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参考人(中川
丈久君) 中川でございます。
私は大学で
行政法という法分野を専門にしております。
行政法というのは
行政にどのような権限を与え、かつその権限をきちんと行使させるためにどのように統制していくかと、そういう両面から見た法分野であります。
消費者法に関しましても、
消費者行政という
観点から研究をしております。研究の傍ら立法にもいろいろ関わってまいりました。
消費者法関係では、
消費者事故調、その他
消費者安全に関する立法、
食品表示一元化法、それから集団的
消費者被害回復制度等々でございます。それから、本日、課徴金の関係で少し申し上げることがございますが、独占禁止法の
改正にも関わっておりまして、特に課徴金との関係では重要な平成十九年の独占禁止法基本問題懇談会の報告書がありますけれども、それにも関わらせていただきました。
しかし、今回の
景表法の
改正には私は一切関わっておりませんので、そういう
意味では、第三者的な立場から意見を申し上げたいと
思います。
お手元にレジュメがお配りされていると
思いますけれども、それに沿ってお話をいたします。
まず、第一点目でございます。
今回の
改正案、第一点目は、適正
表示の
管理体制に関する指針と勧告、公表と、今こういう制度を導入しようということでございます。御案内のとおり、外食産業におけるメニュー
表示問題、大手で生じたというところが非常にショッキングでございました。問題がかなり根深いということが分かってきたわけでございます。
これは、一つには、調理あるいは仕入れあるいはメニュー印刷といった現場での業界用語と申しますか、ジャーゴンという言葉を使いますけれども、例えば中華の調理師の間だけではエビはこう呼ぶというような感じの慣習ですね、そういったジャーゴンがそのままメニューに載ってしまったというところも一部あったようでありまして、そういうのは経営あるいは
管理側が気付かなければいけないんですけれども、全く無関心であったと、これが一つの原因であったというふうに
消費者庁の
調査では
指摘されているようでございます。
それから、これははっきり分かりませんけれども、会社によっては、経営あるいは
管理側が現場に対してかなり無理なコストダウンの要求をしたということからそういうしわ寄せが寄ってしまったということがあるかもしれません。
いずれにせよ、
事業者の
組織を挙げて相互に内部で、
事業者内部で相互に注意し合う
体制をつくらなければ繰り返されるということでありまして、
組織のガバナンスをやり直す、そういう
対策が何よりも重要であろうというふうに
思います。これは、現場というよりも、やはり経営あるいは
管理の方にそのような意識を持っていただくということが必要となってまいります。
そもそも、
景表法というのは
日本の全
事業者を
対象とする
法律でありますから、一つ一つの問題
表示を
行政がたたいていくというのはこれはもう不可能であります。したがって、
事業者に自発的なコンプライアンスを求めていく、そのための工夫が必要でありまして、今回の
改正案は、業態あるいは事業規模によってその
管理体制は様々であろうということに応じて指針を作り、それについて勧告、公表を行っていくという、徐々にではありますけれども、ソフトではありますけれども、しかしその意識を変えていくというためには非常に有効な方法であろうと
思います。
勧告、公表というのは命令ではないんですけれども、しかし、やはりそのメニュー
表示をするということはお客さんがいるわけでございますので、やはり公表というのは非常に顧客行動に影響いたします。これはもう命令よりも後で申し上げる課徴金よりも、何といっても一番効く方法でございますので、一見したよりはかなり効く方法であろうというふうに期待しております。
以上が第一点目についてであります。
次に、
改正案の二点目であります。
これは、法
執行体制の強化というふうに言われております。どのような権限を与えているかということでありますけれども、現行法は、
措置命令を
消費者庁に一元化しております。その上で、公取委には、公正取引
委員会には
調査のみ委任をすると。それから、
都道府県には
調査及び
行政指導ですね、指示という言葉を使っておりますけれども、
行政指導まではできる、命令はできないと、そういうふうなのが現行法の
体制でございますけれども、今回の
改正法案は、国と自治体で分かれるわけですけれども、国レベルでは、
措置命令は
消費者庁に一元化、これは維持すると、自治体には、新たに
都道府県に命令権限を、これまでは指導だけだったのを命令権限を与えるというふうな拡大をしております。
それから、
調査の方でありますけれども、国レベルでは、
消費者庁、それから従来ありました公正取引
委員会に加えて、事業所管
大臣にも拡大しているという、このような
改正でございます。
この
改正案についての私の意見でございますが、まず、やはり不当
表示は予防が一番大切であります。そのためには、
調査の手が多いということが非常に重要でありまして、今回、
考えられる限りほぼ全ての省庁が、市町村を除き、
調査権限を持っているということでありまして、これは非常に優れた
改正であろうというふうに
考えております。
調査が入っただけで大抵の不当
表示は止まるということがありますので、このように拡大されたことは非常に望ましい方向性であろうというふうに
考えております。
他方で、命令権限でございますが、国レベルでは
消費者庁一元ということをこれは維持しております。従来から
消費者行政の一元化ということを唱えて
消費者庁が
設置されたその経緯に照らしまして、私はこれでよいのではないかと
考えております。
他方、今回新たに
都道府県知事も命令権限を
消費者庁長官と同じように持つということになりました。これについて、一部で御懸念の向きもあろうかと
思いますけれども、私が専門としている
行政法の世界では、
大臣とそれから知事が同時に権限を持つというのは非常に当たり前の法制でありまして、ごく普通にあります。今までそれでそごがあった、
都道府県によってきつい、あるいは緩やかという問題が起きたというのは、私が知らないだけかもしれませんが、存じません。多くの場合、大体知事はローカルな
事業者を
対象とし、それから
都道府県を超えた事業をしている者に対して国が
対応する、これが普通の今までの
対応でございまして、恐らく
景表法改正後もそのような
対応をされるのではないかというふうに思っております。
都道府県がちぐはぐに法
執行いたしますと平等原則違反になりますので、直ちに訴えられる
可能性が出てきます。ですから、逆に
都道府県の方はそういうことにならないように非常に気を付けているというのが私の知る限りでの
行政の実態でございますので、
大臣と知事に分かれておりますが、これは特に意図するところではないというふうに思っております。
次に、三番目であります。
改正の第三点目は、適格
消費者団体への
情報提供の拡大ということでございまして、
消費生活協力団体、
消費生活協力員から適格
消費者団体に
情報提供されるということになりました。適格
消費者団体は言わばプロの
消費者として差止め請求等を行うものでありまして、そこに対する
情報が増えるというのはこれは非常に望ましいことである、この点につきましても賛成をいたしております。
最後でございます。第四点目でありますが、課徴金のお話を少しさせていただきたいと
思います。
今回まだ
改正案になっているわけじゃなくて、現在検討中でございますけれども、私自身かつて、今日冒頭に申しましたように、独占禁止法基本問題懇談会というところでアメリカまで行って
調査をしていろいろ調べたことがございます。課徴金という言葉が非常にあちこちでいろんな
意味で使われているんですけれども、実はこれ、決まった定義がない言葉でございます。
独占禁止法の基本問題懇談会でいろいろ検討した結果、これが一番課徴金と呼ぶにふさわしい定義ではないかということがありまして、それをレジュメに書いてございます。法令違反によって得た収益、いわゆるやり得でありますね、それを超えて、つまりやり得を取るだけでは当たり前過ぎると、それを超えて、あるいはそれとは別に更に金銭の納付を命じられる、それが課徴金と呼ぶのにふさわしいんではないかと。
課徴金という言葉は実際法令にありますので、紛らわしいので基本問題懇談会では違反金という言葉で呼び換えていたりをしておりますけれども、違法収益ですね、そのやり得というのは、普通は
被害者が訴えればの話でありますが、訴えれば当然これは返ってしまうものです。やり得というのは本来あってはいけないものでありまして、取られて当たり前のものであります。違反が発見されてやり得を返せばいいのであれば、言わばこれは元へ戻っただけの話でありまして、それで違反抑止になるかというと、まあならないと。見付からなかったら返さなくていいわけですから、見付かって当たり前、見付からなかったらもうかったという話であります。
課徴金ということをわざわざ
考える理由があるのは、それを超えて、つまりやり得とは別に更にお金を国庫に納付しなきゃいけない、つまり違反をすると非常に損をする、こういう心理を与えないと違反抑止にならないだろうと、こういう発想でこの基本問題懇談会では検討いたしまして、この発想がそのまんま平成二十一年の独禁法の
改正に反映され、現在の課徴金はそのような
趣旨であると私は理解をしております。
例といたしまして分かりやすい例があるんですけれども、そこのレジュメに書いてございますとおり、これは一つは国税通則法の過少申告加算税であります。税金をいろんな理由で十分納めなかったといった場合、更正処分がありまして、やり得という言葉はまあ使いませんが、本来納めるべき税金は、当然これは税務署から処分があって税務署に払います。それに加えて、過少申告加算税、つまりもっと払えということで、税金ではない、単に制裁のためのお金として、本来払うべきお金で払わなかった税金のうち何%を更に払いなさいと、これが過少申告加算税を始めとする様々な加算税であります。
これが課徴金の発想でありまして、違反が見付かってしまうと、まあやれやれといって本来払うべき税金を払えばいいだけではないと、それ以上のお金を払うので、それでみんな次から非常に気を付けると、これがその違反抑止ということの発想でございます。
独占禁止法の課徴金もこのような発想でありまして、やり得の部分は、余り訴えられませんけれども、本来、
被害者が
事業者を訴えれば取れるはずなんですね。課徴金はそれとは別に国庫に納付させるということでありますので、そういう
考え方からいたしますと、この課徴金というのは、
被害者が
被害回復をする、例えば民事訴訟で損害賠償請求をする、不当利得の返還請求をする、あるいは税金であれば国が処分で差額を取り上げるということとは別に掛かってくる、そういう非常に厳しいといえば厳しい、そういう制度でございます。
ということでありますので、これは非常に厳しい。
日本ではこれまで本当に少なかったんですけれども、例えば私が調べたアメリカですと、これはもう二十世紀半ばから普通にある制度でございます。厳しくも運用できますし、優しくも運用できると。額によりますので非常に様々に運用できる、非常に便利であるということで、ほぼ全ての
法律に入っているというぐらい一般的な制度でございます。
これを
景表法に導入することにつきまして、私は基本的に賛成をしております。賛成の
考えであります。
措置命令というのは、これは言われたことをやればいいだけであります。言われる前に自ら直すというインセンティブは働きません。先ほども申しましたが、
景表法は
日本の全
事業者を
対象にいたしますので、やはり自発的コンプライアンス、自分で守っていくという
体制をつくらないことには、いつまでたってもなくならないということになってしまいます。
措置命令の実効性を高める方法として、課徴金をペアで課すということは非常に、その違反者に対してだけではなくて、今後違反するかもしれない
事業者に対してにらみを利かせるという
意味で非常に有効な、存在だけでにらみが利くというふうな
意味で
意味があるのではないかと
思います。
この
景表法における課徴金をどう制度設計するか、今、
消費者委員会で様々なことが検討されております。この中身は非常に細かくなりますので今日はお話は申し上げませんが、レジュメの最後の方にちょこちょこと書いてございます。
意見は以上でございます。
どうもありがとうございました。