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参考人(
藻谷浩介君) 皆さん、こんにちは。
藻谷でございます。
まずもって、お呼びいただきましてありがとうございました。
それから、今から
お話しする内容なんですが、今の
宍戸先生がおっしゃった話とは全く違う次元の話をしますので、これは一致しているところもあれば違うところもありますが、そういう話ではなくて、全然違う話だとお考えください。つまり、私が話す話が
宍戸先生のおっしゃっていることへの賛同や反論にはほとんどなっていない、どっちでもない話です。ということで、そこはちょっと御了解をいただいた上で、
議論の中では、実は賛同、大変僣越ながら、そのとおりだというところが多々ありましたので、それはつまり、
アベノミクスと
宍戸先生がおっしゃっていることと私が申し上げていることは三角形みたいになっています。
それから、諸先生方、大変恐縮です、下を
御覧になって話をお聞きになる習慣だと思うんですが、済みません、前を向いていただいてよろしいでしょうか。恐縮です、これ、動きますので。私は紙を配るのは本当にもう大反対なんですが、ふだんは配らないです。今日は
参議院なんで配りましたけれども、済みませんが前を見てください。よろしくお願いします。ぱっぱぱっぱ行きますので。前を見ていただく理由はすぐ分かると思います。(
資料映写)
これ、非常に僣越ですが、エア景気回復と書いています。今から
お話しする話は
マクロモデルの話ではございません。また、これからどうなるという話も一切いたしません。去年何が起きたかということについてのみ
お話をいたします。よろしいでしょうか。
去年何が起きたのか。一言で言うとエア
経済回復であります。これは恐らく
アベノミクス賛成の方も反対の方も、多くの方が御賛同いただけると思います。違いは、これから本格的に回復するんだと考えるのか、エアのまま終わるのかということについては
意見が違うと思いますが。ただ、取りあえず、去年に起きたところまでの話で終わりますが、見ていただくと、皆さんが聞いている話と違うということで、ちょっとこれを
御覧ください。これが
アベノミクスが始まる前で、全員前を見ていただいたら次の紙を出します、よろしいですか。二〇一二年、安倍
政権発足当時の段階で私はテレビに出ていろんな予測をしました、こういうことになりますよと。それが実際、一年たったらどうなったか。こうなりました。
やはりこういう物の考え方が必要でして、この時点で後々起きたことをちゃんと予測していたかできていなかったかで、それなりにやはりエコノミストの人たち、誰の話が信用できるかできないかは分かるということです。あるいは政治の皆様も、現状こうなっていると、今後どうなるかはともかく、この一年間はこうなるということがちゃんと予測できていたかということを胸に手を当ててお考えいただきたい。ちなみに、これからどうなるかは取りあえず私は申し上げません。取りあえずこの一年間は既に数字があるわけですから。
御覧のとおり、
円安誘導策により輸入が激増し、貿易赤字が拡大し、そして、これは余り予測したくなかったんですが、一部では私はテレビなどでも公言していましたが、残念ながら経常収支赤字基調になってしまった。嫌な予測が当たりましたけれども、これについて皆様は予測をされていたでしょうか。そもそも現状を御認識でいらっしゃるでしょうか。
ただ、これは、僣越ながら、去年の十二月の段階で数字を虚心坦懐に眺めれば残念ながら予測できたことであります。どうして予測できるのか。それは、済みません、もう一度申し上げますが、
宍戸先生のおっしゃった話とは全然関係ない話です。全く矛盾しない、現状を短期的に見てこうなっているという話ですからね。ただ、
長期的に、過去二十年間どうなってきたのかというのも数字を是非
御覧いただきたい。これが、驚くことに、私がお会いする非常に多くの
経済学者の方は、過去二十年間の
日本の輸出の推移を御存じない人が非常に多いんですね。皆さんもお会いになられたら確認してみてください。過去二十年間に、プラザ合意の前に比べて
日本の輸出が一・五倍に増えているのを知らない人がいたら、その人は余り
国際収支について語ってはいけないはずなんですね。大変たくさんの方がそうです。なぜか。対前年同期比しか見ていないからです。昨対ですね。これをいわゆる昨対病と申します。
私のやり方は、マクロ
経済ではなく企業の収支予想のやり方です。国の収支を企業の収支予想と同じやり方で予測していいのかと言われますが、マクロ
経済でやるよりは正確だということは申し上げておきたい。つまり、過去二十年間、二十五年間に売上げが五割増ですと。にもかかわらず、相当高い黒字から赤字に転落しました。なぜですか。コストアップです。輸入が激増しています。過去二十年間に、三十年間に輸入は二・五倍に増えました。輸出が一・五倍で輸入が二・五倍ですから、赤字に転落した。
したがって、仮にこの国の収支を黒字化したいのであれば、対策は非常に明快でありまして、輸入の減少が必要です。逆に輸出をどんどん伸ばすというやり方が、既に一・五倍に増えているものを更に伸ばすというやり方がフィージブルかというと、かなり現実には難しい。
いろいろと批判される民主党の三年間、これ民主党に実は関係ないと思いますが、
日本企業は結構頑張った結果として、震災にもかかわらず輸出がほとんど減りませんでした。ただし、以前に比べて三割減だとおっしゃる先生もいらっしゃいます。その以前というのはリーマン・ショック前の三年間なんですが、
世界経済同時
バブルのときでございます。この
世界景気同時
バブルの三年間を除けば、今の輸出水準ははっきり言って史上最高でございます。したがいまして、よほど
世界景気がリーマン・ショック前のようにもう一回
バブルにならない限り、これ以上輸出が増えると想定するのは普通はあり得ないです。仮に企業がそういう収支
計画を持ってくれば却下であります。それは無理でしょうと。
で、実際どうなったか。
御覧のとおり、
アベノミクスは頑張って
円安に
誘導し輸出が増えているんですが、これは御存じだと思いますが、数量ではなく金額が増えたわけです。なぜか。
日本の輸出企業は多くが残念ながら円基軸通貨という話とは逆にドル建てで商売をしております。多くの企業がドル建てで商売をしているので、海外で売った売上げが、同じ百ドルが、一ドル七十七円だと七十七円にしかならないものが、今百一円から二円になりますので、つまりドルを円に換算する時点で二割五分ぐらいの収益増が起きております、売上増が。その結果として輸出が増えたということになるのですが、これはエア輸出増でありまして、エアというのは、御存じですね、演奏しているふりをして実は演奏していないというやつですが、金額の換算上増えただけです。
ところで、輸入も激増しました。これはエアではございません。
御覧のとおり、
アベノミクスの一年間で、輸入は月次当たり一兆五千億円ぐらい増えているわけなんですが、これは輸入の化石燃料の値段の高騰によるものです。
ところで、これを原発を止めたせいだと皆さんおっしゃるんですが、よく見ていただきたいんですが、原発が止まっていって全部止まる間の一年三か月、輸入は増えていませんでした。で、とっくのとうに原発が全部止まった後の、申し訳ないんですが、新
政権発足以降、輸入は激増しています。ちなみに、これは新
政権のせいではないです。
円安になったからこうなったんです。
原発が全部止まったときに輸入はなぜ増えなかったのか。これは、実際貿易統計の方でより詳しく化石燃料の輸入量等をチェックしていただくと分かりますが、ほとんど輸入量は増えていません。理由も簡単で、皆さんが省エネしたからです。ところで、今も省エネはしております。ちなみに、安倍
政権下でも粛々と省エネをちゃんと進めておられまして、
日本の化石燃料輸入量は引き続き減少しています。よろしいでしょうか。が、
円安が余りにすごいので、同じ量を輸入するのに掛かる
日本円が非常に高騰しているために、当然赤字になるわけであります。これもエア輸入増ではないのかと言われそうですが、実際問題としてキャッシュが出ていってしまっているわけなんでございまして、円ベースでは、御存じのとおり油を買っている、いなきゃいけないほとんど全ての人の生活に影響が出ています。
そして、
円安は経常収支黒字を若干増やします。これもドル建てでもらうことになっている金利、配当が、評価額が円ベースに換算するときに若干増えるからなんですが、
御覧ください、民主党
政権のときからですが、それ以前からずっとそうですが、
日本の外国から稼ぐ金利、配当はすごいものがありまして、
宍戸先生のおっしゃるような莫大な
貯蓄が投資されているために、もう年間に今十六兆円ぐらいの黒字を稼いでいるんですが、残念ながら油代の高騰によるマイナスが非常に大きくなってまいりまして、それから去年は観光客が大分増えたんでございますけれども、残念ながら観光収支が黒字化するには至らず、トータルの経常収支が季節調整済値で赤字、四か月連続であります。
こうなりますと、国全体としてお金がもうかっていたのが、出ていく側に回ります。
アメリカと同じことになります。まだまだ序の口ですが、本当に長い間放置しておいてこの経常収支赤字が大きくなると、双子の赤字になってしまいます。そうしますと、これは大変国家的にはよろしくないでしょう。
ところで、この話を聞いたときに、だって企業はもうかっているじゃないか、株は上がっているじゃないかとお考えの方、これはもう皆さんは国家運営をされているわけですから御承知おきいただきたいんですが、特定の輸出企業がもうかって株が上がって株屋さんがもうかるという話と国全体が黒字になるというのは逆方向です。
そんなことはあるまいという方は
アメリカで何が起きているかをよく
御覧ください。
アメリカの株価は史上最高です。ところで、
アメリカの
財政赤字は別に、少し減らしていますけれども、全然解消に遠く至りません。そして、
アメリカは大幅な
国際収支赤字を続けています。
アメリカも全く同じです。政府が赤字をこいて
国際収支が赤字になると株は上がるというのは、別に
日本だけの現象ではございません。ドイツはちなみに黒字ですけれども、黒字でかつ株も上がっていますが、要するに株さえ上がればいいというものではない。ただ、
日本は残念ながらドイツ型の上昇ではなく、
アメリカ型の上昇になっている。
もう一度申し上げますが、
マクロモデルの話をしているのではなくて、事実がこうだということを言っている。それに対して
マクロモデルの人からは、Jカーブ
効果というのがあってやがて輸出が増えるから大丈夫だという反論といいますか
意見を聞くことがあるんですが、Jカーブじゃないんですね。よろしいでしょうか。
円安が始まったときからダイレクトにすぐに輸出は増えています。別に輸出増加が遅れてきているわけではございません。ただ、輸出増加が輸入の増加に追い付かない。これは当たり前のことです。
会計学上はこれを粗利がマイナスな状態だというふうに申し上げるんですが、つまり、
日本の輸出企業の輸出行動自体が原価割れの状態なんです、必要な化石燃料額を合わせると。つまり、百円輸出するのに百十円原価が掛かっている状態です。そういう状態でありますからして、
円安になって輸出が仮に増えたとして、例えば百円の輸出が二百円になったら、原価百十円が二百二十円になりまして、赤字がマイナス十円からマイナス二十円に拡大する。これ企業経営では本当に常識ですけれども、粗利がマイナスの段階で売上げ増加策をやるというのは普通の企業ではあり得ないことでありまして、粗利がマイナスのときにはコストダウンをして、まず黒字体質に転換してから売上増を図ります。
ですから、この段階で輸出を増やすと、そもそも非常に高い水準にある輸出を更に増やすという
目標自体が相当むちゃなんですが、それに加えて、
円安にして輸出を増やすという策は国全体の赤字を増やす結果に終わるというのは、申し訳ないんですが当たり前で、ここでJカーブという言葉が出てくること自体が、厳しい言い方ですが、商業高校に行って勉強した方がいいんじゃないかと思いますね、企業の
基本的な会計について、マクロ
経済を持ち出す前に。そもそも、収支が黒字か赤字かということについては、マクロ
経済以前に
基本的な会計の問題ですから。粗利が赤字の会社が売上増をしてはいけないんです。もうごく当たり前のことです。これも多くの先生はおっしゃっていたことですし、残念ながら、外れたら、いや、よかった、外れたと思うわけですが、残念ながらこの一年間は嫌な予測が当たってしまったということを申し上げておきます。
さて、ところで、お分かりのとおり、
日本は別段国際競争に負けているわけではございません。
日本が赤字をこいている相手は資源国であります。中東とオーストラリア、あとは天然ガス、石油の出る
インドネシア、マレーシア、まあブルネイとかもそうですが、あとロシアですね。
日本の人が、多くの人が誤解をしているのですが、アジアの新興国に対しては
日本はずっと黒字でございます。この
状況は変わっておりません。ただ、中国に関しては去年から
日本の方が香港を入れても残念ながら赤字になったと思いますが、これはいろんな理由があるんですが、
基本的には政治的に
日本製品を買いにくい方向に向こうが
誘導しているのに乗っかっちゃったということですね。
ところで、
日本が黒字をこいている相手の筆頭が
アメリカであるのは御存じだと思いますが、たまに知らない人がいますが、その次が台湾だということを知らない人が非常に多いですね。その次がタイで、東南アジアのタイですということを御存じでしょうか。それからオランダなんですね。そして韓国です。韓国に対して
日本が大黒字であるというのを知らないで何か日韓関係を論じている人が多いのには本当に驚きます。これはずっと前から同じですけれども。
つまり、赤字の企業がいて、収支を持ってきて、どうしたら改善できますと。誰が見ても中東とオーストラリアに払うお金を減らしましょう、終わりということになります。
ところで、それは原発再稼働だという方には、そうじゃなくて、省エネでその分はミスマッチできているので、逆にもっともっと省エネを進めて輸入量、絶対額を減らしていかなければ駄目なんです、車から何から、電力に関係ないところでも大量のエネルギー
消費をしているわけですから。ということがもう当然の課題ということになります。
つまり、なかなか政治的に進まない、時間が掛かる原発再稼働を一年も二年も待っている暇があったら、一年間の間に劇的に三割ぐらい省エネしましょうということをやるべきで、やり方は極めて簡単で、こういうものを、今やっていますけど、LEDに替える、空調を最新式の、それこそパナソニックでも何でもいいんですが、ダイキンさんでも、最新の国産の空調に取り替える。そして何よりも、これは
自民党の先生も民主党の人もその他の政党の皆さんも、恐らく多くの方が賛成されているはずですが、通ったと思いますが、建物を断熱改修する。そのことによって、東大の小宮山総長もおっしゃっていますけれども、本当に数割、もう場合によっては半分以上のエネルギー
消費が減らせるわけなんで、それをまずやってからですね。もうこれは一年、二年の間に急速にできるばかりか、
宍戸先生のおっしゃっている
公共投資と同じで、景気回復には非常に
効果があります。ということを是非申し上げておきたい。
ところで、皆さん、今のは
円安の話でしたが、内需の話を申し上げます。
これも
宍戸先生がおっしゃっていたことなんですが、
GDPを
目標幾らという
議論は、私の、銀行屋からすると信じられないですね。外需と内需を一緒にした数字です。だから、どっちをどれだけ達成するのかというブレークダウンもないのに、
GDP何%
成長といっても分かるわけがないじゃないかと昔から思っていました。
ところで、
日本は内需が
成長しないのが大問題ですということなんですが、これがまた私、ここは
宍戸先生と違うんですが、
異議申し上げますが、
デフレ、
デフレとおっしゃるんですけれども、何で物価の話が出てくるのか。売上げが増えないことが大問題なんです。逆のことを申し上げますが、仮に物価がどんどん上がっても、お客さんが減ってしまって、物価が上がったけれども客数が減って売上げが下がるのは誰にとっても全くいいことではないんです。よろしいでしょうか。
例えば牛丼屋さんが、あるいはハンバーガー屋さんが値下げ戦略をやって失敗しまして値上げをしました、一転して。ところが、従来以上に、安いのを目当てにして来ていた人が来なくなったので、売上げがかえって下がるという現象が起きています。ところで、その牛丼屋さんやハンバーガー屋さんは値上げを実施できたわけですから自社的には
デフレ脱却をしたのですが、売上げは下がるわけです。もちろん逆に、値下げをして客を増やそうと思ったらかえって売上げが下がったというのもある。どっちにしろ売上げが下がればまずいわけですが。
値段に着目して
デフレだインフレだとおっしゃるのは勝手ですが、それは
マクロモデル的にはそういう
議論なんでしょうけど、企業経営している側からいいますと、売上げが増えないと意味がないんですよ。
それで、これが売上げの数字です。小売販売額です。
アメリカで言えばリテールセールスです。この数字にはサービス業が入っていませんので、
通常、
日本のマクロ
経済学者の人は使いません。ですが、
日本人の非常に多くは物を作っているか運んでいるか売っているかなので、サービス業、飲食、ホテルその他入っていませんけれども、小売販売額が最も
基本的な指標であることは間違いないばかりか、残念ながらサービス業の正確な数字がございませんので、小売販売額を見る以外にないんです。
御覧ください。
バブル前に大
成長を遂げていた小売販売額は
バブル後横ばい、そして減少。ここから大事なところなんですが、減少を続けるのではなく、
小泉内閣の二年目から微増といいますか横ばいに戻り、そして民主党の三年間、余り民主党に関係ないかもしれませんが、増加していたんです。総じて言うと、
バブル崩壊後横ばいであるということについて強く申し上げたい。ちなみに、この間、
日本の
人口はゆっくり減り始めまして、生産年齢
人口はかなり、五%減っています。
ある方がおっしゃっていますが、生産年齢
人口当たりの小売販売額や
名目GDPを出してみると、
成長率は
日本は
世界有数若しくは
世界一位だという話があります。
人口減少にもかかわらず、お店の売上げを増やすのに成功しているんです。ちなみに、これは生産が頑張ったんじゃなくて企業が頑張っているということを申し上げておきます。
ところで、内需、外需を一緒にした
GDPと違って、まずこの内訳を、ブレークダウンをちゃんと見てください。内需指標のさらに物販であるこの小売販売額を見ると、皆さんの選挙区の多くの企業の人の実感と合う数字が出ています。そこに輸出企業の数字を入れた
GDPを持ち出すと、先生、分かってないなんて言われちゃいますよ。さらに、これは減っていません。微増なんです。つまり、誰か売上げが減っている分、誰か増えているんです。
さて、それで、なぜしかし横ばいなのか。
御覧ください。ここに個人所得というのが出てきます。この個人所得というのは、これまた
GDP上、
推計いっぱいあるんですが、これは税務署に申告された個人の年収の単純合計、課税対象所得額というもので、給料のみならず、株を売ったとか家売ったも全部入っています。これがまた誰も使わない数字なんですが、私は信用しています、特に増えたときは。税務署に増やして申告すると税金取られますのでね。
御覧ください。失われた二十年、
デフレとおっしゃいますが、二〇〇七年、実は安倍首相が
最初に首相をやっておられた年の
日本人の申告所得額の税務署に申告された合計は百九十一兆円で、
バブルの年、平成三年の百八十八を上回っているんです。ちなみに、当時、実感なき景気回復、戦後最長の景気拡大、イザナミ景気と言われました。これは冗談ではなく、本当に景気は拡大していたんです。これを物価が下がっているから不景気だと言われると、じゃこの所得って何なんですかという話になります。むしろ、当時、物価は下がっているのに所得は増えたので、えらいもうかった人はいたはずです。
ところで、その後、所得はマネーゲームが終わりましてばあっと下がってしまうんですが、
御覧ください、小泉改革の頃に所得が増えてリーマン・ショックで下がる、この変動がお店の売上げにほとんど影響を与えていません。ちょっとだけ上がって、ちょっとだけ下がったじゃないか、実は全部これ、ガソリンスタンドの売上増、売上減でありまして、ガソリンの値下がりによるものでした。
実は、所得が増えても物を買わないというとんでもない事態が
日本の統計上起きていまして、これは全ての
マクロモデルが前提としていない、とんでもない事態なんです。昔は、所得が増えれば売上げも増えて、所得が横ばいなら売上げも横ばい、所得が減れば売上げも減少ときれいに連動していたのに、二十一世紀に入ってから連動が切れているんです。
ところで、最近、所得が余り増えていないのに売上げがゆっくり増えています。いわゆる実感なき景気回復。皆さんの選挙民の方はこっちを見ているんです。
さて、それで、これを輸出のせいだと言う人がいるんですが、さっきもお示ししたとおり、
バブル崩壊後に
日本の輸出は一旦倍増し、四割減し、また持ち直しております。このようにすごいジェットコースターのように上下しているんですが、それが国内の売上げに全く影響を与えません。普通おかしいんですが、与えていないので仕方がない。こちらは税務署の数字、こちらは店に全部聞いた数字、こちらは通関統計から起こした数字。全数
調査なので、うそだといって、矛盾している、
モデルと違うといっても、現実がこっちなんです。それで私は臨床
経済論者と書いているわけですけど、
マクロモデルではなく、臨床的にそうなんですね。株式チャートでいうとけい線分析みたいなものです。現実がこうなんです。
ちなみに、この話が都合が悪くなると皆さんお休みになるんですけど、どうかちゃんと聞いていただきたいと思います。よろしいですか。いろんなところでいろんな学者にこの話をするんですけど、学者の方はよくこの辺りで寝出すんですよね。ちゃんと、現実がこうなんだから見ていただかないとね。
皆さんのやっている伸び率と違って、絶対数が増えないと皆さん困るんですね。それは伸び率でいうと微妙に連動していますよ。だけど、絶対数で全然ビビッドな連動がない。輸出が増えても内需が増えないのは困るんですが、輸出が減っても内需が減らないというのはすばらしいことなんです。
日本経済は非常に強靱です。これは
宍戸先生がおっしゃったとおりで、強靱というのは、マッドメンではなくてレジリエントだということです。
さて、それで、しかし、こういうことを分からない人が、全部
日銀のせいだと言い出します。で、マネタリーベースを増やせという
議論になるんですが、
御覧のとおりです。
日本のマネタリーベースは
バブル前に四十兆円まで増えていたんですが、これを竹中さんが百十一まで増やし、それを実は安倍さんが絞りまして、その後で民主党がまたわあっと増やしまして、白川さんが百二十一まで増やして、当時、史上最高であります。白川さんが
金融緩和をしなかったというのは、定性的な評価で言っているのかもしれませんが、絶対数でいうと、ようこんなにやったなという数字であります。
ところで、マネタリーベースを三倍に増やしたのですが、
日本のお店の売上げは全く増えませんし、個人所得も増えませんでした。輸出に関しても相関がありません。
ところで、その前、マネタリーベースを
バブル期に十七兆円増やしたところ物すごい
バブルが起きて、その後、一兆円絞ったら
バブルが崩壊したと皆さんおっしゃるんですが、そんなにすごい反応が出るんなら、このときになぜ
バブルが起きていないんでしょう。どうして民主党は
バブルを起こせなかったんでしょうか。それは、
モデル上、こんなことはあり得ないと言われるかもしれませんが、
日本は統計は正確な国ですから、事実としてはこうだということです。つまり、御飯食べても太らない人がいたということです。
で、皆さん、
雇用です。
雇用をどんどん増やす、そのためには輸出を増やすだとか
日銀が
金融緩和するとおっしゃっているんですが、過去二十年間、輸出も増えたし減ったし、また増えて、マネタリーベースも増えて減って、また増えました。それと
雇用の増減がほとんど影響がない。パーセンテージを細かく見ると相関しているのですが、絶対額ベースで全く
雇用が横ばいであります。そのために、実は
雇用が横ばいであるために給与所得が増えませんので小売販売額が増えないんです。これは鉄板のような関係があります。
ところで、この状態で何とかせないかぬということで
アベノミクスが始まりました。
アベノミクスの一年間が右側に出ます。さあ皆さん、よく
御覧ください。二〇一三年どうなったのか。こうなったんですよ。二〇一三年、年間平均でいうとマネタリーベースは百六十三兆円です。ちなみに今はもう二百兆円を超えていますけれども。取りあえず年間平均百六十三、それに対して小売販売額が一兆円増。ですが、実は増加ペースがちょっと弱まったんですけど、
雇用が四十一万人増。そして、輸出が、さっきも言いましたが、金額評価の関係で六兆円増。マイナスではありません。よく頑張ったとは言えるんですが、ただ、これは胸に手を当てて考えていただきたいんですが、当初狙っていたようなレベルの増加には全くなっていないですということではないでしょうか。それはそうです。だって過去は連動していないんですから。
実は、今のトレンドは、何にも最近のトレンドと変わっていないんです。これが、景気回復なんだけどエア景気回復と私が申し上げているのは、これは非常にきついんですが、
金融緩和をやっている人というのは、申し訳ないんだけど、ほかの国では起きるんですよ、だけど
日本で現に起きていないことに対して完全に無視して、私が読んだ本だと回復するとおっしゃっているのはいいんだけど、それだとマヤの雨乞いと同じなんですよね。よそじゃ雨乞いしたら雨降るのかもしれないけど、
日本で現に降っていないものを、どうして
日本でも急に降ると言えるのか。それを是非、
モデルではなく
日本の現実に即して説明していただかないと話が通じない。
ちなみに、ここに出ていませんが、
公共投資額の積み増しも全く同じですし、国の借金が死ぬほど増えたのも同じですが、一生懸命頑張ってきたんですが、
雇用と
消費を増やすに至っていないわけです。理由は何なのか。もうちょっとで終わります。
それで、株価ですね。株価は上がったじゃないか。
御覧のとおりです。これも絶対数で物を見ていませんので、皆さんとしては株が上がったということになるんでしょう。事実、上がったのは大変喜ばしいことなんですが、去年の日経平均の月末の平均が一万三千七百円です。これ月末平均ですので、三百六十五日平均にするともうちょっと下がりますけれども、大体去年の後半がぴったり一万三千七百円で膠着していましたので、それと偶然にも平均値が一致していますが、
御覧のとおり、株価は上がったり下がったりしています。
それで、一万三千七百円で、今日一万四千七百円ですが、喜ばしいとはいっても、申し訳ないんだが水準としては
バブル崩壊後の二十年の中でも決して高い方ではないんです。上がったのはいいことなんですよ。いいことなんですが、まるで何か史上最高に上がったみたいな雰囲気の報道もありますので、実はまだまだぐんぐん上がっていかないと本当の意味で上がったとは言えない。前回、安倍さんが首相だった頃に比べても、その時期いっとき二万円になっていましたので、全然それを達成していないのでありますが、ただ、よく
御覧ください、マネタリーベースの方は空前絶後に増えているわけです。確かにマネタリーベースが増えれば株価が上がるというのは一年遅れで起きるんですが、非常に関係性が弱くなっています。これは
比率で見ていると分からないんですが、絶対数で見るとはっきり分かることです。
つまり、そしてやがて力尽きて元の株価に戻るという繰り返しですので、私が申し上げたいのは、今度株価がまた元に戻っても政府のせいではないんです、これは。そもそも株価は外国の投資家がどれだけ買うかで動いていて、ほとんど、何というんですか、国内
要因になっておりませんので。
日本政府が頑張った結果として上がるというような相関関係がどんどん薄くなっているということを申し上げます。
更に申し上げますと、
バブルのときの株価の最高は平成元年でありまして、三年ではございません。元年から三年の間に株価が一万五千円も下落する間に、お店の売上げは二十兆円増えています。小泉改革の頃、株価が八千六百円から倍に増えたわけですが、お店の売上げはガソリンスタンド以外は全く増えていません。その後、福田
内閣に向けて株価が半減しましたけれども、お店の売上げは全く落ちておりません。
そんなに、株やっている人には申し訳ないんだけど、ほとんどの真っ当に商売している人にとっては余り関係ないことなんで、騒ぎ過ぎではないでしょうか、申し訳ないんだが。いや、騒ぐなとは言いませんよ。でも、重要じゃないとも言わない、だけど明らかにプライオリティー的にそればっかり言い過ぎであります。
物価も同じであります。
日本では昔から物価が上がった年には当然お店の売上げも増えるという正の相関があったわけなんですが、九五年を境に、物価が上がったにもかかわらずお店の売上げが落ちる年、物価が下がっているにもかかわらずお店の売上げが増える年というアバンギャルドな年が結構増えてまいりました。そして、ちなみにこれが民主党三年間と去年であります。
御覧のとおり、震災のときはさすがに物価も下がるし売上げも下がったのですが、去年は物価も上がったし売上げも上がって良かったんですが、よく見ると、おととしは物価は上がらなかったけど売上げは増えておりました。
もう一度申し上げますが、実は一般人が気にしているのは物価の方ではなくて、この上にいるか下の方にいるかでありまして、分かりますか、売上げが増えるか減るかの方が重要なんで、そのことは是非御認識いただきたいと思います。こういうのは
経済学の一般論と全然ずれていて、こういう話をするたびに
経済学を知らない
藻谷と言われます。それに対して私のお返しするのは、
経済を知らないあなたと。いや、大変申し訳ない、私が
経済を知っているとは言わない。ただ、数字がこうなんですよと、しかも
日本の統計は非常にはっきりしているんですよということを申し上げる。つまり、恋愛をしている人間に向かって恋愛学を知らないと言われても返しようがないということであります。現にこういう形になっちゃっているんだから、なぜと言われても分からないけどそうなんですよと。
で、皆さん、
最後です。では、何で就業者が増えないのかということを申し上げます。
これは、前々から私が申し上げているとおり、
人口が
要因です。それで、これは
宍戸先生と同じことを私も申し上げたいんですが、
人口要因を無視してマネタリーベースを増やせば景気が回復するというのはエア景気回復です。実際には、
人口が減り続けるという問題に手を着けない限り、本当の意味での景気回復は起きません。
だから、
御覧のとおり、
日本の十五歳—六十四歳はどんどん減っております。それに対して働いている十五歳—六十四歳の人もどうしても減ります。そうすると、六十五歳以上も働くんですが、就業者の総数も減るんだよと、そういうグラフなんです。
分かりにくいですよね。ゼロを外します。
御覧ください。これは非常に重要な数字です。「
デフレの正体」の本に対して文句を言った全ての人間に、この表に対して反論をしていただきたい。
日本の生産年齢
人口掛ける七〇・〇という数字を
計算すると、こういうふうになっております。それに対して、生産年齢
人口のうち、実際にパート、アルバイトを含め仕事をしている人の実数がこうです。
御覧のとおり、当然、景気の波がございますので、不景気、好景気、不景気、好景気、不景気、好景気、不景気、好景気、不景気。今また好景気です。景気の波で変動しますが、景気というのは二、三年、一年から三年で後退するのが景気であります。これを二十年続くものを景気と言っているところが既に解釈の間違いも甚だしいんでありまして、誰が見てもこれは合成関数です。つまり、景気の上下プラス生産年齢
人口そのものの上下が合成されてこうなっているわけです。
あるインフレ
誘導論者の非常に著名な大学教授がこれを見ておっしゃいました、当たり前のことを言っているじゃないか、当たり前だ、そんなのはと。そのとおりです。当たり前なので、全員言っていただきたい。これを無視して
雇用だけ増やすと言っても絵空事に終わります。実際には六十五歳以上の人もたくさん働いているので、現役の労働者が減る割には労働者総数はそこまで減らないとしても、増えていくのは非常に難しい趨勢にあります。もちろん増えることは短期的には可能ですよ。ですが、不景気のときに元に戻ってしまうわけです。
問題は、ここで
アベノミクスがやっていることが非常に正しいことが出てきます。七〇%しか働いていないという構造を変えなくてはいけません。どうやったら変わるんでしょう。それは、専業主婦の方で働きたい方に働いていただくというのがナンバーワンプライオリティー。それから、その他五%というのがナンバーツーであります。これは、障害者の方、うつ病で休業している方、そういう方なんです。この方々を戦力化するということです。
ところが、失業者を減らそうと皆さんされますが、それはナンセンスです。なぜか。失業者の方は転職中の方がほとんどなわけです。三%以上が転職中の人なんです。いつ
調査したって常に三%以上いるんです。そうではなく、
完全雇用にしても、専業主婦が一二%もいらっしゃるところでは生産年齢
人口が七割しか働かない。ちなみに、総
人口にすると既に五割切っています、働いている人は。人間の半分、二人に一人働いていない国でよくこれだけ
経済を維持できていると思いますけれども、現実には維持しているんですばらしいんですが、もうちょっと女性が働きやすくするだけで全然
状況が変わります。
今の数字ですが、こういうことになっております。今まで
日本の現役
人口はこのとおり平成七年から下がってきたのですが、もうちょっとで終わりますね、今後、社人研予測によりますと、コーホート予測ですね、先ほど先生がおっしゃった、人間を、
人口を増やすという努力をしない場合、こういうふうになっていきます。それに対して、働く人間というのはこうなっていく。今日、初めて
藻谷試算が出ました。もう一度申し上げますが、それ以外の数字は全て国の
基本統計です。私の
意見は一言も入っておりません。これが唯一私の
意見なんですが、誰がやっても同じです。
日本では百歳の人が二十五人に一人働いています。六十五歳は二人に一人働いている。その
比率をずっと伸ばすとこうなります。足下だけで二百二十万人働く人が減ります。ちなみに、去年、四十一万人増えたのは大変すばらしいことなんですが、これは六十五歳で退職した人が働き続けたからです。
ところで、
日本に一千万人いらっしゃる十五歳から六十四歳の専業主婦の五人に一人働いていただくことにより、これが補えます。当面はそれで食いつなぎながら、今度は次に賃上げをしながらつないでいくというのが
日本経済の正しい再生法であります。
最後に、まとめなんですが、これが「
デフレの正体」に書いたことなんですけれども、
日本では現役世代が減っているので労働者が減っています。ところで、労働者が減っているんですが、生産が落ちません。これについては、浜田宏一先生が、
人口が減ると生産が落ちてインフレになるとおっしゃっていたんですが、それは労働集約型産業では起きます。看護師とか医者が典型ですがね。それ以外の場所では全然起きておりません。
例えば、福岡県大牟田市は
人口が半分近くに減っておりますが、工業出荷額は実は最盛期より今が一番多いです。こういうのはもう
経済の常識として知っておいていただきたい。皆さんは大牟田の
人口がどんどん減っているから大牟田の産業は駄目になっていると思っているが、全然違います。無人工場が操業している。そもそも、そういう現場の、臨床の数字を
御覧にならなくてアダム・スミスが書いた
経済理論だけで
議論するから話がおかしくなるんです。実際には、
日本では、
人口が減ると減るのは報酬、
雇用者報酬であり、そしてそれを、現役を相手にしたお店の売上げが減るんです。
実は、これで生産調整をして売るのをやめれば
デフレになりません。ところが、企業はついつい機械が生産するので作り続けます。その結果、値崩れが起きていく。これはミクロ
経済学上の値崩れなんですが、それを
デフレと言ってしまってマクロ
経済の話に変えてしまうんですね。で、今度は
日銀のせいだと言い出します。
日銀のせいじゃないという理由は、
金融緩和を三倍、もう実は今既に
バブル時の四倍までしているのに諸外国と違って全く物価が上がらない希有な国
日本ですね。これが
日銀のせいではないということを示しています。別に
日銀を擁護するつもりは全くありませんが、事実としてそうなので。これは、企業が過剰生産をやめるか、現役世代の収入を増やして物を買わせるか、どっちかでしか必ず解決しません。
いずれにしましても、そのことに向き合っていくには、
金融緩和ではなく、先ほど言った
成長戦略の中でも女性の就業促進ですね、三年育休ではなく三か月で職場に戻れる制度の普及が急務だと思います。
どうも長い間失礼いたしました。