯罪なのかそうでないのかというのは、
テロ等準備罪と申しますか、
計画段階で
処罰する
犯罪の量刑にとっても重要なのですが、なぜ除外されているのか。しかし、
組織的
殺人罪や
組織的詐欺罪については除かれていません。加重類型なのに除かれていないのは、目立つからではないかと思います。
それから、主に
組織による遂行が想定される酒税法違反や石油税法違反なども除外されており、相続税法違反が除外されていて、所得税法違反は含まれています。
なぜこのようになっているのか。もし、過去に
適用のない類型を除外するというのであれば、重大な
犯罪も取り除くべきことになってしまい、不当な結論に至ります。そして、除外されずに残っている
犯罪の中には、例えば違法なキノコ狩りですとか性
犯罪のような、五輪とも暴力団とも
関係のないものが多数含まれているということです。
このような、内容が不可解な
法案にそのまま賛成するわけにはいきません。国民が理解できる合理的な
説明がなければ、やはり民主的な
議論というのはできないのではないでしょうか。
また、水道水に毒物を混入することを
計画し、実際に毒物を
準備した場合、これが
現行法上
処罰できないというふうな情報も流れているんですけれども、実際には、
殺人予備罪、毒物劇物取締法違反の罪、先ほど述べました
テロ資金提供
処罰法違反の罪がそれぞれ成立するのであって、やはり正しい情報を広く共有して、
社会の中で
議論して初めてよい
法律ができるものと確信しております。
以上です。ありがとうございました。(拍手)