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参考人(
浅野善治君)
大東文化大学の
浅野でございます。
本日は、お招きいただきまして誠にありがとうございます。
本日のテーマ「
二院制」の
参議院、
衆議院との
関係、あるいは
参議院として重視すべき
役割ということになっておりますが、
二院制の検討ということになりますと、通常、諸
外国の
議会との
比較を行うというのが一般的でございます。ただ、諸
外国と申しましても、
連邦制の国もあるわけでして、また、
人民が革命により権力を奪い取って
人民議会を形成した、そういうような国もあるわけでございます。そういったことからしますと、それぞれの国の歴史的、文化的な
背景の中で最も適切な
議会が選ばれているということでございまして、まず、
我が国と
比較をするといたしましても、単純に
比較をすることはできないんだということについては、これは注意が必要かなというふうに思います。
そういうことですから、
二院制を検討するに当たりましても、
我が国におけるある
意味国づくりの
意思決定というものがどのような歴史的、文化的な
背景、土壌の中で行われてきたかということ、それから、
日本人の
国民性というものがそれにどういうような影響を与えているのかということ、こういったことをしっかり認識をした上で
二院制を検討していく、そういったことが重要ではないかというふうに思っております。
そういうことを前提といたしまして、
日本国憲法における統治の機構というものを少し見ていきたいというふうに思います。
我が国に
議会制が入ってまいりますのは
明治になってからということになりますが、
明治時代の
議会というのは、
民選議院、
公選による
衆議院というものと、それから、まだ
貴族制度がございましたので、
勅任制による
貴族院というもの、こういう
二つの院が対等な
権限を持って
意思を
決定をする、こういうような構造に実はなっていたわけでございます。特にその
貴族院というものに対して大きな
意味合いを持たせている、そういうような
議会だったのではないかというふうに思います。
そういう中で、
日本が第二次
世界大戦で敗戦をいたしまして、それまでの
国家体制というものを大きな変革を求められるということになるわけですけれども、その中で、
連合国といいますか、アメリカといいますか、から徹底した民主的な
国家運営というものが求められてくる、こういう形になるわけでございます。その中で、
国民に
責任を負う
公選議員による
議会というもの、これを国権の
最高機関として位置付ける、そしてまた、
議院内閣制を採用する、
議会に対して
責任を負う政府というものが
議会の
意思決定に従い
国家を
運営をする、こういう姿というものが描かれたわけでございます。
その中で、
連合国側からは、そういった
議会というものは
民選による一院、これで十分であるというように考えたわけですけれども、
日本国側としては、そういう
明治時代からの
流れもありますし、
二院制というものを維持しようとしたわけですね。そこの中で
勅任制というものができないとすれば、
職能代表あるいは
地域代表というようなことを入れて、
民選議院とは別の第
二院というものを設けていこうというようなことを考えていたわけです。
それで、
権限についても
民選議院よりある程度劣ってもいいから
二院制をというような主張をするわけですけれども、結局はそれが認められないという形になるわけです。
議会は、それまでのような
勅任制によるという
議院というものは一切認められない、それから、
日本側の主張する
職能代表、
地域代表というものも、これを認めない。
二院制ということだとすれば、共に
民選の
議院であるならばという形で現在の形に落ち着いていくということになるわけです。
そういったことからしますと、
日本国憲法の中での
議会というものについては、共に
公選の
議員により構成される、組織されるところの
二院というものがそこで生まれてくるわけです。共に
国民が
選挙によって選出した
議員によって組織されるということになりますから、ある
意味その民主的な
正当性というものは同等だというように考えられるわけです。
そうすると、
衆議院と
参議院の
権限ということに問題が移りますが、
衆議院と
参議院の
権限というものをどのように
整理をするかということになるかと思います。そうすると、同じように共に
公選議員によってある
意味民主的な
正当性が同等である
議院というものをどのように
特色付けるかというところになるわけですけれども、そういったことの中で、
衆議院の
優越というようなことが言われたりするわけですが、
衆議院、
参議院、それぞれの
特色というものを持たせていくということになるわけです。
ただ、この
二つの
議院ですけれども、
立法については、
原則として両
議院で可決したときに
法律になるというようになっております。ある
一定の再
議決というものが認められていますが、
原則としては
参議院の
議決というものを経ないと
法律ができないという形になっておりますし、
内閣が
議会に対して
責任を負うということになっておりますが、これも
内閣は
国会に対して連帯して
責任を負うということになっておりまして、
衆議院、
参議院共にその
責任を負っているということになるわけですから、そういったことからしますと、
日本国憲法上の
衆議院、
参議院の
権限は
原則として同等と考えているというようにまず考えていいのではないかというふうに思います。これが、共に
公選議員で組織をしているということの
民主的正当性ということからしましても、
衆議院の
優越ということがよく言われるわけですが、
日本国憲法上の
衆議院と
参議院の
権限は
原則として同等なんだというようにまず意識をする必要があるんではないかというように思います。
ただ、
衆議院の
優越ということでよく知られているように、
一定のものについて
衆議院の
意思が優先するというようなことが認められているわけですが、これは、じゃ、一体どういうことなのかということになりますが、
国会というのが
二院で構成されているわけですから、当然、ある院ともう
一つの院が
意思が異なるということが生じてくるわけです。そうした場合に、では、どういう
意思を
国会全体の
意思にするのかということは当然ある
意味での
調整が必要になろうかというように思います。その
調整の中で、
一定の場合に
衆議院の
意思を
国会の
意思とするんだというところで
衆議院の
特色を表しているというのが今の
衆議院の
優越と言われていることではないかというように思います。
それでは、どういう
特色を
衆議院に持たせているかということになるわけですけれども、
一言で言うならば、これは
内閣との
協働ということではないかというように思います。
議院内閣制を取る
国会の
権限として、
内閣を組織する
内閣総理大臣の
指名権というものを持っています。ただ、これは
衆議院の
権限ではなく
国会の
指名ということになっております。ですから、もちろん
参議院も
内閣総理大臣の
指名を行うわけです。
衆議院と
参議院の
指名の
意思が異なった場合、この場合においても、すぐに
衆議院の
意思を
国会の
意思とするということではなく、
両院協議会を開いて
調整をするということを求めているわけです。ですから、そういったことからすると、
参議院の
意思というものも十分含まれて実は
国会の
意思が決まっているんだということになるわけですけれども、
調整が付かない場合には
衆議院の
意思を
国会の
意思とするというように決めているわけです。
憲法の
規定でも、
衆参の
意思が異なった場合に、
衆議院の
意思によるというような
規定をしているわけではなくて、
衆議院の
意思を
国会の
意思とするというように決めているわけでして、それはやはり
国会が
指名をしているんだという位置付けを取っているわけです。
ただ、こういうふうに
衆参の両
議院の
意思が異なった場合に
衆議院の
意思に従うということにしておりますから、そういう
意味では、
政権の創設といいましょうか、
政権をつくり出すことというものは
衆議院の
意思に必ず従った
内閣ができるということになるわけです。ですから、そういったことからすると、
内閣の
意思が
衆議院と離れた場合ということについては、
衆議院に
内閣の
不信任議決権というものを認めているということがその裏返しとして出てくるのではないかというように思います。
衆議院が
不信任議決をした場合について、
内閣が
衆議院を
解散したとしても、
解散後の
国会が開かれるときに
内閣は総辞職をするということになっておりますから、
内閣不信任の
議決を受けたときというのは
内閣は存続することができないということになるわけです。ただ、次の
内閣をどういう形で
指名をするかといったときに、
不信任議決をした
衆議院がまた
議決をするのか、あるいは
衆議院というものに
国民の
意思を問い直して新たな
衆議院を構成して
内閣総理大臣の
指名を行わせるかという、そういう
選択をするというのが
衆議院の
解散ということの
意味付けということになろうかと思います。ですから、そういった
意味で、
衆議院の
意思に絶対的に従う
政権が創設される、つくり出されるということの中で、
衆議院の
内閣不信任議決権あるいは
衆議院の
解散という
制度がそこに認められてくるというように思うわけです。
こういった
衆議院の
特色というものは、
衆議院の
政権をつくり出すというだけではなくて、
政権を
運営していく面にも表れてくると思っております。
それはどういうことかというと、
内閣が
編成権を持つ
予算ですね、この
予算審議ということについても、両
議院の
意思が異なった場合については
衆議院の
意思が優先をするという形の中で、
政権の
運営についても
衆議院が
協働するという
特色を持たせているというように考えるわけです。
内閣が外交上の
権限を持っている条約の締結の承認ということについても、
予算と同様に、
政権が
運営していくということの
協働という形の中で
衆議院の
優越というものが認められていると。これが
衆議院の
特色として表れているところではないかと思います。
さらに、
議院内閣制を取っておりますから、
法律案というものも、
重要法案というのは、現在の状況もそうですが、
内閣提出のものというのが
中心になるということになるかと思います。そういったことの中で、
法律案の
議決についても、両
議院の
意思が異なった場合については、三分の二という高いハードルを設けておりますけれども、
政権と
協働する
衆議院というものを優先させるという
意味で再
議決というものが認められている、そのように
整理ができるのではないかというように思います。
そうしてみますと、
衆議院の
特色というのは、
政権との
距離感が極めて近いというところ、これが
日本の両
議院の中の特に
衆議院の
特色といって強く考えられるところではないかと思います。
それでは、じゃ、一方、
参議院ですけれども、どのような
特色を持っているかということになりますけれども、これも先ほど触れましたように、
立法についても
参議院の
議決を必ず必要とするというのが
原則ですし、それから、
内閣の
責任ということについても連帯して
参議院に対しても
責任を負っているということですので、
衆議院と同等の
権限を持っているということなのですけれども、では、
参議院の
特色は何かということになるわけですが、
参議院と
政権との
関係ということからしますと、
参議院の
意思と異なる
内閣総理大臣が誕生するということもあり得るということになりますし、
内閣の編成する
予算ということについても
参議院の
意思と異なる
予算が執行されるということもあるわけです。そういったことからしますと、
参議院には
政権と必ずしも
協働するということが
期待されていないというのが
一つの
特色ではないかというように思います。
そうすると、じゃ、
参議院の
特色は何かということになるわけですけれども、やはり
継続性、
安定性というところが
参議院の最大の
特色ではないかというように思います。
まず、
任期ですけれども、六年という非常に長い
任期を定めております。それから、
改選についても、
半数の
改選ということで、全体を一気に
改選するのではなく
半数ごとを
改選するということになりますので、
参議院の
意思というのは、急激に
変化をしない、あるいは急激に
変化をさせないという、そういう
特色があるというように思います。
任期六年、
半数改選ということになりますから、常に
参議院の
一定の
意思というものが継続してそこに存在しているということになりますから、
衆議院が
解散した場合についての
緊急集会というのも
参議院の
特色と併せて認めているということになるかと思います。
このように考えてみますと、
衆議院と
参議院の
特色ということから見ますと、
政権との
距離感というものが大きく異なってくるというのが一番大きな
特色ではないかと思います。
それでは、そういう
衆議院と
参議院に対して
国会のどういう機能を求めていくか、権能を求めているかということですけれども、
衆議院については、やはり
政権をつくり出し、
政権と
協働するということを
期待をするということになるのかと思います。そういったことの一連の
流れの中で
国民内閣制というような言葉も出てくるわけですけれども、
政権をつくり出し、
政権と
協働する、それにふさわしい多数勢力を形成する
議員を選ぶんだ、こういうものが
国民が
期待する
衆議院の姿という形になるかと思います。それはまさに
与党の
選択ということになるわけですから、ある
意味では
与党対
野党の
政党中心というような、そういう構図ができ上がってくるという形かと思います。
衆議院の
選挙制度ということについても、
政権交代を可能とする
選挙制度、二大
政党制というようなことが言われるわけですが、その辺の
特色をよく表していることかというように思います。
それでは、
参議院に対してどういうものを
期待をするかということになるわけですが、先ほどお話しいたしましたように、
政権との
距離感というものが
一定程度あるということになりますと、
国民の
期待というのは、政局に左右されない
政策審議がしっかりできる、そういうものに
期待をするということになるのではないかというように思います。
そうすると、
野党、
与党というそういう枠組みではなく、
衆議院とは異なった、ある
意味では
国会議員一人一人を
中心にした議論というもの、こういうものが
国民の
期待をする、そういうことが出てくるのではないかと思います。
もちろん、政党というものに所属をするということは、ある
意味では政治活動、
選挙運動ということの
一定の
役割を当然果たしていくわけですけれども、そういう人物を
選択するときの政党の所属というのが
一つの材料になっているという程度の政党という、そういうものとして人を選んでいくということがまた
期待されるのではないかなというように思います。
参議院の比例代表
選挙における投票の仕方においても、名前を投票することができる、名前を記名することができるということについてもそういった
特色が表れているのではないかなというように思います。
そういったことは
衆議院と
参議院の
議会の
運営ということの中にもよく表れてくるのではないかと思います。
先ほどお話しいたしましたように、
衆議院というのは
与党対
野党という構図になりますので、当然、
衆議院の
運営ということも
与党対
野党という形の中で行われてくる。特に対政府
質疑というものが
中心にならざるを得ないというふうな形になるかと思います。そこの中で、政府・
与党と
野党が論議を闘わせて、ある
意味では次の
選挙で
政権交代を目指すんだと、そういうような
議会運営というものが生まれてくるという形になるかと思います。
内閣の
責任追及ということになりましても、
内閣の不信任というもの、これが最大の焦点になるというふうな形の
議会運営になるということかと思います。
では、一方、
参議院の
運営はということになりますけれども、
政権の存続には直接影響しないということがあるわけですから、
政権の争いに左右されない
運営というものが出てくるのかなというように思います。
与党、
野党という構図ではなくて、政策の適否というものを多角的な
意見の中でそれを議論をする、そういう
運営というものが望まれる
運営ではないのかというふうに思います。そういったことにより長期的、安定的、継続的な
政策審議が
参議院では実現をする、そういうことになるのではないかと思います。
内閣の
責任追及ということも
参議院ができるわけですけれども、それはその
政権の適否といいますか、その
政権に対する批判というよりは個別政策についての
内閣の
責任追及ということが
中心になってくるのではないかなというふうに思います。ですから、そういったことからしますと、
参議院では対政府
質疑というのは必ずしも必要ではないということになりますし、むしろ
議員間での自由な討議というものが非常に
特色付けることになるのではないかなというように思います。
そういったことを含めまして、
参議院に
期待することということを
整理するとしますと、
参議院については、
政権の
距離感が異なるということがありますので、
衆議院と異なる
役割を持つべきだ、これは決して
参議院の
権限を弱めるものということではなく、
参議院の
特色というものをいかに表すかということになるかと思います。特に、対政府
質疑ではなく
議員間の自由討議による政策討議というものに適しているということが言えるかと思います。
ですから、
内閣提出法案の賛否ということではなく、そこに含まれる政策を論議するということがイメージとして出てくるかと思います。
内閣提出法案というのは、法案の提出と同時に
参議院にも予備審査として法案が送付されます。ですから、そういったことからしますと、
衆議院で法案審議をしているものと並行して、その法案に含まれる政策についての
議員間の自由討議を行うというような姿というものが
参議院に
期待されるのではないかなというように思います。
予算の審議にしましても、
予算全体の
議決を行うということになりますと、これはまた
衆議院での
予算の全体の適否という議論になりますけれども、そういったことではなく、
予算の中の個別項目についての適否というものを議論するというのが
参議院のふさわしい姿ではないかなというように思います。
そういったことを行うためには、例えば
予算審議につきましても、
衆議院で
予算審議をしているときに、前年度の決算について会計検査院から報告を聴取して個別的に検討するということを
参議院が行っていくというのが
一つの姿としてあるのではないかなというように思います。そういった審議を受けて
衆議院から
予算が送付されたときに
議決をしていくということが非常に
意味があることではないかなというように思います。そういった
予算の個別項目の審議というものについては、
予算が仮に
参議院の
意思と異なった形で執行されたとしても、その執行の事後監督という形の中で十分に生きてくることではないかなというように思います。そういったことの中で、
参議院が事後の政策評価を行い、行政統制を行うということの大きな武器になっていくということもそこにあるのではないかなということかと思います。
選挙制度についても、
衆議院については
政権選択を可能にするような
与党対
野党の枠組みができるような
選挙ということになりますが、
参議院の方はそういう
与党対
野党ということではなく
政策審議ができるようにということになりますから、
政党中心というのはある程度やむを得ないとしても、政党内で行われているような様々な多様な
意見というものが
議会に出てくるような、そういったことが引き出せる
選挙制度ということが求められるかなというふうに思います。
そういったことからしますと、やはり同一の
選挙区から同一の政党で複数の候補者が出てくるような
選挙制度というものが多様な
意見を引き出すことの大きなポイントになってくるのかなと思います。ですから、むしろ
参議院の
選挙制度というものは大
選挙区制のような
制度というものが
期待されるのではないかなというふうに思います。
これを安全保障
法制を例として少しお話をしたいというふうに思っておりましたが、時間が来ましたので、簡単に申し上げるとすれば、安全保障
法制についても、単に安倍
政権の批判あるいは政府法案に対する賛否という議論ではなく、安全保障政策ですね、
日本はどうやって安全を確保するのかという実質的な議論というものが
参議院では展開されるということが
期待されるのではないかなというふうに思っております。
時間が来ましたので、いろいろ申し上げましたが、これで私の
意見陳述とさせていただきます。
どうもありがとうございました。