○
参考人(
北村亘君) おはようございます。大阪大学の
北村と申します。本日はこのような機会を与えていただき、どうもありがとうございます。
私の発表は、今までの流れからしますと、
碓井先生が全体的な
答申を受けての
法律の改正についてお話しになり、
荒井知事からは実際にもう実践されていたことが
法律になっていくというプロセスについてお話しいただき、そして私が何を話すかといいますと、一枚めくっていただきまして、政令
指定都市を
中心とした
大都市圏の
制度設計についてお話をさせていただくということで、これで十五分間程度いただきたいというふうに思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
おさらいはもう結構かと思います。
大都市制度、政令
指定都市というのは、申請を出された五十万人以上の市が政令で指定を受けるわけでありまして、これ、
中核市、
特例市というのと、結局今は政令でいずれも指定を受けるわけでして、そういう意味ではよく似た決定の手続になっているわけでありますが、ただ、およそ道府県の七割から八割ぐらいの
権限があり、区による
行政ですね、
行政区で
事務を行うというのが
自治法に書いてある特徴でございます。いろんな財政的な措置が講じられているわけでございまして、現在では多くの
基礎自治体がこれに移行したいというふうに思っておられるというふうにも言われているわけでございます。
ただ、この政令
指定都市制度というのは
課題もございまして、そもそも一九五六年に
創設されたときも道府県と旧五大市との間でやはり対立があった。旧五大市の方は、自分で当然税源を使いたいという、そういう欲求がございます。他方で、周辺の残部、周辺のところからすれば、それは再分配に回してほしい、当然そこだけで全部完結しているわけじゃないじゃないか。それを受けて、道府県というのは、当然のことながら再分配をすることに、当然調整をすることに存在意義があるわけであります。どうしても道府県と旧五大市というのが対立をしていたわけで、そこで一九五六年にこの現在のようなシステムができ上がったわけでございます。
ただ、その後、いろんな政策目的が混入してきます。本当に
大都市というのは、この法案に出てくるような
地域中枢
拠点都市のように、この
地域の
中核をつくろうということももちろん目的としてあったと思うんですが、やはり国家の
全国経済ですね、
全国経済を牽引する、そういう
役割を担う
大都市であってほしいという思いも他方であったわけでして、ただ、そうなると、五つの町というのはよく分かるんですが、現在では二十市あります、政令市は二十市あります。私が小学生の頃習ったときは百万
都市というふうに覚えろというふうに学校の先生に教わったんですが、現在、百万
都市を超えているところは幾つあるかというと、かなり少ない部類に入ってきているんじゃないか、半分ぐらいになっているんじゃないかというような
認識がございます。そういう意味では、少し膨張し過ぎたという印象はあるわけです。
フランスでしたらパリ、リヨン、マルセイユ、三
大都市、イギリスでしたら六
大都市圏というふうにもうぱっと出てくるわけですが、日本で普通の街角で聞いたときに二十政令市を言えるというのは、なかなかクイズ番組に出るような方じゃないと無理だと思うんですね。そういう意味では非常に難しい。
これはなぜ増えたかといいますと、
市町村合併のためのインセンティブに二〇〇〇年代使われたということは、やはり少し
大都市をどうするかということではない目的が入ってしまったというのが私の考えるところでございます。そういう意味では分散投資になってしまった。これが意図した結果だったら私はよかったと思うんですが、意図せざる結果としてそうなったというのが問題ではないかというふうに思うわけです。そもそもの政令
指定都市制度が曖昧な位置付けになったということが
一つ目の問題でございます。
あと、
制度固有の問題ですね。
行政区で
行政をしなさいということは、これも
大都市であるがゆえに
住民の意向が少しでも反映するようにというこれ配慮だというふうに思われるんですが、当然その
行政区でやるということは非常に効率性の観点からいうと実は余りよろしくないわけですね。小さな単位でやればやるほどコストは掛かってしまうわけであります。
しかも、そこで行われていることを、じゃ
合併してやればいいのかというと、そういう単純な問題でもなく、実は
総務部門で使っている費用、区レベルで使っている費用は大阪でも十数%、横浜では一〇%以下というふうになっておりますので、合区しても余り実は歳出削減効果というのはない。もちろんやった方がいいのかもしれませんが、やったところで抜本的に何か良くなるということではないわけであります。
また、府県レベルで政令市がどのぐらいの
人口を占めているのかというのは実は大きな問題でして、府県というのは基本的にやはり
地域振興とか大きなレベルでの
経済、その
地域経済を担っているわけであります。そこにどの程度
大都市の意向が反映しているのか、又は
大都市以外の
地域の意向が反映しているのかというのも実は重要な問題です。
実は、大阪という町、私、大阪から参っておりますが、大阪は堺市と大阪市合わせましても大阪府の
人口の半分以下でございます。つまり、府
議会で代表を出すという観点からいいますと、
大都市の意向が余り反映されない可能性があるわけです。他方で、京都府、私が生まれたところですが、京都府というのは京
都市が京都府の
人口の半分以上を占めております。つまり、京
都市中心に京都府の
行政が、例えば道路計画であったりいろんなものが、
地域振興計画が動いてしまう可能性があるということであります。こういうようなものをウエストロジアン問題、日本型ウエストロジアン問題というふうに言うわけでありますが、非常にこれも問題である。
あと、景気に左右される税制、基本的に
基礎自治体というのは固定資産税等々で余り景気に左右されないということが教科書的にも言われているわけですが、実際のところ、
大都市の場合は法人市民税であったり固定資産税も地価の変動というのの影響を受けますので、非常に
大都市の歳入というのは景気に左右されてしまうというところもございます。あと、
大都市で上がっている税収のうちのそこで使えるお金というのは実は半分にも満たないわけでございまして、これが一部の
大都市には負担になってしまっているわけであります。
私は、全ての
大都市で全部
大都市自由に使えという
立場ではございませんが、ただ、数を絞ってお金を使う、自分で成功も失敗も味わっていただくような
大都市、そうじゃないと活力は生まれないというふうにも思っているわけでして、この低い還元率を一律に押し付けているというのは非常に問題ではないかというふうに思っております。
あと、権能として、先ほど府県の七割から八割できるというふうになっておりますが、実際のところ、財政的に措置されている部分というのは僅かでございます。基本的に持ち出しでやっているわけですね、
大都市が。ということになりますと、景気のいいときはいいんですが、景気が悪くなった瞬間にそれが一気に負担になってしまうということで、非常にこれも難しいところではないかと思っています。
あと、
大都市というのは基本的に、例えば昭和三十年代に橋は全部鉄筋になり、小学校等もコンクリート化、一気に進めました。これが一気に当然更新年数を迎える。これはもう
碓井先生もおっしゃっていたことでありますが、
公共施設、そのほかにもたくさん一気に更新を迎えております。これが非常に重い負担になっているわけですね。
大都市であるがゆえに基本的にそういうようなもの多うございますので、非常に問題になっているわけでございます。
あと、
社会経済環境の制約というのも非常に大きゅうございます。大阪市の場合、
人口二百六十万に対してお昼間にいる
人口が三百五十万人おります。つまり、お昼間に九十万人周辺から流入してきているわけであります。
奈良県もそうですし、三重県もそうですし、私は滋賀県に住んでおりますが、滋賀県から大阪に流入している一人であります。そういう意味では、後で
資料を御覧いただければと思うんですが、大阪市の地下鉄でほとんどの人、使っている人は市民以外です。しかし、維持しているのは市でありまして、このギャップですね、母
都市機能というふうに言いますが、これも非常に一部の
大都市を苦しめているわけであります。
少子
高齢化も
全国よりも厳しいペースで進んでいるところもあります。
生活保護に関しましても、生活保護をもらう低所得な方も非常に多うございます。ただ、もちろん不正受給は許されませんが、もらっている方の内訳、
大都市で見てみますと、独身男性単身世帯という、そういう方が多うございます。つまり、関西でいいますと、日雇労働で大阪万博や高速道路なんかを造っておられたときに活躍された方がちょうど今七十歳前後になっておられるということで、非常にこの方々、今から働けといってもそれはちょっと酷な話でして、認知症なんかを発症されておられて、これを見回るだけでもかなりのコストになっているわけでございます。
そういう意味では、政令
指定都市というのは、
制度固有が持っている問題と
社会経済環境の変化によって発生した問題というのがありまして、一概に
制度を変えれば全てがうまくいくとか、そういう
制度決定論的なことも言えない。ただ、座視して放置しておいていいのかというと、そういう問題でもないんだということを是非とも御理解いただければというふうに思っております。
そこで、そもそも
大都市とはという話に入っていきたいわけでございますが、基本的に、大きな単位、日本でいいますと府県ですし、小さな単位、それはここでは
大都市のことですが、この利益をそれぞれどのように調整するのかというのは非常に大きな問題でございます。いずれも民意を反映した首長と
議会を抱えているわけでして、当然のごとく、その
地域の利益を最大限、自分の選出された
地域の利益を最大限に考えるのは当然のことでございます。これをどのように調整するのかというのが非常に問題です。
先ほど、
奈良県のお話というのは大変興味深いお話でして、こういうようなものを調整
会議という形で
大都市で導入していくというのは非常に意義のあることではないか。もちろん、調整
会議ができたからといって全てがうまくいくとかそういうことを言っているのではなくて、少なくともそういう箱ができる、形ができるということは意味があることだというふうに思っております。
基本的に、小さな単位になればなるほど非常に、言葉はよろしくないんですが、エゴイスティックなところが出てまいります。福祉を例えばある町で充実させると何が起こるかといいますと、福祉の磁石効果、ウエルフェア・マグネット・エフェクトというふうに書いておりますが、近隣から低所得の人がその自治体に集まってまいります。国境と違いまして市の境には検問所はございません。たくさん、福祉の充実した、受給を求めて集まってこられるわけです。その結果、その自治体はパンクいたします。財政的にはパンクいたします。これを避けるために福祉というのは小さな単位ではやらないというのが外国でよく言われていることで、日本でも国保の
都道府県単位化とか言われている流れというのもそれの
一つだというふうに思うわけであります。
いずれにいたしましても、小さな単位で福祉をやったりサービスをやるということにはいい点もあります。
住民の意向が反映する、
住民自治の観点からは大変よろしいものだという反面、そのように財政的に厳しくなることもあるんだということも是非とも御理解いただければというふうに思っております。
じゃ、
連携してやればいいじゃないかという御
議論もありますが、これも非常に実は難しいところがありまして、皆さん、
平成の大
合併のときに
地方で何が起こったかといいますと、お互い身体検査をしたわけですね、高齢
人口はどれぐらいか、財政負担は。要するに、この
人たちは債務はどれぐらい持っているんだというふうにお互い調べ合って、非常に難しいところがあったというふうに聞いております。同じようなことが起こらないとも限らないわけでございます。小さな単位でやると、
合併と逆のことをやりますから
行政コストは上がります。上がると同時に、そのような難しい問題を抱えているんだということでございます。
そういう観点からしますと、今回の
法改正というのは、
現行法制内で最大限の
改革をなされたのではないか。ただ、これがもちろん全て解決する万能の処方箋か、そういうことを言っているのではなくて、やはり何もしないよりは絶対何かした方がいい、そういう意味では一歩進み出したわけでございます。
問題は、これから、
大都市の問題いろいろございますが、先ほど申し上げた
課題を解決していくときに、短期的な
対応をすべきもの、中長期的な
対応をすべきものというのをやはり切り分けた方がいいと思うんですね。いきなりもう
大都市制度をがらっと変えてしまうというのは、中長期的には重要なことかもしれませんが、短期的に
現行法制内の改正でできることというのをまずはやってみようということですね。それも、抜本的に変える、新規立法で変えるのかそうでないのかというのが非常に重要な点であると思います。つまり、軸は、漸進的な
改革か抜本的な新規立法か、そして短期的か中期的かという、この二軸で考えてみるということが必要ではないかと思っております。
そして最後に、ある
地域が特定の
地方制度を取りたいと言ったときに、どこまで皆さんが、国会が、又は中央
政府が認めるかということもやはり憲法的に考えていく必要があるのではないかというふうに思っております。例えば、大阪が大阪で何かをしたいというときにどのように
対応するのか、それは、国が
法律の中にメニューを五つぐらい例えば提示して
住民投票で選ぶようにするというのも
一つの手でしょう。これはイングランドでやっていることですね。そういうようなこととかも含めて、どこまで
法律で許容していくのか、憲法的にも許容していくのかというのはお考えいただければというふうに思っております。
以上でございます。どうもありがとうございました。