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参考人(
上園昌武君)
上園です。本日は、このような
意見陳述の機会を与えていただき、ありがとうございます。
私たち地球環境市
民会議、通称CASAは、地球
温暖化防止の取組を進めるための環境NGOとして一九八八年に設立されました。これまでに、
温暖化防止社会に関する書籍の刊行や提言、
意見書などを数多く公表してきました。本日は、これらの
知見を踏まえながら
意見を述べさせていただきます。
まず、
スライドの二枚目になりますけれども、先週、
地球温暖化対策計画が
閣議決定され、今月のG7伊勢志摩サミットの議長国として、
日本の
温暖化対策の内容が
国際的にも注目を集めています。しかしながら、
地球温暖化対策や
長期エネルギー需給見通しなどの政策を見ますと、
パリ協定の
長期目標である
気温上昇を二度未満に十分低く抑制するという道筋が示されていません。
パリ協定では、今世紀後半に
温室効果ガスの
排出実質ゼロを目指すことが
合意されました。
日本の
温室効果ガスの
排出量は
世界第五位でありまして、環境責任が重いと言えます。二〇五〇年の
温室効果ガス排出量八〇%
削減の
目標を確実に
達成するためには、二〇三〇年の
目標を現行の一九九〇年比で一八%
削減から少なくとも四〇%
削減以上に引き上げるべきです。
次の
スライド、三枚目になります。なぜ
日本の
排出目標が低く設定されるのかというと、昨年改定されました
長期エネルギー需給見通しの問題点にも関わります。
第一に、二〇三〇年のCO2
排出削減量は一九九〇年比で一三%と低く想定されています。その要因は、
省エネ対策と再エネ普及が少ないからであります。
第二に、二〇三〇年の電源構成を見ますと、原発の原則四十年稼働を六十年に延長することを前提としており、原発依存度を可能な限り低減させるとした二〇一四年のエネルギー基本
計画と矛盾しています。
第三に、二〇三〇年の化石燃料供給量は全体の七六%と高い割合を占め、再エネ、水力による
国内自給率は一三%にとどまります。特に、CO2
排出量の多い
石炭火力発電所の大幅な増設が進めば、
国内の
排出削減が一層困難になります。さらには、
石炭火力発電技術を海外へ輸出すれば、
世界の脱化石燃料社会を遅らせることにもつながります。これらの化石燃料依存のエネルギー事業は
パリ協定の二度未満
目標に反しており、容認できない問題だと考えております。
第四に、これまでのエネルギー政策で示されてきた経済
影響評価というのは、原発が安い、再エネは高いということを前提としたものであり、原発、化石燃料依存と再エネ軽視のお墨付きを与えてきました。しかし、福島原発事故を受けて、原発安価神話も疑問視され、莫大な補助金尽くしで経済効果も乏しく、原発の経済性は相当悪いと指摘している
研究もあります。また、これまでの経済分析では、
省エネや再エネによる経済効果などのプラス
評価といったものが十分に考慮されていないために、再エネは高いという誤ったメッセージを出してきたと言えます。
このような問題点を抱えており、原発、
石炭火力依存のエネルギー政策を見直していくべきだと考えております。
スライドの四枚目になりますけれども、そうしたときに、脱原発とCO2
排出削減は可能なのかということについて、私どものシミュレーションモデルの試算結果について説明させていただきたいと思います。
CASAは、
COP3の前に
日本における
排出削減可能性のシミュレーションモデルの
開発に取り組んできました。そして、二〇一〇年に、ボトムアップモデルと経済モデルを統合したCASA二〇三〇モデルというものを独自に
開発しました。この場では、BAUケースと呼ばれます基準となるケースと、
省エネ対策と再エネ普及などを想定したCASA
対策原発ゼロケースの試算結果についてかいつまんで説明させていただきたいと思います。試算結果の詳細については、別紙の
報告書を御参照いただきたいと思います。
まず、二〇三〇年までのCO2
排出量を見ますと、BAUケースでは
排出量が増加しますけれども、二〇三〇年、CASAの
対策原発ゼロケースでは大幅に
排出量が減少していきます。
スライドの六枚目になりますが、CASA
対策のその減少の内訳を見ていきますと、二〇三〇年のBAU比でエネルギーシフト効果が二一%
削減、
省エネ効果が二九%
削減ということで、合わせて五〇%
削減になります。
スライドの七枚目になりますが、昨年改定されました
長期エネルギー需給見通しのシナリオ、このケースを政府
対策ケースというふうに呼ばせていただきますけれども、この政府
対策ケースと比較すると、エネルギーシフトと
省エネ効果の違いというのがこのグラフからも分かると思います。
それでは、その
省エネの
対策量というものがどうしてこれだけの差が出てくるかということについては、
スライドの八枚目を御覧いただきたいと思います。
産業部門から
家庭部門まで、二つのケースの間に二倍から三倍程度の差があるということが分かるかと思います。CASA
対策では、商業化された既存技術で
対策を構成しており、未
開発の新技術というものは盛り込んでいません。例えば、工場の配管保温材の劣化による熱の漏れというものが相当な量があるという報告がありますけれども、そういう老朽設備の改修であったり、あるいは住宅やビルなどの建築物の断熱化などでも相当な
省エネ効果というのが見込まれます。
また、
スライドの九枚目になりますけれども、二〇三〇年の発電量を見ますと、政府
対策ケースが原発、化石燃料依存なのに対して、CASA
対策原発ゼロケースでは、原発はゼロ、化石燃料を三五%に抑制し、再エネ、水力で六五%を自給するという結果になっています。
このように、CASA
対策ケースでは相当な
省エネ対策と再エネ普及への投資が必要となりますが、
スライドの十枚目を御覧いただきたいと思います、このことはマクロ経済へほとんど悪
影響を与えないという推計がなされています。例えば、二〇三〇年の実質GDPは、CASAのBAUケースとCASA
対策原発ゼロケースがほぼ同じになります。また、この経済モデルとは別に、
産業連関表を用いてこのCASAの
対策ケースの経済効果について試算したところ、直接の投資額が十三兆円に対して、一次、二次合計の生産誘発額が三十三兆円、それと雇用創出数が二百万人ということで、相当大きな経済効果が得られると推計されています。
このように、大幅なCO2
排出削減対策というのは技術的に十分可能であり、しかもマクロ経済への効果が大きいということを示しています。
次に、
スライドの十一枚目を御覧いただきたいと思います。そこで、
温暖化対策の取組をどのように行うべきなのかということを考えていく必要があります。ドイツやスイス、オーストリアなどでは、
地域の
温暖化対策としてエネルギー自立という
地域づくりが盛んに行われています。このエネルギー自立の意義は大きく二つあります。
一つは、再生可能エネルギーによるエネルギー一〇〇%自給というものです。重要なのは、エネルギー消費を大きく減らし、再生可能エネルギーへ転換するということであります。
スライドの十二枚目の図を見ていただきますと、この
省エネ対策というものが進展するほど再生可能エネルギー一〇〇%自給というエネルギー自立の実現というものが近づいていくということになります。
もう
一つ、エネルギー自立の意義としては、この取組によって
地域経済を自立させるということであります。つまり、断熱改修であったり太陽光パネルの設置、さらにはその保守点検という
省エネ対策や再生可能エネルギーの普及というのは
地域に新たな事業を生み出すということです。地方や田舎に電気や機械関係の技術職、あるいはこういった事業
計画などを策定する高度な専門職といったものが生まれて、そういう職を求めて若者などの労働者がそこに定住することで過疎化、高齢化
対策にもつながると期待できます。
このエネルギー自立
地域というのは、現行のエネルギーシステムの諸問題を克服できる可能性はあるというふうに考えております。
スライドの十三枚目にその対比をしておりますけれども、このエネルギー自立システムというものに、自給に変わるということで、例えばドイツでは再エネによる雇用創出というのが確実に増えております。
スライドの十四枚目に、この間のドイツの再エネによる雇用創出というデータが出ております。これは、
日本においても、再エネ
産業というのは二十二万人という数が現時点でも雇用されておりますので、この数を増やすということは経済政策としても非常に意義のあるものだと考えております。
次の
スライド、十五枚目になりますけれども、再生可能エネルギー事業というのは、これを増やしていくという
方向性は今後非常に進んでいくだろうと思いますけれども、これをいかに増やしていくのかということが重要であります。特に、
地域経済循環といったことにつなげるという点が重要だと考えております。
現状では、
日本は年間に二十七兆円もの、燃料代として海外に
日本の国の富、国富を流出させていますけれども、エネルギー自立に近づくにつれて当然そのエネルギーの輸入というものがゼロに近づいていきます。この燃料代の減少分というものを原資にして、再エネであったり
省エネ事業の投資を進めることができ、しかも
地域内での資金循環が高くなって、雇用が創出されれば
地域経済というのが発展することにもつながると考えられます。これは、今、政府が進めております地方創生にもつながる話であります。
このエネルギー事業のポイントというのは、
スライドの十六枚目になりますけれども、メガソーラーであったり大
規模風力発電所などを誘致する外来型
開発というものではなく、小
規模であっても
地域の共同発電所あるいは市民共同発電所のようなもの、さらには農家などの小
規模な事業をあちらこちらで行った方が、これを合計すると
地域の経済効果が大きくなると、そういうふうに考えられています。したがいまして、いかに
地域経済循環を重視したエネルギー事業というものを増やしていくのか、これが重要なポイントです。
そこで、
自治体というのは、
地域益の大きな環境・エネルギー
計画というものを策定して、事業主体やあるいは事業を支援する中間支援組織と呼ばれているもの、これをコーディネートするという役割が重要だと言えます。今回の温対法の改正ではそのような視点というのが弱く、地方自治を重視したエネルギー自立
地域づくりを大きく展開していくべきだと考えております。
最後に、まとめの
スライドになりますけれども、私どものCASAの試算によりますと、脱原発、脱化石燃料というものを進めながらも、
省エネ対策、さらには再エネ事業に転換するエネルギーシフトによって二〇三〇年のエネルギー起源CO2
排出量を四〇%
削減というのは十分に実現可能だというふうに考えております。また、
温暖化対策による経済への悪
影響というのは軽微であると。むしろ、
温暖化対策による経済波及効果というものが大きな効果が見込まれるということです。
さらに、再エネの普及というもの、
省エネ推進というものは
国民運動のような
意識啓発だけでは効果が乏しいんではないかと。それよりは、そうではなく、設備投資を伴う事業というものをより重視して促進していくべきだというふうに考えております。この点は是非この温対法の改正の中でもっと盛り込んでいくべきではないかと考えております。
また、
石炭火力発電所の新増設あるいは輸出というのは
温暖化対策と逆行するものでありまして、この点は私どもは即座に中止すべきではないかというふうに考えております。
次に、エネルギー自立
地域づくりというのは、先ほど言いましたけれども、安全で豊かな暮らしというものを実現し、環境
リスクというものを軽減するだけではなく、新たな経済発展につながります。再エネ・
省エネ事業というのは、中
長期で経済利益を十分に享受できる可能性があります。
地域、市民共同発電所のように、風力発電あるいは太陽光発電など、さらにはバイオマスの熱利用などを進めることによって、
地域社会や住民が利益を得る仕組みというものが不可欠であります。
以上の点を踏まえまして、今回の温対法の改正で是非御
検討を
お願いしたいと思います。この
温暖化対策というのは
意識啓発だけでは進みません。
温暖化対策は、
地域経済の発展につながるような経済政策、さらには地方創生の一環として位置付けていただきたいと思います。
どうも御清聴ありがとうございました。