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内閣総理大臣(安倍晋三君)
稲田朋美議員にお答えいたします。
祖父の写経についてお尋ねがありました。
子供のころ、一心に写経している祖父の姿を何度か見た記憶がありますが、先般、高野山に伺い、その実物を懐かしく拝見する機会を得ました。
そこで思い出しましたのは、その全てに
世界平和への願いが記されていることであります。二度と
戦争を繰り返してはならない、平和と安全なくして、経済の発展も、幸せな
国民生活も望むことはできない。あの
戦争を体験したからこそ、晩年に至るまで平和を願い続けた祖父の姿が思い出されました。
理想を現実のものとするために、
政治家は、政策を決断し、実行していかなければなりません。このこともまた、祖父の強い信念でありました。私たち
政治家は、平和をただ願うだけに終わってはならない。果敢に
行動していかなければなりません。
祖父は、
総理大臣として、東西冷戦の激化という
国際社会の現実を冷静に見きわめながら、
日米安保条約の
改定に身を尽くしました。日米同盟が、その後、
日本と地域の平和と安定に貢献したことは、歴史が証明しています。
あれから半世紀。
世界は一変しました。そして、今なお、私たちが望むと望まざるとにかかわらず、
国際社会は絶えず変転しています。私たちもまた、この
国際社会の厳しい現実を冷静に見きわめなければなりません。そして、
国民の命と平和な
暮らしを守るため、必要な政策を決断し、実現していく大きな責任があります。
至誠にして動かざる者はいまだこれあらざるなり。私は、誠実な
説明を尽くし、平和を願う全ての
国民、国
会議員の皆さんとともに、
平和安全法制の実現に全力を尽くす決意であります。
我が国を取り巻く
安全保障環境についてお尋ねがありました。
我が国を取り巻く
安全保障環境は、ますます厳しさを増しています。
具体的には、御指摘のように、
アジア太平洋地域及びグローバルな
パワーバランスの
変化、
日本の大半を射程に入れる数百発もの北朝鮮の弾道ミサイルの配備及び核兵器の開発、中国の台頭及びその東シナ海、南シナ海における
活動、
我が国に近づいてくる国籍不明の航空機に対する
自衛隊機の緊急発進、いわゆるスクランブルの回数が十年前と比べ七倍にふえていること、この二年間でアルジェリア、シリア、チュニジアにおいて邦人が犠牲となった国際
テロの
脅威といった問題が挙げられています。
さらに、近年では、海洋、宇宙空間、サイバー空間に対する自由なアクセス及びその活用を妨げるリスクが拡散し、深刻化しています。
脅威は容易に国境を越えてやってきます。もはや、どの国も一国のみで平和を守ることはできない時代になっています。
このような
我が国を取り巻く
安全保障環境が根本的に変容する中で、
国民の命と平和な
暮らしを守り抜くためには、あらゆる
事態を想定し、切れ目のない備えを行う
平和安全法制の
整備が必要不可欠であります。
平和安全法制がもたらす
抑止力の強化と
日米安全保障体制に与える
影響についてお尋ねがありました。
今回の
平和安全法制が実現すれば、
国民の命と幸せな
暮らしを守るために、グレーゾーンから集団的
自衛権に関するものまで、あらゆる
事態に対して切れ目のない対応を行うことが可能となります。
日本が攻撃を受ければ、米軍は、
日本を防衛するために力を尽くしてくれます。そして、安保条約の義務を全うするため、
日本近海で適時適切に警戒監視の任務に当たっています。
しかし、現在の
法制のもとでは、私たちのためその任務に当たる米軍が攻撃を受けても、私たちは
日本自身への攻撃がなければ何もできない、何もしない。果たして、皆さん、これでよいのでしょうか。
このような問題を踏まえ、日米同盟がよりよく機能するようにするのが、今回の
平和安全法制です。
日本が危険にさらされたときは日米同盟が完全に機能するということを
世界に発信することによって、
紛争を未然に阻止する力、すなわち
抑止力はさらに高まり、
日本が攻撃を受ける可能性は一層なくなっていくと考えます。
我が国の平和と安全を
確保するための
外交努力についてお尋ねがありました。
我が国の平和と安全を
確保するために、私は、近隣諸国との対話を通じた
外交努力を重視しています。実際、私は、
総理就任以来、地球儀を俯瞰する視点で積極的な外交を展開してまいりました。
そして、法の支配を重視する立場から、主張するときは
国際法にのっとって主張すべき、
武力の
威嚇や力による現状変更は行ってはならない、問題を解決する際は平和的に
国際法にのっとって解決するとの三
原則を私は
国際社会で繰り返し主張し、多くの国から賛同を得てまいりました。
外交を通じて平和を守る。今後も、積極的な
平和外交を展開してまいります。
我が国の
平和国家としての
歩みや
平和安全法制などについてお尋ねがありました。
平和国家としての
日本の
歩みは、これからも決して変わりません。二度と
戦争の惨禍を繰り返してはならない。この不戦の誓いを将来にわたって守り続けてまいります。
平和安全法制の
整備により、
徴兵制が採用される、あるいは米国の
戦争に巻き込まれるなどというのは、全く的外れな議論です。
徴兵制は明確な
憲法違反であり、いかなる場合であっても導入する余地はありません。
アメリカの
戦争に巻き込まれるようなことは絶対にありません。新たな
日米ガイドラインの中にも、はっきりと書き込んでいます。
日本が
武力を
行使するのは、
日本国民を守るため。これは、
日本とアメリカの共通の
認識であります。
安保条約を
改定したときにも、
戦争に巻き込まれるといった
批判が噴出しましたが、そうした
批判が全く的外れなものであったことは、既に歴史が、皆さん、証明しています。
したがって、
戦争法案という
批判は、全く
根拠のない、無責任かつ典型的な
レッテル張りであり、恥ずかしいと思います。
国民の命と平和な
暮らしを守り抜く、その決意のもと、
日本と
世界の平和と安全をより確かなものとするための法案が、
平和安全法制であります。
昨年七月の
閣議決定に関し、
解釈改憲、
立憲主義の逸脱といった
批判は全く当たらないと考えているかどうかとのお尋ねがございました。
昨年七月の
閣議決定における
憲法解釈は、
我が国を取り巻く
安全保障環境が客観的に大きく
変化しているという現実を踏まえ、従来の
憲法解釈との論理的整合性と法的安定性に十分留意し、従来の、
昭和四十七年の
政府見解における
憲法第九条の解釈の
基本的な論理の枠内で、
国民の命と平和な
暮らしを守り抜くための合理的な当てはめの帰結を導いたものであります。
また、そもそも、
昭和四十七年の
政府見解のうち、自国の平和と安全を維持しその
存立を全うするために必要な
自衛の
措置をとることを禁じているとは到底解されないとする部分は、
昭和三十四年の砂川事件の、
我が国が、自国の平和と安全を維持しその
存立を全うするために必要な
自衛のための
措置をとり得ることは、
国家固有の権能の
行使として当然のことと言わなければならないとの最高裁判決で示された考え方と軌を一にするものであります。
昨年の
閣議決定では、
国民の命と幸せな
暮らしを守るため、必要最小限度の
自衛の
措置が許されるという、従来の
憲法解釈の
基本的考え方を変えるものではないことから、
憲法の規範性を何ら変更するものではなく、
立憲主義に反するものではありません。
したがって、御指摘のとおり、昨年の
閣議決定について、
解釈改憲、
立憲主義の逸脱という
批判は全く当たらないと考えます。
海外派兵についてお尋ねがありました。
政府としては、従来より、
武力行使の目的を持って武装した
部隊を
他国の領土に派遣するいわゆる
海外派兵は、一般に、
自衛のための必要最小限度を超えるものであって、
憲法上許されないと解しています。
ただし、
機雷掃海については、その実態は、水中の危険物から民間船舶を
防護し、その安全な航行を
確保することを目的とするものです。その性質上も、あくまでも受動的かつ限定的な行為です。
このため、
外国の
領域で行うものであっても、必要最小限度のものとして、新三要件を満たすことはあり得るものと考えています。
後方支援及び
国会承認の意義と仕組みについてお尋ねがありました。
我が国や
国際社会の平和と安全が違法な
武力の
行使により脅かされているような場合に、諸
外国が行う正当な
武力の
行使を支援することは、その
事態の拡大を
防止し、
事態の収拾を図るためのものであり、
我が国と
国際社会の平和及び安全の維持のために極めて重要であります。
一方、このような
外国の軍隊への支援を行う場合には、民主的統制の観点から、
国会の関与が極めて重要であると考えております。
このため、国際平和支援法においては、国際の平和及び安全に寄与する目的で
自衛隊を
海外に派遣するための一般法であることに鑑み、
自衛隊による
対応措置の
実施について、例外なく
国会の事前
承認を必要としています。
重要影響事態法においては、
我が国の平和と安全の
確保を図るためには、即時の対応が必要と判断されるような時間的余裕がない場合も想定されることから、現行法と同じく、緊急の必要がある場合には事後
承認によることができることとしています。ただし、これは例外的なものであり、
原則は、
対応措置の
実施前に
国会の
承認を得なければならないとしています。
このような
国会の
承認に係る御判断は、
憲法と法令に従い、
我が国の国益に照らして主体的に行われるものと考えています。
自衛隊員のリスクについてお尋ねがありました。
なぜ
平和安全法制を
整備するのか、それは、
我が国を取り巻く
安全保障環境が一層厳しくなり、
我が国にとって、そして
国民にとって、リスクが高まっているからであります。
国民の命と平和な
暮らしを守るため、切れ目のない
法制をつくり、そして日米同盟を強化する、それにより
抑止力が高まれば、
日本が攻撃を受けるリスクは一層下がると考えています。
そして、
自衛隊員の任務は、
国民の命と平和な
暮らしを守り抜くことです。今後とも、この任務には一切変わりはありません。
我が国有事は言うに及ばず、
PKOや災害派遣など、これまでの任務も命がけであり、
自衛隊員は限界に近いリスクを負っています。
法制の
整備によって付与される新たな任務も、従来どおり命がけのものです。そのため、
法制の中で、隊員のリスクを極小化するための
措置をしっかりと
規定しています。
具体的に申し上げれば、
部隊の安全が
確保できないような場所で
後方支援を行うことはなく、また、万が一、
自衛隊が
活動している場所やその近傍で
戦闘行為が発生した場合などには、直ちに
活動を一時休止または中断するなどして安全を
確保することとしています。
もちろん、それでもリスクは残ります。しかし、それはあくまでも、
国民の命と平和な
暮らしを守り抜くために
自衛隊員に負ってもらうものであります。
他方、リスクの存在を
認識しているからこそ、
自衛隊員は、高度の専門知識を養い、日々厳しい訓練を行っています。みずから志願し、危険を顧みず職務を完遂することを宣誓したプロとして、危険な任務遂行のリスクを可能な限り軽減しています。これは今後も変わりありません。
法整備により得られる、国全体の、そして
国民のリスクが下がる効果は非常に大きいと考えています。このような判断を踏まえて、
平和安全法制の
整備を行うべきと考えているものであります。
存立危機事態とはどのような
事態なのかについてお尋ねがありました。
存立危機事態の典型例や具体例をあらかじめ包括的に示すことはできませんが、その上で、
存立危機事態に該当し得る例を挙げるとするならば、次のようなものが考えられます。
例えば、
我が国近隣において、
我が国と密接な
関係にある
他国、例えば米国に対する
武力攻撃が発生した。その時点では、まだ
我が国に対する
武力攻撃が発生したとは認定されないものの、攻撃国は、
我が国をも射程に捉える相当数の弾道ミサイルを保有しており、その言動などから、
我が国に対する
武力攻撃の発生が差し迫っている状況にある。
他国の弾道ミサイル攻撃から
我が国を守り、これに反撃する能力を持つ同盟国である米国の艦艇への
武力攻撃を早急にとめずに、
我が国に対する
武力攻撃の発生を待って
対処するのでは、弾道ミサイルによる第一撃によって取り返しのつかない甚大な被害をこうむることになる明らかな危険がある。このような場合が考えられます。
現在の
安全保障環境においては、こうした状況のもと、
我が国の防衛のための
自衛の
措置として、退避する邦人の輸送を含め、
事態の拡大
防止や早期収拾のために
活動している米艦船の
防護、米軍に対する支援、停船検査等を
実施する
必要性が生じる場合があると考えていますが、こうした
措置は、これまでの
憲法解釈のもとで定められた現行
法制では対応できないものであります。
いずれにせよ、いかなる
事態が
存立危機事態に該当するかについては、実際に発生した
事態の個別具体的な状況に即して、
政府が全ての情報を総合して、新三要件に照らし、客観的、合理的に判断します。
その上で、国の
存立の基盤である経済が脅かされるかどうかについても判断の
対象になりますが、単に、国際
紛争の
影響により
国民生活や国家経済に打撃が与えられたことであるとか、ある
生活物資が
不足することのみをもって
存立危機事態に該当するものではありません。
存立危機事態については、あくまでも、
我が国と密接な
関係にある
他国に対する
武力攻撃の発生を前提とした上で、例えば、石油などのエネルギー源の供給が滞ることにより、単なる経済的
影響にとどまらず、
生活物資の
不足や電力
不足によるライフラインの途絶が起こるなど、
国民生活に死活的な
影響、すなわち
国民の生死にかかわるような深刻、重大な
影響が生じるか否かを総合的に評価し、
存立危機事態に該当するかを判断するものであります。
周辺事態の概念と地理的制約についてのお尋ねがありました。
政府は、従来より、
周辺事態について、
事態の性質に着目した概念であって、地理的概念ではないと
説明してきました。この点については、
重要影響事態においても何ら変更はありません。
一方、
周辺事態安全
確保法の制定時においては、当時の
安全保障環境に照らして、
我が国の平和と安全に重要な
影響を与える
事態が生起する地域にはおのずと限界があり、中東、インド洋において生起することは、現実の問題として想定されないとしてきました。
しかし、
安全保障環境が大きく
変化した現在においては、これらの地域についても、
重要影響事態が生起する地域からあらかじめ排除することは困難であると考えています。
なお、今般の法
改正においては、
周辺事態という表現は地理的概念と誤解されるおそれがあることから、
重要影響事態と改めたものであります。
国際平和支援法の
必要性や具体的利点についてお尋ねがありました。
国際平和支援法は、
国際社会の平和及び安全を
確保すべく
活動している諸
外国の
軍隊等に対し、
国際社会の一員として、補給、輸送などの
協力支援活動や
捜索救助活動等を行うことを可能とするために必要となるものであります。
将来、具体的な
必要性が発生してから改めて立法
措置を行うよりも、
自衛隊の
活動根拠をあらかじめ定めておく方が、平素より各国とも連携した情報収集、教育訓練が可能となり、その成果を
基本的な体制
整備に反映することができます。
また、既に派遣のための法的
根拠が存在しているため、
活動内容、派遣規模といったニーズを確定するための現地調査や各国との調整を迅速に
実施できます。
これにより、
我が国として、
国際社会の平和及び安全に主体的かつ積極的に寄与していくとの意思を目に見える形で表明するとともに、実際の支援
活動もより迅速に行うことが可能となり、特措法で対応するときよりも効果的になると考えます。
PKO法の
改正についてお尋ねがありました。
御指摘のありましたISAFは既に
活動を終了しており、今日の視点で、改めて当時のアフガニスタンの状況を再現して、新たな基準に基づいて再評価を行うことは困難です。
その上で、一般論として申し上げれば、今般新たに
規定するいわゆる安全
確保業務を
実施する場合には、参加五
原則が満たされており、かつ、派遣先国及び
紛争当事者の受け入れ同意が
業務が行われる期間を通じて安定的に維持されると認められることが前提となります。
また、いわゆる安全
確保業務は、
防護を必要とする住民等の
生命、
身体及び財産に対する危害の
防止、その他
特定の区域の保安のための監視、駐留、巡回、検問及び警護を行うものです。
したがって、このような
活動を超えて、御指摘のタリバンをせん滅、掃討するような
活動を行うことはできない仕組みとなっています。
なお、いわゆる安全
確保業務における
武器使用権限において、危害を与える射撃が認められるのは、正当防衛または緊急避難に該当する場合に限られることは言うまでもありません。
本法案で目指す
日本の姿と、法案成立に向けた決意についてお尋ねがありました。
国民の命と平和な
暮らしを守ることは、
政府の最も重要な責務であります。
平和安全法制は、御指摘のとおり、
憲法の
平和主義の理念など、守り抜く伝統は維持し、国家と
国民の安全と繁栄を守り、
世界の平和と安全を確かなものとするものです。そして、人間の安全保障を含む積極的
平和主義のさまざまな取り組みと相まって、子供たちに平和な
日本を引き継ぎ、未来を創造するものであります。
戦後七十年の
平和国家としての
歩みと、自由で、民主的で、人権をたっとび、法の支配を守り続けてきた
日本の
歩みに自覚を持ち、
国民の皆様とともに新たな時代を切り開いていきたいと考えております。
我が国を取り巻く
安全保障環境が一層厳しさを増す中、
国民の命と平和な
暮らしを守り抜くためには、あらゆる
事態に対して切れ目のない備えを可能にする
平和安全法制が不可欠であります。
多くの
国民の皆様に法案の
趣旨を御理解いただき、幅広い御支持が得られるよう、
国会審議においてもわかりやすく丁寧な
説明を心がけ、今
国会における確実な成立を期してまいります。(
拍手)
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