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参考人(
平井哲史君) 初めまして。
東京法律事務所の
弁護士の
平井と申します。
私は、ふだんは、
弁護士の任意団体で自由法曹団というのがございまして、そちらの方で時々の国政問題に関し、一部ではございますけれども、様々
意見を発表させていただく活動をしてきておるところでございます。
本日は、
独立行政法人通則法の一部を改正する
法律案に関して
意見を述べる
機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
私の方の
意見につきましては、お手元の配付資料で自由法曹団
構造改革PTによる
意見書がございますが、これに沿うものでございます。この内容を全部しゃべりますといただいた時間の中では話し切れませんので、要点を申し上げたいと思っております。
私の話は、この自由法曹団
意見書とともに、あらかじめいただいております
法律案関係資料というものの中の新旧条文対照表、こちらの方を使わせていただこうと思っております。
では、早速本題に入らせていただきたいと思いますけれども。
今般、閣議決定におきまして、
独立行政法人通則法の改定に関する
基本方針というものが出されておりました。その内容を読み上げますと、
法人の
政策実施機能の
最大化を図るとともに、官民の
役割分担の明確化、
民間活力の活用などにより官の肥大化防止、スリム化を図ることというのがその
一つとして入っていたわけであります。この下で、今般の
独立行政法人通則法の改正におきまして、条文でいきますと三十五条一項、それから三十五条の七、一項のところであるわけですが、
中期目標管理法人、それから国立
研究開発法人に関しまして、
目標期間終了時までに
業務の継続又は
組織の存続の
必要性その他その
業務及び
組織の全般にわたる検討を行って、その結果に基づき、
業務の廃止若しくは移管又は
組織の廃止その他の所要の措置を講ずるものとするというふうにされておられます。従前の
通則法でいきますと、このようなことは書かずに、所要の措置を講ずるものとするという簡単な書き方でございました。
目標期間終了に当たりまして
組織の問題について検討をし、場合によっては
組織の統廃合を含めて措置をとるということはあり得るところかとは思いますけれども、今般改正をしようとしている内容におきましては、所要の措置の中の一部としてではなく、そこから
組織の廃止、それから
業務の廃止若しくは移管、こういったものを取り出して前に出してきております。このことからするに、閣議決定でも
独立行政法人を減らしていくんだということをうたっておられましたけれども、今般の
通則法の改正というものは
独立行政法人をまずは減らすというところに
重点を置いた改正の内容となっているのではないのかなというふうに推測をいたします。
これ自体、
独立行政法人の存在意義がなくなるというのであれば、それはそれというところではございますけれども、
独立行政法人につきましては
通則法二条で定義がございます。これを読みますと、
国民生活及び
社会経済の安定等の公共上の見地から確実に
実施されることが必要な
事務事業であって、国が自ら主体となって直接に
実施する必要のないもののうち、
民間の主体に委ねた場合には必ずしも
実施されないおそれがあるもの又は
一つの主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることというふうになっておりまして、
民間の主体に委ねたのでは必ずしも十分
実施されないおそれがあると、そういうものについて
独立行政法人をつくってそこにやらせるんだというふうにうたっておるところでございまして、この
通則法二条の考え方からすると、閣議決定におきまして
民間開放というのを前提に据えて、それで
独立行政法人を減らしていくということをお考えになるということは、ちょっと
独立行政法人通則法が予定をしているこの
制度そのものの出発点とやや矛盾をするのではないのかなというふうに私には受け止められます。
ただ、法文の中におきましてあらかじめ減らすというところまではうたっておりませんので、これはこの先の
運用ということにはなってくるのかもしれませんけれども、しかし、
通則法二条が掲げる
独立行政法人制度の根幹、これに対して閣議決定のお考えというのは合わないのではないのかなということを
一つ申し上げておきたいと思います。
次に、改正の中身についてなんですけれども、従前は、
主務省に設けられました
評価委員会の
評価、それを受けまして
主務大臣が所要の措置を講ずるというふうになっておりました。これにつきまして、今般、直接
大臣が
評価をすることというようになっております。そして、
主務省内においての
評価委員会による
評価というものが外されるということになっております。この
評価委員会につきましては、
独立行政法人の
専門性等を考慮して、公正中立な
評価を行うために設けられているものというふうに理解をしておりますけれども、そこを外して直接
大臣による
評価をするということが果たしてその
独立行政法人それぞれの個別性、
専門性といったものを考慮した判断になるのかどうなのか、ここのところは大丈夫なんだろうかなという気がいたします。
もう
一つ、今般の改正におきまして、
総務省に設けられております
独立行政法人評価制度委員会、こちらによる
評価のことが入れられております。従前も
総務省の
委員会における
評価というのがございましたけれども、今般の改正におきまして、この権限が強められているのではないかなと思われます。
一つは、
目標の設定又は変更に関して
主務大臣はこの
総務省に設けられた
評価制度委員会の
意見を聴くということになっておりますし、また、
目標期間終了後の措置に関しましても、
意見、勧告といったことができるほか、報告を求めることができるということになっております。
従前も、
総務省に設けられました
委員会の方におきまして、各
独立行政法人についての
評価、それから
意見を述べるということはされておられたかと思いますけれども、今般の改正におきましては、
主務大臣がとろうとする措置につきまして、勧告を述べるだけではなく、それについてどのような対応を取られたのかの報告を求めるというところまでやることになっております。しかも、この
評価制度委員会は、
主務大臣に
意見を述べ報告を求めるというところにとどまらず、改正後の三十五条の二として予定されている条文を拝見をしますと、
内閣総理大臣に直接
意見具申をすることができるようになっております。しかも、この
総務省に設けられる
評価制度委員会の
委員の選任というのは総理が行うということになっておりまして、その選任基準について特に明文の規定はございません。
これらの規定ぶりからしますと、
主務省において
独立行政法人を
評価をし、それについて
評価に基づいた所要の措置を講じるということが一応維持はされておりますけれども、その横から
総務省が、あるいは
総務省の中に設けられました
独立行政法人評価制度委員会、こちらの方が
意見を述べ、自分たちの
意見が入れられないとなれば、
内閣総理大臣に
意見を述べて、
内閣で意思統一を図るということをやって、
主務省の上に立つということが起こりかねないなというふうに思っております。外部
監査の
強化というところは必要な
部分はあるのかなと思うんですけれども、ここまで強力な権限を果たして
総務省の
評価制度委員会の方に与えてしまって、
独立行政法人の
運用、
評価に関する
主務省の
専門性というものが守られるのだろうかなというのがやはり
一つ疑問なところとして感じております。
それから、閣議決定を拝見をしますと、
独立行政法人の独立性に配慮されたんだろうというふうに推測をするのですけれども、
目標の設定等につきまして、
主務大臣は各
独立行政法人との意思疎通を図るのだということが述べられておられましたけれども、この点を担保するような条文は特に
通則法の中に設けられておりませんで、少し閣議決定の思いが条文に反映をされていないのかなというふうに考えられます。
そして、私の
立場から最も懸念しているのが、
独立行政法人を減らしていくということをやりますと、これは公共
サービスとしての後退、そして雇用問題につながるという点でございます。
もちろん、必要のなくなった
法人については適宜統合をしていくということはあり得るところだとは思います。しかし、まず減らすんだというところから出発をして、ここの
部分がちょっと重なっているから統合をしてしまえということをやってしまった場合に、
事務事業に関して減っていないにもかかわらず、それを担う部隊、
法人、それからそこの職員が減っていくということになれば、おのずとマンパワーの点から行き届かないところが出てくるということは予想されます。
また、整理統合して職員が減っていくということは、同時に
人材を失うということになってきます。その
人材がベテラン職員のところから減っていくということになってしまえば、質の低下という問題も起こり得るだろうというふうに推測をいたします。
独立行政法人とはまた別の話にはなるんですけれども、国の
機関が
業務を
民間委託をするということをやり、その
民間委託の際に競争入札
制度で
事務事業を
民間委託をするということをやった場合、毎年毎年応札業者が現れ、それで落札をする業者が変わっていくということになれば、これは
事務事業が安定的に、継続的に公共
サービスを
提供していくという点からやはり問題が起きてくるのではないかなということを思っております。
この点につきましては、裁判所における民事法務協会が受託をしておりました
業務を随意契約から競争入札に変えまして今いろいろ問題が起きていることが報道をされておりますけれども、そういったことも考え合わせますと、やはり減らすというところから出発をするということをやってしまった場合に、公共
サービスの安定的な供給という観点から問題が起こるのではないのかなということを考えております。
そして、条文に則して申し上げますと、一番問題だなというふうに思っておるんですけれども、これ
独立行政法人が整理統合ということになり一部廃止ということになった場合、これは労働契約が別の
法人に承継をされるということがなければ解雇ということになります。そうしますと、その解雇をされた方の勤労の権利の保障という観点で問題が生じてくることになります。よって、この点についての手当てが必要だろうというふうに思われるわけですけれども、
通則法にはその点の手当てに関する条文はなく、五十条の方ですか、あっせんの禁止という形での規定があるぐらいでありました。これで果たして
事務事業の継続性が守られるのだろうかという点が少し気になるところではございます。
これは
行政組織でありますから、
民間の企業とはまた違うのだというふうにお考えになる向きもあるかもしれませんけれども、
独立行政法人の職員に関しましては、
民間の会社の労働者と同じく労働契約法、労働基準法の適用がございます。解雇ということになれば当然、労働契約法十六条、所定の客観的に合理的な理由というものが必要となってくるわけでありますけれども、そういったところを考慮した職員の雇用に関する配慮する規定というものが果たしてあるのかという問題です。
これを海外に目を移しますと、会社分割あるいは会社における事業譲渡の例になってきますけれども、自由法曹団の
意見書の中でも引用をしておりますが、EUにおける指令におきまして、事業譲渡の際には労働契約も当然引き継ぐということになっております。
日本においては、そのことを正面から定める
法律というのは会社分割の際における労働契約承継法ぐらいしかありませんけれども、しかし、会社分割の例で見た場合に、
独立行政法人の
事務事業を一部別の
法人に移管するといった場合、会社分割の例に似るというふうに考えることができます。そうだとすれば、会社分割の際の労働契約承継法と同様に、職員の労働契約について当然に移管をするという措置を条文上明確に定めてもいいのではないかと思いますけれども、この点が欠けているというのはこの
通則法の改正案においてはやはり大きな問題かなというふうに考えております。
また、衆議院での議事についても未定稿を拝見させていただきましたけれども、整理解雇に関する
議論がされておられました。
独立行政法人を廃止をするということになれば、
法人自体がなくなるわけですから、当然職員は全員解雇という事態になります。これは、
民間レベルで考えた場合には事業主の都合による解雇ということになりますから、整理解雇ということになってきます。
整理解雇につきましては、自由法曹団
意見書の中にも紹介をしておきましたけれども、いわゆる整理解雇の四要件というのが判例法理上設けられておりまして、人員削減の
必要性があり、解雇回避努力をし、そして被解雇対象者の選定基準について合理的な基準を設け、さらに解雇に至る手続について労働組合等に説明や協議をするということまでやった上で、初めて解雇が合理的なものというふうに認定をされます。
そういった手順を踏むような規定が設けられているかというと、設けられているわけではございません。ですので、この点、
通則法改正についてやはり十分な雇用の継続に関する手当てというものをしていただいてしかるべきなんだろうというふうに思います。
なお、これは各
独立行政法人に勤務する労働者の権利を全てそのまま認めよということでは必ずしもございません。廃止をして、そして
事務事業を移管するのであれば、当然契約については一旦移すべきであるということでございます。その上で、効率性の観点から人員が過剰になってくるといった場合には、それは定年退職やあるいは自己都合退職によるいわゆる自然退職ですね、これによる減員分について補充しないという形で人員整理を図っていくということは当然あり得るところだろうと思いますし、場合によっては解雇ということもあり得るのかもしれません。
しかし、
独立行政法人の廃止というのは、その
法人の財務状態に照らして整理解雇が必要かどうかという判断から行われるものではなく、国の政策的な判断によって行うものでありますから、完全に事業主側の都合によるものです。ですので、こういった場合においては、まず一旦労働契約
関係については保障をしまして、その上で更に整理等を図っていく必要があるといった場合には、その
法人の判断におきまして行っていくべきであろうというふうに考えております。
ですので……