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中谷(元)
委員 自由民主党の
中谷元です。
今回の視察を踏まえ、
ポルトガルの
憲法改正、
憲法裁判所、
国民投票制度について
意見を述べます。
ポルトガルの
憲法は、一九七四年、昭和四十九年四月、政府の植民地維持のための戦争への反発からカーネーション
革命が起こって、サラザール
独裁体制が倒れ、
革命の二年後、一九七六年四月に
制定されました。このため、
ポルトガル憲法には、個人の尊厳と
国民の意思に基づく自由、公正かつ連帯的な社会建設に努める民主的
法治国家が根幹となっていますが、国旗、国歌、
ポルトガル語も基本原則として定められています。
これまで七回
改正が行われましたが、直近の
改正から五年を経過した後に行われる定期的な
改正と、五年を経過せずに
改正を行う特別な
改正に分類され、過去七回の
改正には、
憲法裁判所の設置、
国民投票制度の導入、国際刑事
裁判所の創設を目的とするローマ条約への批准に備えるものがありました。
次に、
ポルトガルの
憲法裁判所について述べます。
ここは、法規範を審査する抽象的審査と、個別的な事案の違憲か合憲かを審査する具体的審査の、大きく
二つの権限を有しています。
抽象的審査には、
法律制定前の事前審査と、
法律公布後の事後審査、及び為政者が必要な法的措置をとっているか否かを
判断する不作為審査の三種類がありますが、具体的審査については、一般の
裁判所も
憲法判断をする権限を有しており、実際に、下級審で訴えが起こされ、提訴者がその
判断に不服であれば上訴することができる仕組みになっており、
最後には
憲法裁判所の
判断を仰ぐことも可能となっております。
このように、
ポルトガルの
憲法裁判所は、
憲法上独立した機関と裁判組織の筆頭でもあるという二重性を有しており、幅が広い
憲法審査権限を持ったものとなっていますが、
国家の意思決定における行政、立法との
バランス、
司法の独立について留意する必要があると感じました。
法務大臣に面会した際、政府が行政責任において提出した
国家予算のうち、年金や失業手当などの社会保障費を削減する部分を
憲法裁判所が違憲と
判断したり、政府が締結した条約を
憲法裁判所が違憲とするようなことがあれば、行政府がその責任を果たすことができないのではないかと質問しました。
法務大臣からは、
憲法裁判所は行政府の施策の実施を差しとめることができず、一般の
裁判所だけが差しとめ可能である、
憲法裁判所は規範について判決を下すのであって、行政そのものには権限がない、年金制度について違憲判決をしましたが、行政、政府は、違憲判決に従うのは当然で、その枠内でほかの方法を考えることになると
説明を受けました。
そして、
憲法裁判所の正統性については、十三人の
裁判官のうち十名は、政府、行政府でなく、
議会によって
任命をされます。この
任命には
議会の三分の二が必要で、
ポルトガルの
選挙制度は比例代表制を採用しておりまして、大量の
議員が一党から出るということは非常に起こりにくいため、与党がコントロールできる可能性はゼロに近いと言っていました。
現在、六つの
政党が存在し、
議会の構成は、やや右寄りの
政党、やや左寄りの
政党が拮抗しており、
憲法改正も与野党が協議しないとできない仕組みとなっております。
次に、
国民投票制度ですが、
ポルトガルの
国民投票は、
議会、政府または七万五千人以上の
市民による発議で可能になっております。そして、
ポルトガルでは、
憲法改正、
国家予算、税制については
国民投票を行ってはいけないこととなっております。
我が国と異なって、
ポルトガルでは
国民投票が
憲法改正の要件となっていませんが、この
理由については、
革命前の一九三三年に、当時の政府が、
憲法を
制定するために、体制の都合のよい形で
国民投票を利用したという
歴史的な
経緯があったこと、また、
国家の重大な問題が
国民投票により大衆迎合化することを避けるためであるという
説明がありました。
憲法改正の発議は五年ごとに行うことができるようになっておりまして、自由に何回も
改正できないようにしています。ただし、緊急の場合には五分の四の
賛成で発議できるようになっておりますが、
改正には
議員の三分の二以上の
賛成が必要でございます。しかし、
国民投票は不要ということでございました。
調査団は、
教育現場のフェレイラ高校を訪問しました。
憲法、投票権についてどのような
教育がされているのかが関心事でしたが、
ポルトガルは、財政的な
理由により、ベンフィカという集合体を設置し、幼稚園から高校まで一貫して同じ学校で
教育されています。
この
教育集団は、全体で二千八百人、高校に千二百人が通っています。教師は二百四十二人いて、就職組、進学組に分かれて、進路指導もしていますが、十八歳から
国民投票権が付与されているので、
憲法問題についてどのような
教育をしているのか尋ねたところ、
市民育成のための講義を行っているということでした。
どのように教えているのか伺うと、教師や部外講師は物を言うときには十分気をつけており、学校はみんなのものであり、偏った思想
教育のようなものはやってはいけない、指導陣は偏ったことは言わないようにしているということでした。
中等
教育の
最後の学年は、十八歳になって投票権がある者とない者が混在している、特に問題になっていないということでした。
また、ベンフィカでは
ポルトガル語
教育に非常に重点を置いていますが、これは、
ポルトガル語を正確に理解することができなければ、ほかの科目を理解できないからということで、
団長から、テレビの影響で言葉が乱れることはないかと聞きましたら、ツイッターや携帯で単語を省略して特殊な言い方をする児童もある、教師としては、自分の言葉で話してもいいが、正式な文章を書くときはそのような表現をしてはならないと教えると言っていました。
最後に、視察の中で、
保利団長の
憲法に対する
考え方を伺うことができました。
憲法は、その国の
歴史を背負っているものだ。
日本では、明治維新という大きな改革があったが、それ以前には
憲法がなかった。国の近代化を図るには、外国と交渉し、通商交渉、法の秩序の整備が必要である。そのために、
日本の独自の
憲法が一八八九年にできた。戦後は、
民主主義、人権、自由を
規定した新しい
憲法ができたが、一九四七年に施行されて以来、今まで一文字も変わることなく続いている。
国民はいろいろな
意見があるが、
ポルトガル憲法には、国旗、国歌、
ポルトガル語が
規定されている。
日本の
憲法のあり方をこの
憲法審査会で議論をしていくということは、
審査会長として、自分の大変重要な仕事である。
こういう御
意見が出されました。
私もまさに同感でありまして、今後、この
審査会を通じまして、
日本の
憲法のあり方について、
委員の皆様方と大いに
ポルトガルの
憲法を
参考に議論をしていくことを痛感させていただきました。
以上で私からの視察
報告とさせていただきます。
御清聴どうもありがとうございました。