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参考人(
岡部信彦君) どうぞよろしくお願いいたします。本日は、このような
機会をつくっていただきましてありがとうございました。
私は、元々は、本来は
小児科医なんですけれども、途中からWHOの
西太平洋地域で
感染症対策、あるいは今いる
川崎市の
健康安全研究所の前には
国立感染症研究所の
感染症情報センターというところにおりまして、
国内の
感染症対策、あるいは当時、
鳥インフルエンザとか
SARSとか、当時既に
エボラもありましたし、そういったものの
対策に従事をしていたというのがあって今回お招きをいただいたんじゃないかというふうに思っております。
私の方は、この色刷りの
資料の方がありますけれども、そこにある
感染症対策というのが
中心のテーマであります。
一ページ目のところの下の
スライドですけれども、これは、
感染症は今に始まったことではなく、古来から、天然痘は
仏教伝来とともにこれは
我が国に伝わってきたとか、
梅毒は新大陸の発見とともに
アメリカ中に広がり、
我が国には一五一二年。最近、ここ数年は
梅毒が
我が国で問題になっております。
ペスト、これも
アジア地域で発生したものが香港を経由して
我が国に来たといったようなことが明治の
時代にありました。この
ペストは最近
日本では見ない病気でありますけれども、マダガスカル島では
肺ペストが発生しているといったようなこともありますし、米国においてすら見られます。
最近では、このHIV、エイズ、それから
腸管出血性大腸菌O157、そして
新型インフルエンザ、二〇〇九年のですね、あるいは最近のはしか、風疹、これらは
海外で発生しているものが
我が国にやってきたものであります。そのほかにも、狂牛病、
SARS、
ウエストナイル、
鳥インフルエンザH5N1というふうに、数えるに枚挙ないぐらい多数があるんですが。
次、二ページ目をめくっていただきますと、上の方はここ最近数年間ということでまとめてありますけれども、この赤字で書いてあるパンデミックインフルエンザ、二〇〇九年から
中国で見付かった新しいダニの媒介する
ウイルス、昨年、韓国でということがキーワードで話題になりましたけれども、中東で発生している
呼吸器症候群、あるいは
中国では、
鳥インフルエンザH5N1のほかにH7N9というタイプが肺炎を起こしているというようなこと。そして、昨年の
エボラ。これで少し落ち着くかと思ったんですけれども、昨今、
ジカウイルス感染症というものが再び脚光を浴びてきております。
下の方は、地図上で、二〇一五年、昨年一年、こういったような新しい
感染症、あるいはなくなっていたかなと思ったけれども実はあちこちで発生をしつつあって、それが問題になっているといったようなものをばらばらばらっとこう書いただけでも、
世界中にこのような疾患が散っております。
幸い
我が国は、どちらかというと気候もそういう
意味では温暖でありますし、島国であるというような条件、それから人々の真面目さのようなものも影響して、余り
感染症というのは
海外に比べるとそれほどでもないというのがありますが、各地でこのような
状況が起きております。
めくっていただきますと、特に最近は、この上の方に書いてありますように、人と物が一気に動くわけですから、この真ん中のグラフにあるのは、これは
海外に行く人、それから、最近は
海外からの旅行者も多いわけですから、こういう人が集まるところでは
感染症というものは起きやすく、例えば
G7が最近開かれますが、その後、ラグビーのワールドカップであるとかあるいはオリンピック、こういったようなものは、人が当然やってくればそれとともに微生物がやってくる
可能性があるということで警戒が必要になります。
特に、ここに牛の絵が描いてありますけれども、これは狂牛病のつもりなんですけれども、人だけの病気と思われていたのが、動物の病気が人に伝わってくる。昨今、先ほどお見せしたような幾つかの新しい疾患はいずれも動物を起点にして人に広がってきているというのがあります。
ただ、こういう、下の方ですけれども、
日本を視点に置いた場合に、何かやってくるというのは非常に恐怖のように伝えられがちなんですけれども、その場合には、その病気がどのぐらい重いのか、あるいはうつりやすいのか、どういうタイミングでうつるかと、そういうようなことを直ちに情報を入手する必要があります。
情報を入手するということは現地とのやり取りが常に行われているというようなこと、それで、それは常日頃からやっておかなくちゃいけないことになるわけですけれども、ここに例えば重症で感染が広がりやすい、先ほど申し上げました
肺ペストなどというのが入ってきたら、これは一気に広がる
可能性があります。
エボラ出血熱は非常に大きい話題になりましたけれども、確かにかかれば重症でありますけれども、感染の広がりは
我が国の状態のようなところでは、これは血液からうつる病気でありますから、そんなに広がるはずはないはずです。
あるいは、比較的軽くて
感染症が広がりやすい、これはインフルエンザなんかが典型的で、
新型インフルエンザも同様にばっと広がるわけですけれども、基本的には軽いというふうに考えられても、感染の広がりが多数になれば、その中に、少数の割合であっても多数の重症者、死亡者が出てくるということで大変警戒をしなくちゃいけない部分があります。
こういったような
リスクを評価、分析する力、これが常に必要なんですけれども、これは国際的にもあるいは
国内においてもこういったような
リスクを評価、分析という力を付けることが必要である、そしてそれは冷静にやらなくちゃいけないということがございます。
四ページ目の方は、
エボラ出血熱、これはようよう収まりつつあったわけですけれども、このグラフで見えますように、この
エボラ出血熱、大きい
世界の話題になりましたけれども、集中しているのは西アフリカ三国でありまして、九九・九%がこの三
地域に集中をしているというのがあります。
その下の
スライドには、どうしてこのアフリカで流行したのかというようなことがWHOとの話合いの中で時々出てくるんですけれども、やはり
海外、特に
発展途上国における基本的な保健
システムの弱さと医師数の比較というようなことで数字を書いてありますけれども、それだけではなくて、
社会としてのインフラが全体的に脆弱である。例えば、通信、輸送、道路、電気、水道の問題。それから、この三か国では国境といったものはなきがごとしで、それぞれ人が常に行ったり来たりをしている
状況。また、内戦。必ずこの
感染症の流行には貧困と内戦というものが大きなキーワードになってまいります。
次に、五ページ目を見ていただきますと、上が中東
呼吸器症候群。昨年、韓国で流行ということで突然に
社会をにぎわわせた病気でありますが、このグラフの発生は二〇一二年、二〇一三年から続いております。中東
地域での特殊な
感染症というふうに言われていたんですけれども、基本的には肺炎になりがちですので、人に広がる
可能性があるということで心配をされていたわけですけれども。
ここに数字がありますのは、上の方が韓国で確認された例、百八十六例、うち死亡三十六というふうに書いてございますが、その下に、その感染をされた方はどんなようなところで感染を受けているのか。上は入院中の感染者、つまり病院の中にいて感染を受けた人が四四・八%、その家族の感染が三五・〇%、医療関係者が二〇・二%、これ足しますと一〇〇・〇%です。
つまり、
社会の中で、どこか電車でうつったとか飛行機でうつったとか買物でうつったということはないんですけれども、人々はもしかすると韓国に行くとうつるのではないかというような間違った考え方に出てくることがあります。しかし、それは
社会としては警戒をする
意味ではある
程度やむを得ないところがあるんですが、そういう
海外の病気に対する理解もまた必要であります。
この赤い線のところが韓国の発生なんですけれども、これは幸いに終えんしております。韓国も終息宣言を出しております。原因になるラクダがいないからであります。しかし、その右側の方、さらに二〇一五年から二〇一六年の方に見ていくと、まだこの青い線が出ていまして、これは中東ではいまだに発生をしていると。ということは、これは
我が国に入ってくることも警戒をする必要がありますし、特にヨーロッパの方では中東
地域からの行き来ということでは警戒が続いており、
日本ではこれは感染者はまだ見付かっていないわけですけれども、検査は今でもやっております。
下側の、韓国においてMERSの発生
状況と書いてございますけれども、左側の赤い人が一番最初の感染者であります。この方が中東から帰ってきて、病院を転々としたときにほかの周りの人にうつしてしまったというのが、この大きい丸及び小さい丸が幾つか書いてありますけれども、いずれもこれは医療機関内での感染であること。それから、初発の方が、自分が中東に行ったということをおっしゃっていただけなかった。さらに、具合が悪いのに、
一つの病院ではなくて幾つか転々としたので結果的にいろいろな病院内で広げたということですけれども、この方を介して町の中ではうつしていなかったというのは、これは幸いなことであります。
次の
スライド、六ページ目の方に行きますと、WHOはこれのときに
調査に行っているわけですけれども、ほとんどの、韓国において臨床医がよくこの病気を分かっていなかったと、理解不十分であった、突然やってきた。それから、病院での予防
対策が不十分であった、救急室が過密状態になっていた。それから、
社会の習慣として、いわゆるドクターショッピングといって転々と動くような状態がこの広がりの原因だろうというふうにまとめておりますけれども。
これは幸いに
我が国には起きておりませんけれども、一触即発でありまして、これは同じような状態が幸いに起きなかったことであり、警戒としては続けなくてはいけない。警戒というのは、
海外に対する情報の収集、それから向こうでの実際の臨床
状況とか患者さんの
状況であるとか、そういったようなことを正確に把握していく必要があり、それがまたその国に対する貢献に結び付くと思います。
下の
スライドは、
SARSという二〇〇三年に発生した、これも
世界中がどきっとした病気でありますけれども、これは幸いに、多分
ウイルスの遺伝子の
変化から
世界中から消え去ったというふうには言えますけれども、こういう新しい病気の発生に対して
世界がなすすべがなかった、情報として早く入ってこなかったといったようなことがありました。これは、発生した国が隠した隠さないという話は必ず出るんですけれども、それをきちっと受け止めて、情報として集めて、それを評価した上で
世界に発信するという仕組みはそのときなかったわけであります。
七ページのところに行きますが、これがきっかけになりまして、WHOでは国際保健規則、IHRというものを改正しております。これは、大きくいろいろな国が集まって議論をしたんですけれども、これは当初から、私のいた
国立感染症研究所の私のところのスタッフがWHOに派遣をされていたときにそこで議論に参加をしているという
意味での、人が行っているということの貢献では、こういったようなところに現れてまいります。
いずれにせよ、これ、かつてもあったんですけれども、上に書いてありますように、コレラ、
ペスト、黄熱、天然痘などの非常に限られた病気だけの届出であったわけですけれども、これを、原因を問わずですけれども、国際的に広がる
可能性があった場合には、加盟国、これは
日本も当然ながら含まれるわけですけれども、そういうものの情報をWHOに提供する。そこには、重い病気であったり予測不可能であったり、国際的に広がる
可能性があって、国際的な交通
規制が場合によっては必要である、このうちの
二つを、基準を満たせばWHOに報告をするというのがあります。
下の
スライドにありますように、WHOに報告するのは、
各国の厚生労働省とかあるいは衛生省とか、そういうところが情報をWHOに提供するんですけれども、ここが情報を提供するということは、
地域においてのきちっとした診断ができること、あるいは情報を収集する、情報を提供するという仕組みが必要であります。したがって、これは
我が国も決して悪い方ではないんですけれども、国外ではそこの脆弱性があるので、WHOでは、こういう
地域との連携、あるいは
地域における
感染症対策、あるいは
感染症の基礎的なことの充実を求めているわけであります。
しかし、この仕組みがあるので、
我が国にはまだ入ってこなかった
エボラ出血熱に対してあらかじめ準備をする。あるいは、今回のジカ熱もそうですけれども、MERSの発生、これは
我が国には発生がないということが現在でありますけれども、その検査はもう既にできますし、それについてもし患者さんがいれば情報を提供してきちんと啓発もするというようなことが決まっております。
八ページ目の方になりますと、こういったような仕組みに基づいてWHOの方ではいろいろな情報が入ってきたことを、この左にあるように言わばふるいに掛けて、それから、それを公式、非公式情報にかかわらず集めて
リスクを分析して、右側の黄色いところで書いてありますように人々に情報提供する。それがもし異常であれば、国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態、PHEICと言っておりますけれども、これを発信する。
これが、かつて
新型インフルエンザが発生したときにそうでありますし、ポリオのアフリカあるいは中東での発生、それから三番目が
エボラ出血熱のとき、そして今回のジカ熱というふうに続いております。これには、そういう情報があるので、直接その国にたとえ影響がなくても、これは国際的な
支援をもってある国での
対応に協力をするということですので、常にこういったような枠組みに合致するような形を
国内でつくっていく必要があります。
下の
スライドは、これはま
たちょっと違う話なんですけれども、はしかという、恐らくこの中にも子供さんのときにかかった方おられるんじゃないかと思いますが、十年ぐらい前には
我が国は二十万人、三十万人のはしかの患者さんがいて、
海外に持ち出したというふうに言われた
時代がありました。しかし、これは国の
方針あるいはいろいろな人の取組で、はしかの
対策、
世界からは遅れているけれども、これをやるべきであるというような
活動、基本的には予防接種、ワクチンをちゃんとやるということなんですけれども、その
行動が非常に実を結んで、ここには二〇〇八年、九年、一〇年、一一年、そして右側の方は二〇一二年、一三年と毎年の発生数が書いてありますけれども、二十万人、三十万人いたはしかは昨年は僅か三十五例になっております。
九ページをめくっていただきますと、その結果として、これはWHOにそういう情報を提供するわけですけれども、WHO
西太平洋地域事務局の中でこういう評価
委員会があるんですが、この結果を見て、ブルネイ、カンボジアと並んで
我が国ははしかの排除を
達成した国であるということを確認しております。極めておめでたい話でありますが、右側は、冗談のように、かつては、江戸
時代は、はしか全快祝いの酒盛りと書いてありますけれども、今やはしかは排除されたので祝いの酒盛りをやってもいいだろうというようなつもりで書いてございます。
これは、WHO
西太平洋地域事務局では、オーストラリア、マカオ、モンゴル、韓国が同じようにはしかの排除、子供
たちがこういう病気で苦しまないというふうになっているんですが、下の
スライドを見ていただきますと、横軸に二〇一〇年、一一年、一二年と書いてあるところは減少しているんですが、一三、一四、一五と実は
世界でもう一回増えているといったような状態がございます。黄色いのが主に
アジア地域、緑は東南
アジア地域、下の濃いブルーのところはアフリカ
地域でありますけれども、
日本は非常にうまくこれはできているんですけれども、今後はこういうことを
世界に対して、そのノウハウであるとかあるいは
対策に対する貢献の方に回るときになってきた。
もちろん、
日本はきちっとやり続けなくちゃいけないわけですが、十ページの方を見ていただきますと、これは
我が国で、もちろん厚生労働省あるいは国というものが音頭は取っておりますけれども、現場の医療機関、あるいは検査・
研究機関、保健行政、教育、ワクチン製造、報道、大切なのはお父さん、お母さん方が非常に理解をしてこういうワクチンの接種というものに取り組んでいただいて、オールジャパンで取り組むと
世界に誇れることもできるだろう。ただし、それは
国内の維持だけではなくて、
海外、殊にアジアに向けてこういうものを貢献していかなくてはいけないということがあろうかと思います。
ここの国際的な
感染症というものがよく話題になるのですが、これは少数例が
国内に侵入する
可能性もありますし、それが
国内で拡大する影響、これも考えて、
国内だけではなくて、
国内の
感染症対策イコール国際
感染症の
対策になるわけですが、ただ、ここの表に書いてありませんけれども、実際は
世界の
途上国では、こういう新しい
感染症、珍しい
感染症の発生だけではなくて、風邪をこじらせた、肺炎、下痢による脱水、マラリア、エイズ、あるいは結核、それから今のはしかといったような病気で多くの人々が命を落としております。
最後の方ですけれども、十一ページの上の方に書いてありますけれども、それが、国際的
感染症対策と大上段に振っておりますけれども、実はそれは
国内での
感染症対策がきちっとできること、それは
国内で
感染症を診て治療をする臨床あるいは検査をきちっとできるようにしておくこと、それから日常の
研究体制の充実が必要であります。そして、国際協力及び
海外の情報の収集ができるように、これは
世界への貢献にも続くわけですが、
感染症先進国からはやはりこれを学び、連携をし、そのノウハウを
途上国の
支援に向けていく必要があります。
そして、特に
国内、国際
感染症に対する医療、公衆衛生的
対応ができる人材の育成、環境の整備、必ずしも
我が国は十分であるとは言えないと思います。また、これは適切な
リスクコミュニケーション、こういったことが発生しているということだけではなくて、それについて、
リスクを含め、あるいは安全な部分、その他のことが適切に人々に説明ができる、そういったような人材の育成と環境の整備が更に求められるところであるというふうに思います。
以上であります。ありがとうございました。