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岩田参考人 皆様、おはようございます。
弁護士の
岩田と申します。東京
弁護士会所属です。
本日は
発言の
機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
私は
日弁連の司法
制度調査会というところの
委員をしておりまして、法制審に
委員、幹事として
出席していた
弁護士四名をバックアップするという
会議に参加しておりました。それと並行して、東京
弁護士会でも
消費者問題特別
委員会の
委員であります。また、
日弁連でも
消費者問題対策委員会の
委員だった時期もあります。そのようなことと、あと、業務上も
消費者被害事件というのを今まで多く扱ってきたという経歴があるものですから、
消費者保護目線で
債権法の
改正を見詰めてきたという経緯があります。その
観点から、しばらく
意見を述べさせていただきたいと思っております。
我が国の
民法ですけれども、適用の対象は抽象的な、人というところが伝統的な
概念になっていたわけですが、そのため、特に
消費者とか
事業者という
概念は取り入れられてきていませんでした。これは、
民法が
制定された
明治時代に
消費者という
概念などは乏しかったというか、ほぼなかったということが原因であると思われます。
しかし、
現代社会においては、資本主義の発展とともに、
契約者間の知識経験の有無の差というものが生じ、それに基づいて
経済的格差も生じ、
事業者でない者、つまり
消費者が
経済的弱者として
被害をこうむる
状況が顕著となってきています。そこで、特に
消費者を
保護するための立法の必要性が生じ、これまでもさまざまな立法が行われてきたという経緯があります。
ただし、
消費者保護を拡充しようと考える人の中でも、例えば
消費者契約法というものがありますが、そのような
規定を
民法の中に直接取り入れるということについては、必ずしも
賛成という
意見ばかりではありませんでした。
消費者契約法の一部だけをかいつまんで
民法に取り込むということは、
消費者保護の
観点からするとかえって薄れてしまうのではないかという疑念があったからだということがあります。
今般、
消費者契約法について
改正法がことし成立したということがありますが、これとは別に、
特別法と明確にすみ分けをするということで、まずは
民法、
民事法の根本法ですので、
民法の
範囲内で
消費者保護につながる
規定をできるだけ盛り込みたい、盛り込んでいただきたいということは強く望まれてきたところであると思われます。
その中でも、今回の
民法改正の
法案の中で挙げられている代表的なものとして、
保証人保護の
規定の話と、あと、
定型約款のお話について、特にお時間を割いてお話をさせていただきたいと思います。
保証に関してですが、今、
新里先生の方から詳細な御
説明がございましたので、私の方からお話しするのもちょっとはばかられるところではあるのですが、少しお話をさせていただきます。
改正の議論が始まったのがもう十年ぐらい前なわけですが、当初の学者案の中でも、また当初の法制審の中でも、
保証についての
規定をどれだけ盛り込むかということについては余り重視されていなかったと認識しています。ただ、
保証に関しては非常に重要なもので、
保証人を
保護するという
観点は重視しなければいけないというところがありましたので、
日弁連、特に
日弁連消費者問題対策委員会が中心になって、
保証人の
保護の
規定をぜひ盛り込んでほしいということで
意見を述べてきたという経緯があります。
これまでも金融庁の監督指針というものは存在していたわけですが、
民法においては、
保証契約は書面で行う必要があるということや、
貸し金等債務に関しては
極度額の
規定がある、あとは元本確定の
規定があるなど、ごく限られた
保証人保護の
規定しか設けられていませんでした。
しかし、御存じのとおり、今も非常に具体的なお話がありましたが、第三者が
保証人となるということに関しては、
保証人の
立場からすると、みずからが借り入れをしているわけではないのに負債を負ってしまう、それによって自己破産、一家離散、または自殺という本当に悲惨な
状況が発生するということがありました。もちろん主
債務者も、
保証人に迷惑をかけてはいけないということで同じように自殺を図ってしまうということは、今もお話をされていたとおりだと思います。
いわゆる
商工ファンド事件というものがありますが、これは、裁判所や公証役場などが
商工ファンドにうまく利用されてしまったということで多くの
被害者を出してしまった、
実務家としてはとても苦い経験になっていると思います。
これらのことを考えますと、一歩でも二歩でも、
保証人保護の
規定を設け、先ほど述べました
保証人において起こる、ひいては主
債務者にも起こるわけですが、悲劇を防止するということが非常に重要な
社会的施策だと考えております。
ですから、
保証人保護の
規定を拡充するというこの
改正の議論ということに関しては、積極的に評価をさせていただいております。速やかに成立していただいて、無用で安易な
保証契約というものが
締結されないように、
改正法が一刻も早く適用される
状況になり、さらに、これからお話しするようなさらなる
改正の契機としていただきたいと考えております。
詳細な
制度の
内容に関してはここでは多くをお話しできませんので、レジュメもお配りしておりますから
参考にしていただければ助かりますが、とにかく、今回の件では
個人保証の制限ということが特に重要な話になります。また、
個人保証ができるかできないかという話だけではなくて、
情報提供義務というものが設けられている、整備されたということは大きな前進だと考えております。
ただし、配付したレジュメでも書きましたが、
公正証書というものに関しては必ずしも十分なものではないという認識は私もあります。悪用されてきたという
歴史がありますので、悪用される危険性ということの存在を把握しながら進めていかなければならない。そのために、
保証人保護として十分であるかどうかというのは、今後も
公正証書のことは特に十分な議論をお願いしたいと考えております。
また、
配偶者に関しても、「主たる
債務者が行う
事業に現に従事している」という限定がついていますが、
配偶者も
公正証書なく
保証人になることができるということになっています。ただ、そもそも夫婦といっても、取締役でもない限り、経営者と言えるかというとそうではないわけで、
配偶者という地位だけで
保証人になってしまうということについてはまだ疑問が残っています。
これについて反対だという強い
意見もあることは存じ上げておりますが、私は反対とまでは言うつもりはございません。しかし、今後の将来の議論の中で生かしていくことということも
観点としてはあると思いますので、
配偶者を
公正証書なく
保証人とできることに関してはぜひ慎重な議論をお願いしたいと考えております。
次に、
定型約款に関してです。
定型約款に関しては、法制審の議論でも最終版に至るまで案が固まらず、当局と
経済界の間の折衝が続いたというお話を伺っております。
約款に関する
規定は、諸
外国では
明文化されているという例もある中で、我が国の
民法ではこれまで
規定がなかったわけです。
ただ、
経済的格差の中で優位に立つ
事業者の都合で
作成された
約款というものに不特定多数の
消費者が拘束されてしまうということは、何もこれについて
民法に
規定がなく認められてしまっているということに関して非常に問題があると言えます。
民法において
約款に関して
規定化されるという方向で議論されてきたということに関しては、これも積極的に評価をしております。
ただし、さまざまな折衝のもとでこの
定型約款に関しての
規定が
法案として上がっているという事情もあると思われますが、現在の
法案については、まだまだ今後もいろいろ発展していくこともあると思っておりますので、十分な議論、
審議をお願いしたいと考えております。
特に、
約款というものの中の一部に
定型約款というものが位置づけられるという
概念の
関係があると思われますが、そもそもの今まで言われていた
約款と今回の
定型約款というものの違い、区別、限界というものが明確かというと、必ずしもそうではないというところがあると言えますし、また、みなし合意の
規定というものも大分緩和されたものになっております。また、
定型約款の
変更の
規定に関しても、大分緩和された要件で設けられる方向に
法案がなっていると考えられます。
これらについては、やはりかなり緩くなってしまっているというところを重視して、このような
約款の
規定を設けることには反対だという
意見のあることも存じ上げているところではありますが、むしろ何もないことが問題なのであって、まずは議論を尽くして
明文化していただいた上で、さらに
実務の積み重ねを経た上でまた修正をするような形が理想的なのではないかと考えておりますので、
審議の中でも説得力ある御
検討がされることを期待しております。
その他でございますが、今般、
消費者保護に関しての
改正の議論というのが行われてきた中で、そもそもコンセンサスが得られなかったということで落ちてしまったものが
幾つかあります。
幾つかありますが、特に、ここでは
一つ、暴利行為というものを挙げざるを得ません。
暴利行為に関しては、いわゆる中間試案までは案としては出ていたんですが、
法案になる前で落ちてしまいました。
ただ、いわゆる
現代的な暴利行為論というものがあるわけですが、そのようなものの議論が深まる中で、暴利行為に関して知識経験のある
事業者が、暴利を追求するために
消費者を食い物にしてしまうということがやはり後を絶たないということがあります。特に、高齢者を狙った、例えば投資
被害とか不動産の投資
関係とか証券
関係の
被害とか、そういうものがありますが、これらは非常に金額も多くて、暴利につながるものだと考えています。これは、事件の
関係で扱っている
弁護士としては非常に頭が痛い、裁判所も非常に、冷たいと言ってしまっていいのかどうかわかりませんが、非常に頭の痛いところがあります。
このような悪徳
事業者に対抗しようということで、訴訟の手段を我々
弁護士としては用いるわけですが、
法律的に十分な武器が与えられているかというと、必ずしもなかなかそれが難しいところがありまして、暴利行為というのは非常にその
一つの手助けになる
規定だと思われていたので、
規定化されることを期待していたんですが、現在、残念な状態になっています。
将来にわたってまた必要な議論になってくると思いますので、その点も念頭に置いて
審議をしていただきたいと考えております。
また、詐欺の取り消しの場合に特にありますが、取り消しの後にどういう効果が生じるかというところで、原状回復義務というのがあるわけですが、原状回復義務に関しても、取得した利益を全部返すということになると、
消費者としては非常に
損害が大きくなるということがあり、現存利益に限られる
範囲で
消費者の利益が図られるということも十分考えられるところであります。
消費者契約法の中では盛り込まれたところでもありますが、
民法の中でも考えていただきたいと思っている次第です。
以上のとおりで、短い時間ではございましたが、
日弁連の中で中心に
検討してきた事項に関して、私
自身の見解も入れてお話をさせていただきました。
今後十分な
審議がなされますことをお祈りしまして、お話を締めさせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。(拍手)