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2015-02-25 第189回国会 参議院 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成二十七年二月二十五日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────    委員氏名     会 長         鴻池 祥肇君     理 事         大野 泰正君     理 事         舞立 昇治君     理 事         森 まさこ君     理 事         尾立 源幸君     理 事         平木 大作君     理 事         藤巻 健史君     理 事         辰巳孝太郎君                 金子原二郎君                 関口 昌一君                 鶴保 庸介君                 西田 昌司君                 宮本 周司君                 山田 俊男君                 山本 順三君                 吉川ゆうみ君                 石上 俊雄君                 礒崎 哲史君                 江崎  孝君                 広田  一君                 安井美沙子君                 魚住裕一郎君                 中山 恭子君                 中西 健治君                 吉田 忠智君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         鴻池 祥肇君     理 事                 大野 泰正君                 舞立 昇治君                 森 まさこ君                 尾立 源幸君                 平木 大作君                 藤巻 健史君                 辰巳孝太郎君     委 員                 金子原二郎君                 関口 昌一君                 鶴保 庸介君                 西田 昌司君                 宮本 周司君                 山田 俊男君                 石上 俊雄君                 礒崎 哲史君                 江崎  孝君                 広田  一君                 安井美沙子君                 魚住裕一郎君                 中山 恭子君                 中西 健治君                 吉田 忠智君    事務局側        第二特別調査室        長        山内 一宏君    参考人        公益社団法人日        本経済研究セン        ター代表理事・        理事長      岩田 一政君        JPモルガン証        券株式会社チー        フエコノミスト  菅野 雅明君        株式会社富士通        総研経済研究所        エグゼクティブ        ・フェロー    早川 英男君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○政府参考人出席要求に関する件 ○国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関  する調査  (海外派遣議員報告)  (「デフレからの脱却財政再建在り方など  経済状況について」のうち、経済再生財政  再建在り方日本銀行の量的・質的金融緩和  とその効果)について)     ─────────────
  2. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) ただいまから国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会を開会いたします。  委員の異動について御報告いたします。  去る一月二十三日、河野義博君が委員を辞任され、その補欠として魚住裕一郎君が選任されました。     ─────────────
  3. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) この際、本調査会の二年目の調査について御報告いたします。  本調査会は、一昨年十一月に今期調査テーマを「デフレからの脱却財政再建在り方など経済状況について」とすることに決定し、調査を進めております。  二年目の調査につきましては、理事会等で協議いたしました結果、引き続き、本調査テーマの下、「経済再生財政再建在り方」について調査を進めていくことになりました。  何とぞ委員各位の御協力お願いいたします。     ─────────────
  4. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査のため、今期国会中、必要に応じ参考人出席を求め、その意見聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 御異議ないと認めます。  なお、その日時及び人選等につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 政府参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査のため、今期国会中、必要に応じ政府参考人出席を求め、その説明聴取することとし、その手続につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  8. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 御異議ないと認め、さよう取り計らいます。     ─────────────
  9. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査を議題といたします。  先般、ベルギー王国ドイツ連邦共和国及びスウェーデン王国における財政再建に対する先進諸国国際機関取組状況に関する実情調査並びに各国政治経済事情等視察のため、本院から議員団派遣が行われました。  調査結果につきましては、既に議院運営委員会報告されておりますが、本調査会調査に資するため、派遣議員からその概要について報告聴取したいと存じます。  それでは、派遣議員を代表して江崎君から報告聴取いたします。江崎孝君。
  10. 江崎孝

    江崎孝君 先般実施されました海外派遣重要事項調査団第二班の調査結果について、その概要を御報告申し上げます。  本調査団は、財政再建に対する先進諸国国際機関取組状況に関する実情調査並びに各国政治経済事情等視察のため、平成二十六年九月の八日から十七日までの十日間、ベルギー王国ドイツ連邦共和国及びスウェーデン王国を訪問いたしました。  残念ながら緊急の用務により自民党代表委員が急遽参加を中止せざるを得なくなったことにより、本調査団派遣議員は、共産党の辰巳孝太郎委員、社会民主党の吉田忠智委員及び団長を務めました私、民主党の江崎孝の三名でありました。非常に少なかったんですが。  訪問国においては、欧州委員会の副委員長を始め、各国政府及び国際機関高官並びに関連団体との意見交換在外公館からの説明聴取資料収集及び関係施設視察等を行いました。  以下、順次報告をいたします。  まず、ベルギーについて御説明をいたします。  ベルギーのブリュッセルにはEU本部が置かれており、欧州政治中心都市となっております。調査のため同本部を訪れ、カタイネン欧州委員会委員長経済・通貨問題を担当されておられます、カタイネン委員長欧州経済全般財政金融政策について意見交換を行いました。また、欧州委員会競争総局コープマン次長から、投資環境整備としてどのような競争政策を展開をしているのか、加盟国間の競争政策の差異、規制の強弱を調整しているかについて、また、欧州委員会経済財務総局ペンチ局長から、欧州委員会加盟各国に対して財政均衡を求めるのか、ある程度許容範囲収支差を認めるのか、また、欧州委員会各国財政収支をモニターしているのか、赤字国に対して何らかの要請指導を行うのか等について、それぞれ説明聴取いたしました。  まず、カタイネン欧州委員会委員長との意見交換では、当時は今と違いまして、ギリシャ問題が今再燃をしていますけれども、冒頭、副委員長が、EU金融危機を脱しつつあると極めて印象深い発言をされておりました。一つ中央銀行金融政策各国財政当局による財政政策というユニークな実験のさなかにあるEUにあって、欧州委員会各国財政運営状況をチェックするサーベイランスルールを設定してモニターしているとのこと、そのルールは、基本的には、赤字を生じさせないよう抑止的で、財政持続可能性を確保できるようにすることを目的としており、中央銀行インフレ基調政策を取らなくてもよいように設計されていました。  特に、財政赤字GDP三%以内に、公的累積債務を同六〇%以内にするのが一般的基準であり、それに反する場合、GDPの〇・二%の罰金や、EUからの補助金返還要請を行うとの厳しい対応は特筆すべき点であります。また、当時検討中であった、加盟国政府から独立した機関財政カウンシルを設置して、そこが政府財政運営をモニターするルールは、我が国においても参考になるものと考えます。これらの対応に対する自信がさきの副委員長発言につながっているように思われました。  公正な企業間競争についてであります。  効率的な企業の活動が阻害されることがないよう、国家補助が不適切な形で実施されないように監視し、反競争的な障害を取り除き、逆に非効率な企業を再編、更生させる、若しくは市場から退出させるようにすることで持続可能な成長が達成されるようにすることが重要とされました。例えば、日本航空会社救済策のようなケースでは、EUではより厳しい規律を課し、高利潤が期待できる路線などは放棄させることが考えられ、効率的な企業が活動しやすい競争環境を提供するのがEU委員会の役割であるとのことでありました。  次に、ドイツについて御説明いたします。  ドイツEU牽引車として欧州経済を引っ張ってきましたが、他方で、財政均衡を堅持しております。連邦財務省総合政策局ヘレス次長から、財政政策に対する基本的スタンス財政赤字をどのように抑制しているか、金融政策との整合性、連携をどのように図っているのか、成長促進戦略の中で財政金融政策をどのように位置付けているか、法人税を三〇%弱としているが、今後もこれを堅持するのか、海外直接投資を呼び込む際、法人税率は支障となっているか、それとも問題はないのか等について説明聴取いたしました。  説明によりますと、短期的な景気対策が有効なのは金融危機リーマン危機のような緊急時のみであり、財政雇用を促進し、投資環境を整えるといった構造改革に用いるべきであると指摘されました。ドイツでは、構造改革として、一つ労働市場改革二つ目金融市場改革三つ目企業税制改革四つ目社会保障制度改革実施しているということでありました。  また、ドイツのフランクフルトには欧州中央銀行である欧州中央銀行ECBがあり、EU内の金融政策のかじを取っております。ECB金融政策戦略局ホルムハドゥラ首席エコノミスト及び国際局ロッジ首席エコノミストから、加盟各国金融政策へどのようにコミットメントしているのか、財政赤字加盟国に対してどのような要請指導を行っているのか、デフレ対策としてどのような措置を講じているか、また、ソブリン危機に際し、それまでの物価安定第一のECB最後の貸し手として大量の資金提供をちゅうちょしない政策に方針転換しましたが、今後も同様か、あるいはマイナス金利、当時はマイナス金利が非常に有名になっていました、マイナス金利政策を採用した理由とこれまでの評価等についての説明聴取いたしました。  ソブリン危機においては、ユーロを守るためには何でもするとのドラギ総裁発言と併せて、国債市場が混乱した際には、二〇一二年九月、OMTと呼ばれる新たな国債買入れ策の枠組みを決定し、一定の条件を満たせばECBが無限に国債を買い入れることを明らかにし、南欧諸国国債利回り低下に貢献したという自負は大変強いものでありました。また、十七という加盟国の全ての国にそれぞれに合った政策を取ることは困難であることに言及し、各国ECB金融政策と矛盾しない経済政策を行うべきであるという姿勢も見せておられました。  最後に、スウェーデンについて御説明いたします。  欧州各国は、九〇年代以降、財政赤字の悪化に苦しみましたが、その中でスウェーデンは最もスピーディーかつ大幅に赤字削減に成功した国であります。その成功例、体験について政府関係者から説明聴取いたしました。社会省ヘミングストン社会保険部長からは、持続的な社会保障システムをどのように構築したか、人口減少子化対策、子育て、教育等次世代のための投資をどのようにして促進しているのか、あるいは雇用省ハルト企画局長から、高齢者女性雇用をどのように確保しているか、成長産業への労働力のスムーズなシフトのためにどのような政策実施しているかについて、また、財務省ベルグストランド予算部担当官及びノーリン経済部担当官から、財政再建をどのようにして成し遂げたか、その際、障害となった点とそれをどのように克服したか、国民負担率日本より高いが、国民から集められた税や社会保険料をどのような基準で分配しているのか、成長促進戦略としてどのような分野に政府資金を投入しているのか、海外直接投資を呼び込むためにどのような措置を講じているか等について、それぞれ説明聴取いたしました。  説明によりますと、年金は国の歳出とは別会計で運営されており、人口構成の変化に即して自動調整されるように設計されているとのこと、また、女性社会参加については、七一年の所得税制度改正、七三年の育児休業法児童福祉法公的施設での老人介護実施によって促進され、高齢者雇用については、雇用保護法で六十七歳まで働く権利が保障されていることなど説明を受けました。また、スウェーデン年金改革日本でも広く知られておりますが、次なる改革必要性を認識し、既に改革内容検討に入っているとの報告には驚きでありました。  さらに、財政赤字削減については、全党が協力して削減策と新しいルール決定対応しているとの説明を受けました。その主な中身は、一つ長期的視点での予算フレームワークを構築する、すなわち、予算編成は単年度であるが当該年度には三年後の歳出案を策定をすること、二つ目予算額数値的目標を設定をする、すなわち、政府GDPの一%の余剰を捻出し、これを経済危機等の不測の事態に対する予備費として活用するとともに、その必要がない場合過去の債務の返済に充てられること、三つ目トップダウン方式の採用、すなわち、まず議会が年度予算総額支出上限決定をして、内閣がその割当てを決め、それを各省レベルに下ろして予算要求を確定されるということでありました。  極めて厳しい内容対策です。実現した背景を尋ねると、スウェーデンでは危機が瞬く間に惹起したので危機感を共有でき短期間で対策決定が行えた、日本危機が長期間掛けて徐々に進行している印象にある、対応が難しかったのではないかという指摘がありました。  以上、各国政府国際機関高官との会談のほかに、ドイツにおいては、再生可能エネルギー施設地産地消、産業振興を行っている農場、エネルギーの自給自足を実現したコミュニティー、スウェーデンにおいては、コンパクトシティーまちづくり公共インフラ投資実施状況について、関連施設や現地を視察する機会を得ました。それぞれに特徴深く、我が国参考になるものを数多く視察することができました。特にスウェーデンでは、総選挙投票日と重なったこともあり、実際の選挙を見る機会に恵まれました。投票率を上げるため、日本でいう期日投票所として、人が多く集まるアーケードやダウンタウンの中心特設ブースが設置されていました。投票日でもある日曜日も期日投票所で投票できる制度になっており、この制度は低投票率が問題となっている我が国でも参考になる制度との印象を受けました。  以上が海外派遣における調査概要ですが、詳細は報告書を御参照ください。  最後に、今回の調査に当たり多大な御協力をいただいた訪問先関係者各位及び在外公館に対し衷心より厚く謝意を表し、報告を終えます。  ありがとうございました。
  11. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 以上で報告聴取は終了いたしました。御苦労さまでございました。     ─────────────
  12. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 次に、「デフレからの脱却財政再建在り方など経済状況について」のうち、「経済再生財政再建在り方」に関し、日本銀行の量的・質的金融緩和とその効果について、参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  御出席いただいております参考人は、公益社団法人日本経済研究センター代表理事理事長岩田一政参考人JPモルガン証券株式会社チーフエコノミスト菅野雅明参考人及び株式会社富士通総研経済研究所エグゼクティブ・フェロー早川英男参考人でございます。  この際、先生方に一言御挨拶を申し上げます。  御多用のところ、わざわざ本調査会に御出席をいただきまして、誠にありがとうございます。  本日は、先生方からの忌憚のない御意見を頂戴いたしまして今後の調査参考にさせていただきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いを申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず岩田参考人菅野参考人早川参考人の順でお一人二十分程度意見をお述べいただきました後、午後四時十分頃までをめど質疑を行いますので、御協力のほどよろしくお願いを申し上げます。  なお、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、岩田参考人からお願いいたします。岩田参考人
  13. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 本日は、この調査会にお招きいただきまして、大変ありがとうございます。  今御指摘がありましたように、日本銀行の量的・質的金融緩和につきまして所見を述べさせていただきたいというふうに思います。  まず、量的・質的緩和政策は何のために取られているかというところから始めたいと思います。(資料映写)  日本銀行は、この政策を始めるに当たりまして、物価上昇率二%を実現することが望ましいと、しかもそれを二年程度で実現するということを目標に掲げました。私、この二%目標ということについて、まだ御異論が残っている部分もあるんじゃないかというふうに思います。私自身はこの二%は適切だというふうに思っています。  これは、日本銀行、私、勤めたことございますが、その当時は一回目の量的緩和を出口でもって、卒業したときに、中長期の物価安定ということで一%というのをめどとして運営するというようなことを決めたことがございます。その後の経緯を見ますと、一%だとどうしても経済に大きなショックがあった場合にはデフレに戻りやすいということであります。これは日本だけではありませんで、世界の中ではスイスも事実上一%、〇から二%と言っているんですが、実際上は一%を物価上昇率目標として政策運営しましたが、スイスも今回のリーマンショック以降、日本と同じようにデフレになっているということであります。  こういう内外の経験を踏まえますと、デフレを本当に克服するには二%が必要だと。一%分はのり代として必要だと。もう一%分は、物価指数というのは必ずしも正確に国民物価上昇による所得の目減りというのを捉えているかどうかという物価指数の問題がありまして、これも一%分ぐらいを見る必要が私はあると思います。合わせますと二%分というのは、どうしても経済が正常な下では二%程度物価目標を置くことが望ましいのではないかということであります。  以上がこの二%についてですが、具体的には量的緩和質的緩和はどのような効果があったかということであります。  振り返ってみますと、二〇一三年度は、拡大的な財政政策ということも同時にありまして、成長率は二・一%。物価上昇率も、その前の年がマイナス〇・二%でしたが、〇・八%、つまり一%分年度平均で見ますと物価を押し上げた効果があったということであります。資産市場を見ますと、長期金利出発点がそもそも低かったこともありますけれども、限定的とはいえ、長期金利のいろんな満期構造ございますが、長期金利を押し下げる効果があった。同時に、株価為替レートについては、これは株価、今日も上がっておりますが、大きな効果があったのではないか。さらに、期待インフレについても、押し上げる力が、私どもは〇・五%程度というふうに考えていますが、押し上げる力はあったということであります。  ただし、それでは一〇〇%良かったかというと、そうはいかないと。なぜならば、ここに出しておりますのは成長率見通しであります。日経センター日本銀行民間見通し、三つ書いてございますが、日本銀行の場合は、物価上昇率が、一四年度、これについては事実上〇・九%、消費税引上げの分を除くとその程度で見ておりまして、それで民間とも余り差がないと、一四年度はですね、もう残り少ないわけで。一五年度について見ますと、私どもは〇・二%と見ておりますが、日本銀行は一・〇%ですね。一六年度については二・二%まで上がると。つまり、二%に一五年度中心とする期間に達成するということがこのシナリオでは描かれております。しかし、私ども見通しでは、一五年度は〇・二であるし、一六年度は一・一ということで、一六年度の場合もまだ半分しか実現しないということであります。  日本銀行と我々の違い、どこにあるのかなと。これは、マーケットと一%程度ギャップがあるということですけれども、私の分析では、物価上昇率が加速するというのは主に二つ要因で決まると。これが消費者物価上昇率ですが、我々の、私の考えております物価上昇の加速のメカニズムというのは二つ要因で決まると。一つは、GDPギャップが変動する。今もデフレギャップが二、三%存在していますけど、これが縮まっていくと物価を押し上げる、それから経済の総需要と総供給が、供給過剰であることの度合いが減っていくということであります。もう一つは、輸入物価上昇率が加速するということであります。一三年度の場合には年度平均取りますと一三%上がりました。しかし、今、足下、一月の輸入物価上昇率マイナス六・六ということになっております。量的・質的緩和を取りますと為替レートを押し下げる効果がございます。為替レートが押し下がりますと輸入物価が上がるということになります。その上がった効果は、しかしながら、あるところまでで為替レートが安定する、例えば百十円近傍で安定する、八十円から百十円のところで一度止まりますと、そこで押し上げる力はなくなって、同じ水準のままでありますと今度はそれを押し下げるような要因として働いてきます。これがちょっと理解しにくいところかと思いますけれども輸入物価によって物価を上げるためには円安が永遠に続かないと、実は最終的には同じ例えば二%を実現しようと思ったときに一回限りの円安だけでは不十分だということ、ポイントはですね、あります。  私、今申し述べましたように、一三年度は〇・八%、つまり一%分押し上がったけれども、そのうちの半分は、ここに書いてありますが、GDPギャップの変動によるものであった、残りの半分が輸入物価の上昇というものにあったと。ところが、輸入物価はもう一三年度の夏ぐらいから減速をし始めておりまして、ピークに着いてからその後上昇率が鈍ってきて現在はマイナスまで来たと、こういうことであります。そういうことでありますので、結局、私どものセンターでは、一五年度も原油価格の急落がなくとも一%程度しか物価は上昇しないというふうに考えておりました。  というのが、物価上昇率に対してGDPギャップ輸入物価上昇率というのが重要だ、しかしながら、輸入物価上昇率あるいは下落率というのは一回限りなので、それに頼っていると安定的な物価上昇率ということにはならないということが重要なポイントであります。  加えて、GDPギャップも、私、日本銀行におりましたときに、今も記憶しておりますが、一時はGDPギャップがプラス二%程度まで上がったことがあります。しかし、二%程度まで上がったにもかかわらず、結果的にはデフレに逆戻りしてしまいました。私、そういうことを考えますと、GDPギャップも現在まだマイナスの二%とか、これも測り方で幾らか幅がありますが、まだ二%でも安心は私はできないと、プラスになっても。プラス二%になっても必ずしも安定的な二%の物価上昇率というのは実現しない。こういうことを考えますと、二年で、たとえ今のGDPギャップマイナス二%だとして、プラスの二%になってもまだ足りないというようなことを考えると、二年程度でそもそも実現するということは非常に難しい。  それからもう一つ、少し理論的な話になりますが、経済の本当の構造というのを民間もまた中央銀行も全て知っているわけではない。これは、学びながら本当の構造は何なのかということを、現実のデータ見ながらその真の構造を探り当てるような過程にあるというふうに私思っていまして、そういう学習過程も考えますと、二年で物価上昇率が二%まで上がっていくということは極めて難しい。ですから、これが開始されたときから私は五年は掛かりますということを申し上げました。さらに、安定的に二%でいくためには、成長戦略、つまり中長期的に日本成長率、期待成長率あるいは現実の成長率が高まっていくということが同時に必要だというふうに議論をいたしておりました。  これが足下の物価上昇率についての私の評価であります。  それで、この量的・質的緩和政策にはどういう問題があるかということをちょっと述べたいと思います。  一つは、長期金利のことを今お話ししました。長期金利というのは二つの部分に分解することができます。  これは、将来、短期金利がどのように推移するかということを市場参加者が予想する、そういうことで決まってくる長期金利の構成部分ですね。これをリスク中立利回りというふうに申します。これは、短期金利の予想された動きによってこれが決まるということであります。  もう一つは、タームプレミアムというふうに呼ぶものであります。これはリスクプレミアムの一つのタイプでありまして、リスクプレミアムは大まかに言うと二つございます。一つはこのタームプレミアム。タームプレミアムというのは、例えば五年物の国債と十年物の国債を取りますと、五年と十年という期間の長さが違う、長い期間ある金融資産を持っていますと途中でいろいろな金利変動が起こる、その金利変動が起こってもそれを埋め合わせるためのプレミアムが必要だというのがこのタームプレミアムであります。もう一つはクレジットプレミアムというふうに呼ばれるものでありまして、これは、国の国債と社債、同じ五年物であっても、そこにはクレジットリスクの度合いが違うということで、国債の金利の方が安くなるのが通常であります。  したがって、観察される長期金利というのは、予想された短期金利の動き、これはリスク中立金利とも申しますが、の動きとそれからタームプレミアムに分解することができます。  金融政策の方でいいますと、予想短期金利には金融政策どういう手段で働きかけられるかというと、フォワードガイダンスと呼ばれるものであります。この先、日本銀行はしばらくの間ゼロ金利を維持します、場合によると、国によっては二年間、三年間このまま維持します、こういったのが例えばフォワードガイダンスであります。それが影響を与えることができる。  このリスク中立利回り、御覧いただくと、実はじわじわと、我々の計測によりますと、下がっていないで、むしろ少し上がりぎみだということであります。逆にこのタームプレミアムの方は、御覧いただくと、特に量的緩和が始まったとき以降も大幅に圧縮されてきております。最近時点ではマイナスまでなっているということであります。こういうマイナスになっているというのは、日本だけではありませんで、例えばアメリカの場合にもそういうことが起こっております。  アメリカの連邦準備のスタイン理事が、かつてこのマイナスになったときをどういうことをおっしゃったかといいますと、タームプレミアムが余りに圧縮されるというのは、ある意味で力ずくでそのタームプレミアムを圧縮するようなことが起こっている、無理をして押し込んでいるような状況がありますと今度それが反動で戻る力を非常に大きくしてしまう、その結果、マーケットには多くの悪影響が生じ得る、したがってそういう状況の下では追加緩和をすることは余り望ましくないということをおっしゃっておられます。  私、日銀の量的・質的緩和長期金利に影響を与えたというんですけれども、主に影響を与えたのはこのタームプレミアムなんですね。タームプレミアムの変動というのは、先ほど申しましたように、株価為替レートに大きな影響、資産価格に大きな影響を与えます。予想された短期金利、こちらの方は民間の設備投資あるいは住宅投資に大きな影響を与えます。つまり、実体経済の方に大きな影響が及ぶということであります。  こういうことを考えますと、私、日本銀行ですね、一つは何らかの形のフォワードガイダンスを強化した方がいい。そして、量的・質的緩和の量を増やす部分については、更にやるということは、いろいろなマーケットのゆがみを拡大するリスクが生まれているということかと思います。  同時に、金利について言いますと、今多くの先進国で長期金利、四年物、五年物、場合によると十年物ぐらいまでマイナスになっているところがございます。このマイナスになっている事態の下で国債中央銀行が買うということは、言ってみると補助金を付けてやって民間の金融機関から国債を買い取ると。もうちょっと言いますと、中央銀行はロスを、あるということを当然承知した上で買っているという、つまりコストを掛けながら買っているということを意味しております。  ほかの中央銀行を見ますと、今北欧のお話ありましたけれども、デンマーク等では中央銀行に預けてあるお金にマイナスの金利が付いております。マイナス〇・七五。スイスの場合も同様であります。そういうことがありますと、民間銀行は、中央銀行に預けるとマイナス金利だと、じゃ民間の我々の預金もマイナス金利にしないとコストが合わなくなるというので、場合によると民間の金融機関の預金金利にマイナスが付くということも起こっております。これも、ある意味で私、いろいろな弊害といいますか、の中の一つではないかというふうに考えております。  もちろん、長期にわたって低金利を続けますと、これはいわゆる資産市場のバブルというような問題、リスクが強くなってくる。現実にイギリスの場合には住宅市場でバブルが発生しております。それをどうしようかということで、マクロプルーデンスの政策を現実にイギリスの場合には発動をしております。これは不動産市場ですね。特にロンドンの住宅価格が上がり過ぎていると。  このマクロプルーデンスの政策は、実は金融政策とも非常に関係がございます。マクロの方だけ、プルーデンスの方だけで規制を強化して金融の方はずっと拡大というのはどこかで限界がございます。そこで、何らか金融政策とマクロプルーデンス政策の間を調整するメカニズムがどうしても必要だと、私考えております。残念ながら、日本の場合にはその調整するメカニズムは組織的には、制度的には全く存在していません。これは、一日も早くそういう調整メカニズムが円滑に働くような仕組みを整えておく必要があると思っています。  これが問題点の一つでありますが、もう一つは、今度は出口であります。  これは日本銀行だけではありませんで、イギリスの場合もアメリカの場合も同様であります。出口になって、今これからアメリカの中央銀行は金利を恐らく六月から夏にかけて引き上げていくと思いますけど、引き上げていきますと、資産の側の利回りとそれから負債の側の利回りですね、これが逆転するというようなことが起こり得る。あるいは、その長期金利が上がって自分が保有している資産にロスが出てくるということがあります。アメリカの中央銀行の場合も、将来バランスシートに損失が発生するかどうかということを、これは事務方が、連邦準備の事務方が計算をして、それは赤字になる可能性がありますというシミュレーションをやりました。  そこで、私どものセンターも、ほぼ同じ手法を使いまして、日本銀行の場合も、非常に円滑に日本銀行、二年程度で二%を達成し、それから次第に金利引き上げるという過程になった場合に赤字が発生しますかどうですかということを実験をしてみました。そうしますと、やはりこの図にありますように、どうも経常収支が悪化するということであります。赤字になるリスクがある。  この赤字になるリスクについて、私は事前の段階から、日本銀行政府でそういうことが起こったときにはどうするのかという取決めが必要だと思います。私はイギリス型が望ましいと思っています。イギリスは、キング前総裁が、このイギリスの量的緩和に踏み切る前に二つ財務省と約束を交わしました。一つは、こういう量的緩和という異例の政策に伴う収益と損失は全て財務省に帰属する、ですから損失も収益も全て財務省だ、もう一つは、国債管理政策を変更しないという。金利が下がったので、それじゃ国債管理の観点から長いものをもっと出しましょうというとその効果が弱まってしまう。そうしたような事前の取決めが私は日本の場合にも求められているのではないかということであります。  最後にもう一つ、現在日本が直面しておりますのは、原油価格が急落したということであります。夏から比べますと、もう四割ぐらい実は原油価格が下がっているということであります。原油価格が下がるということは、輸入物価が大幅に下がるということであります。先ほど申しましたように、一月マイナス六・六になったのは、もちろん原油も大きく影響しているということであります。  輸出物価の方が余り変わらないで輸入物価が大幅に下がりますと、日本が外国と貿易をする場合の相対価格、輸出物価輸入物価の比率を交易条件と申します、交易条件が良くなると、企業の場合には、交易条件、どういうことかというと、仕入価格と販売価格の比率であります。販売価格に対する仕入価格の比率が上がったりしますとこれは非常に収益がいいと。反対ですと収益が圧迫される。国も全く同じでありまして、同じように輸入物価の方がたくさん上がりますと、産油国に言ってみますと所得が流出してしまうということであります。  今回の原油価格、大幅に下がったことによって、実は物価が、もちろん輸入物価が下がって消費者物価指数も下がるということであります。そういうことがありますと、日銀の達成しようと思っている二%目標から遠ざかるということになります。  私どもの予測は〇・二というふうに、今年度ですね、というふうに申しましたが、この〇・二という数字は、先ほど申しましたように、GDPギャップの変動分と輸入物価の変動分、物価上昇率の変動分によって説明しますと大体一五年度物価上昇率〇・二になるということであります。  その場合に問題が生じますのは、日本銀行はそのときどうすべきかということであります。物価の方は下がります、二%から遠ざかってしまいますということであります。しかし、実質所得の方は、我々の見込みでは八兆円ぐらい、八兆円といいますと消費税で増税した増収分に当たるぐらいの実質所得の増加が見込まれるということであります。そうしますと、それは実質GDPを押し上げるという効果になります。  金融政策はどういうふうに運営すべきかということで、一つの考え方は、一、二年先のGDPギャップの変動分と物価上昇率の変動分、これを比べるという。通常の場合は両方同じ方向に動くんですが、原油価格のような場合は正反対に動くわけであります。そのときに、プラス分とマイナス両方を勘案した上で追加緩和やるべきか、やるべきでないかということを議論すべきだと。  私の大まかな計算では、そのプラスの方とマイナスの方がほぼキャンセルアウトする。ということは、追加緩和は、原油価格が下がったことに対して、すぐにそれに対して追加緩和をするということは必ずしも意味しないということであります。  IMFにブランシャールというチーフエコノミストがおいでになりますが、彼氏が、ユーロ圏と日本については金融政策対応としてはフォワードガイダンスを強化することが望ましいというふうに言っています。これは、量的緩和を強化せよというふうにはおっしゃっていないということがポイントだと私受け取っております。  では、具体的に何をすべきか。私の理解では、今、日本銀行はマネタリーベースを中心にして金融政策運営をしています。しかし、日本銀行の場合は、一四年の末に二百七十五兆円という目標は明確にしているんですが、一五年末、一六年末は幾らになるかということについてコミットしたことはない。図表を見ますと、点線で延ばしてありまして、八十兆を足した数字がぽんと出ているだけでありまして、フォワードガイダンスとしての役割はその分減殺されていると思います。ですから、私、原油価格の下落に対して物価が恐らくマイナスに、今年の第二・四半期、第三・四半期、マイナスになる可能性が強いと思っています。その場合でも、慌てて追加緩和というよりはフォワードガイダンス。ただし、その場合も、マイナス幅が余りに大きくなって、エネルギー、食料を除く分も上昇率マイナスになる、あるいはインフレ期待が更に大きく下振れするというような場合には何らかの対応が求められるんじゃないかというふうに思います。  最後に、私、最初に申し上げましたが、そうですね、成長戦略との関連がどうしても必要だということを申しましたけれども日本成長率、一人当たりGDPの水準と成長率というのを取りますと、この図に書いてありますのは、世界各国いろいろあるわけですけど、この赤線が引いてあるのは、右下がりの曲線が書いてありますが、どういう関係を示しているかといいますと、一人当たりの実質GDPの水準が低い国は高い成長率を実現する可能性が強いという図であります。収束していくと。新興国は次第に先進国の水準にキャッチアップしていく傾向があるというのを示すのがこの図であります。  日本の場合の問題点は、二〇〇〇年代になってこの傾向線よりも下になってしまっているということであります。少なくとも、私、これをまず傾向線まで持っていくという成長戦略が必要、そのためには、人口減少に歯止めを掛ける、イノベーションを促進する、そして第三の開国を進める、こういう三つの柱でこれを、中長期の成長率を高める。つまり、二〇二〇年代の初めぐらいには高めの成長率、その後は、先ほどのトレンドのラインに従ってより進んだ国にキャッチアップしていくというような成長戦略でもって同時に、日本銀行のQQEを同時に実行することによって安定的に二%の物価上昇率というのが達成できるのではないかというふうに考えております。  以上で終わります。
  14. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) ありがとうございました。  次に、菅野参考人お願いをいたします。菅野参考人
  15. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) それでは、本日いただきましたテーマの日銀の量的・質的金融緩和効果と課題という点についてお話し申し上げます。  ただいま岩田理事長の方からかなり日銀の政策についてコンプリヘンシブな御説明をいただきましたので、私のプレゼンテーションといたしましては、私が特に関心を持っております日銀の出口政策のところに時間を特に割きたいと思いますが、まずその前に、私が考えております日銀の政策効果という点について簡単に見てみたいと思います。(資料映写)  二〇一三年四月四日に日本銀行の黒田総裁はこの量的・質的緩和を導入を発表されまして、そのときの記者会見で、ここに書いてございます三つの波及経路というのを指摘されました。リスクプレミアム縮小効果、これは長期金利が下がったり株価が上昇する効果です。そして、二番目にポートフォリオ・バランス効果、これは銀行の貸出しが増えたり投資家のリスク資産の比率が増える、そういう効果です。三番目が期待インフレ率の上昇効果、これは実質金利低下から設備投資等が増える効果と、こういうことですけれども、ちょうど間もなく二年がたとうといたしております。  細かいことは省きますが、私の直感も含めて申し上げますと、①については、実際に長期金利が下がり株価も上がっていますので八十点と。二番目につきましては、確かに銀行貸出しは少し増えておりますが、銀行はそれでは不十分で、もうどこもかしこも運用難の状況ですので、まだこれは二十点。三番目の期待インフレ率上昇効果、確かに実質金利は下がっておりますが、まだ設備投資等は十分に増加しているとは言えないということで、四十点というふうに思っております。  これをもう少し別の角度から見ますと、この日銀の政策に最も敏感に反応したのは為替です。皆様御存じのとおりです。そして、円安が起こりました。その結果、株価、そして、まだ一部ではありますが、不動産の価格が上がり始めております。ただ、設備投資、個人消費等の需要項目ですね、こちらの方は十分に反応していないということかと思います。  ただ、過去二年間を振り返ってみますと、この間に日本企業、家計の景況感は、それ以前に比べるとかなり改善を見ております。一部中小企業等で必ずしも十分に恩恵が行き渡っていないところはありますが、ただ、マクロ的に見れば確実に景況感が良くなっておりますので、これは日銀の政策の貢献があったというふうにも言えるかと思います。  もちろん、一方、コストもございます。債券市場では流動性が低下し、債券市場から発生するメッセージですね、金利ということで市場がどう見ているのかが分かるわけですけど、それが封殺されているという問題があります。また、金融システムの安定化、これは先ほど岩田理事長の方からも御指摘がありましたように、資産価格がむしろ上がり過ぎる、実体経済と離れて上がり過ぎるのではないかという懸念。そしてもう一つは、金融機関の収益がかなり圧迫されていますので、実は金融機関の経営が不安定化するリスクもございますので、この辺がコストとしてはあるかもしれません。  では、全体としてどういう評価ができるかというと、実は、まだ出口という問題がありますので、そこを見るまでは全体の評価はできないということだと思います。簡単に申し上げますと、うまくソフトランディングできればこれはめでたしめでたしということですけれども、その出口のところでつまずいてしまう、あるいは非常に大きなコストを払わないといけないということになると、これではこれまでのプラスはもう全て相殺されてしまうということになりますので、やはりその出口のところをどう考えるかというのが重要になると思います。  その出口の話をする前に、ざっと期待インフレのところだけを少し取り出して見てみました。  こちらの、皆様から向かって左側の方のチャートというのは、市場で計測される期待インフレ率ということです。細かいことは省きますけれども、これは、長期間にわたって、今後十年間、市場がどのようなインフレ率かという、どう見ているかというものがここに示されています。  ここでお分かりのように、二〇一二年の終わりから一三年の初めにかけて、それまでのマイナスからプラス一%ぐらいまで急速に上がりました。これは明らかに期待インフレ率が変わったわけです。ところが、その後は、多少凸凹はありますけれども、一%を挟んだ動きということであります。最近少し一%を下回っていますが、これはちょっと原油価格が下がったことに過剰に反応しているという面もありますので、ここはちょっと割り引いて考える必要がありますが、ただ、言えることは、市場は、一%のインフレというのは何とか達成できそうだと、ただ二%はなかなか難しいよねというのが市場からのメッセージというふうに考えておりますし、私はこれは非常に重要なメッセージだと思っております。  次に、この右側のチャートですが、これは日銀が行っておりますアンケート調査の結果でございます。生活意識アンケート調査という結果ですが、これを見ると、この上の平均値というところと中央値というところを御覧いただくと、日銀の政策に全く関係なく、ほとんど影響ないと。ですから、家計から見ると余り期待インフレ率は変わっていないということかと思います。  三番目が、この左側の、企業がどう見ているかということです。昨年から日銀は短観で企業期待インフレ率を聞いております。企業の販売価格見通しというのがあるんですが、この黄色い線のところを御覧いただきますと、二〇一四年十二月、一年後が一・〇、三年後が一・七、五年後が二・〇%です。これは一年間の変化率じゃないんですね。今から見て例えば三年後にはあなたの企業の販売価格は何%上がっていますかということで、一・七%です、五年後には二・〇%ですというふうに答えているわけですので、そうすると、その例えば一年後から三年後にどれだけ変わるかというのは、この表のとおり解釈すると、実は二年間で〇・七%ポイントです。ですので、一年にすると〇・三五%。三から五年後は、一年間は〇・一五しか上がらない。むしろ企業も、少なくとも二%に毎年どんどん上がっていくというふうには思っていないということですね。  あと、後ろの方にちょっと書いたんですが、こっちは後にします。  エコノミストがどう考えているかというと、これブルームバーグという通信社がやった調査があるんですが、日銀が言う二〇一五年度中心とする期間に二%程度のインフレが実現すると思いますかという問いに対して、三十三名のエコノミストのうちイエスと答えたのは二名、三十一名はノーというふうに答えております。エコノミストも、そういう意味で、なかなかやはり二%のインフレは、少なくとも日銀が言っているように二年程度では難しいということかと思います。  そうなりますと、日銀が二%を早期に達成しようと、今、黒田総裁は記者会見でもそのようにおっしゃっていますが、そうであれば、日銀は追加緩和をするだろうというのが自然の成り行きでございます。そして、これもブルームバーグのアンケート調査によると、七四%のエコノミストが年内に追加緩和ありというふうに答えているわけです。  これが私の評価と今実際に現状でどのように市場、家計、企業、それからエコノミストが考えているかというようなことですね。  次に、このチャートは私どもJPモルガンの今年のインフレ率予測を示してございます。下のピンクの部分がエネルギーによる押し下げ効果、寄与度がマイナスになっておりますが、これによりますと、今年の四―七月辺りにコアCPIの前年比がマイナスになりそうだと。ただ、そんな大きなマイナスではないわけで、その後、原油価格が少し持ち直しぎみになると年の終わりにはまた一%近くに近づいてくると。ここにはありませんが、二〇一六年には一%台の半ばぐらいまでは上がってくるかなというふうには見ております。ただ、それでもまだ二〇一六年にもなかなか二%には届かないというように私どもは考えています。  では、二%って永遠に到達しないのか、あるいは到達するのかという点ですけれども、私どもは二%はいずれ達成可能だろうというふうに思っております。  こちらのチャートの右側、有効求人倍率のチャートをお示ししてございます。ただいま足下で有効求人倍率は一・一五倍、すなわち求職数に対して求人数が少し上回っているような状態までようやく回復はいたしておりますが、ただ、所定内給与という、いわゆる基本給、ここの前年比はまだ〇・二%ぐらいということで、さすがにマイナスはなくなりましたけれども、まだまだ賃金の上昇圧力は弱い状況です。  ただ、この有効求人倍率のチャートは非常にスムーズに動いていますので、このまま先延ばししますと二〇一七年ぐらいには有効求人倍率が一・五倍ぐらいに到達いたします。この一・五倍の有効求人倍率というのは、一九九〇年、日本の資産バブルの一番ピークだったときですけれども、このときの有効求人倍率に並びます。これはかなり労働市場が加熱した状況を示しております。  この後も幾つか分析があるんですが、ここは省略させていただきますと、実はこのぐらいになると賃金上昇率も大体二%ぐらいのところに動きますので、今後前向きの循環が続けば、二〇一七年ぐらいには賃金が二%になり、そしてその後少し遅れてインフレ率が、私どもは二〇一七年の後半から一八年ぐらいになると二%のインフレというのがその頃見えてくるのではないかなというふうに思っております。  あと、次に出口政策についてお話しさせていただきたいと思います。  では、二%が視野に入ってきますと何が起きるかというと、まず長期金利が上がってまいります。現状〇・三%強ぐらいの十年債、十年国債の利回りですけれども、さすがに出口が近づいてきますと、その出口の先にある長期金利の水準というのは二%はもう超えてくるという、すなわちインフレ率より当然高くならないといけないわけですから、幾ら日銀が国債を買おうと金利はじわじわ上がってくるということになります。  ただ、問題は、この上がる金利のスピードが非常にスムーズに上がるのかどうかということですが、もう既にアメリカが出口から出ようとしているわけですが、その経験を見るとなかなかスムーズというわけにいかないと。やはり中央銀行の一挙手一動を見て市場がやや過敏に反応して、長期金利が非常に大きく振れやすくなるという可能性というのはあるのではないかなと思います。  じゃ、それなら日銀はもっと買えばいいだろうと、日銀が買えばそんなにボラティリティーが上がらないだろうということはあるかもしれないんですが、ただ、これは金融の緩和になってしまいます。日銀が国債を買うということはその分市中にもっとお金が出ることですから、二%のインフレが近づいたところで更に日銀が国債を買うともっとインフレになってしまうという悪循環になりますので、これも日銀にとっては非常に制約があるわけです。  したがいまして、特に出口に近づくときには、市場といかに呼吸を合わせて出ていくかと。市場との対話というのが非常に重要になってまいります。その点、現在、アメリカの中央銀行であるFRBは、もう極めて一語一語誤解されないように非常に神経を使っているということが言えるかと思います。  ただ、現在日銀は、出口政策に関しましては時期尚早というふうに言い続けております。多分、期待インフレ率を上げるためには出口政策はまだ議論しない方がいいということかもしれませんが、もうそろそろその封印は解かれてしかるべきだろうと思います。その将来のショックを和らげるためには、今すぐに出口戦略は、封印は解くべきだというふうに思っております。  ここで、先ほど岩田理事長の方からもちょっとお話がありました、日銀のバランスシートと日銀の収益について簡単にちょっと図示してみましたので、御覧いただければと思います。  日銀は二〇一五年度のバランスシートは発表していませんが、約八十兆円足した、一四年末に八十兆円乗っけたような形で絵を描きました。仮にですが、この段階で日銀が政策金利を、今〇・一%ですが、これを二%に上げるとすると、超過準備はこのとき二百三十四兆円ですので、これに二%掛けると四・六八兆円、四・七兆円というのが年間の支払利息になります。一方、長期国債がこのとき二百八十兆円強日銀持っています。大体この平均利回りが、その時点のちょっと金利にもよってはっきりしませんけれども、大体〇・五から〇・六%ぐらい、もうちょっと低いかもしれませんが。そうするとこれは一・四兆円ぐらいになります。もちろんその他の資産がありますのでもう少し収益はありますが、支払利息が四・七兆円、国債からの収入は一・四兆円プラスアルファですので、これでは日銀は赤字になります。  そして、先ほど岩田理事長の方からも、そういうときに備えて政府とちゃんと事前の協定を結ぶべきだと。それはそう思いますが、ただ、それでは実は不十分なのではないかなというふうに思います。  すなわち、日銀の赤字政府が補填すればいいというのは簡単な話ですが、果たしてそれで国民あるいはマーケットの信認は得られるでしょうか。政府財政状況がぴかぴかで、財政赤字が非常に少ない、債務残高が非常に少ないという状況の下であればそれでも話は済むかもしれませんけれども、現在のように政府債務GDP比率が非常に大きい、二三〇%というふうに大きいときには、これ日銀に赤字補填をするということは、これはもっと国債を増発するということになるわけです。  そしてさらに、今、日銀の資本金というのは六・七兆円ですので、これを何度も何度も続けていたら、日銀の自己資本が毀損されてしまって、日銀が債務超過になるということですね。果たして、じゃ、この債務超過が起きたときに何が起きるんでしょうかと。実は、これはまだどの先進国も実験はしたことがないので日本が最初にやることになりますので、今から、じゃ、どうなると、これははっきりしたことは言えませんけれども、普通に考えると、政府財政赤字が大きいときに更にもっと中央銀行に補填するというのはどう考えても常識的に考えると何か変だなということだろうと思いますので、場合によっては海外への資本逃避あるいは実物資産への逃避みたいなものが起きるという可能性があります。  そして、実は政府が日銀の赤字を埋めるというのは、これは国民の側から見ると、国庫納付金が減るということですので、これは増税と同じ効果があります。すなわち、政府が補填するのではなくて、これは国民が補填しているんですね。それも、しかも後世の国民がですね、これ、後ずっとツケが残りますから。自分たちの次の代にツケを残していくという政策にほかならないので、そう安易にやっていいものでは決してないというふうに思っております。  先ほど岩田理事長がおっしゃられたように、FRBでは、スタッフペーパーですけれども、出口政策が出る前に、僕今日持ってきておりますが、こういうペーパーを発表しています。そして、これは我々の言葉で言うとストレステストと言うんですが、金利が上がったときに日銀の収益がどう変わるかというのをちゃんと計算しています。そして、アメリカの場合には、金利が上がっても二〇一五年までにこのQE、量的緩和をやめれば大丈夫ですよと、FRBは赤字になりませんというのを、これもスタッフペーパーですが、出しています。ところが、日銀はまだそういうものは、少なくとも、内部ではあるかもしれませんが、我々はまだ見ていないと。したがって、日銀はこのストレステストの結果を国民に公表すべきだと。どういうリスクがあるのかを国民に知らしめた上で、追加緩和をするのかしないのか、そしてどの時期に量的緩和の縮小に向かうのかを説明すべきだというふうに思っております。  最後に、全体のそういう意味で評価ということを申し上げますと、なかなか日銀の政策だけを単純に評価することは実は難しいと思っています。私は、量的・質的緩和政策の最大の目的は時間を買うということにあると思います。日銀が痛み止めあるいは麻酔薬を打っている間にしかるべき政策、重要なのは財政の健全化と成長戦略、これを同時に完全実施することができれば、これは日銀が量的・質的緩和をやって時間を買った成果という形で大いに評価されると思います。ただ、日銀の痛み止め、麻酔薬もいつかは切れるときが来ます。それは二%インフレが達成されたときですけれども、その間に歳出削減などの手を緩めてしまって成長戦略も余り進まないというようなときには、結果として時間の浪費になり、日銀の出口政策はますます困難になってしまうということです。  結論を言いますと、出口政策に関して日銀とアメリカの違いは、まさにその財政状況の違いです。アメリカは量的緩和を縮小しても海外投資家がむしろ国債を買いに殺到しました。これはアメリカの財政に対する信頼があるからです。そして、むしろ長期金利は低下しています。日本の場合には債務残高が非常に高いわけで、果たして出口で投資家からの信認が得られるかどうか。その保証は今のところ全くないと思っています。出口戦略に関するリスクというのは、これは予想できるリスクで、自然災害以上に予想できます。かつ、このリスクが顕現化した場合の経済的混乱というのは非常に大きなものがあると思います。  したがいまして、私は、政府あるいは国会は一種のプロジェクトチームのようなものを設置して、このリスクを小さくするにはどうしたらいいのか、あるいはリスクが顕現化した場合にはどのような措置が考えられるか、今から検討すべきだというふうに考えます。  以上でございます。
  16. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) ありがとうございました。  次に、早川参考人お願いをいたします。早川参考人
  17. 早川英男

    参考人早川英男君) それでは、日本銀行の量的・質的金融緩和とその効果について私の所見を述べさせていただきたいと思います。  なお、私は特にチャート等を投影いたしませんので、お手元にございます私のレジュメを御覧いただきながらお話を聞いていただければと思います。  それと同時に、最初に一言だけお断りしておきますけれども、今の岩田参考人菅野参考人も同じでしたけれども金融政策の話をするときに金融政策だけの話をするわけにはいきません。どうしても財政とか成長戦略、そうしたことにも言及せざるを得ませんので、そうしたことも含めてお話をさせていただくということを申し上げておきたいと思います。  一ページ目でございますけれども、一ページ目というのは量的・質的金融緩和ってどんなものだったかということでございますので、皆さん多分御承知でございますので、御説明するには及ばないと思っています。ただし、一々、量的・質的金融緩和という言葉をずっと言っていると随分長いですので、今後、英語の略称である、日本語だと異次元緩和という俗称がございますけれども、英語ではQQEと言われていますので、これでお話をさせていただきたいと思います。  もう一ページおめくりいただきまして、私がまず申し上げたいのは、いわゆるQQEを始める前の段階でどういう理論的な問題等があったかということです。申し上げたいのは、このQQEというのはある種の実験的な性格を持つ政策であるということであります。と申しますのも、短期金利がゼロになってしまった後に長期国債等々を買ったりする形で政策効果を及ぼすという政策は非伝統的金融政策と呼ばれるわけなんですけれども、実を言うと、この非伝統的金融政策がどういう効果を持つかについて、経済学界に明確なコンセンサスはありません。そういう意味でQQEは実験的であると申し上げているわけであります。  まず、理論的にどういう話になっているかということなんですけれども、現在の標準的な経済理論で想定されている効果というのは、次に申し上げるようなものではないかと思っています。  この説明は、去年の春の金融学会で東大の植田先生が使われた分類をそのまま使わせていただいておりますけれども、QQEにはいろんな要素があって、まず、植田さんの言葉で言うとQE0というふうな、これ単にマネタリーベースを増やす効果であります。これについては、少なくとも理論的にはないというのが一応学界のコンセンサスであります。実際にFEDのバーナンキ議長も、ここでのQEというのは、狭い意味でのQEには効果がないというのはもう明言されておられます。  二番目が、これはQE1と言われているものでありまして、これはリーマンショックの直後にFRBが行ったような政策、すなわち金融市場が混乱しているような状態で住宅ローン証券とかそうしたものを買い入れる政策であります。これについては、理論的にも効果があるというのが一般的な理解であります。FEDはこのときQEと混乱されないようにあえてクレジットイージングという言葉を使っていますけれども、これについては効果があるというのが一般的。  もちろん、これは最初にアメリカがやったというよりは、その前例をたどると、実は一九九八年の金融危機のときに日銀がCP・社債オペをやったのが多分その前例になると思いますけれども、こういった政策であります。よくバーナンキが大恐慌の研究の成果を生かして量的緩和をやっているということが言われますけれども、それは多分正しくなくて、バーナンキの大恐慌研究の直接的な応用というのは多分このQE1に当たるだろうと思っています。  もう一つがQE2と呼ばれているものでありまして、これは長期国債を大量に買うというものです。アメリカでは二〇一〇年以降、QE2、QE3という形でこれが行われました。これについても、実はみんなが物すごく合理的だと仮定しちゃうと、理論的にはこれも効果がないというのが一応理論的な結論なんですが、これはちょっとやっぱり言い過ぎであって、通常は、これはある程度長期金利の低下効果をもたらすだろうというのが一般的な理解であります。  と考えますと、日銀の今回のQQEというのはどういうものかというと、金融市場の混乱というのは余りないですので、QE0とQE2を足したものであるということが一般的な理解になると思います。もちろん、だから長期金利の低下効果はあるわけですけれども、スタート時点の長期金利がかなり低かったので、まあ効果はあっても少ないだろうというのが理論面から出てくる結論であります。  一方、もう一ページおめくりいただきまして、しかし、現実はどうかという話になると、例えば為替市場においては、ソロス・チャートと呼ばれていて、各国のマネタリーベースの比較から為替レートが動くんだということを信じてトレードを行っている人がたくさんいます。もちろん理論的に言うとそれは間違いだということになるわけですけれども、皆さん多分御存じだと思いますけれども、ケインズの美人投票の論理というのに従えば、それは間違っていてもみんなが信じているんだったら自分も信じた方が得だというロジックがあるので、実際にはそういうことが起こり得るということになります。実際、アメリカのQE2とかQE3はドル安とかアメリカの株高をもたらしたように見えます。  以上申し上げたことは何か不思議なことを言っているように思われるかもしれませんけれども、それをうまく表している言葉が、実は去年バーナンキ議長が退任する直前に、これはブルッキングズだったと思いますけれども、こういうふうに言っています。ザ プロブレム ウィズ QE イズ イット ワークス イン プラクティス、バット イット ダズント ワーク イン セオリー。要するに、いや実際には効果はあるんだけどね、理論的には効果はないんだよ、これが問題なんだということをバーナンキは言っているわけであります。  そうすると、じゃ、理論的にはともかく、実際に効く可能性があるんだったらやってみればどうだという議論が当然あるわけなんですが、そこについて、僕、ちょっとここには非伝統的金融緩和の倫理的側面なんてやや大仰な言葉を使ってしまいました。通常は金融政策というのは最もテクニカルなポリシーであって、ある種、倫理とかそういう深遠な問題とは関係ないはずなんですけれども、実はこういう問題があります。  例えば、もし市場参加者の誤解によって効果を持つような政策というのを中央銀行はやっていいのかという議論があります。これ実はお医者さんがプラシーボといって偽薬を使うことがあるんです。単なる砂糖を飲ませるということがあるわけですけれども、実はこれ医学的にはプラシーボは効くというふうに言われる事実があります。そうすると、お医者さんがそのプラシーボを使うのと同じと考えていいのかというのが一つの議論だろうと思います。  もう一つは、これも今お二方から詳しく御議論がありましたので詳しく説明する必要はないと思いますけれども、QQEの出口で日銀は巨額の損失を被る可能性があるということです。  それは、これも今、菅野さんからお話がありましたとおり、最終的には国民負担です。そうすると、民主主義の大原則に遡って考えると、本来、ある種の課税というのは国会の議決を経ずして課税することはできないというのが民主主義の大原則なわけですが、そういうことを例えば中央銀行、いかなる意味でも国会の議決を得ていない者がやってよいのかという問題があります。  これ難しいのは、最初から副作用がありますと言ってしまうとお薬は効かない可能性があるので、一番最初の時点で目をつぶるという可能性はありますけれども、それをもう二年も続けていて、何も説明しないで追加緩和をしていくというのは果たして許されるのかというのはかなりシリアスな疑問だと僕は思っています。  いずれにしましても、こういう問題がいろいろあるわけですが、何はともあれ実際にやってみました。やってみた結果、何が分かったかということでありますけれども、まず第一に、そのQQEの成果という点では、もう皆さん改めて申し上げるまでもございません、大幅な円安、株高が実現したということであります。  もちろん、マーケットが動き出したのは、実際に日銀が金融緩和を始める前、むしろ二〇一二年の十一月に衆議院が解散されて、安倍政権ができるということがほぼ予想された時点でマーケットが動き出したわけであります。  そして、その二〇一二年の秋というのはどういう時期だったかというと、一つは、要するに欧州情勢が落ち着き始めていて円高要因がなくなりつつあった、あるいは日本の貿易赤字が予想外に拡大していたということがあります。と同時に、実は二〇一二年は七か月余りの短い景気後退があったわけですが、それが二〇一二年の十一月に底を打っていました。そういう意味では、ある種、為替にしても株にしてもマーケットの潮の変わり目にあったというふうに思いますけれども、さりとて実際にアベノミクスとかQQEがなければ、あれだけの円安、株高になったとは思いませんので、やっぱりそれなりに効果があったということは間違いないと思っています。  もう一つは、やはり何といってもデフレ脱却が実現したということであります。もちろん円安に伴うコストプッシュ要因が大きかったのは事実でありますけれども、一三年の後半、おととしの後半から約一年半、消費者物価の前年比はプラスを続けていますので、デフレというのが物価の持続的下落というふうに定義されていることを考えれば、デフレが終わったということは明らかだろうと思っています。これはいずれにしても非常に大きな成果であったと思います。  一方で、次のページで、QQEないしアベノミクスの誤算もあったというふうに思っています。  一つは、デフレから脱却しても成長率はなかなか高まらなかったということであります。御承知のように、リフレ派と呼ばれている人々は、物価が下がるから消費が先送りされるのである、それからデフレで実質金利が高いから設備投資が出ないのである、デフレ下で円高になって輸出も伸びないのだという説明をしていたわけであります。現在はデフレは終わりました。実質金利は明確にマイナスです。大幅な円安です。ですから、消費も投資も、設備投資も伸びて高い成長になるはずですが、実際にはそうなってはいないということであります。  もちろん、一三年度の実質成長率は二・一%でしたから、これはまあまあの数字であることは間違いありませんけれども、このうち〇・五%は公共投資の寄与でありますし、恐らく消費増税前の駆け込み需要、これは消費と住宅合わせて〇・七%くらいあったんではないかと考えていますので、この二つを抜くと、実は実力は一%足らずであった。一方、御存じのように、一四年度は恐らくマイナス成長になるわけでございますので、それを考えれば、デフレさえ終われば高成長になるという話ではなかったということは明らかだと思います。  と同時に、大企業が収益改善したにもかかわらず、輸出はそんなに増えませんでしたので、中小企業への発注は大したことはありませんでした。設備投資は増えましたけれども、これも大したことはありません。賃上げも、もちろん久々のベースアップがあったわけでありますが、残念ながら円安による物価上昇あるいは消費増税による物価上昇を埋め合わせるだけの力はなかったということだと思っています。だからこそ、去年は特に家計あるいは中小企業あるいは地方といったところについては、むしろ円安のメリットよりもデメリットあるいは消費増税の影響の方が上回ってしまったということでございます。  もう一つは、やっぱり成長天井が予想以上に下がっていたということだと思います。先ほど労働需給の改善の話は菅野さんからお話ありましたけれども、もうアベノミクスがスタートして一年ぐらいでほぼ完全雇用が達成されて、むしろ人手不足になってきた、まあそれ自体はいいことなんですけれども、しかし、それがそんなに早く達成されてしまったというのは、やはり労働人口の減少によって潜在成長率が下がっていることにほかならないと思っています。  内閣府の試算では現在の潜在成長率は〇・六%と、六ページでございますが、ことになっています。私自身はもうちょっと低いのではないかと思っていまして、今日銀では〇・二%程度と試算しているようですけど、いずれにしても〇・六と〇・二比べても大してはありません。いずれにしても低いということだけは間違いないということでございます。と同時に、後ほど申し上げますけれども、潜在成長率が下がってしまうと財政バランスの維持が難しくなるという問題が出てくるということでございます。  それから、三番目の誤算は、これも比較的最近の話になりますけれども、原油価格の下落もあって、QQE始めてちょうど二年になる今年の四月ぐらいの物価上昇率は多分ゼロぐらいになってしまう可能性が高いと思っています。  もちろん、お二方からもお話ございましたとおり、原油価格下落は大幅な減税に等しい効果を持ちますので、日本経済にとっては大きなボーナスではあります。ただ、一部の方は、原油価格というのはこれは相対価格なのであると、したがってマネーを十分増やせばそんなことは関係なくて物価は上がるのだという議論をされている方がおられましたけど、これは少なくとも短期にはそういう事実はないということでありますので、時限を限ったインフレ目標の達成は難しくなったということでございます。  七ページ目でございますが、QQEというのは元々実験的なものであったと考えると、実際の経験から学ぶということは極めて大切であります。以上の成果と誤算を踏まえて常識的に考えると、学ぶべき教訓はこんな形になるのではないかと思います。  一番目は、デフレが終わっても成長率は高まりません。成長天井の低下があらわになった以上、供給力の強化が大事だと、そういう意味では成長戦略の策定が極めて重要だということは明確な教訓だと思います。  二番目に、完全雇用はもう実現しているわけですから、財政によって景気刺激することは余り意味がないということになります。むしろ成長天井の低下によって財政バランスの維持が困難になったということを踏まえるのであれば、早期に財政健全化にかじを切る必要があるということ。  三番目に、成長力の強化も財政健全化も進まないうちにインフレ目標だけが達成されてしまうと、日銀の国債の買入れが終わって長期金利が上がってしまうということで、別に二%というのはもちろん急ぐ必要はないのではないかということです。  もちろん、岩田さんからお話がございましたように、僕も二%目標自体は旗を取る必要はないと思いますけれども、元々原油価格等が変化すればインフレ率が変わるのは当たり前であって、それを容認して長い目で目標を達成するというのが現在のインフレ目標政策の国際標準だと理解しています。  という下で、実は昨年の秋に行われたことは私にとっては大きな衝撃でありました。というのも、今申し上げた教訓と全く正反対に、十月末に日銀はQQE強化を行いました。この結果として、国債の市中消化分のほとんどが日銀に買い入れられるという意味で、その財政ファイナンスの色彩が一層強まったということです。と同時に、安倍総理は、今年十月に予定されていた消費増税の先送りを決意した上で衆議院の解散・総選挙に踏み切ったということです。もちろん、当座の萌芽としては、日銀の追加緩和は更なる円安、株高につながりましたし、選挙の結果は与党の勝利ということだったわけでありますけれども、この決定財政の維持可能性を危うくするおそれがあったのではないかと思っています。現に一部の格付会社は日本国債の信用格付の引下げを行いました。  なぜこれが危険かというと、その一番重要なポイントは、九ページにございますように、二%インフレが達成されたときに果たしてそのQQEの出口をうまく抜けられるかどうかというのは、基本的にその時点で市場参加者が財政の維持可能性を信じてくれているかどうかに依存するからであります。と申しますのも、もしマーケット参加者がそれを信じてくれていさえすれば、あとはこれはもう日銀の腕前次第というものだと思っています。日銀は実は市場調節の手腕についてはそれなりの定評がございますし、それから、日銀が最初にやるわけではなくて、去年実際にFEDは国債買入れの削減、テーパリングを行いましたし、今年は恐らく利上げを行っていくだろうと思われています。日本はそこからしっかり学ぶことができるということがございます。  しかし、逆にマーケットがそれを信じていない場合はどうかというと、まず第一に、信じていないのに国債の買入れをやめてしまえば、恐らく長期金利は急騰する、これは避けられないと思います。逆に、じゃ、それが怖いからといってずっと買い続ける、もう二%インフレになっているのに買い続けるということが行われれば、これは恐らく円安、インフレのスパイラルにつながる可能性が高いと思っています。日銀の黒田総裁は以前の記者会見で、政府財政健全化への意思や努力について市場から疑念を持たれると対応のしようがないということを言われているわけでありまして、まさにそういう問題に直面するということです。  ただ、実は一つ大きな幸運がございまして、何度も出ておりますけれども、実は原油価格の急落によって、一方において恐らく景気は順調に回復していくと思われます。他方で、インフレ率が二%に達するのは少なくとも今年の春ではなくて、まだしばらく先になります。そういう意味では、QQEの約束が実現しないという意味では不幸ではありますけれども財政の維持可能性を回復するまでの時間の余裕ができるという意味では日本にとって大変な幸運であるというふうに思っております。  最後に、十ページでございますけれども、そうなると何が大切かということでありますけれども、それは、総選挙の前に総理が、消費再増税は先送りしても財政健全化というのを堅持するということで、この夏までに二〇二〇年度の基礎的財政収支黒字化のための具体的計画を策定するということを言っておられます。これが本当にできるかどうかというのが極めて重要、とりわけQQEがうまくいくかどうかにとっても極めて重要であるということになります。  皆さん御承知のとおり、一月十二日に内閣府が中長期の経済財政に関する試算の改訂版を出しました。二〇年度の基礎的財政収支について、実質二%、名目三%の楽観的な前提の下でも九・四兆円の赤字が残るということでした。一方で、今回は、内閣府の潜在成長率並みの成長を前提にした計算、これベースラインケースと言われていますけれども、計算が出されまして、これ十六・四兆円のプライマリーバランスの赤字ということでございました。  もちろん、成長率を上げていくのは大事ですけれども、これはよく法政大学の小峰さんが言われるんですけど、目標と前提は違う。新入社員が社長になるのを目標にするのは大変結構でありますけれども、社長になることを前提に今日から飲み歩くのでは破綻してしまいますので、前提は慎重であるべきだということだとすると、やっぱりこのベースラインを前提に考えていく必要があり、そうなると、二〇二〇年度の基礎的財政収支黒字化というのはこれは簡単ではありません。  恐らく、消費増税を一七年の一〇%だけではなくて、多分更なる追加増税が必要になりますが、それだけでも恐らく簡単ではありません。社会保障改革を含めた歳出削減、そして成長力強化、それを全部組み合わせた対応が必要になると思います。これは、政府・与党だけではなくて、ほとんどの野党の方々も総選挙で再増税先送りに賛成された以上、皆さんが共通の責任を持ってこの議論をされていく必要があるというふうに考えております。  最後に、最近、財政の状況を見る上で、公的債務残高と名目GDP比率といったストック指標が大事だという議論が行われています。これ大事なことは間違いありません。ただし、足下は、実はQQEで長期金利が抑制されているために、見かけ上これが随分低く出てくるということがございます。もしQQEが終わって正常化、例えば長期金利と名目成長率が等しいという状態の下では、基本的にプライマリーバランスを黒字にしない限りこの赤字は無限に発散していくということでございますので、ここも申し上げた上で、私の意見陳述は終わらせていただきます。
  18. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) ありがとうございました。  以上で参考人からの意見聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  本日の質疑はあらかじめ質疑者を定めずに行います。  まず、各会派一名ずつ指名させていただき、その後は、会派にかかわらず発言いただけるよう整理をいたしてまいりたいと存じております。  質疑をされる方は、挙手の上、会長の指名を待って御発言くださいますようお願い申し上げます。  質疑及び答弁は着席のまま行い、質疑の際はその都度答弁者を明示していただきますようお願いをいたします。  なお、できるだけ多くの委員発言機会を得られますように、答弁を含めた時間がお一人十分以内となるよう御協力のほどお願いをいたします。  それでは、質疑のある方の挙手を願います。  舞立君。
  19. 舞立昇治

    舞立昇治君 済みません。自民党の舞立昇治でございます。  本日は、三人の参考人先生方、本当にありがとうございました。  十分という短い時間なので、早速質問させていただきたいと思うんですけれども、三人の参考人先生方、それぞれ、やはり二年で二%の物価安定目標に関しましては、おおむね二%の水準は適切だけれども、時間的には二年じゃなくて五年程度と、ゆっくり時間を掛けてといったような内容だったかなと思います。私も基本的には同様の考え方で、私は二〇二五年ぐらいまでを見据えて五年から十年程度を視野に入れればいいかなと思っているんですけれども。  そこで、やはり今日銀はまだ二年程度にこだわっているということで、菅野参考人の資料でも、今年の年内の追加緩和の可能性につきまして、多くのエコノミストがあり得るといったような回答をされていると思いますけれども、私は、やっぱり時間を掛けて行うのが、二%の目標はですね、必要だと思っておりますし、やっぱりこれ以上の追加緩和というのは非常に副作用が大きいんじゃないかと思っておりまして、それぞれお三方にお聞きしたいんですけれども、仮に年内の追加緩和、許容すると、許容できるとすれば、日本経済がどのような状況になっていれば追加緩和の可能性もあるんじゃないか、してもいいんじゃないかというようなお考えがあれば、ちょっと最初にお聞かせいただければと思います。
  20. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 先ほど最初の所見述べさせていただいたときも、原油価格が急落して、生鮮食品を除く消費者物価マイナスになる可能性が強いと、特に第二・四半期、第三・四半期ですね。そのときに追加緩和が必要かどうかということが恐らく問題になって、私は、その場合に重要なことは、エネルギーと食料を除いても物価上昇率マイナスになっているというような事態、あるいはインフレ期待ですね、これはいろいろな測り方ありますけれども、マーケットのいろいろな債券から得られる情報で、インフレ期待が大幅に低下してしまって中長期の物価上昇率、二%に向かっていくような動きが停止してしまう、あるいはそれが極めて困難になると予想されるというような、こういう事態が起こる場合には何らかの手だてを取る必要があると思います。  ただ、その手だてについてはいろいろな可能性があると思います。今のようにマネタリーベースの枠内でもって全てを考えるのか、これまでと同じように国債を買うという方向で考えるのかですね。そこは複数の選択の余地があるというふうに思っております。  具体的な措置として、十月末の追加緩和というのは、私はやむを得なかったというふうに思っています。これは、原油の急落がなくとも一%を割り込んでくると。その場合に、日本銀行はそれに対して何も対応しないということがあるとしますと、もっとその下げ幅が加速していってしまう。ですから、原油価格の下落がなくても、またマイナス物価上昇率に陥ってしまうというようなリスクがあるとすれば、それは何らかの対応が必要だったというふうに思っております。  以上で一応終わらせていただきます。
  21. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) 一言で申し上げますと、期待インフレ率が低下してきた。その背景はいろいろあるかと思いますけれども、すぐに期待インフレ率の回復が難しいと思えば、これまでの日銀の行動様式に当てはめれば追加緩和があっても不思議ではないと思いますし、それは必ずしも、後の出口政策との関係でいくと非常に難しいところありますけれども、もし短期の日本経済を支えるという意味からは、ある意味からは正当化される政策かと思います。  では、もし追加緩和をそのときしなかったら何が起きるかというと、かなり市場の反動が大きくなることが予想されます。すなわち、かなりの市場参加者がもう常にその追加緩和というのを織り込んでおります。そして、それが今の円安の水準になっているわけですので、その年限を、今二年程度でというのを更に、まあ五年なのか十年なのか、そこを別にしても、いずれにせよ、年限を延期しますと当然追加緩和をするんだろうなというふうに思っていますので、そこで追加緩和がないと、一つは円高になる可能性もあると思います。  果たしてそのときに株がどういうふうな状況になっているか。これは、必ずしも円と株は同じように今動くようにもなっていませんので何とも言えませんけど、ただ、一つのリスクとしては円高と株安が起きてしまうかもしれない。仮にですが、そのときに世界経済が不安定になっていると、更に下向きの力が出て、そしてそれが更に期待インフレ率を下げてしまうんではないかと。ですから、このリスクを軽減するには追加緩和だろうと、こういうふうに考えている市場参加者は多いと思います。
  22. 早川英男

    参考人早川英男君) まず、基本的に、今お二方言われたとおり、足下の短期的な物価の動きよりも、もう少し中長期的な物価の動きないしはそれに対するインフレ期待の動きが大切だと思っていますけれども、現状は、あれだけ原油価格が下がっても、少なくとも中長期のインフレ期待というのはそんなに動いていませんので、どちらかというとそれが大きく損なわれることは余り心配していません。  どちらかというと、むしろ、少なくとも普通に考えれば、今年は、日本経済は例えば原油安の影響もあって明るいわけですけれども、一方で、世界経済にはリスクがたくさんあります。例えば、中国の問題も含めて、あるいはアメリカが実際に金利を上げていったときに世界の金融市場がどう反応するか等々たくさんのリスクがあって、世界経済の方から思いも寄らないようなショックが起こってくることがございます。  例えば、実は日本は、仮に今短い景気後退になるかもしれませんけれども、去年はあくまである種の消費増税の駆け込み需要と反動による短期的なもたつきであって、前向きの経済循環そのものが損なわれたわけではありません。むしろ、何か大きなショックによって経済の前向きな循環そのものが損なわれたときこそ追加緩和だろうと思っています。  と同時に、そういうことが起こったときの手段というのは、単純に必ずしも国債買入れだけではなくて、ショックの性質によっていろいろございますけれども、よりリスク資産を買うといったこと、あるいは、むしろマネタリーベースなんてことは考えないでマイナスの金利を使ってみると。いろんな可能性がありますけれども、いずれにしましても、単純に国債を買い増ししていくということだけにはとらわれる必要はないと、こんなふうに考えております。
  23. 舞立昇治

    舞立昇治君 ありがとうございます。  ちょっと時間がなくなりましたので、最後、一点だけ岩田先生にお願いしたいんですが、QQEの出口戦略について、菅野さんや早川さんからは何となくスタンスがお聞きできたんですけれども岩田先生のその出口戦略に対するお考えについて、時期やその内容についてどうあるべきか、ちょっとお考えをお聞かせいただければと思います。
  24. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、出口につきましては、私ども、センターでもいろいろ議論をして、昨年、QQEについての本も出させていただいて、そこで、アメリカと同じようなプロセスをたどっていった場合にはどういう、バランスシートに何が起こるかというシミュレーションをやってみたということであります。ただ、そのシミュレーションは、一五年度中心とする期間に二%をめでたく達成して、その後テーパリングをやり、そして金利引上げをやっていくという、そのプロセスを踏んでいく、そういうことをやりますと赤字になりますということであります。  先ほど菅野さんの方からそういうことにならないようにということが大事だというお話があったかと思うんですが、私は今の、これだけ買い入れてしまって、これアメリカも全く同じですけれども、あれだけ買い入れてしまうと赤字をこれから計上せざるを得ないんじゃないか。これは望ましいとか望ましくないということではなしに、客観的にそうしたプロセスを想定すれば赤字になっていくことは多分避け難い。そのときにクレディビリティーの喪失につながらないような措置をとっておくということが重要なんじゃないかというふうに思います。  バンク・オブ・イングランドでも同じ議論がありまして、今たくさん国債を買ってしまいました。ある方が、前の金融庁長官ですが、中央銀行が持っている国債は全部恒久債、コンソルに置き換えればいいと。ただし、そのコンソルは金利がゼロのまんまだと。言葉を換えて言うと、もう売らないというか、もう中央銀行は永遠に持ち続けるという、そういう提案も例えば行われています。  ですから、その出口のときにどのようにしてロスを出さないでうまくやれるかというようなことは、まだほかの方法が何かあるかもしれません。ただ、アメリカの連邦準備が行っているようなプロセスを日本銀行が同じように踏むとすれば、やはり同じように赤字が発生するということに考えております。
  25. 舞立昇治

    舞立昇治君 以上です。  ありがとうございました。
  26. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 石上君。
  27. 石上俊雄

    石上俊雄君 民主党の石上俊雄でございます。  今日は、三名の参考人の先生、本当にありがとうございました。大変勉強になりました。  時間が限られておりますので、早速質問に入りたいと思いますが、まず岩田先生の方に御質問させていただきたいと思います。  デフレ脱却に向けての金融政策政府が進める財政再建政策ですかね、これはやっぱり連動して進むべきだというふうに思っているんですけれども、とはいっても、先ほど来出口の話もありますので、時間的軸でどの辺まで連携してやられるようなのが一番いいのか。  さらには、先ほど早川先生からもちょっとお話がありましたが、日銀というか、政府がやろうとしている財政の健全政策、これが要は信憑性に欠けるとか具体性に欠けるという内容になったとき、要は、財政のプライマリーバランスを二〇二〇年に黒字化しようと言っているんですが、それを今年の夏辺りにその計画を出すと言っているんですけど、これが余り信憑性がないとか、何かちょっと、何かおかしいなというような感じになったら、日銀さんとしてどういうふうな対応をしていくべきなのか、どういうことが考えられるのか、その辺についてもしお考えがあったら教えていただきたいと思います。
  28. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、私、アベノミクスというのは三本の柱から成っていると。三本が実は一本でも欠けると本当はうまくいかない体系なんだと思います。  財政政策は、柔軟な財政政策という言い方をしまして、つまり景気が悪くなったときには一時的な拡大もやります、しかし同時に中長期では健全化のための努力をしますということが入っているわけですね。それで、その意味では財政再建の問題というのはある意味では考慮されているというふうに思うんですが、具体的な政策をそれじゃ見てみますと、じゃ財政再建のための具体的な提案というのはどこまで出ているかというと、私から見ると非常に不足していると。  なぜ財政赤字になっているかというと、基本的には、私、今の社会保障制度が人口構造の大きな変化に、人口が減少して少子高齢化するという仕組みにうまく対応していないんだと思います、これは医療についても年金についても。この基本的な原理は、賦課方式といって、働く世代が保険料を払ってリタイアした人がそれを使うというんですね。人口構造がこういうピラミッドだとこのシステムは非常にうまくいくわけですね。  これは、企業の終身雇用制度とか何かとも全く同じ問題だと思っていますが、その人口構造が逆さまになったときには、これまでの企業雇用慣行でありますとかあるいは賃金の決め方ですとかというのが同じようにはもう機能しないということが九〇年代半ばから起こったんだと思います。社会保障制度についても同じでありまして、働く世代がどんどん減っていってリタイアした人がどんどん増えていく。それを、働く人が自分のためにためるのではなくて既にリタイアした人のために保険料を払うという仕組み自体が、今の人口構造の大きな変動の中でその持続可能性が問われているんだと思うんですね。  ということなので、私、社会保障制度の抜本的な改革という姿が、基本的に言いますと、賦課方式ではなしに、自助をどちらかというと中心にした、働く間に自分がリタイアしたときのために積み立てておくというような、公的年金でもですね、あるいは医療についてさえそういう仕組みを、社会保険、あるいは場合によると民営化するという、そういう仕組みに変えていくような大きな社会保障制度改革というのがないと財政の健全化というのは、毎年、例えば一千億切りました、二千億削減しましたと言っていたのでは間に合わない話だというふうに思います。その意味では、第四の柱として、抜本的な、それこそこれは社会保障制度や税とも絡まっていますので、税・社会保障制度改革というのがない限りは健全化というのは難しい。  同時に、日銀との関係でいいますと、金融政策の方が幾ら頑張っても、これは象徴的ですが、今、早川さんの方からお話ありましたけど、一三年度は二・一%成長したんですが、随分財政に助けられていたんですね。二・一行ったと。ところが、消費税上げてみたら、結果は、我々の予測では一四年度マイナス〇・九%というのが予測なんですね。二・一がマイナス〇・九。これを事前に予測した、正確に予測したエコノミストはいなかったんじゃないかと。これは政府中央銀行もしていなかった。私、何かそこに誤りが、認識の誤りが私はあったというふうに、自分自身も含めてあったというふうに思っていますが。  財政政策の有効性というのは変動レート制の下だと余りないというのが基本的な考えで、金融政策が非常に強い。これはマンデル・フレミングのモデルと言われていますが。でも、現実に起こったことは、金融の方は続けて拡大していて財政の方だけちょっと変わったらプラス二・一がマイナス一%に近くなってしまったということは、財政についても効果があるということを考えた上で財政の健全化を考えなきゃいけない。しかも、そのときにどうしても、これ今の財政を良くしようと思えば歳出削減するか増税するか、これしかないわけですね。そうしますと、どうしても経済にはマイナスの影響が及ぶんですよね、そのプロセスでは。もちろん、これは短期と中長期と、これは議論がいろいろありますが。そのときに少しぐらいのマイナス効果があっても、それをはね返せるだけの強い経済にしておく、それが成長戦略だと私認識しているんですよね。  ですから、財政再建やろうが、少しぐらい成長率がスローダウンしても、一%例えばスローダウンしても、それは十分に耐えられるという経済にするために成長戦略が必要で、そのためには人口減少というのはどこかで止めなきゃいけない。そのためには非常にお金が掛かります、むしろ。これは子育て、一・四の出生率を一・八に上げるのに八兆円やっぱり掛かるというのが我々の試算ですけれども、それじゃそれはどこから持ってくるのかと。これは、私は今存在している社会保障制度の抜本的な改革なしには不可能だというふうに思います。
  29. 石上俊雄

    石上俊雄君 それでは、ちょっと時間もあるので、菅野先生と早川先生に一言ずつお願いしたいんですが、私は産業に携わる関係の議員なんですけど、なかなかお金はあっても成長に結び付いていかないというのが現状だと思っているんです。先ほどありましたように、なかなか輸出も増えない、昔みたいにということなんですが、どんなところが足りない、もうちょっとこうすればいいんじゃないかというのがございましたら、ちょっと御示唆をお一人ずつお願いしたいと思います。
  30. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) 日本は今、非常に大きな転換期に来ております。これまで日本経済を牽引してきたのは、何といっても自動車、電機を中心とする製造業です。ところが、一九九〇年以降、中国を始めとする新興国が台頭してきて、世界の歴史を見る限り、日本もそうでしたけれども、新興国がテークオフするのは何といっても製造業です、人件費が安くて、技術移転も簡単に行われますので。  そうなってきたときに、なかなか日本が製造業から非製造業中心へ移行が非常に遅れてきたということがあるかと思いますので、まずはその非製造業中心のこういう経済構造にいかにうまく変えられるようになるか。そして、なぜ非製造業の競争力が日本で高まらないかというと、一番大きいのは何といっても規制です。参入が非常に限られているとか、農業なんかも典型ですけれども、やはりそこが非常にまず第一に大きな問題があります。  それから、製造業について言うと、何も製造業が日本からどんどん縮小していけばいいという話では決してありません。世界で先進国で残っている製造業を見ると、非常に競争力の強い、競争力が強いという意味は、価格を下げて大量に世界で売ろうというのではなくて、ブランド価値があります。ですから、多少自国通貨が高くなっても余り影響を受けない。例えばスイスの製造業などはそうですし、スイススイス・フランというのは非常に強い通貨ですけれども、実はスイスには製薬会社、時計を始め非常に多くの製造業が残っていますので、そういうブランド価値を高めるような形での製造業を残すと。  やはり、その意味での構造転換には時間が掛かります。これは確かです。すぐにはできませんけれども、やはり政府ができることは、規制を緩和し、なくし、そして競争を活発化して、政府はどこの企業、どの産業が強いかを特定することはほとんどできないと思いますので、これは競争の結果として強い企業、強い産業は残るようにすると。そのためには、海外からももっと企業が入ってきてもらって、国内だけの競争ではこれは井の中のカワズになってしまいますので、国内にいかに国際的な競争の場を設けていくか、こういうプロセスが大事だと思います。
  31. 早川英男

    参考人早川英男君) 成長戦略という話になると思うんですけれども、何といっても、高齢化によって労働供給が減っていく中で成長すると。もちろん、そのためには高齢者とか女性にもっと労働参加していただくというのが一つの柱ですが、もう一つの柱は言うまでもなく生産性を上げるということ。そして、生産性を上げるといった場合、やはり日本では、これはもうずっと前から言われていることなんですけれども、製造業の生産性はまあそんなに悪くないんですけれども、一方で非製造業、サービス業の生産性がほかの国に比べて極端に劣っているのが最大の問題だということです。とりわけやっぱり、私、別に親会社がそうだから言うわけではないんですけれども、中小のサービス業におけるICTの活用がすごく遅れているのが日本の特徴です。  特に具体論として申し上げたいのは、先ほど、社会保障改革の話ともこれは結び付いてくるんですけれども、例えば医療。医療について、日本みたいに風邪引いても大学病院へ行けるみたいなそのフリーアクセス性というのはやっぱり無理があって、ちゃんとやっぱりかかりつけ医に行って、本当に必要な人だけ大学病院に行くようにすると。それをつなぐためには基本的に電子カルテみたいなものがちゃんと日本中で活用されていなければいけないわけですけれども、この国は、医療技術は世界でもトップクラスにあってICTも実は世界でそんなに駄目ではないにもかかわらず、その部分は全然遅れているというのは一体どういうことなのだと。  これからマイナンバーをどう使うかという話も含めてそうだし、実は介護も同じなんですね。介護も、とりわけ訪問介護みたいなものを考えると圧倒的にICTの活用余地は大きくて、これやると、生産性が上がると同時に、医療、介護の費用を削減する形で社会保障改革にもつながってくるので、具体論として言えば僕はそれは非常に大事だと思っています。
  32. 石上俊雄

    石上俊雄君 ありがとうございました。
  33. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 続いて、平木君。
  34. 平木大作

    平木大作君 公明党の平木大作でございます。  本日は、大変貴重な御講演ありがとうございました。  今、各参考人の皆様の御意見いただきまして、今の金融政策に対する肯定的な意見、否定的な意見、様々いただいたわけですが、是非ここは、一方で、なかなか日銀の金融政策自体もいきなり大きく転換するですとか変わっていくということがない、現状を取りあえず想定した上で、是非ここは応援団として御助言をいただけたら、金融政策に限らず様々いただけたらということで、二点にわたってちょっと三名の皆様にそれぞれ質問をさせていただきたいと思います。  まず一点目ですが、現行のこの金融政策、質的にも量的にも大分大胆なことをやっている。国債も買い入れ、またETFですとかそういったものにも広げ、長期化し、そういう形でマネタリーベースをどんどん増やしているわけですけれども、一方で、恐らくなかなかマーケットが思っていたほどには貸出しにつながっていない、また設備投資につながっていないということがあるかと思っています。  この貸出しをもっともっと増やしていく、あるいは設備投資を増やしていくという上で、現状の金融政策を一応前提とした上で、もしほかにこれ、何かできること、税制も含めて、何かありましたら是非アドバイスをいただきたいというのがまず一問目。  そして二問目は、やはり各参考人の皆様から出口戦略について様々御意見をいただきました。私も大変関心のあるところなんですが、一つの整理としては、岩田参考人は、まずは政府との間でのしっかりとした協調が必要なんだというところに力点があったのかなと。菅野参考人早川参考人に関しましては、市場との対話、そこがどちらかというと重点としては大きいんじゃないか、特に財政再建の信認をしっかり勝ち得ていくことが大事なんだという御意見をいただいたわけですが。  その立場に立った上で、岩田参考人に関しましては、英国の事例も引かれまして、収益と損失、両方を財務省が抱えるなり、かなり密接な、いわゆる今の日銀法が余り想定していないようなところも含めての御提案だったというふうに思っているんですが、これ、英国の事例ってそのまま日本にそもそも当てはめられるようなものなのか、もし何かやらなければいけないことですとか具体策があれば是非御教示いただきたいというのが岩田先生。そして、菅野参考人早川参考人には、市場との対話の中で、当然これは政治また政府の側が財政健全化しっかりやっていかなければいけないんですけれども、一方でその他ですね、やはり、じゃ、日銀としてそもそも対話ってどういう形で具体的に行っていくのがいいと考えているのか。  この点についてちょっと、それぞれ参考人、二問ずつなんですが、お答えいただけますでしょうか。
  35. 早川英男

    参考人早川英男君) まず、一般的にどういうことをやっていくかということについては、先ほどちょっとお答えしましたように、もちろん規制緩和とかそういうのは大事なんですけれども、やっぱり社会保障改革というところが非常に大きなテーマになりますので、それは単に歳出削減だけだととても大変だと思いますので、いかにしてあの分野の生産性を上げるようなことをやっていくかというのが非常に大きなテーマになってこようかと思っています。  もう一つ、実は今、出口の話というのは、僕はやっぱり何といっても、とにかく財政の維持可能性をマーケットの人に信じてもらうのが最大のテーマであって、それがかなうのであれば、あとは僕は日銀は何とかしてくれると、僕はかなりその彼らの腕前については比較的楽観していますので、それはできると思っていますけれども、その大前提が崩れたら、さっきの話じゃありませんけど、どうしたらいいですかと言っても、なかなかどうしようもないというのが答えであるので、それはまさにこの夏に向かって、もうあと半年もない間に、これは政府だけじゃなくて立法府も含めて、どういうことを議論されていくかというのが非常に大きなテーマになってくると思っています。  と同時に、もう一つは、これは岩田さんのお話にもありましたように、要するに、いずれにしましても日本銀行は非常に大きな赤字を抱えることは間違いありません。現行法では恐らく想定されていないわけですけれども、それにどういうふうに対応するかというのはあらかじめ決めておく必要があって、あらかじめ決めておくためにも、先ほど来お二方からお話がありましたように、日銀自身が、じゃ、どれぐらいの赤字が出るかというのをちゃんと言わないと立法府の方々にお考えいただくことすらできないので、それは当然、数字を計算しているはずですから、示すべきであると思っています。  ちなみに、一点申し上げておくと、日本赤字は断トツにでかいです。なぜかというと、アメリカは最初に買い始めた頃の長期金利はかなり高かったです。したがって、リターンも結構あります。それからもう一点は、アメリカはMBSといって住宅ローン証券を買いました。あれは物すごく値下がりしているときに買ったので、あれは物すごくもうかります。したがって、オール・イン・オールで考えると本当に損するかどうか疑わしいぐらいですが、日本の場合はほとんど国債である上に、それが利回りが物すごく低いところで買いましたので、損失規模は断トツにでかいということを申し上げておきたいと思います。  以上です。
  36. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) まず、第一点目の御質問ですが、確かに貸出しが余り増えていません。そして、設備投資にも余り勢いが感じられていません。それに対する対策という御質問ですけれども、実は私は、アベノミクスの第三、成長戦略というのは極めてよくできている内容だと思いますので、実はもう答えは出そろっているんです。ただ、それをなかなか実行できていないと。それは当然です。全てのいろいろな改革案について世論がほとんどフィフティー・フィフティー、場合によっては反対の方が多いです。むしろ、それぞれについてよくこれだけ課題として取り上げたなというところに私は高く評価しておりますが、残念ながらその進み方というのは遅々として進んでいないということですので、もうむしろ、これまで何度となく政府成長戦略出してきました。その中でも今回の成長戦略はかなり優れていると思いますが、残念ながら進み方が非常に遅いということでやや失望感がありますので、むしろそこを是非早く進めていただきたいということです。  その中であえて一つ申し上げると、やはりまず大企業においてはコーポレートガバナンスですね。すなわち、貸出しが増えない一つの理由は企業が、今年も多分そうだと思いますけれども、出た収益をみんなため込んでしまっていると。それを使わないと。賃金にも、もちろん賃金に、人件費を増やし、それから設備投資を増やしですね、ればいいんですけれども、それは企業が決める話です。ですから、企業がそれ、使わないお金をどうするかといえば、今は銀行預金にほとんどなってしまう。銀行は貸出しがないんで、そうすると国債買っていると。その国債は日銀が持っていってしまうという、もうここでお金が全然動かなくなってしまっているわけですね。  ただ、海外にこういうことはほとんどあり得ないんですね。なぜかといえば、株主がそういう、そこにあなたが持っているキャッシュは私のものだから配当かあるいは自社株買いで返してくださいよと。戻ってくればその人たちは消費しますので、ぐるぐる回るんですね。したがって、日本はお金がブラックホールに吸い込まれていますので、それを直すためにもコーポレートガバナンスは重要です。  ただ、これは大企業の話ですので、中小企業になってくると、特に地方の場合にはこれまた全然別の対策が必要ですが。  私も、今年年初に幾つか地方をお邪魔して、いろいろ地方創生の話とかに関わったり、少しお話しさせていただいたことありますけれども、私はやはり地方に危機感が余りないんではないかというふうに思いますので、皆さんおっしゃるんですけれども、本気になって例えばコンパクトシティーをやろうとしているところがありますが、皆さん非常に御苦労されていらっしゃいます。それは、なかなか地方の住民の方々、総論賛成各論反対ということで余り協力的じゃない方々もいらっしゃるように思いますので、ここは、それこそ地方にもっと分権を進めて、霞が関がやろうとすると大変ですけれども、地方にもっと頑張ってもらうということしかないと思います。  それから、二番目の点ですけれども、これは、まず、私も言ったこと、ちょっと冒頭、繰り返しますが、まず出口戦略の封印をもう直ちに解いていただきたいと。これは、赤字になることは、先ほど早川参考人の話にもありましたように、結局国民のお金を使うことになるわけですので、それを国民に知らせずにやるというのはいかがなものかなと。それから、確かにこの話をすると期待インフレ率下がるかもしれませんけれども、ただ、国民に真実を知らせないで、そして期待インフレ率を上げようという政策は、私は何かちょっと違うのではないかなというふうに思っております。  そして、最後に一点申し上げたいのは、先ほどちょっと岩田参考人の方から、私が赤字になるリスクを小さくするというふうに申し上げたというふうに言われて私もびっくりしたんですが、そう言ったつもりは全くありませんので。仮に永久国債を日銀が持っても、利上げのときにはこれは赤字になりますので、これは二つ全然違うものなんですね。長期金利の急騰というのは、日銀は満期まで保有すれば赤字の原因にはなりませんので、ここは民間銀行の問題です。日銀の問題は、利上げしたときに赤字が発生するという、これは避けてもう通れないと思いますので。ですので、私が申し上げたリスクの最小化というのはそこではなくて、そのときに起きる混乱、これを最小化するにはどうしたらいいかということを議論すべきだということです。  そして、私も仕事柄海外投資家との接点というのはいろいろありますけれども、やはり去年の消費税の増税延期を決めた後、やはり非常に海外投資家から日本財政に関する基本的な質問が急激に増えてきました。これは、もし日本が出口ないしはその近辺で財政の持続性にクエスチョンマークが付くようになれば、当然マーケットは注目いたします。長期金利が上がり出します。そこに一つの彼らは投資のチャンスを多分見出そうとしているんだと思いますので、今はデフレ、まだ二%よりはるかに下ですので、日銀に誰も手向かう人はいません。ところが、出口が近づくと海外投資家が動き出しますので、そういう意味で、今は目に見えませんけれども、その辺の動きというのはかなり注意しないといけないということは今のうちに申し上げておいた方がいいのではないかと思っています。
  37. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 二つの御質問にお答えするということだと思うんですが。  もうちょっと貸出しがうまく増えて、設備投資が増えるようなやり方はないか。これは最初の所見表明で申し上げましたように、長期金利というのは二つの部分に分けることができて、予想された短期金利の部分とタームプレミアムの部分ですね。タームプレミアムの方は量を増やす、国債を買う量をたくさん増やしますと大きな影響を受ける。ですけれども、予想された短期金利の方は、これはフォワードガイダンスと呼ばれるものですね。金利に関して、あるいは量に関して、中央銀行が将来どのような政策を用意していますかということをあらかじめアナウンスすることなんですね。  バーナンキさんがお辞めになるときに講演をやりまして、私は二つ政策をやったと、一つは量的に増やす量的緩和、もう一つはフォワードガイダンス、二つともそれなりに有効だったというふうにサマリーをされています。  日本の場合には、残念なんですが、フォワードガイダンスというと、もう出口の話だというふうにやや勘違いしているんじゃないかと思うんですね。フォワードガイダンスは出口になってからの話で、今は一切言いませんという、どうもそういう言い回しをよく聞くんですが、私はそこを、非常に大きな誤解があって、まず量に関して明快に、例えば一六年末までマネタリーベースは幾らにしますというようなことを明快にする。例えば金利についても、それまでは決して上げることはしません、当然ですね、量を増やしているとき金利を上げることは不可能ですね。ですけれども、それが終わった後でも、その金利を上げる局面に入ったとしても、それは極めて緩やかにその金利を引き上げていきますとかですね、将来の金利の引上げのペースと、あるいは場合によりますと、何が正常な金利なのか、金利水準なのか。これ、今も私非常に注目していますが、アメリカの中央銀行がどこまで金利をノーマルだと思って、どのようなテンポで引き上げていくのか、これは極めて興味深い論点であります。  その実は赤字になるというのも、その政策金利がどの水準になるかということと、どのくらいのスピードで上げていくかということでこの赤字幅というのは大きな影響を受けます。ですから、その意味でもフォワードガイダンスというのは重要な役割を演ずると思います。  それからもう一つ、今の政策を有効性高めるもう一つのやり方は、やはり国債管理政策とのコーディネーションといいますか調整が、実は事実上何もないんだと思います。財務省の方は、ずっとこれまで満期構造をどんどん長くしてきました。長いものをたくさん出すような政策を取ってきたんですね。日銀は、それに対応するかのようにそれを長くしてきました。長いものまで影響を与えたいということですね。これは余り望ましくないと思います。日本銀行がせっかく長期金利を下げようと思っているのに、長いものをたくさん出してしまいますと、金利が上昇する圧力になるわけですね。  ですから、国債管理政策についても、これはもうちょっとよくコーディネートして今の政策を実行するというようなことが望ましいんじゃないかと思います。
  38. 平木大作

    平木大作君 以上です。  ありがとうございます。
  39. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 藤巻君。
  40. 藤巻健史

    藤巻健史君 維新の党、藤巻です。  お一人一時間ずつぐらい聞きたいんですが、全部で十分ということなので簡単にお聞きいたしますけれども、お一人一問ずつお聞きいたします。  まず、早川参考人ですが、出口戦略に関して日本はトップランナーではないからアメリカに学べばいいというふうな発言がされましたけれども、学びようがあるのかということをまずお聞きしたいと思います。  まず第一に、テーパリング、十月二十九日にアメリカやりましたけれども、アメリカは財政赤字が極端に減ってきている。要するに、新しい新発債が出てこないからFRBが買わなくても済む。それから、ドルは基軸通貨ですから、FRBが買わなくても日本政府とか中国政府が買ってくれるからテーパリングはできた。FRBは買わなくてもいい。ところが、日本というのは今、日銀しか買っていない状況ですから、日銀が買わないと我々の給料も出なくなる、自衛隊の油も出なくなるということで、日銀はテーパリングなんかできないんじゃないかと思うんですが、それをアメリカのまねをしようとしてもできないんじゃないかというのが一点。  二点目は、これは先ほどもう、今、平木委員に対して御回答があったんですけれども、おっしゃるとおり、アメリカ、金利を上げるというときに、当座預金の、付利していくということに関して、アメリカは十年国債ちょっと前まで三%ありましたし今でも二%ありますから、それでMBSもかなり高い金利ですから、十分高い利回りがある。しかし、日本の場合には、この前、私も財政金融委員会で財務大臣に聞きましたけれども、〇・四%だとおっしゃるわけですね。それで、ましてや、これから八十兆買っていく十年国債が〇・三、今は〇・二ぐらいになっているんでしょうか、〇・二%台というのを、こんなものを買っていったら、当座預金なんか〇・一をちょっと上げただけですぐ赤字になっていくんじゃないかと思うんで、これもアメリカのまねなんかはできないんじゃないかと思います。  ですから、そういう面でいうと、日銀がトップランナーじゃないから大丈夫だというのは余りにも楽観的過ぎるんじゃないかと思いますけれども、それはどうかということを御質問したいと思います。  それから、次に岩田参考人にですけれども、これはちょっと問題を変えまして、先ほど、一番最初に物価上昇率二%が適切であるという御発言がありましたが、バブルを思い出していただきたいんですが、バブルのときというのは狂乱経済でした。しかし、あのバブルの狂乱経済を引き起こしたのは資産インフレ、株と土地の上昇であって、消費者物価指数、私もちょっとうろ覚えですけれども、全国での消費者物価というのは、生鮮食品を抜かして、たしか〇・五、〇・五、〇・五の二・九、三・二ぐらいだったと思うんですよ。要するに、二%よりもはるかに下にもかかわらず経済は狂乱していた。  あの後、たしか澄田日銀総裁が反省談話を出しています。日銀は消費者物価指数ばかりに目をやって土地と株の値段を見失って見ていなかった、これが失敗だったと言っているにもかかわらずまた消費者物価しか見ないというのは、これはまた、その澄田さんのあの反省談話をどう考えていらっしゃるのかということが一つですね。  それに関して言いますと、確かに、本当にインフレになれば景気は良くなるのかと。景気が良くなればインフレになるというのは当たり前ですけれども、インフレになれば景気は良くなるか。これは私も本会議でもちょっと聞いたんですけれども、もし本当にインフレで景気が良くなるのならば公共料金全部二〇%上げればいいじゃないかと。それで景気が良くなるかと。景気は決して良くならなくて、景気は悪くなると思うんですが、それでもインフレが景気にいいと言えるのかということをお聞きしたいと思います。  三番目に、菅野さんですが、菅野さんは、中西議員と私と三人でJPモルガンで一緒に働いていたことがありますし、高校のときは一年テニスの先輩で、奴隷と王様のような関係で、私が奴隷な関係であってちょっとなかなか質問しにくいんですけれども。  岩田参考人の、日銀が当座預金を上げるときに政府ときちんとネゴシエートしておく、握っておく必要があるとおっしゃった。そのときの回答として、菅野さんが、それじゃ駄目じゃないかと。これはまさに私も同じだと思うんですね。菅野さんがおっしゃったように、財政が黒字、予算が黒字化しているのであれば、国民の税金で日銀の損を補填しますのでそれはそれなりに意味があると思いますけれども、今みたいにマネタイゼーションをやって日銀が紙幣を刷ってそれを出す。国の赤字部分をまた日銀が紙幣を刷って政府に渡して政府がそれを日銀に入れたところ、回り回って所詮は紙じゃないかという話になりまして、単に政府と日銀が握っているだけじゃとんでもないことになるのではないかと思います。  菅野さんへの質問は、菅野さん、債務超過になったときに日銀の損失が大きい、早川参考人もすごく大きいという話をされていました。私もそう思うんですが、これは、一つ債務超過になる前に、リザーブが六・七兆円とかさっき菅野さんはおっしゃっていたと思いますけれども、六・七兆円が減ってきたということを見た段階でマーケットは大慌てするんじゃないかと。債務超過までは待っていられないんじゃないか、もう赤字を垂れ流し始めたときにマーケットはとんでもないことになるんじゃないかと思うのが一つ。  そして、日銀の損失を国民のお金で埋めるのかというような次元でお話が終わるのかと。私は、日銀が損失を垂れ流し始めたら、長期金利は暴騰、例えばロシア危機みたいに八〇%とかですね。それから、円が、それは負債を、日銀が損を出し始めたら円なんて大暴落すると思うんですね、四百円、五百円、六百円とですね。そういう事態が考えられるんじゃないかと思うんですが、どう思われるかということをちょっとお聞きしたいと思います。  以上です。
  41. 早川英男

    参考人早川英男君) まず最初の御質問については、実は既にお答えしているようなものであって、と申しますのは、要するに、マーケットが財政の維持可能性を信じてくれていれば、あとは日銀の手腕次第である。したがって、マーケットがそれを信じてくれている限りにおいて、そのテーパリングに関する例えばコミュニケーション戦略であるとか、これからの利上げに絡んでのフォワードガイダンス等々に関してはアメリカの経験から学ぶことができると申し上げて、その前提が壊れていると、実は先ほど来申し上げているように対応のしようがないということです。  ついでに、一点だけ参考に申し上げておくと、実はこの間、スイススイス・フランのユーロとのペッグをやめました。当然のことながら、スイス中央銀行であるSNBは物すごく大きな損失を被ったんですが、実は、だからといってスイススイス・フランに対する信認が失われたわけではありません。なぜかというと、実はSNBの裏側にあるスイス財政というのは盤石の黒字なんです。したがって、中央銀行のバランスシート自体が問題なのではなくて、その裏側にある政府が盤石の黒字であればSNBが大損しても大丈夫なんだけど、日本はそうではないでしょうというのが基本的なイシューです。  それから、二番目の問題、要するに、非常に大きな赤字が出てくるということは、先ほども申し上げたとおりでありまして、当然であります。したがいまして、これも実を言うと相当大きな赤字が出てしまうので、ひょっとすると財政に対してむしろ負荷を掛けてしまうぐらいの赤字になり得るということが問題だと思っています。  ただ、これも一点だけ参考情報を申し上げておきますと、実は、去年、日銀の国際コンファレンスで、マービン・グッドフレンドという昔のリッチモンド連銀の副総裁が、実は、今の世界がやっている量的緩和を、これは要するに、片方で資産を買って片方で準備預金を出して、それにはいずれ金利を付けるわけなので、そういうある種のトレードをやっているだけなんだと。そのトレードをやっているだけのときに、どういうものを買っているかによってもうけの仕方は違うよと。  問題は、アメリカについては、実はトータルではそんなに損をしないんだけど、実は今まで、今のところ、アメリカはもうけた分を根こそぎ納付しちゃっているんです。したがって、これから損が出るときにはやっぱり赤字が出るということなので、彼が言っていたのは、あれは納付しちゃ駄目だろうというのを強く言っておられたということを参考に申し上げておきます。  以上です。
  42. 岩田一政

    参考人岩田一政君) バブルの話ですけれども、私、バブルのときのことを振り返ってみますと、一九八六年、原油価格が六割下がったんですね。現在は四割から五割下がっています。その後、何が起こったか。八七年にはアメリカで、グリーンスパンさんが議長になって間もなくですが、オクトーバークラッシュが起こりました。株価の調整が起こりました。何で起こったか、原因はいまだはっきりしないと思いますが、私は、期待成長率が何らか下方シフトしたせいではないかと、マーケットが期待するですね、ありました、八七年ですね。八八年、八九年には消費税を導入するというスケジュールがもう議論されておりました。  今回、それで比べてみますと、今年、原油価格が下がって、それで連邦準備制度理事会は金利引上げを夏以降恐らくおやりになる、六月から九月かですね、タイミングについてはいろいろスペキュレーションがありますけれども。そうしますと、これまで量的緩和ということで株価を相当下支えしていた、政策的に、ことは多分間違いない。それが外れていくということは、株価に対してはどうしてもマイナス効果があり得ると思います。  そして、今の株価の水準がどこまで正常なのか、アメリカの場合ですね。これも二つ見方がありますが、私は、歴史的な水準、これはシラーのPER、株価収益率で見ますと、明らかにグレートモデレーションと同じぐらいのやや高め、過度に高い水準にあるので、調整が起こる可能性があると思います。  最後に、消費税も一七年四月に予定されておりまして、どういうわけか八〇年代後半と、バブルが進展したときと、何か二度目は悲劇でなくて喜劇だと言う方もいますが、やっぱり同じ過ちは犯すべきではないと思います。  それで、私の最初の所見でも、マクロプルーデンスの体制を早く整備する必要があると。少なくとも、資産市場でどういうことが起こっているのか厳しく点検する当局がいなきゃいけない。それはマクロプルーデンスの観点からなんですね。システミックリスクがどのくらいあるのかということを、ミクロではない、マクロなんですね。この体制が日本は非常に遅れていて、ようやく金融庁がマクロプルーデンスの担当の参事官を任命されたと。そういう状態ではとても対応できないんじゃないかと思いますね。  今、日本株価がすぐバブルだとかどうかということではないと必ずしも思いますが、しかし、いろいろなひずみが起こっていることは間違いなくて、それを少なくとも、誰がモニターして、それが行き過ぎていると思ったら、どういう政策手段があって、それは金融政策との関係ではどういう協議を経てその政策を取るのか、こういう仕組みをきちっと日本は取らないと、これ、リーマンショック日本で起こらなかったということが影響していると思いますけど、日本はその後非常に立ち遅れた状況にあるので、私は本当に心配をしています。  それから、一言、バンク・オブ・イングランドの件ですけれども、バンク・オブ・イングランドがどうして損失が発生した場合、収益、損失共にこれは財務省のものに帰属するようにという、そういう事前の取決めをしたかということですけど、経緯を調べてみますと、元々、そのアカウントですね、特別異例の政策をするアカウントはむしろ財政政策を代行すると、中央銀行がですね、そういう位置付けで始まったんですね。ですから、財政政策を代行している中央銀行がやっていることですので、それは当然、そこから生まれる収益も損失もそれは財政当局に帰すると。  日本の場合にはそうした理解が別にあったわけではありませんので、そのときどうするかという問題があって、日銀法の改正の歴史をいろいろ戦後調べてみますと、日本銀行はなぜ財政補填をですね、というのは、古い日銀法には、日銀が赤字になった場合は財政補填ができるという附則の実は条文があったんですね。それを新しい九八年の日銀法にするときには取ったんですね。なぜ取ったかといえば、それは日本銀行政府とかあるいは財政当局から独立して金融政策を運営できることを財務面でも保障するために、そういうことが起こらないようにやるのが新しい中央銀行だということで、わざわざ財政補填の条項を除いたんですよね。その経過のことをいろいろ調べますと、当時の副総裁の方は、今後、財政補填があるような場合には法律の改正が必要ではないかということをこれは発言をされているんですが。  日本の場合も、したがって、そこを、そういった発言を重く受け止める場合には、きちっと法律で書いて、こういう政策を取った結果これだけの赤字になります、したがって、なりました、その場合には財政が特別、通常は認められないことですけれども、そういうことを認めるというようなですね、法律で書く必要というのも、これはどのように議会が最終的には御判断になるかという問題になり得るんじゃないかと思います。  ただ、アメリカの場合には、私、FEDの関係者ともいろいろ、赤字という予測が出ているけどどうするんだと。まあ人によっていろいろお答え違いますが、単に納付金をゼロの状況を続けておけば何とかなるかなという。ただ、その過程では自分が持っている準備金を取り崩さなきゃいけませんので、金額的にもそれはどこかに限界があるんじゃないかというふうに思います。
  43. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) 先ほどの御質問にお答えいたします。  御質問の趣旨は、どこで信認が崩れるかということだと思うんですが、先ほど私が日銀が債務超過になった場合のことというのをお話しいたしましたけれども、当然、市場はもうそこまで待ちません。ただ、そこまでお話ししたのは、要は、最終的になると、そこまで行ってしまうということを市場がもうあらかじめ予測するので、もうその前から市場に異変が起こりますよということを申し上げたかったので、その例を使わせていただきました。  これももう言わずもがなのことですけれども、私どもが持っている日銀券ですね、千円札とか一万円札というのは、その昔、金本位制の場合は兌換券で後ろに金があったので、そして日銀ないしは政府がそれを金といつでも換えてくれるというので信用して持っていたわけです。その後、さすがに、もっと知恵を使いましょうということで管理通貨制度になりましたけれども、その後ろにあるのは今ほとんど国債です。昔は少し貸出しというのもありましたけれども、基本的には国債を、その後ろにある。その国債というのが将来の日本成長で償還されるというふうにみんな暗黙のうちに思っているから私どもは一万円札や千円札を持っているわけですね。  ですから、これが、日銀が債務超過になるということは、資産が何もなくなってしまう、それは現実の問題としてあり得ないので、政府が何らかの自動的に保証をしてくれると。これって国債なんですよね、政府の保証というのは。国債というのは、言うまでもなく将来の世代から来る税金で賄われるわけですから、そこがちゃんと担保されていれば何とかコンフィデンスというのは守られます、維持されます。  ところが、そのコンフィデンスが、どうもこのゲームを続けているとどこかで崩れてしまうのではないか。今は日銀は大量に国債を買うことによって長期金利を下げ、政府財政負担を大幅に下げています。今度、日銀が困ったらその政府に助けてもらうというのは、誰が考えてもこれおかしいですよね。これは外人の投資家に言わせると、ポンジーゲームというふうに言っています。これネズミ講じゃないかということを言っている人たちが結構います。ただ、今はまだ日本が二%より下のインフレ率なので誰もここに刃向かう人はいないというだけの話なんですね。  今、日銀はバランスシートが大きくなっていますので、しかもETF等を買っていますから国債の金利が下がっているんですけれども、それでもかなり収益が出ます、黒字になります。それは年度末に国庫納付金として政府に戻ります。ですので、今の財政は実はまやかしでかなり良くなっています。  すなわち、予算のときには多分余り日銀の納付金って、ちょっと私も詳しくは見ていませんが、それほど前提にされていないと思いますけど、終わってみるとかなり日銀の納付金は出ます。今、日銀の持っている国債だけでも、二五%が大体日銀持っています。それから、このまま行くと、二〇一七年、一八年ぐらいには五〇%の国債を日銀が持つようになります、追加緩和なしでも。そうすると、大体年間十兆円強ぐらいの今利払い費というのが予算計上されていると思いますけれども、今ですと二五%、一八年ぐらいですと半分。それは日銀に払うわけで、年度末に戻ってくるので、政府としては金利ゼロで実は資金調達しているという状態なんですね。ですから、その分財政は良くなります。ただ、それはその分、後にツケが回ってくるだけの話です。  それを国庫納付金として返さないのか、自分で持っているかというのはそんな大きな話ではなくて、その後に来る事態に果たして備えられるのか、これは誰も、どこの時点でコンフィデンスが崩れるかというのは、我々の段階で今あらかじめ言うことはできません。  先ほど、私、プロジェクトチームのお話をしましたけれども、まさにそれは国家的なリスク管理が必要なんですね。これだけ、ある意味でそのリスクが来るかもしれない、テールリスクといってもかなり実は確率が高いかもしれない。これは我々がマネージできるリスクなんですが、マネージできなくなればそういうリスクが来るわけですので、それを事前に検討しない、ちゃんと対策を打たないということ自体がやはり大きな問題なんだろうと思います。
  44. 藤巻健史

    藤巻健史君 ありがとうございました。
  45. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) この際、会長から発言をさせていただきたいと思います。  熱心に質疑が続いておりますけれども、今のところ二十五分から三十分予定をオーバーをいたしております。大変熱心な質疑に対しまして敬意を表しますけれども、後々の御予定の先生方もおありと思いますので、ひとつ御協力のほどよろしくお願いしたいと思います。  引き続き質疑を行います。辰巳君。
  46. 辰巳孝太郎

    辰巳孝太郎君 辰巳孝太郎でございます。  三人の参考人の方々、本当に貴重な御意見、ありがとうございました。  それで、私は、三人に二問ずつそれぞれお聞きします。  それで、岩田先生の方からは、経済の構造がやはり変わっているものですから、その時々の経済構造というのをしっかり見極めてという話もありましたし、早川参考人の方からは、いわゆる今回のQQEの誤算というところでも示していただいたと思います。  出口戦略ということがいろいろ語られるわけですが、私は、そもそも入口を間違えている可能性があるということも考えておく必要があるんじゃないかなというふうに思います。つまりデフレ脱却するということで物価を上げなきゃいけないということで、その物価下落の原因が、世の中にお金が足りないということでQQEをしていったと。ところが、マネタリーベースは二年で倍になって、長期金利は低下した、だけれども銀行の貸出金というのはほとんど増えないということになっていると。これだけお金をじゃぶじゃぶにしても、企業はお金を借りないし設備投資にも回さないと。今、大企業では内部留保というのがいわゆるアベノミクス以降もためられ続けているということになっていると思います。  事実として、やはり経済の構造が変わってきて、円安になっても輸出大企業がそんなに利益を上げることがなくなったりとか、あとはいわゆるトリクルダウン、最近は総理も認めないという話をしていますが、これもなかなか認められないと。やはりそこから、事実から、現象から出発をするということが大事になっているんじゃないかと思うんですね。  今回の量的緩和で、やはり大企業の利益というのは実際は上がっていると。ここの評価をどうしていくのかということで、財政再建でいえば収入を増やして支出を減らすということだと思うんですが、今、政府としては、いわゆる法人税の引下げということを言ってきております。それを皆さんがどう評価されるのか、財政再建が大事だということであればこれをどう見ていくのかと。つまり、下げられたとしてもまた内部留保にためられてしまうんじゃないかという懸念が一方であるわけですので、それを皆さんにまず一点お聞きしたいと思います。  それと、金融政策は様々あると思いますが、しかし一方で、国民生活はどうなんだというところも見ておく必要があるんじゃないかと。つまりGDPの六割が個人消費で占められているわけですので、ここが冷え込んでしまうと実体経済が良くならないのではないかなというふうに思っています。  実質賃金が下がっていると、年金も実質下がっていると、そして昨年の四月には消費税が上げられたということで、一月八日の日銀の生活意識に関するアンケート調査でも、二〇一四年の六月に、一年後を現在と比べると収入はどうですかと聞いたら、減ると答えた人が三五・八%、これが去年の六月聞いたときですね。昨年の十二月に同じ質問をしますと、四一・五%、収入が減るだろうというふうに答えていると。  支出はどうかというふうに見ますと、同じ時期、昨年の六月に聞きますと、支出を減らすと答えている人が四八・三%。同じ質問を去年の十二月にしますと、減らすと答えた人は五二・三%。収入も減るだろうし支出も減らすだろうというふうに答えているわけで、これではなかなか実体経済が良くならないのではないかなというふうに思います。  そこで質問なんですが、財政再建が必要だというのは分かりますが、しかし、消費税増税ですね、これを引き上げてしまうと更にここを冷え込ませてしまうと。そして、税収が減るということになれば、更に財政再建というのはちょっとしんどくなるのではないかなというふうに思うんですが、そのことを二問目でそれぞれお聞きしたいと思います。
  47. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) 私、二問御質問いただきました。  まず第一点目は、法人税の引下げについてです。  私は、法人税の下げ幅は全く不十分だと思います。もっと法人税率は下げる必要があります。なぜならば、日本は、位置している部分、日本経済が位置しているのは、世界の中で見ると香港とシンガポールと同じタイムゾーンにおります。したがって、海外企業がアジアに進出しようとした場合、どこに行くかといえば、法人税だけでなく、所得税も低い、そして規制も極めて緩い香港とシンガポールに行ってしまって、日本は素通りです。これでは日本での雇用は全く増えません。  そして、財政再建との話で申し上げますと、もはや直接税で財政再建しようというのは非常に難しくなっています。すなわち、直接税で上げれば、法人税の場合は企業所得税の場合は富裕層が国外に逃げてしまいますので、したがって、ヨーロッパでは消費税、VATですね、これがどこもみんな二割以上です。社会主義政党が取っているところでも消費税は、VATは二〇%ですので。それはイデオロギーとは全く関係ない世界でもう既に証明されている話ですので、日本もそういう方向に行くべきだと思います。  したがって、二番目もそれと関係するんですが、消費税を上げるから消費が落ちるというのは余りにも短絡的な思考だと思います。むしろ、将来の社会保障に不安があるとか将来の生活に不安があるので人々は所得があっても消費しないというのが実態ですので、やはり社会保障改革というのが非常に個人消費を刺激する上では重要になってきますので、その社会保障の財源として消費税は極めて重要ですし、そして同時に、社会保障の改革、すなわち歳出削減というのもそれ以上に重要になってくると思います。
  48. 早川英男

    参考人早川英男君) まず、法人税につきましては、僕はもう以前から法人税引下げについては消極的賛成だというふうに言ってきています。  と申しますのも、私たちが昔習った財政学であれば、基本的に税金というのは国内の効率性と公平性を考えて最適な税率を選ぶべきだという議論でした。しかし、残念ながら今はそうなっていません。今、菅野さんからお話があったとおり、要するに、日本だけ高い税金であればどうしても立地競争において負けてしまうということになっています。本来であれば、それはもうそもそもそういう底辺の競争そのものをやめるべきだということになるんでしょうけれども、多分、財政、税制に関する国際協調なんかできるはずがないので、そう考えれば基本的に恐らく法人税を下げていかざるを得ないと僕は思っています。  ただ、同時に、大事なことは、これは先ほど菅野さんからお話があったとおり、だったら一方でコーポレートガバナンス改革をちゃんとやろうねと。要するに、単に税金が安くなった分だけため込むということでは許されないので、やはりちゃんと、どういう形でお金を使うかという部分でのコーポレートガバナンス改革なしに単に減税だけというのは、食い逃げは許さないのが大事だと僕は思っています。  二番目に、消費税に関しては基本的に菅野さんと同じ考えです。要するに、普通に考えて、欧州諸国で二〇%台のVATのときにだって、自慢じゃないけど日本の方が高齢化は圧倒的に進んでいるのに日本が八%、一〇%でやっていけるわけがないではないかという単純な話であり、一点だけ申し上げておきたいのは、要するに、確かに去年、消費税の影響は多くの人が思ったよりも大きかったです、景気に対して。だけど、それは逆に言うと、その前の駆け込み需要も思ったよりも大きかったんです。さっき申し上げたように、駆け込み需要が多分二〇一三年度GDPを〇・七%ぐらい上げています。それは、二〇一四年の需要がそっちに〇・七%移ったんだとすれば、二〇一四年は成長率にして一・四%落ちるはずなんです。  したがって、仮に〇・九%のマイナス成長であったとしても、実は別にびっくりするほどのことではなくて、現に景気後退と一応認定される可能性はありますけれども、それも八月で底を打って既に回復途上にあるので、余りに、要するに消費税を上げると景気が悪くなるというのを過度に言い過ぎるのはちょっといかがなものかと思っています。  以上です。
  49. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 二つ御質問ありまして、法人税と消費税についてどう考えるかと、一言で言えばそういうことだと思います。私、ですから、日本にとって最も望ましい租税の体系というのはどういう姿であるべきかという、根本論でいうとそこまで戻る話だと思っています。  それで、消費税というのは、淵源をたどりますと、付加価値税というのはフランスですけど、戦後間もなく労働党のブレーンをしていたカルドアという、ニコラス・カルドアというこれは労働党のブレーンでありまして、ケインジアンでも左派の方であります。その方が所得税体系よりも支出税体系の方がより合理性がありますという実は説を展開されまして、現実に、当時のイギリスですね、植民地の関係のあったような国で支出税体系をカルドアが言っているような形で入れようとした国がございます。  私は、ですから、こういう抜本的な税体系というときに、人が稼いだときに税金を払う仕組みがいいのか、人が支出したときに税金を払う仕組みがいいのかという根本問題があって、投資ですとか貯蓄の行動に対してより中立的なのは私は支出税の方だと考えています。ですから、日本の税体系は、所得税ともちろん消費税入っていますのでハイブリッド型になっているわけですが、将来望ましい姿はどちらに行くべきなんですかという議論がその前にあるべきだと思っていまして、私自身はどちらかというと支出税体系の方に少しずつ近づけていく。  そして、その効率的な税体系ということを考えますと、どちらかといいますと、国際的に移動してしまうような生産資源があったとして、そこが収益を生んだときに重税を課すというような、重い税を課すというのは、実は国際的には余り効率的でない。法人税というのは、企業はどちらかといいますと、人はなかなか移動しませんけど、資本はかなり自由にどこの国にも動きます。資本の供給というようなことを考えてみますと、それはどちらかというと、資本に対する課税というのは低い方がどちらかというと効率的な税体系であると、こういうことも同時にあるのではないかというふうに思っています。  そういうことで、法人税ということについて言うと、今もう既にお話がありましたけど、私は先ほど、成長戦略でもって強い経済にすることが必要だと、強い経済ってどういうことなんだと、三つ手段がありますと申し上げました。人口減少に歯止め、それからイノベーションを促進する、三番目は第三の開国ということなんですね。第三の開国の中でやっぱり重要なのは、日本の場合、直接投資残高ですね、外国の企業日本で直接投資している残高とGDPの比率はたしか三%程度でありまして、北朝鮮より低いんですよね。北朝鮮より低いと内閣府のシンポジウムで言ったら、一緒のパネリストのスティグリッツさんが笑っていて、日本はそんなに低いんですかと。それで、成長戦略の中でこれを倍増するという目標が掲げられていますけど、倍増してもまだまだグローバルに見ますと実は開国が非常に遅れた段階にあると思います。  法人税というのは一つ要因ですけど、外国の企業がどこに立地しようと、例えばアジアのどこの都市に立地しようかというときに、一つ決定要因で全部を決めるというふうに思いません。言語が違うとか、いろいろ制度が違う、労働市場の具合が違う、こういうこともみんな関係しますが、税もやはり影響を与えると思います。現在の水準は多少下げましたけれども、私は二五%まで下げていくことが望ましいんじゃないかというふうに思っています。  それからもう一つ、消費税ですけど、確かに消費税が上がると、私、マイナスが明らかになる、これは消費税であろうがほかの所得増税であろうが、財政政策、強い政策取れば経済はそれなりに反応するというのが今回の一つのレッスンだったんじゃないかというふうに思っています。  ただ、消費税の上昇でいいますと、私どもは以前から、三%一遍にやるのは負担が多いと、一%ずつ、少しずつ実行すると。しかも、一%でもマイナス効果が起こり得ますので、これを、マイナスをなるたけ相殺するような措置を同時に実行する。例えば、消費税増税の場合だったら、消費増税一%やるんだったら、そのときは法人税を下げるというような、これは現実にドイツで取られた政策でありまして、同時に実行したら実は経済にはそれほどマイナスの影響が生じなかったと、これは事例でそういったこともございます。  私は、税・社会保障制度の抜本改革というときに、ですから、消費税だけを取り出して、これだけ増税増税と言うのは正しくない。ある種の組合せ、今ある所得税ですとかあるいは社会保障制度との組合せ、例えば人口減少の問題があるときに、先ほど、子育て、出生率一・八に高めるなら八兆円必要だと、どうやって出すんですかというようなお話を申し上げましたけど、何らかの子育ての支援の措置というのは必要なんですよね。財政支援、必要なんですね。そういうのを、つまり組合せでやっていくということが、やはり税・社会保障制度の抜本改革と、私はそれをまとめて言っていることに意味があると思っているんですね。税だけいじる、一つだけ取り出してこれだけやりましょうというのは、全体としてバランスが余り取れていない。  日本政策の議論で非常に不幸だと思うのは、十年後、二十年後を見て、日本の租税体系はどういう姿が一番望ましいんですかというところから出発をしないで、消費税を二%上げましょう、三%上げましょうと。そうすると、話はやっぱり収束しないんですよ。二十年後、三十年後の望ましい租税体系はこういうことじゃないですかということをしっかり議論して、じゃ、それを実現するのに今年はここまでやりましょう、そこまでやりましょうと。  ドイツの場合は税の中期計画、長期計画というのがはっきりできているんですよね。そのスケジュールに乗って消費税も上げるし法人税も下げる、あるいはほかの所得税の減税も組み合わせてやるというようなことが可能になるんですけど、個別に消費税だけはどうしても五%とか、あるいは法人税だけは一〇%だけ、こうやってばらばらにすること自体が、ばらばらにして議論すること自体が非常に非生産的で結果も良くないんじゃないかと思います。
  50. 辰巳孝太郎

    辰巳孝太郎君 ありがとうございます。
  51. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 続いて、中山君。
  52. 中山恭子

    中山恭子君 ありがとうございます。  大変貴重なお話を伺いまして、ありがとうございます。まさにおっしゃられたとおり、長期の見通し、長期の将来社会の在り方というのがはっきり見えてないまま今の段階で議論するということが非常に問題だということは分かります。それは国会の中でも更に議論していく必要があるんだろうと考えております。  また、金融緩和、今回のテーマでも、金融政策だけではなかなか問題が解決できるわけではなくて、人口減少の非常に大きな課題ですとか社会保障制度在り方とかそういったことまでいろんな改革をしていかないと金融政策もしっかりした金融政策が取れないということを改めて今日痛感いたしました。  質問でございますけれども岩田参考人は、先ほどの中でもおっしゃられたかと思うんですが、マクロプルーデンス体制を強化する必要があるとおっしゃられたと思うんですが、このことについてもう少し具体的に、どのような形が必要なのか、お話しいただければと思います。  また、日銀が量的緩和政策を変える、縮小するきっかけになるとしたらやはりインフレ、物価上昇だと思いますが、その物価上昇の起点というかきっかけになるのはやはり石油価格と考えてよろしい、この問題は皆様にお伺いしたいと思いますが、出口とは言われますけれども量的緩和が取れなくなるような場合のことを考えたときに、石油価格の上昇がきっかけになると考えれば、それはどのような対策をしておく必要があるのかというのも考えておかなければいけないんだろうと思っておりまして、そういった点から、日銀の政策変更のときに、先ほど岩田先生はスピードとそれから適正な金利のお話がありましたが、ほかの先生方にもどういう対応をしておく必要があるかについてお話しいただければと思います。  それから、早川先生、完全雇用といいましょうか、がもう達成されているというお考えがあろうかと思いますが、私自身は、日本はまだ中進国程度で、日本のいろんな、国の在り方ですとか、道路、それから社会インフラなどを考えて、また制度を考えても、完全雇用はあるけれどもここは何らかの形で変えていけばまだまだ日本として、国としてやらなければいけない政策がたくさんあると考えるんですが、その点もちょっと追加した形でお三方にお答えいただければ有り難いことでございます。
  53. 岩田一政

    参考人岩田一政君) そうですね、マクロプルーデンスにつきましては、私、いろいろ先進国の事例を見てるんですけど、制度的に最も整備されているのはやっぱりイギリスなんじゃないかと思うんですね。  イギリスの場合には、リーマンショックがありまして、その後これまでのプルーデンス政策の体制を含めてどうもうまくいかなかった。結局、バブルがあれだけ膨らんで、それが破綻して金融機関がこれだけ傷ついてしまった。それを繰り返してはならないと、そのためにどうしたらいいんですかということで、現在はどうなっているかというと、バンク・オブ・イングランドが基本的には金融政策はもちろんやるんで、マネタリー・ポリシー・コミッティーというのがあるんですけれども、そのマクロプルーデンスを議論する場としてファイナンシャル・ポリシー・コミッティーというのを一昨年の四月から発足しているんですね。  このファイナンシャル・ポリシー・コミッティーというのは、議長は同じくバンク・オブ・イングランドの総裁なんですね。メンバーが若干、バンク・オブ・イングランドの方が二、三名ですか、入っているんですが、同時にマイクロのプルーデンスですね、日本でいうと金融庁に当たる、そこのマイクロのプルーデンスをやっている方の代表が入っている。それから、有識者が入っている。一人の有識者は前の連邦準備制度理事会の副議長のコーンさんですけど、海外の有識者も入れて、そこがマクロプルーデンスに関する政策決定までできると。  こういうふうに、マクロのシステミックリスクがありそうな金融市場のいろいろな問題が出てきたと思えば、例えば、銀行は貸し過ぎになっているといったらそれを何か抑える、あるいは住宅ローンが不健全なほど、余り頭金等がそろっていないのに貸し込みをやっているというようなことがあった場合には、そういうことに対してローン・バリュー・レシオを上限を決めるとか、その利子の支払分が余りに大き過ぎるような、年収と比べてですね、そのような場合にはやはり注意を、そうならないように、そういうところには余り貸さないようにというようなですね、そういう指令もできる仕組みを実は設けておりまして、つまり、ミクロのプルーデンスとマクロのプルーデンスはもうそこで一緒になる。しかも、金融政策のフィードバックがその二つの、ファイナンシャル・ポリシー・コミッティーとマネタリー・ポリシー・コミッティーが同時に議長が兼任するという形で、金融政策運営上もそういうことを配慮しながら、例えば利上げをする場合にも、それはどういうスピードで上げたらいいのか、どのくらい上げたらいいのか、マクロプルーデンスの観点を入れながらやるという、これを両刀遣いと言う方がいますが、二刀流で、一刀流では駄目ですよと、物価安定だけでは駄目ですよと。  私、全体として、リーマンショックの後の一つの大きなレッスンは、やはりマクロプルーデンスということに関して金融政策はきちっとそれを一つの柱として位置付けるということが必要なんじゃないかと思います。これが一点目で。  二点目は、石油価格が上昇したときどうするんだと。おっしゃるとおりで、私自身は、物価指数の中からエネルギーと食料を除いた、アメリカ型コア指数と言われておりますが、それを使う方が望ましいというふうにこれは前から思っています。  それはなぜかと言えば、エネルギー価格というのは日本中央銀行がどんな政策を取っても影響を与えることがほとんど不可能なんですね。影響を与えることが不可能な物価上昇率まで中央銀行が責任を持つべきかと、私は必ずしもそうではないと思います。というので、エネルギー、これはアメリカの場合は既に、個人消費デフレーターなんですけれども、現実にエネルギーと食料を除いたベースで、コアPCEと呼んでいますが、それを基準にして運営していると。もちろん、中長期といった場合は両方の区別が余りなくなってしまいますですね。平均してしまいますと両方余り変わりません。しかし、今回の場合のように、特に二年以内にとか期限を区切って達成しようと思うときには、やはりそういうのは除いた方が私はいいと思います。  それから、石油価格が上がって物価が上がったときどうすべきかと。これは下がったときと全く同じでありまして、物価が上がったといっても、それは二%を超えて上がればマイナス要因といいますか目標から離れますので、乖離した分はやっぱりマイナスに勘定するんですね。  GDPギャップの方はどうかということですけど、GDPギャップは、石油価格が上がりますと実質所得が目減りをするんですね。そうしますと、GDPギャップはやっぱりデフレギャップが拡大してしまうわけですね。一年後に例えばそれがどちらが大きいですかということを考えて、仮にまだ二%達成していない、そうしたらそれはプラスに勘定できるわけですよね、近づいたんだと、目標に。だけどもGDPギャップの方が広がってしまいましたと、これはマイナスの方に評価するわけですね。  それで、そのプラスマイナスあるときに、そのプラスマイナスの大きさを比べて、大体打ち消し合うぐらいの効果ですということであれば何も政策する必要がない、プラスの方が大きければ少し引き締める場合もあるし、マイナスの方が大きければ拡大する場合もあるという、それが、私の理解する柔軟なインフレターゲティングポリシーというのは、一年後の経済物価上昇率目標値からどのくらい離れるのか、GDPギャップが、望ましいのはゼロだと私思いますけれども、そこからその離れる度合いを最小化するように最小化するようにやればよろしい、原理はそういうことだと思います。
  54. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) 私に対する御質問ではなかったかもしれませんが、マクロプルーデンスについて一言だけ簡単に申し上げさせていただきたいと思います。  これまで、金融システムが不安定化したときにどういうふうにしたらいいかというのはもう日本でも実験済みで、九七年に金融危機が起きました。そして、二〇〇三年にりそな銀行への公的資金の注入で取りあえず金融システム不安は日本で収まったわけですが。それで一応、問題が本当は起きる前にいろいろ対応する、そして、ただ、問題が起きてしまったら公的資金を注入するというのはアメリカでもその後実際に起こりました。これが大体もう教科書になっているわけですけれども。  ただ、その後起きたユーロ危機のときに、実は同じようなことをスペインでやろうとしました。スペインの金融システムが不安定になり中小金融機関が破綻のリスクにさらされたときに、スペイン政府が公的資金を注入しようとしました。ところが、そのときにスペイン政府財政状況が非常に不安定な状況でした、赤字が非常にあったので。実は、そのスペイン政府が公的資金の注入をするといううわさが出ただけでスペイン政府国債の格付が大幅に下がってしまって、結局、スペイン政府は公的資金の注入ができずに、ECB欧州中央銀行に頼んで迂回でやってもらったということがあります。  ですので、次の金融危機というのを別にここで議論するつもりはないんですけれども、やはり日本の場合を想定しても、危機というのは必ず、今までと似たような状況だけれども必ず違う衣を伴って現れてきますので、一つのリスクは、公的資金を注入してもむしろそれは財政のリスクになってしまうと。すなわち、公的資金を入れて何とかなるというのは、国の財政がしっかりしているからみんなそれで何とか安心するわけですけれども、国の財政がしっかりしていないと、それは銀行を助けようとしてまた国債を増発するのでは国の財政はもっと危なくなってしまうじゃないかというリスクもありますので、やはりそういう面でも今真剣に財政の問題というのを、そういうマクロプルーデンスの観点からもやはり今のうちに、しっかりと平時のうちに議論しておくことが必要だと思います。  二点目の点ですけれども、確かに物価が上がるのは二つ要因がございます。一つは供給サイド、一つは需要サイド。原油価格が上がって物価が上がるというのは供給要因で上がることですけれども、ただ、これは瞬間的にはインフレになりますけれども、賃金が上がらずして原油価格が上がるとむしろ家計の購買力が減ってしまって、むしろ最終的にはこれデフレ要因になりますので、いずれ物価は下がっていきます。  ただ、賃金が上がっているときに、今はちょっとまだそういう状況じゃないんですけれども、これから何年後かに非常に労働需給がタイトになって賃金が毎年何%か上がっているときに原油価格が上がると、本当にこれはインフレになって、一種のスタグフレーション状態になるわけですね。購買力が減るから消費は落ちる、ただインフレだけはどんどん上がっていくという状況になるとき、これは非常に中央銀行にとっては苦しい状況です。  ただ、やはりそのときは、過去の中央銀行の例を見ると、もう心を鬼にして、もう景気に配慮ではなくて、まずインフレ期待を収めるという形にしなければいけないわけですが、ただ、そのときに、今、日本の状況ですと、やはり財政がまだこれだけ大きな赤字を持って信認がないと、それもできないかもしれないという。すなわち、日銀が引き締めるということは、更に長期金利が上がり、日銀が国債を買わなくなるわけですので、本当にそれもできるのかということが出てきますので、やはりこれも今のうちにそういう観点から議論しておくことが必要だと思います。
  55. 早川英男

    参考人早川英男君) 私も本当はマクロプルーデンスについて言いたいことはありますけれども、時間の関係でそれはやめまして、御質問のことについてお答えいたします。  まず第一に、物価の件です。日銀が金融緩和をやめるべき環境として考えた場合、やっぱりそれは、今お話あったとおり、それは原油ではないと思います。原油価格が上がって数字上物価が上がったからといって、それをもってそれに反応すべきことではないということは明らかで、現にそれは、リーマンショックの直前も一旦二%を超えるインフレになっていますけれども、そのときに日銀が特に金融を引き締めたという事実はありません。  むしろ大事なのは、これも先ほど菅野さんの最初のプレゼンのときにありましたように、やっぱり重要なのは労働需給、賃金の方であって、現に去年は景気が弱かった時期も労働需給は全然緩まなかったんですね。再びプラス成長になった途端に失業率はまた下がり、有効求人倍率は上がり始めていますので、僕は、もちろん今年の春に二%なんかあり得ませんけれども、多くのマーケットの人が思っているよりも、労働需給が引き締まり賃金が上がってくるタイミングというのはもうちょっと早いと思っていますので、それがポイント。  ただ、それにしても、それはあと一年や二年はあるので、その一年や二年の間に財政健全化に関するマーケットの信認を得る。原油はいつ上がるか分からないのでどうしようもないですけど、これはあと一年や二年は絶対ありますので、その間に財政に対する信認を得ることが大事だと思っています。  それからもう一点は、多分、完全雇用とそれから恐らく社会インフラの話だと思いますけれども、確かに、まず第一にはっきりしているのは、完全雇用が実現したら景気対策として公共事業を増やすのは意味がないということだと思っています。ただ、一方で、じゃ社会インフラについて何もしなくていいのかといったら、それはそうではありません。  言うまでもなく、一番大きなポイントは、日本の社会資本の多くのものは、それはもう高速道路とか、要するに東名とか首都高を考えると明らかですけど、五十年前の高度成長期に造ったものなので、はっきり言って相当もう危うくなってきていますので、それに対する対策というのは絶対に必要ですので、そういう意味では何もしなくていいということにはなりません。  ただ、もう一つ考えなきゃいけないのは、これまでやってきた例えば社会インフラを全部メンテすべきかというと、それはそうではないと思います。要するに、人口が減っていくのに全てのものを、図書館も道路も橋も全部維持するという話にはなりません。例の地方創生という話は、よく言われているように、大事なのは集約になります。要するに、都市機能を中核都市に集める、そして各地域においても、例えば住居にしても集約を進めていくということになります。集約を進めるというのは、集約するという言い方はきれいですけれども、集約の裏側は必ず廃棄がありますので、そこもやらなきゃいけなくて、政治的にはすごく難しい。恐らくそれは、国が、おまえ、あの橋廃棄しろとか言うべきことではなくて、それは各地方でちゃんと合意形成を行って、どこを残してどこに集約するかというのは恐らく各地方で決めていただくしかなくて、そのある意味で合意形成が早くできたところに対しては国の方は予算なりなんなりで対応すべきであり、逆に言うと、合意ができなければ、あなたは大変ひどいことになりますよということをよく言っておくということになるのではないかと思っています。  以上です。
  56. 中山恭子

    中山恭子君 ありがとうございました。
  57. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 中西君。
  58. 中西健治

    中西健治君 中西健治です。今日はどうもお三方、ありがとうございました。  時間が押しているということなので、お三方に共通して一問だけお聞きしたいというふうに思います。  更なる金融緩和の是非を考えるに当たっては、当然プラスとマイナスどっちが多いのかということで、最近は円安もあるしということでマイナス面を重視する方が増えているんじゃないかな、声が増えているんじゃないかなというふうに思います。  先ほど菅野さんのお話では、マーケットのエコノミストは追加緩和ありだよと言っているという人が多いということですけれども、やはり今いろんな論調を聞いていると、追加緩和はすべきでないという弊害の方を語る方が増えているかなというふうに思います。リフレ派の分裂と言われたりもしているかというふうに思いますけれども。  であるならば、十月のQQE2をどう評価するのかということをやはり聞かなきゃいけないかなというふうに思います。あのQQE2は評価するんだけれども次は評価しないということであれば何が違うのかと。当時の時点でも、為替は実質的には非常に安いと、円安というレベルだったと思います。それから水準は変わりましたけれども。  やはり、そのQQE2を評価するのかしないのか、マイナスの方が大きいと考えるのかどうかということ、そして、それがもし今度の次なる緩和とは違う評価だということであれば何が違うのかということを教えていただきたいと思います。
  59. 早川英男

    参考人早川英男君) 私は、もう既に私のプレゼンテーションでほとんどお答えしたに近いと思っていますけれども、私は、おととしのQQE1というのは、まあいろいろ問題はあったけれども、やってみる価値のある実験であったし、現にその成果もやっぱりあったと考えていますけれども、QQE2の時点においては既に、その経験に学ぶならば、QQE2は恐らく望ましくなかったんだと考えています。  ただ、先ほど申し上げたように、ある種の幸運があって、別にQQE2も望ましくなかったし、僕は消費税先送りも望ましくなかったと思うんだけれども、幸いにして原油安もあって当面景気は良くなるし、物価はすぐには上がらないので、ある意味で日本にとってはチャンスの一年なり一年半が訪れて、そのチャンスを是非とも生かしていただきたいというのが先ほどの私の申し上げた趣旨であります。  ここから先については、基本的には、経済が順調に動いていく限りは別に追加緩和は必要ないと思いますけれども、先ほど申し上げたように条件が変わればまた話は別だと思っています。  以上です。
  60. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) 手短にお答えいたします。  答えはまだ出ていないと思います。というのは、QQE2をやった結果、時間が余計買えるようになったということは事実だと思います。それをどう評価するかということですので、先ほど申しましたように、せっかく日銀が買った時間を浪費してしまう、財政再建もそんなに進まない、歳出カットもそんなに進まない、成長戦略もなかなか進まないということであれば、せっかく買った時間がむしろ浪費されてしまって、むしろコストの方が大きくなると思いますので、その意味で、果たして今後、先ほど岩田参考人がおっしゃられました三本の柱のうち残りの二本がしっかりそれを、一本目で要すればしっかり押さえましたので、二本目、三本目の柱がちゃんとできれば、それはやった価値があったということになると思いますけれども、残念ながら、今のところは、私ども外から見ているとどうもそういう方に見えない部分が多いので、是非先生方のお力で我々の不安を取り除いていただきたいというふうに思います。
  61. 岩田一政

    参考人岩田一政君) それでは、十月末についてですけど、既に申し上げましたが、十月末に逆に日銀が何もしなかった場合に何が起こるかということをやっぱり考えるべきだと思うんですね。  その場合に私が恐れますのは、日本銀行は二年で、二年程度で二%と言っているけれども物価上昇率が一%を現実に割ってきてゼロに近づいていくような動きがある中で、行動を何も取らない中央銀行だというように仮にマーケットが受け取ると、そうすると、二%の目標、もうちょっと言うとデフレ脱却まで難しくなる。  私は、先ほど民間中央銀行もそれぞれ学習過程にあると、本当の構造を知らない、少しずつ学んでいくんだと申し上げましたが、それはどういうことかというと、例えば日銀は一%割れでも何も行動しないというと、マーケットの参加者は、ああ、日銀というのは言葉で言っているけれども本当はそんなに実現するつもりを持っていないんだと。つまり、そういうアクションを通じて学んでいるんですよね。日銀の決意がどのぐらい固いかということを少しずつ確かめながら予測をするわけですね、将来ちゃんと二%の方に向かっていくことになるのかどうかという。  日銀の方は、逆に、こういう刺激政策を取ったときに民間がどのように反応してくれるか、これは思ったよりも輸出が出なかったり、金利が少しは下がったけど設備投資は思ったほど出なかったりということを、言ってみますと一回一回確かめながらやっているんですね。それで、今の構造はどういうことになっているのかというのを学びながらやっているということなんだと思うんですね、現実はですね。  私は、やっぱり十月にやらなかった場合には、日本銀行は本当はやる気ないというふうに思われる方が増えて、結果的にはデフレ脱却が難しくなる、そういうコストを考えれば、やっぱりやるべきだったんじゃないかと。  もう一つは、円安については、私若干違った見解を持っていて、為替レートというのは、変動レート制というのは上限幾らでも上がってもいいし下限どこまで行ってもいい、普通はそう思うわけですね。しかし、現実の経済では、例えば日本が苦しんだように、二〇一二年のように円高が続きますと、八十円切るような、産業がもたないんですよね、経済が円滑に運営できなくなる。つまり、上限の方は非常に理解しやすいんですね。ですから、その意味では、ある経済均衡為替レートがあるとして、それから余りに乖離するともう経済がもたない、そういう上限がある。これは割合、比較的理解されやすい。  ところが、私は下限もあるというふうに思っていまして、それは先ほど申し上げた交易条件なんですけど、円安が進みますと輸入物価がたくさん上がります。輸入物価がたくさん上がっちゃいますと、国内で労働生産性が仮に向上していても実質賃金が上がらないんですね。それは、実質所得が産油国の方に流れてしまうということなんですね。  ですから、過度に円安に行くと、私は自国窮乏化と呼んでいるんですけど、普通は為替レートを下げて輸出を増やして他国を窮乏化するから拡大的金融政策はいけないということになっているんですが、私は自国窮乏化のリスクというのもあると思っていまして、それに近いことが起こったのはいつかというと、先ほど早川参考人のおっしゃったような二〇〇八年の前半ですね。あのときは消費者物価が二・四%上がりました。でも、誰も評価しないですね。主にあのときは原油価格がどんどん上がって、為替レートも百二十円ぐらいでした。結局、原油価格はバブルで崩壊しました、上がりましたけどね。そうしたら、またすぐマイナスに戻ってしまった。  ですから、あのエピソードは、やっぱり私、ある種の自国窮乏化ですね。余りに、つまり原油価格が上がると同時に為替レートが下がっているというような状況がありますと、実質所得がむしろ失われて、消費者が消費をむしろ控えてしまうといいますか、マイナスが及ぶ。こういうようなことが起こるとすれば、それが仮に金融政策円安を加速することによってそうなったとしたら、ある種のやはりそれは窮乏化になると思います。  同時に、為替レートというのは、一国だけじゃなくて必ず相手がいるんですよね。相手の国がどのくらい均衡レートから離れているかということによっても私は制約があるというふうに思います。変動レート制といいながら、実は、どこまででも上がってもいいし、どこまででも下がってもいいという世界ではないと思います。  例えば、今ドル高なんですよね。ドル高なんですけど、過去、一九七〇年からずっと長期の実質実効為替レートを見ますと、これまでドルは安かったんです。二〇〇二年以降、ずっとドル安なんです。でもしかし、このところ急に上がりまして、独りでドルが上がっているんですね。既に長期の何十年かの平均を上回っているんですね。  それで、これからイエレンさんは金利を上げようとしているんですが、その一つの条件は、インフレ率がこれから二%に近づいていきますという条件の下なんですね。ですけれども、ドル高が更に加速していった場合は二%は難しいんですよね。それをどうするんですかという問題が、これはアメリカもそうですし、イギリスもそうなんです、あるいはECBもそうなんですね。ECBがどうして量的緩和、もちろん原油価格除いてもかなり物価上昇率下がっていますけれども、とうとうその原油価格も含めたベースではマイナスになってしまったということがもちろんあるわけですね。  元々、じゃ、下がってきた一つの理由としてECBが挙げていたのが、ユーロのレートが高くなり過ぎていると。明らかに、二十年の平均取りますとユーロは過去よりも高かったんですね。それが今、大体過去の平均に近づいているんですね、近づいてきている。ほぼ恐らく長期的な値が均衡に近いとすると、いいところまで来ていて、アメリカはちょっともう上に出始めて、日本はもちろん均衡よりかなり下の方に今あるんですね、実質実効為替レートで見ますと。  そういうときに、更に円安を加速するような政策が適切であるというふうに判断してくださるかどうか、これはちょっと微妙だと思っていますし、もう一つの例を挙げますと、TPPの交渉をやっていて、私は本当に早くやってもらいたいと思いますが、議会にTPAという大統領の交渉権限を認める法案がありますが、その中に、議会のいろいろ証言をこの前ビデオで見ておりましたら、ある方が通貨条項というのを入れるべきだと。通貨の為替レートを操作しているような、人為的に操作しているような国に対しては罰を加えるべきだという条項を入れるべきだというのがありまして、ある別の研究所は、その対象国としては日本とマレーシアとシンガポールだと名前まで挙げております。  これは分かりません。これから議会でTPPを議論しますが、そのときに、為替レートを更に円安に持っていくことがいいのかどうかというのは、これは金融政策だけの問題ではありませんけど、言ってみますと、スピルオーバー効果といいますか、金融政策のですね、ことに関して全く考慮を払わないでやれるのかどうかというのは、これは一つの課題になっていまして、連邦準備の長い宿題はまだ解決していませんが、そういう国際的なスピルオーバーをどのくらい考えながらやるべきかという、これは宿題のままで、グリーンスパンさんができなかった一つの宿題でありまして、今も宿題のまま残っているということかと思います。
  62. 中西健治

    中西健治君 ありがとうございました。
  63. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 吉田君。
  64. 吉田忠智

    吉田忠智君 社会民主党の吉田忠智です。  黒田総裁が就任をされてQQEが始められたときに、私は、前例がないことですから評価ができないということと、出口をどうするのかなと、それから失敗したときに国民に負担が来るなと、三つのことを感じまして、今日、三人の先生のお話を聞いて、現状と課題については整理ができたと思っております。ありがとうございました。  それで、もう簡潔に、時間が押していますので、二問やりたかったんですけれども、一問だけ。  確かに、株価も上がりましたし、円安も進みました。大企業中心に賃金も上がりましたけれども、私は効果が非常に限定的だと思っています。そういう意味で、この三本の矢によってまた格差が拡大したのではないか。ピケティさんが「二十一世紀の資本」という本を出して、来日をされて、格差論争が活発になっておりますけれども、今現状、格差についてどのように先生方は認識をされておられるか、そして、それを是正するためにはどういうことをする必要があるのか、その点について見解をお聞かせいただきたいと思います。
  65. 岩田一政

    参考人岩田一政君) 格差の問題ですけれども、最近、ピケティという方が、高位所得者が多くの所得をみんな経済の中で奪ってしまっていると。先行き見ると成長率が下がっていって、しかも資本の収益率が余り変わらないとすれば、これから極度な格差社会になるんじゃないかという、そういう予言まで、あの厚い本を読みますと、最後の方は予言だと思いますが、そういうことをお書きになって、大変ですねと、こういう議論があるわけですね。  日本の場合に、しかしながら、それでは高位所得者が、例えば〇・一%の高位所得者というのは、年収でいうと税務統計では三千万から五千万ですね。トップ四百というか、四百人、アメリカは七・七億ドルだそうですが、平均年収が、日本は六千万円で、ゼロが一つ二つ、三つか違いまして。  つまり、ピケティさんが問題にしているのは、高位所得者のところが何か所得をたくさん取り過ぎている、ゆがんでいると、正規分布から比べるとすごいゆがんだ形していますね、それが格差の大問題だと、日本もそうでしょうとおっしゃっているんだと思いますが、残念ながら、日本は、それほどこっちはゆがんでいないんですが、低所得の方が実はゆがんでおりまして、これは三本の矢というよりは、私の理解では、先ほど申し上げましたが、人口構造の大変化ですね。半ばから生産年齢人口がマイナスになり、働く人と退職世代の比率が大きく変動する。その中で企業はこれまでの雇用制度を維持できない。  これまでの制度というのは、若いときに、生産性と比べればもしかすると少し低い賃金で働いて、しかしだんだんランクが上がっていって、年取ったときはそれほど生産性高くないかもしれないけどそれなりの報酬があるという。言ってみると、その働いている人は、自分の企業のために株の投資を同時にやりながら、企業成長すれば自分も成長する、そういうモデルで、それが高度成長は非常にうまく回ったんですね。  ところが、その人口構造のピラミッドが逆さまになりまして、その仕組みが維持できないんですよね。その結果、企業は非正規雇用を増やさないと間に合わないと。特に九〇年代半ばというのは、私は九〇年代半ばからデフレが始まったと思っていますが、先ほど申し上げました為替レートが九五年の四月に八十円切ったんですよ。あのときも、やっぱり相当優良な企業でも生き残れない、為替レートがそんな高いところになったらあらゆるコストを削減しないといけない、人件費も削減しましょうということで、九七年以降は名目賃金も実質賃金もトレンドとしてはずっとマイナスなんですよ。特にそういうマイナスになった一つの大きい要因が非正規化という、全体としてコストが下がればいいので、ということで名目賃金も実質賃金も上がらないという状況が続いてきた。  そういうことが続いてきたのであって、アベノミクスがあったから、あるいは小泉改革があったからというよりは、日本の大きな経済構造、人口構造の大きな変動に対して日本経済がうまく適応し切れていない。それでしわが低所得層に行っていると。中所得が減って低所得の人がどんどん増えている。  ですから、相対的貧困層というOECDの概念があるわけですね。これはどういうのかというと、所得分布取ると、メディアンという中位値ですね、取ってやって、それの半分以下の層を相対的貧困層というんですが、これ日本は今OECDで二番目に悪い。前は第五位だった、五番目に悪かったんですがというぐらい、つまり所得層のところの分布が非常に膨らんでいるという、そういうことが起こっていて、それが私、日本の格差の問題の一番大きい点じゃないか。  もちろん、これ増えている理由には、高齢者の方が、働いていたけど定年になって辞めたけれども雇用でまた働きますというと、もちろん賃金は、年収は何分の一かになるわけです。そういう方はある程度やむを得ないと私は思うんですが、若い方が最初から正規に就けなくて非正規だと、それこそ年収の平均が今四百万程度あるんですかね、三百五十万から四百万ぐらいだと思うんですけど、それの半分以下というようなことですと結局結婚もできない。若い方が非正規のまま終わるというような社会、これは社会保障制度も最終的にはもたないわけですよね。  というので、私の格差問題に関する基本的な考え方は、そういう日本の大きな人口構造の変化に対して、これは企業もそうだし、それからいろいろな政府制度ですね、社会保障制度在り方とかそういうものが全てうまく適応していない、そこを何か抜本的に変えていかない限りはなくならないと思います。
  66. 菅野雅明

    参考人菅野雅明君) この問題もいろいろな切り口があると思いますけれども、まず、岩田参考人がおっしゃられたことはもうまさにそのとおりでして、日本の問題は高所得者層の問題よりも低所得者層の、この問題だということはもうそのとおりかと思います。  ただ一点、ちょっと脚注という意味で付けさせていただきますと、ただ、いわゆる高齢化が進むとある意味で自動的にそれが起きるわけですよね。当然のことながら、年金だけで生活している方がどんどん増えるわけですから、統計を取ると低所得者層がどんどん増えてくるという形になりますので、そういう人口構造に伴う低所得者層の増加というのはまず分けて考える必要があると。これは、たしか阪大の大竹先生が指摘されたことです。  あと同時に、実は所得格差がそういう意味では統計的には開いています。それから資産格差も開いています。ただ、じゃ、その低所得者が必ず資産が少ないかというと必ずしもそうじゃないわけで、高齢者の人は、所得は少ないけれども金融資産とか資産は多いという人たちがありますので、実はこの問題はもう少し丁寧な議論じゃないとちょっと結論が誤るんではないかと思います。  あと、日本の場合に重要なのは、単なる所得格差だけではなくて世代間格差の問題があるんですね。もちろん、これまでデフレだったという面もあるんですが、やはり硬直的な社会保障制度の下ですと、高齢者の方にどうしても相対的に所得が移転してしまうと。特に、後期高齢者の場合は例えば医療費が一割でずっと据え置かれているとか、これはもう非常に多くの補助金が現役世代から高齢者の方にシフトしているわけです。なかなかこれは高齢者の既得権なので変えにくいという問題がありますので、こういう制度的な硬直性というのもそういう格差を生んでいると思います。  そして世代間、むしろ、あとは、もう一つは世代内格差ですが、これは岩田参考人がおっしゃられたような、正規と非正規、非常に悲しい現実がこれまでありました。そして、非正規雇用の方の未婚率は非常に高いです。  ということで、日本の少子化の原因の一つにもなっていますので、ここは本当に何とかしないといけないわけですけれども、ただ、これも一つの面は、正規雇用が余りに過保護になって、過度に保護されていると。そうすると、企業としては正規雇用で雇うと解雇できないということがありますので、おのずから新しく採る人は非正規雇用になってしまうと。そして、日本の場合には新卒のところが一番流動性のある労働市場ですので、その結果として、その新卒の人が非正規で雇用されるとなかなか正規になれないと。むしろ、問題は正規雇用が保護され過ぎているからだということかと思います。  それと、最後にもう一点。事前の格差と事後の格差というのをちょっと分けて考える必要があると思います。  重要なのは、やはり教育だと思うんですね。やはり十分に教育が与えられ、機会が与えられないで将来が決まってしまうというのは、これは絶対に避けないといけないと思います。ただ、それなりに教育の機会があって、いろいろな結果として出てくる格差、これは健全な格差であって、むしろどうしたら、誰でも所得は増えたい、増えた方がいいというふうに思っていると思うんですが、そのためには何をやればいいかと。ある意味でインセンティブにもなるわけですので、一概に格差が悪いわけではないと、健全な格差というのもあると思います。  ただ、残念ながら教育の機会が不十分だと、もうそもそもレースに参加する前に落後してしまう人が出てきますので、ここのところだけは、国が何とかしてそういう落後者をつくらないような教育の機会を全ての若者に与えると、ここは極めて重要な点だと思います。
  67. 早川英男

    参考人早川英男君) 時間もありますので、できるだけ簡潔に申し上げます。  まず第一に、いわゆるピケティの議論で共感する部分もあります。というのは、先ほどちょっと法人税について申し上げましたけれども、要するになかなか国が所得分配というものを考えて課税ができない世の中になってきている。例えば、高所得者、資産課税も難しいと思います。その結果、ある種の問題が発生してきているし、とりわけ何とかしなきゃいけないのは、タックスインバージョンといって、要するに大きな企業が課税逃れをすることが行われています。日本はまだ、これ全然アメリカなんかと比べたら大したことありませんけれども、これはやっぱり国際的に協力してこういうのを抑え込んでいくことは是非ともやらなきゃいけないと僕は思っています。  二点目の日本国内の格差については、今お二方からの御議論があったとおりだと思います。日本は物すごいお金持ちが全てを手にしているということじゃなくて、やっぱり正規、非正規のところの格差が大きくて、そのためにはやっぱりいろんな働き方を変えていくことが大事だということはおっしゃるとおりだと僕は思っています。  ただ一点、グッドニュースを申し上げておきます。  僕は元々、そもそも非正規がいけないわけじゃなくて、これから高齢者女性にも働いてもらうためにこれは非正規大事なんだけれども日本は非正規の待遇が悪過ぎるというのが問題だ。ところが、今実は人手不足が起こってくれているおかげで非正規の待遇が良くなりつつあると思います。例えば、今年は就職戦線は圧倒的に売手市場になります。それから、今非正規の方がむしろ早めに賃金が上がっているかもしれません。そういう意味では、人手不足というのは、大変ではあるけれども、そういう観点から見るとグッドニュースであって、少し人手不足ぎみの状態が長く続いた方がむしろいいかもしれませんということを申し上げたい。  最後に、やっぱり世代間格差というのは、どうしても目に見える格差にみんな反応しがちなんだけれども、目に見えない格差というのは物すごく大きくて、日本の場合はやっぱり世代間格差というのが目に見えない格差としては非常に大きい。  現に、既に若い人は非正規とかで非常に苦労しているんだけれども年金とか社会保障の将来の格差を考えたら、それはとんでもないし、さらにこの巨額の赤字は誰が返すんだ、これを若い人が返すんだとすればとんでもない話であって、先ほどの話に戻りますけれども、そういったことも考える必要がある。目に見えてどうこうというだけじゃなくて、世代間格差、例えば社会保障とか赤字の削減とかをちゃんとやる必要があるということです。  以上です。
  68. 吉田忠智

    吉田忠智君 ありがとうございました。
  69. 鴻池祥肇

    会長鴻池祥肇君) 以上で各会派を代表しての質疑は終了をいたしました。  それでは、予定の時刻が既に済んでおりますので、参考人に対する質疑はこの程度とさせていただきたいと思います。  一言お礼の御挨拶を申し上げます。  お三方の先生方には、長時間貴重な御意見をいただきまして、誠にありがとうございました。おかげさまで我々の調査、順調に進んでおりますことを御礼を申し上げたいと思います。どうか先生方のますますの御活躍を祈念申し上げまして、お礼に代えたいと思います。ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後四時二十四分散会