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矢島参考人 皆様、こんにちは。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの
矢島と申します。よろしくお願いいたします。
私は、
少子高齢化対策を中心テーマといたしまして調査研究、
政策提言を行ってまいりましたけれ
ども、近年は
女性活躍やワーク・
ライフ・バランスについての調査ですとか、それから、最近は
企業の皆様からの御相談を受けたコンサルティングな
どもさせていただいております。
プライベートでは、私自身も高校二年の息子がおりまして、今、ぜいたくにもイギリスに修学旅行中なんですけれ
ども、最近は、自分の子育てというよりも、むしろ部下の
女性たちの子育てをしながらの
活躍というものをサポートすることを私自身の課題とさせていただいているところでもございます。
本日のテーマでございますけれ
ども、本日は、三点述べさせていただきたいと考えております。
まず第一に、なぜ今
女性活躍推進かということでございます。次に、
女性活躍推進における現在の課題。そして
最後に、
女性活躍推進法に対する期待と懸念というところでございます。
お配りいたしました
資料、済みません、
資料の節約癖がついておりまして、一枚に二枚ずつのアップとなっておりましてちょっと見にくいかもしれませんけれ
ども、一枚おめくりいただきまして、まず、この一の、なぜ今
女性活躍推進かというところでございます。
女性の
活躍推進といいますと、
日本においてもかなり長く取り組んできている大きなテーマでございまして、中には、なぜ今さら
女性活躍推進なのかといった声も聞かれます。
その中で、私
どもも、実は
女性活躍推進・ダイバーシティマネジメント
戦略室という非常に長い名前の室を昨年の七月に設置いたしました。これが三年ほど前だったら、もしかしたら、ダイバーシティマネジメント
戦略室という名前だけにしたかもしれません。その中に、あえて長い名前になるのを承知で頭に
女性活躍という名前をつけたのは、やはり近年、
企業の皆様から御相談を受けるテーマが、単にダイバーシティーやワーク・
ライフ・バランスではなく、
女性活躍というところに非常に焦点が当たっているからでございます。その背景をまずは御紹介いたしたいと思います。
四枚目の
資料にございます図をごらんください。これまでの
状況としておりますが、これは少し前のデータ、平成十九年の三月に
内閣府で実施されたデータでございます。
こちらで
女性の
働き方の希望というのを見ていただきますと、未婚で、結婚していない場合などは、
働き方の希望として、
残業もあるフルタイムの
仕事を希望される
女性も少なくありません。ただ、
子供が生まれて、
子供が小さいときというのは、そういった希望をする方はほとんどいらっしゃらず、中には、三歳未満のときには一時的に働きたくないという希望を持たれる方もいらっしゃいます。それが、
子供が小学生の時点では、九割の
女性は働きたいといった希望を持っております。ただ、どのように働きたいかと申しますと、フルタイムだが
残業のない
仕事、あるいは短時間勤務、家でできる
仕事、こういった
働き方を希望しているわけです。
ただ、考えてみますと、これまでの
日本の
企業社会においては、正社員イコール
残業もあるフルタイムの
仕事というのが当たり前であって、こういった
子供を持った
女性たちが希望する
働き方というのは、
日本の
企業社会の中で正社員としてはあり得なかったというのが実態のところではないかと思います。
そういう中で、右側のグラフにありますように、現実というところでは、白いところで、希望よりもかなり大きな
比率で働いていない方が多くなってしまっている。そして、正社員というのは、
子供が生まれた後は急激に減って、そのままふえないというような中で、非常に少なくなってしまうというような
状況がございました。
それが、近年、御承知のとおり、二〇〇九年、
育児・
介護休業法の改正によりまして、
子供を持った方が、三歳までは、こちらのフルタイムだが
残業のない
仕事、すなわち所定外
労働の免除や短時間勤務というのを実質的に利用できるようになった。こういうような変化がありまして、この法律の改正というのは、これまで
女性たちが
子供を持った後に望んでいた
働き方がある程度選択できる
環境をつくってきたというふうに言えるかと思います。
その結果として、五ページ目の図をごらんいただきたいんですが、近年の
状況として、こちらのグラフは
企業規模別に見ているんですけれ
ども、大
企業を中心に、結婚、出産を機に離職する正社員
女性がかなり減った、あるいは、やや減ったと回答する割合が高くなっております。
これを見ると、中小
企業では余り変わらないという答えも多いんですが、では、中小
企業はおくれているのかと申しますと、実は、以前は、平均的に見れば、中小
企業の方が就業継続する
女性あるいは正社員
女性の割合が高いというような
状況もございまして、結婚、出産時の離職というのは、どちらかといえば、特に大
企業で深刻な問題だったわけですが、それがある程度変化をしてきているというような
状況がございます。
そのような中で、離職防止にでは何が役に立ったのかということを聞きますと、特に大
企業では、短時間勤務制度を利用できるようになったことという回答が一番多く聞かれます。中小
企業では、
育児休業制度がとりやすくなったことというのが一番で、二番目が短時間勤務制度というような
状況で、こういった制度によって、離職防止というのが実現してきているという部分も見られます。
次の七ページを見ていただきますと、では、こういった
育児休業や短時間勤務といった両立支援施策で、一定程度両立、就業継続が可能になったというようなことがあるわけですが、では、法定どおり、
育児休業、子が一歳までと、短時間勤務、子が三歳までをフルに利用したら、キャリアへの影響はどうなるんだろうかということも
企業に聞いております。
答えとしては、全く影響しない、余り影響しないと、どちらとも言えない、影響するが半々ぐらいの
状況になっております。
つまり、両立支援施策を
企業は長いこと
推進してきたんですが、実際、その制度を利用した場合に
女性のキャリアがどうなるかということについては、これまで余り考えてこられなかったということです。半分ぐらいは影響しないと答えているんですが、実際、そういった取り組みを積極的にしている
企業では、短時間勤務制度などは、子が三歳までではなく、就学前まで、あるいは小学校三年生ぐらいまで設けている
企業も多いので、そういった
企業では、さらにこういった中長期的なキャリアへの影響というのを深刻に捉えているというところもございます。
ですので、今、就業継続の先にある
女性の
活躍推進ということが、
企業の中でこういった面から深刻な課題になってきていた。これは、昨年六月に
日本再興
戦略で
女性活躍推進が打ち出される少し前から見えてきていた兆候で、その中で、改めて
女性の
活躍ということが非常に重要な課題になってきたということを申し上げたいと思います。
次に、では、具体的にどのようなことが課題となっているのかということを御説明したいと思います。
九ページ目でございますけれ
ども、
日本企業における
女性活躍推進の歩みというのを示させていただいております。
まず、真ん中にあります雇用機会の均等施策。言うまでもなく、一九八五年、雇用機会均等法がございまして、差別の禁止だけではなく、積極的改善措置としてのポジティブアクションも取り組みが行われ、ただ、当時は、働く
女性の裾野が広がっていない中で、一部の
女性の採用、登用のポジティブアクションを進められたということなんですけれ
ども、その中で、一部の
女性に大きなプレッシャーがかかったり、その後になかなか
女性たちが続けなかったりといった問題がありました。
そういう中で、九〇年代は、
少子化対策という目的もありましたが、
仕事と
家庭の両立支援という取り組みが積極的に行われました。ただ、これもなかなかうまくはいかなかった。それは、
育児休業制度というのがあるわけですけれ
ども、
育児休業制度はとれても、
育児休業から復帰した後で、出産前と同じような長時間
労働が待っているということがわかっているために、妊娠した時点、あるいはさらにさかのぼって結婚した時点で、両立を諦めて離職してしまう
女性がかなり多くいたからです。
そういったことを背景に、一番下にございますワーク・
ライフ・バランス、やはり、
男性を含めた基本的な
働き方を見直す必要というのが強く打ち出されてきたところでございます。
一定程度、両立や均等に関係する制度が整ってきた中で、近年では、一番上にございますキャリア形成支援、こういった制度を十分に活用すること、そういったものを利用しながら、
管理職等へ育成していくための
女性だけを対象にした研修をするといった取り組みな
ども始まっております。こういったものは、いわゆる一種のポジティブアクションと言ってよいのではないかというふうに考えております。
この
女性の
活躍で特に
管理職などが注目されるようになってきて、ポジティブアクションに取り組む
企業もふえてきたんですけれ
ども、その下の十ページの図を見ていただきたいんですが、先ほど
内藤様からも御紹介ありました厚生
労働省のポジティブアクションの見える化、こちらのツールは当社の方で開発させていただきまして、その基本的な構造を示したのがこちらの図でございます。
こちらの図を見ていただきますと、やはり
女性の
活躍というところで、
管理職女性比率が注目されるところではございますけれ
ども、やはりいきなり
管理職だけをふやすことはできないわけでございます。
こちらの図にありますように、採用の
段階から、そして新任配置の時点で、男女同じようにさまざまな分野に配置が行われているのか、あるいは研修、異動・
転勤、
評価などの面で、男女同じように処遇されているのか、あるいはそういった中での
職場マネジメントで、
仕事がきちんと
女性にも与えられているのか、こういったことが非常に重要な問題になりまして、一定程度の経験を積んだ後の十年目の配置であるとか、そういったことも大きな課題です。こちらは
活躍の方の指標というふうに示しております。
一方、定着、両立の方の指標といたしましては、三年目、新卒後の三年ぐらいの間にきちんと定着しているのか、出産時や十年目に定着率がどのぐらいあるのか、そして平均勤続年数というものが長くなってくるというところでございます。
こういう数字をいろいろな業界で見ていきますと、やはり、これまで両立支援の取り組みを積極的に進めていた業界では、
管理職予備軍というところがある程度ボリュームが出てきたというのが最近の
状況でございまして、そういうことを考えますと、
企業の中で、この
管理職予備軍の
女性たちをしっかりと
管理職に引き上げようとする動機は十分あるわけで、そういった取り組みも最近では進んできております。
ただ、次のページを見ていただきまして、また同じ図を示しておりますが、こういった中で、
企業の関心が
女性活躍で、その中でも
管理職登用等のキャリアアップのところに注目がされてきて、
女性をターゲットとしたキャリア形成支援の取り組みなどが進むのはいいことではあるんですけれ
ども、そういう取り組みを進める中で、改めて、一番下にありますワーク・
ライフ・バランス、
男性を含めた
働き方の見直しが十分に進んでいないことの弊害、こちらは先ほど
小室様から随分丁寧に御説明いただきましたので割愛しますけれ
ども、こちらが十分進んでいないことの弊害というのも強調されているところでございます。
また、両立支援においても、制度は整ってきたんですが、短時間勤務などを利用される方の能力発揮といった制度の運用面での課題、こういったものも改めて注目されているところでございます。
こういう
状況の中で、今回の
女性活躍推進法に対する期待と懸念ということを述べさせていただきたいと思います。
十三ページにございますように、まず、期待といたしましては、
企業の取り組みを両立支援から
活躍支援へということで、進化させるという目的には非常に期待がされるところかと思います。
やはり、これだけさまざまな両立支援施策が行われてきて、一定程度の
成果が見られたところで、もうこれで十分なんじゃないかという声も聞かれてくるところでございますし、中小
企業などでは、そもそも、
女性はたくさん活用しているけれ
ども、
管理職には
本人たちもなりたがっていないし、会社としてもそこは別に期待していないので、いいんだというような声も聞かれます。そういう中で、両立にとどまらず、
活躍への支援ということを促すという効果が期待されます。
また、計画を策定するということで、個々の
企業における
女性活躍の
状況把握をしていただくということが非常に重要かと思います。
先ほど、
日本企業における
女性活躍推進の歩みというところを御紹介させていただきまして、一般的にはさまざまな施策が出そろってきているわけでございますけれ
ども、その効果がどこまであらわれているのかというのは、各
企業によって大きな違いがございます。まだ、結婚、出産のところで正社員でも就業継続が困難な会社もございます。どの
段階に課題があるのかということを明確に把握していただくこと、また、なぜ
女性が
管理職を目指さないのかという各社における問題点というのもぜひ把握していただく必要があるかと思います。
女性が
管理職を目指していないからいいんじゃないかと言っていた
企業においても、では、なぜ
女性が
管理職になりたくないのかといったところで、やはり、長時間働くことが
評価されるからであるとか、あるいは、
管理職になれば非
管理職よりもさらに
労働時間が長く厳しい
状況で、両立ができないからといった声が聞かれます。そういったような背景をきちんと分析することが非常に重要だと思います。
また、公表という点ですが、この公表では、今までワーク・
ライフ・バランスや
女性活躍といったスローガンを掲げる
企業は多かったわけですが、そういったくくりだけでは見えてこないものがたくさんございます。どう
女性に
活躍してほしいと考えているのか。例えば、最終ページをごらんいただきますと、多様な
働き方を前提としたキャリア形成が可能な
人材育成、人事異動等を検討しているかという質問をしますと、かなり
企業によって回答がばらつきます。
こういった形で、実際にキャリア形成についてどういったスタンスをとっているのかであるとか、例えば、総合職で採用した人については全て
管理職を目指すというような方針なのか、あるいは、
女性について、
女性ならではの分野で
活躍してほしいと思っているのか、男女全く同じような分野で
活躍してほしいと思っているのか。こういった
企業の
戦略がきちんと見えるようになることで、
女性にとっても就業の選択の目安になるということが非常に重要ではないかというふうに考えております。
最後に、懸念というところでございますが、やはり短期的に
管理職をふやすことだけが目標とされないことが非常に重要ではないかと考えております。
企業によって取り組み課題、ステージが異なるということは先ほど申し上げましたとおりですし、また、
働き方改革や子育てしながら
活躍できる
職場づくりが不十分な中で、従来の
男性型キャリアに当てはめられることの弊害というのが非常に心配されます。
また、ダイバーシティー
経営の
企業の方針、少し前まではダイバーシティーと言っていたはずなのに、先ほど言いましたように、なぜか
一つの単線的なキャリアに当てはめることで短期的に
女性の
管理職をふやすというような方向にもう既に出てしまっている
企業もございます。やはり、多様な
人材を活用するためには、多様な
働き方と多様なキャリア形成というものの組み合わせが非常に重要だと考えております。
また、
企業の取り組みのターゲットが
女性のみとされないということも非常に重要かと思っています。
女性活躍推進ということで、
女性という言葉が出ておりますが、この支援の担い手は、
経営者、
管理職、
男性が非常に重要な
ポイントです。
管理職が、
女性を
男性と同じようにきちんと若い時分から育成できるということ、それから、
男性が
育児にも参加するということで、
働き方、
家庭の問題をシェアするということ、こういったことが非常に重要ですので、彼らをターゲットとした取り組みが重要であることがアピールされることが必要だと思います。
ですので、計画の目標設定や公表指標にも、
管理職という視点だけではなく、やはり多様性が非常に重要だということを申し上げさせていただきたいと思います。
ありがとうございました。(拍手)