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参考人(
濱口道成君)
濱口でございます。本日は貴重なお時間をいただきまして、大変ありがとうございます。
また、今回の健康・
医療戦略、あるいは
機構の発足は、
予算の一元化や
プログラムオフィサー、
プログラムディレクターの導入など、政府として
一貫性のある健康・
医療分野の
研究開発政策に向けた
取組が図られることを見ておりますと、今後の革新的な成果の
創出に向けて大きな前進であると思います。
一方で、私の
資料二ページ目にございますように、これらの
取組がより実を結ぶためには、三点申し上げたいことは、限られた
予算を最大限効果的に
活用するための
仕組みの工夫がまず大変重要であると思っております。それから、
病院、
研究機関をつなぐ
ネットワークの
構築、それから
人材のより一層の
活用、特に
プログラムオフィサー、
プログラムディレクターの
育成とその
活用は、この
人材の
育成のみならず、
予算を最大限効果的に
活用するための
仕組み、あるいは
病院、
研究機関をつなぐ
ネットワークの
構築の実施においても非常に有効な
システムになってくると考えております。これらを実施することによって、この新しい
構想に魂を入れることができるのではないかと期待しておりますので、何よりも重要な三点だと考えております。
三ページ目を見ていただきますと、現在のこの
システムの
問題点といいますか、
課題を
米国の
NIH方式と比較すると、
幾つか浮かび上がる点がございます。
米国の
NIHの
システムは、
機能集約型医療創出基盤とでも申し上げることができると思いますが、単なる
ファンド機能のみならず、
システムの中に
研究機能と
病院機能が入っております。
集約型の
組織になっているということが
一つ特徴であります。もう一点は、
ファンド自体が三兆円を超えるものがあると。
一方、今回の
構想は
戦略推進室の
ファンド機能にまず焦点が当たっております。ただし、
予算がまだ二千百三十億と、こういう数字がございます。現在の
日本の
状況を考えると、この
米国型をそのまま導入するというのは不可能であります。ですから、効率的、効果的な
運営というものをどう図るか、
日本型の
システムをつくり上げる
重要性があるのではないか。
もう一点は、
研究機能、
病院機能をどういう形でつくり上げていくか。これは、
一つは、右の図を見ていただきますと、
臨床中核病院等日本にいっぱいありますので、そこの
ネットワークによる
地域医療の底上げを図りながら
研究機能、
病院機能の改善ができるのではないか、この
連携によりまして
臨床研究及び
医療データの
信頼性の
確保等の
課題が確保できるのではないかと思っております。
四ページ目を見ていただきますと、実際、その
NIHというのは非常に巨大な
組織でありますが、
日本は
NIHのような
組織にはなれないのかと思うと決してそうではございません。実は、
日本の既存の
組織は多種多様なものがありまして、
経済産業省、
厚生労働省、
文部科学省を始め、いろんな
現場で多種多様な
研究センターあるいは
病院が機能しております。要は、これをいかに効率的、機能的に
医療技術の
開発や
研究に
連携させていくか、その
組織をつくっていただくことが今大きな
課題ではないかと私は実感しております。
左側、
米国NIHの図を見ていただきますと、まず
所長室というところがございますが、実はここには非常に大きな
調査機能がございまして、
戦略調査を決めております。俯瞰的に健康・
医療研究の
開発をどう進めるか、将来を見据えた分析がされているということが一点ございます。
それから、いろんな臓器あるいは
疾患別の
研究所とともに、
ヒトゲノムの
研究所あるいは画像あるいは
先進トランスレーショナル科学センター、こういうものがございまして、横断型あるいは新しい
科学技術を使った
医療技術の
開発に向けた
センターが
幾つか樹立されています。一方、
情報技術センターだとか
科学審査センターという、こういう
センターもつくられて、実際の
プロジェクトがきちっと動いているかどうか、有効な
プロジェクトが立案されているかというのを常にチェックしている
システムがあるんです。
日本は、それと比べますと基本的には
疾患オリエンテッド、それから
研究オリエンテッドとずっと来ております。ここに少し弱点があるのではないかと。
それからもう一点、四ページを見ていただきますと、今、
創薬手法が劇的に変わりつつあります。
私ども、大学出た頃の
抗生物質の
開発などとかいうのは、微生物とかあるいは、時には草や木の
有効成分を分離して、それを例えば
細胞に掛けてみると何か変化がある、そこから低分子の
化合物を分離して精製して、それを構造を決めたら化学合成して薬として使えますねと。これが従来の古典的な薬の作り方であったんですが、八〇
年代後半から九〇年にかけてこの
手法が大きく変わってきました。その原因は、分子生物学が非常に激しく展開してきたことにあります。
私も実は
がん遺伝子をずっと
研究してきたんですけど、我々の
現場でも見ておりましたものの
一つにerbBという
がん遺伝子がございます。これは、鶏のエリスロブラストーシスバイラスという
赤白血病を起こすウイルスから分離された、
東大の医科研におりました
豊島先生が分離された
がん遺伝子ですが、その
遺伝子からできたたんぱくは、
細胞の膜にあるたんぱくであります。先ほどの
永井先生が
お話ししていた
お話とよく似た
お話でありますが。これが、八〇
年代後半になりまして、HER2という
人間にも同じような
遺伝子が見付かりまして、これが
上皮細胞の増殖を刺激するレセプターとよく似ていると、
EGF—Rとよく似ているということが分かったんですが、その後、
アメリカは劇的な展開をしていきます。
そのたんぱくに対する
抗体をつくるんですね。
抗体を
細胞に掛けてみると、
がん細胞が増殖しなくなるというのが分かりました。さらにその次に彼らがやったことは、
マウスでやっていた
実験を
人間型の
抗体に変えるわけですね、アレルギーが起こらないようにして。それで、
人間のがんに掛けてみると、効くと。これが実は、いろいろ更に
臨床現場のがんの
患者さんの分析から、乳がんだとか卵巣がんにこのHER2というのがたくさん出ている、特に
リンパ節に転移するような悪性のものに出ているというので、ハーセプチン、化学名ではトラスツズマブという名前になっていますが、こういう
抗体、ヒト型の
抗体が使われるようになりました。これが大きな変化を起こす、創薬の
手法の変化になるきっかけになってきたと思いますね。
八〇
年代を見ていますと、
日本の創薬は、新薬
開発は二八%ぐらい
世界のシェアを持っていたと思います。一方、
アメリカが三二%ぐらいだったんですが、二〇〇〇年を超えた時点で見ておりますと、
日本は八%、一方、
アメリカが五〇%、新薬の
開発の力を持つようになった。その主な違いは、この
手法の違いが劇的に変化してくる中で、
アメリカはそれに迅速に
対応する
組織、
研究体制があって、それを
臨床化していく力があった。一方、
日本は、
永井先生もおっしゃっているように
基礎研究に終始してきてしまったと。これが大きな開きになってきているというふうに思います。
この経験から、過去を後悔しているだけでは不十分でございまして、今本当に必要なことは、人の症例
管理というのが必要であるということが分かってきているわけでございます。
その症例
管理の問題でいきますと、決して
日本は今は最先端ではございません。アジアには巨大な
病院が激しく展開しております。中国に行きますと、例えば北京大学は十関連
病院を持っていまして、第七
病院というのを見に行きましたが、眼科だけで一日六千人の
患者さんが来られる。眼科だけです。名古屋大学
病院は十どころか
一つしかございませんし、一日の外来
患者は二千人です。この体力差が、恐らく症例
管理の
現場での体力に、恐らく差にここ数年先を見据えますと出てくると思います。もう余り猶予はないと私どもは思っております。
じゃ、どうするかということでございますが、私ども名古屋大学では、次の表にございますように、中部地域の大学
病院を
ネットワーク化することによって、この症例数の限界を何とか克服しようということを考えております。大学
病院というのは実は全国展開をしている
組織でございますので、大学
病院をきちっと
ネットワーク化していけば、全国津々浦々まできちっとした症例
管理ができると。
日本の今の弱点をむしろ力点に変えることができる
組織になると考えております。
まとめますと、今後の重点
課題としては、私は、全体を俯瞰した重複の排除、たくさんの
組織がありますから、よく似た
研究をやっていますので、そこはやはり調整をしていただくことが必要ではないか。
それから、重点分野を絞り込み、調整を行うメカニズムの
構築、この仕事はやはり本部だけでは不可能であると思います。
現場の調整を図りつつ、
データをよく見ながら
連携をさせる機能を持った
組織をつくる必要があると思います。それには、やっぱりPO、PDですね、
プログラムオフィサー、
プログラムディレクターを
育成して、育て上げ、
連携を進めるという
組織をつくる。それから、その
現場の
情報を本部に上げて、本部がリアルな判断ができるような
体制をつくることによって、限られた
予算でも非常に効率的な
日本型の
システムができるんではないかと期待しております。
もう
一つは、今やっぱり
疾患オリエンテッドになっている分野では、分野横断型の
研究体制や新規分野の開拓など、こういう戦略的な
研究推進を図る
組織が必要であると思います。これを、例えばその実例として、超高齢化
社会の下での
社会での健康寿命を延伸するためにどうするかというのは特定疾患に限らない
課題ですので、もう少し幅広い、俯瞰的な目でそういう
研究推進をする、司令するような司令塔が必要ではないか。
それから、同じ問題が
輸入超過の問題でありますし、
研究倫理の問題であると思います。
永井先生もおっしゃっておられました、この
輸入超過の問題は非常に厳しいものがあります。
次のページへ。改めてお示しするまでもなく、
永井先生の
データにもありましたように、現在、三兆三千七百八十一億円の
輸入超過であります。しかもこれが毎年増え続けている、プラスになっている、増加傾向にあると。これをどうするかということは喫緊の
課題であると思っております。
じゃ、どうするのか。私ども名古屋大学の体験をお伝えしたいんですが、特に
医療機器はただ
輸出するだけでは技術が伝わりませんので使えません。アジアの
各国へ行きますと
日本の機器がいっぱい
支援で置かれておりますが、使われずにそのままほこりをかぶっていたり、壊れたままになっていたり、それを
支援する技術をパッケージで伝える必要があります。
私ども考えていますのは、
一つは
医療行政、
厚生労働省に当たるような
医療行政の核になる
人材を、
世界の人口の七割が集まるアジアに、
日本型の考え方を持った人を
育成するということをやっております。それが次のヤング・リーダーズ・プログラムというものでございますが、ちょうど十年たってきまして、卒業生百七名を秋入学で一年間英語で教えてアジアに帰しております。その結果、こちらの写真にございますように、カザフの副大臣、バングラデシュの首相室長、ミャンマーの保健大臣秘書官長、モンゴルの政策局長、ラオスの県知事や政治局員、タイの保健省健康促進局長、こういう
人材がたくさん育っております。現在、
各国の部長級の
人材が十八名おります。
これを更に、私どもは今年の秋から名古屋大学のアジアキャンパスというのをスタートさせる中で、十年たったらアジアに大臣、副大臣、局長級の
人材を百人育てようと。
日本型の
医療の利点と効率性の良さ、それから国民に対する効果、そういうものをよく分かった
人材をアジア全体に広げることによって、恐らく
日本の
医療というのはもう少し展開できるのではないか。
もう
一つは、
医療技術でございます。フエに今、
内視鏡センターを開設してちょうど半年になります。昨年九月から始めまして、現在まで五十名の医師のみならず看護師も派遣しておりますし、現地に三十歳の医師を常駐させております。給料二万五千円で二年間おります、本人は本当に喜んでおりますが。月二百例の症例を扱って、一月から胃がんの
内視鏡手術を開始しました。これはベトナムで初めてであるというので、現地では非常に高く評価されております。ベトナムのみならずラオス、カンボジアからも今
患者さんがお見えになっている。
今後、私どもはこれをハノイ近郊のバクマイ
病院、それからホーチミン近郊のチョーライ
病院に展開する。それから、タイのチュラロンコン大学と
連携して、ラオス、ミャンマーへ広げていこうということで、
日本型の
医療のパッケージ
輸出を
構想する
時代になってきているんではないかと。そのポイントは、どの技術が一番優れているか、
永井先生がおっしゃるように、
内視鏡というのはやっぱり
日本が断トツですので、これをアジアの標準にするという作業が必要ではないかと考えております。ここに私どもは一寸の光明を見出す思いがしております。
今後のアジア戦略としては更にいろんなことを考えておりますが、これは省かせていただいて、もう一点だけ。
今、本当に
日本の
科学技術あるいは
研究に対する信頼ががた落ちになっている
状況がございます。これは、
研究倫理の確保を何よりも今喫緊の
課題として確保する必要があると思いますので、この点を、是非、
仕組みと
人材育成を御
支援いただければと思います。
もう一点は、
米国の
NIHの科学
研究費の
審査は非常に優れていると思います。ピアレビューで評価書が来ますが、こんな評価書が来るんですね。私の同僚も出しましたが、まるでその
実験をやったかのような評価が書いてある。しかも最後に点数が出てくるんです、八十何点とか。イエスかノーではないんです。あなたはここがいけない、ここがいけない、これは信用できるとはっきり書いてあります。
そういうきちっとした評価が
日本で確立ができるかどうか。これのコアになる
システムは学術振興会が一般的な基盤
研究で今随分展開しておりますので、それをコアにしながら
医療研究の
現場にも是非そういう
システムを確立していただいて、
透明性、公平性、それから国民に対する説明責任のある
研究展開ができるような
体制を是非実現していただきたいと思います。
今日はどうもありがとうございました。