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参考人(
柴田明夫君)
柴田でございます。よろしくお願いいたします。
私の方からは、
世界の食糧
市場の動向と
日本の
課題、こういった点に注目して報告させていただきます。
初めでありますけれども、
日本の農業・食糧
市場の特徴ということであります。
表は
世界の主な
経済大国が自国でどのぐらいの食糧を生産しているのかというのを比較したものでありますけれども、
日本の場合には、米八百万トン、小麦百万トン弱、合わせますと九百万トンの食糧を生産しております。しかし、イギリスですね、国土面積、
人口、半分ですけれども、三千万トンの、小麦を中心に、食糧を生産しております。ざっと見まして、
世界の
経済大国はいずれも食糧生産大国であるということが言えるかと思います。
日本でありますけれども、
日本は、
人口、先ほどの一億二千八百万人、国土面積三十八万平方キロメートルを基準にしますと、なぜ九百万トンで足りるのかということでありますが、実は三千万トン近い穀物を、食糧を恒常的に輸入しているということであります。言わば
日本は食糧生産小国でありますけれども、食糧のそういう
意味では特徴としては、過剰と不足が併存しているというのが
日本の特徴かなと。九百万トンの穀物の生産、米を中心の生産でありますが、四十年にわたって米離れの中で過剰、過剰と、こう言われてきたわけであります。一方で、三千万トンの食糧の輸入は本来は不足でありますけれども、当たり前のように思われて、不足という認識がなかったわけであります。しかし、この三千万トンの輸入は、
世界の食糧情勢を見ると、改めてこれから不足という認識が強まるのではないかと思います。
二番目の点でありますけれども、では
世界の食糧
市場が今
世紀に入ってどういうふうな状態にあるのかということでありますが、まずざっとFAOの統計で見ますと、
世界の陸地の面積、百三十億ヘクタールでありますが、このうち農用地というのは五十億ヘクタールであります。さらに、これを内訳を見ますと、耕地面積が十五億ヘクタールであり、大半の、残りの三十五億ヘクタールというのは永年草地であります。このうち、穀物は七億ヘクタール、ほかの野菜、果物等で七億ヘクタールと、こういうふうな内訳になっておりますが、基本的にこの
数字というのはほとんど変わっていないということであります。確かに、農業開発が進む一方で砂漠化とか農地の壊廃も進んで、足し算引き算すると、この耕地面積十五億ヘクタール、穀物の作付け七億ヘクタール強というのは変わっておりません。しかしながら、今
世界においては
世界的な農業開発ブームが行われていて、生産のフロンティアがどんどんどんどん広がってきているという
状況にあります。その結果、
世界の食糧
市場が大きな変動リスクというか、ここにさらされるようになっております。
傾向としましては、需給は長期的に逼迫に向かうと見ております。
中国の影響が非常に今大きいという点、それから供給サイドで見ると、生産は増えておりますけれども、今申し上げましたように、制約が強まってきているということであります。それから、
世界の穀物の生産というか食糧の生産で見ますと、特定の作物に依存するような格好になっています。米、小麦、トウモロコシ、大豆であります。一方で、バイオエタノールの急増ということで、
世界で見ると三つの争奪戦が強まっていると。国家間の穀物の輸入争奪戦、それから
市場間の争奪戦、次の
ページであります農業分野と工業分野、こちらにおきまして水と土をめぐる争奪戦が始まっていると。食糧というのも今
世紀に入ると有限の
資源の性格を帯び出したなということであります。
二
ページのグラフで、
世界の食糧、穀物生産の推移でありますけれども、九〇年代の後半で十八億トンで頭打ち傾向にあったものが現在は二十四億トンと、この十数年で六億トン以上拡大しております。私はこれは
需要ショックと見ているんですけれども、薄い棒グラフの部分で、
世界の食糧、穀物の
需要が、過去、前年を下回ることなく、基本的に過去最大、最高を更新し続けているという
状況が見て取れます。生産も増えておりますけれども、異常気象等で増減産を繰り返しながらの生産であるということで、非常にマーケットが不安定になってきているということであります。
需要ショックの中身でありますが、二十四億トンの穀物
需要のうちの半分近くが家畜の餌ですね、飼料用
需要になっております。肉の消費が増えているということであります。
短期間に見ると、三番目であります、マーケットの特徴でありますけれども、下の大豆、小麦、トウモロコシのグラフのように、今
世紀に入ってから非常に価格が高騰する中で価格変動リスクが高まってきております。
一方で、価格の水準が上がったことによって、先ほど申し上げました
世界的な農業開発ブームが広がっているということであります。その特徴でありますけれども、新大陸型農業の開発を目指した
世界的な穀物、食糧の商品化、装置化、機械化、情報化、化学化、これは農薬、肥料を多投する、それから遺伝子組換え等によるバイテク化、これによって供給量が飛躍的に拡大しているという姿が見て取れます。言わば農業の脱自然化というのが進んで、その結果、生産も飛躍的に拡大しているわけでありますが、しかし考えてみると、農業はやっぱり自然の領域に深く関わるものでありまして、ここに地球温暖化、水の制約、植物の多様性喪失、こういう傾向が強まりますと、②と③の両方のせめぎ合いでマーケットが非常に不安定になってきている、そこに投機マネーが入って更に価格が変動するという
状況になっております。
需要サイドで見ると、将来的な
食糧問題に備えて、
中国などが大豆、トウモロコシの輸入拡大を増やしているということであります。加えて、
中国のみならず、近年は中東・北アフリカ地域においても食糧の輸入が急速に拡大しているという
状況が見て取れます。
次の
ページでありますが、
中国につきましては、食糧の
需要の拡大ということでありますけれども、真ん中の絵がありますが、これは食糧生産、
中国における食糧というのは、米、小麦、トウモロコシ、大豆、それに芋類を重量を五分の一にして加えたものが食糧であります。
九〇年代までは、この緑色のひたすら量を確保するという方向で食糧の生産が増えていたわけでありますが、今
世紀に入ってからは、赤い矢印でありますが、肉の形で食べる、間接的に餌としての
需要が増えているという
状況の中での食糧の生産が増えているという
状況であります。それでも、
中国においては、拡大する食糧生産に
需要が追い付かないという形で、輸入が増えております。
近年の輸入の拡大というのは大豆において非常に顕著でありまして、九〇年代半ばまでほとんど自給していたものが、足下は七千万トンを超える輸入量となっております。
世界の大豆貿易の六割が
中国一国ということであります。
アメリカの農務省の長期見通しによりますと、二〇二二年度には一億トンを突破すると、こういうふうな
状況になっております。トウモロコシも、国内の生産では足りなくて、既に二億トンを超える生産量でありますが、二百五十万トンの純輸入国。米、小麦も、
中国においては自給ができず、米については四百五十万トンの輸入を行っております。
非常に、この
食糧問題、
中国においては重要でありまして、下の方ですけれども、今年の二月二日、国務院が、毎年一番最初に報告書を出す中央一号文書の中で農業問題を取り上げているわけです。過去振り返ってみますと、連続十二回、
中国の三農問題、農業・農民・農村問題が取り上げられていて、食糧をいかに増産していくのか、食糧の安定供給を図るのかということが示されているということであります。三
ページの下の方ですね。一の部分で絶えず増強していくという、それから二、三、四、五、実は三十二項目にわたって農業問題を取り上げていて、将来的な食糧不足に備えて、転ばぬ先のつえを五年先、十年先について
対応しているなというのが見て取れます。
こういう中で、五番目の点でありますけれども、新たな
課題として中東・北アフリカ地域の
食糧問題というのが取り上げられるかと思います。
この地域においては、食糧の
需要が急増しているということであります。背景には、
人口の
増加、それぞれの国で見ても年間二%台後半ぐらいの
人口の伸びをしております。所得も、石油収入の
増加によって増えているところもありますし、足下、ちょっと原油が急落しましたけれども、いずれ反動高が来ると思います。
二番目のところですね。拡大する食糧の
需要に対しては、この域内というのは
世界的な乾燥地帯、半乾燥地帯、あるいは水
資源の制約の強いところでありますから、域内での生産拡大が非常に難しいということであります。そこで、結局は輸入の拡大という形で
世界のマーケットに依存するという構図になっております。
今や、
世界の穀物貿易の三分の一が中東・北アフリカ地域であります。この地域の影響が国際マーケットに影響を与え、国際マーケットにおける非常に価格の乱高下、不安定化というのがこの地域に更にまた逆に影響を及ぼすと。原油の
市場の問題と
食糧問題というのは、実は非常に重なってきているということであります。
サウジアラビアなどは、今シリアの近郊で地下水を利用して小麦の生産をしているわけですけれども、二〇一六年までにこの小麦の生産を全部やめる、輸入に置き換えるという、こういうふうなことを考えているようであります。
この地域の食糧の輸入というのは、中身を見ますと、トウモロコシであり、小麦、大麦、大豆、そして菜種油、
日本が輸入しているものと競合する話であります。
日本の何らかここの影響を間接的に弱めるような
対応が必要かなと思います。
六番目のところでは、こういう中で水の問題というのも深刻化してきていると。限られた水
資源をめぐる争奪戦であり、安全な水へのアクセスということで、上水道の整備により商品化され値段が付くと、またそれはそれで、その地域の昔ながらの地域限定の共有
資源であったものが商品化されるというところでまた問題が起こったりということであります。幾つか水の問題も多様化していると。
こういう中で、五
ページでありますが、
日本の食糧
市場、今までは安い食糧を幾らでも
海外から輸入調達できるという、こういう環境にあったわけですが、価格、品質、供給、この三つの安定が脅かされつつあるということであります。
こういう中で、
世界の食糧事情を考えた場合には、
日本のいわゆる国内のミニマムの生産力というのはきちっと
維持する必要があるなと思うんですけれども、最近の自給率の
目標の引下げというところはちょっと気になるところであります。しかも、米の生産量というのは食用米で八百万トンを割り込んできたということは、最も優れた生産基盤であります水田が、これが生産力が非常に脆弱化しつつあるのではないかと思います。
アベノミクスの攻めの農業、もちろん異存はありませんけれども、ここの、しかし攻めの対象になる部分が、下にちょっとポンチ絵を描かせてもらったんですけれども、平地の産業
政策の対象になって、農地を集積し、付加価値を付け、輸出に打って出るというこの部分というのは、実は水田の面積二百五十万ヘクタールのうちの今のところ二十万ヘクタールぐらいかなと思います。残りの二百三十万ヘクタールというのは、この右下の中山間地、なりわい的な農家が行っている生産であります。もちろん左の上の領域の攻めの部分というのは重要でありますけれども、残されたなりわい的な農業というのをどうしたらいいのかというのが、非常に私はここが肝腎かなと思っております。
次の
ページですね。鶴見俊輔先生の丸ごとについての発言があるんですけれども、丸ごとと全体と、こう分けております。農業における水田というのは、その地域の
経済を丸ごと保全しているんだと、こういうふうなことであります。人間の手、足、指、頭、目などのように有機的に結び付いて、
一つ欠けても全体がおかしくなるということでありますが、農業生活において、特に地域の生活で、農地、水、人、水源涵養林、こういった構成要素を全体ではなくて丸ごと
維持してきたものが稲作農業であるということでありまして、ここで今、並行的に米八百万トン、水田面積二百五十万ヘクタール、農地全体四百五十万ヘクタール、ここが機能が失われていくようであれば、これはいわゆる攻めの農業の部分も持続が難しくなってくるのかなと思います。
国内のミニマム生産力というのを
維持した上で、そして
日本の
世界的な貢献という
意味では、八番目でありますけれども、特に、
海外での食糧の増産、そして栄養不足が懸念されるその現地における生産力を
支援していくという、あるいは
日本におけるポストハーベストの後の無駄ですね。例えば
インドなどは小麦の生産、大増産になっていますけれども、随分腐っているものも出てきているんじゃないか、こういうふうに懸念されております。ポストハーベストの管理とか、
日本の行える貢献というのは随分あるのではないかと、こんなふうに見ております。
以上であります。