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参考人(
神保謙君) 慶應義塾大学の
神保でございます。本日は、このような貴重な場にお招きいただきましたことを
委員の
皆様にまず深く御礼申し上げたいと思います。
既に三人の
参考人の方々がこの
国家安全保障戦略、
防衛大綱と
中期防の
課題について随分論点お触れになりましたので、私の方からは主に
政策的な
課題に絞って、これから十五分をちょっと使ってみたいというふうに思っております。幾つかかぶるところがございます。
今回、特に
防衛大綱に絞って
考えてみると、
前回の
大綱が作られたのが二〇一〇年、三年前でございます。その前の
大綱が作られたのは二〇〇四年で、そこから遡って六年間、そしてその前は九五年ですから九年遡って、そして一番最初にできた一九七六年は十九年という長い期間を経たわけですけれども、
考えてみると徐々にこの
大綱を改定するスパンというのが短くなっているわけですね。
この期間はなぜ生じているかというと、当然、
日本国内の政治的な大きな構造変化と政権交代があったということは大きいわけですけれども、同様に、やはりこれは
白石先生もおっしゃったことなんですけれども、
国際社会の構造変化というものがかなりの早い時間でダイナミックに起きていて、それに、まさにムービングターゲットと呼びますけれども、動いているターゲットを定めていくように我々も
戦略を日々アップデートしていかなければいけない。これが、この
戦略をなぜこのような速いスピードで変更していかなければいけないかという、今日
我が国が置かれている大変重要な情勢なのではないかというふうに
考えております。
すると、我々が
考えなければいけないのは、今回立派な
戦略を二つ作ったわけでございますけれども、この
戦略の賞味期限は一体どのぐらいなのかということを
戦略ができた途端にこれは
考えなければいけないことだと
考えておりまして、私
自身は、大体おおむね五年
程度で今回立てた
戦略はもう一度大きな転換が必要とされるのではないかという問題提起をこれからさせていただきたいというふうに
考えております。
それをレジュメに沿っていろいろ説明申し上げますけれども、最初の大きな理由は、これは
白石先生と同様でございます、マクロ的な
世界のパワーの構造的な変化がすごいスピードで起きているということでございます。
こちらの、私、資料を三枚目、四枚目に付けさせていただきまして、カラーでお示ししたパワーポイントのスライドを御覧いただきたいと思いますけれども、この三枚目のスライドは、これは私
自身が独自に試算してみたものなんですけれども、二〇三〇年にかけての主要国の国防費の推移でございます。これは推計値でございます。
当然ながら、このベースとなっているGDPの推計値があって、そこから
各国の国防費のパーセンテージを掛け合わせたものということになるわけなんですけれども、これを見ていただきますと、仮に
アメリカが大体二〇一〇年
程度の
水準で国防費を支出し続ければ、二〇三〇年においても
アメリカの卓越した優位性というのは変わらないということなんですが、御案内のとおり、二〇一二年の
アメリカの予算管理法において、おおよそ五千億ドルの向こう十年間の国防費の削減というものが義務付けられ、そして民主、共和の協議が成り立たなければ、プラス五千億ドルの強制削減という範囲におきまして、
アメリカの国防費がこのペースで支出できるとは誰も
考えていないということでございます。
したがいまして、これから
アメリカの相対的な力の低下というのはどういうところから起きてくるかというと、具体的に
アメリカがア
セットとして使えるいわゆる量と質が大きく変化してくるということなんだと思います。
それを仮に、一九九九年、これはクリントン政権時ですけれども、
アメリカの国防費が冷戦後最低に落ちたときが大体
アメリカのGDPの三・〇%ぐらいなんですけれども、この
水準まで落ち込むとどうなるかというと、ここで掲げた緑の破線ぐらいになるということでございます。それにぐっと追い付いてくるのが
中国でございまして、GDPの
レベルで
考えますと、これはよくエコノミストも言っていますが、二〇二〇年代の半ばぐらいまでには名目GDPで
アメリカをいよいよ追い抜こうかというペースで現在のまさにプロジェクションが推移しているわけでございますけれども、国防費は遠く及ばないだろうというふうに今まで
考えられていたわけですけれども、仮に
中国が、ヨーロッパのシンクタンクが試算するGDPに占める割合が二・一%
程度で二〇三〇年まで推移したということになりますと、この緑の破線と紫の実線はかなり近寄っていく。つまり、米中伯仲時代が
安全保障の
世界でもやってくるということを我々は
考えなければいけないということだと思います。
当然、
アメリカのまさに
世界的なア
セット、展開力、RアンドD、戦闘経験といろいろなことを
考えなければいけないわけですけれども、それに追い付いても、やはりこれからの
中国がまさに国防分野に使えるア
セットというものが飛躍的に増えていく世の中で我々は
安全保障を
考えなければいけないということでございます。
そして、非常に、もう
一つ見ていただきたいのは一番下の線、これは、青い色の線は
日本でございます。仮に
日本が今後とも国防費をGDPの割合として一・〇%を継続した場合ということですけれども、現在でも
中国はドルベースにおきまして
日本の二倍以上の国防費を使っているわけですけれども、二〇二〇年にはおおよそ六倍、そして二〇三〇年にはおおよそ十一倍の国防費ということになることが想定されておりまして、我々はこのような飛躍的なパワーシフトといいますかパワーバランスの変化の下で
安全保障戦略と国防
戦略を
考えていかなければいけないと、こういうことでございます。
そして、ここからまたレジュメに戻りますが、
前回の
大綱と今回の
大綱を策定したこの三年間でも、その変化は如実に表れている。表れているからこそ、概念が変わっていったんだということを幾つか
事例を紹介したいというふうに思います。
まず第一番目ですけれども、
中国の急速な台頭に伴いまして何が起こったかというと、二〇一〇年、これは北澤
防衛大臣の下で策定された前
大綱でございますけれども、このときにキーワードとなったのは、まさにこの
グレーゾーンに
対応するための動的
防衛力という概念でございます。
この
グレーゾーンというのは、これまで
参考人の方からも指摘がございましたけれども、平時でも有事でもない、まさにその中間領域における
事態が特に東シナ海南西方面で活発に展開をされて、これに
対応しなければいけない。これに
対応するためには、常時継続的な
警戒監視活動を行って、それによって
中国がまさにこの
領土、
領海に至るこの海洋
活動の拡大を既成事実化しないような形で、我々もこの運動量というものを増やしていくというのが、これが二〇一〇年
大綱の大変大きな概念だったわけなんですが、ところが、実態を広げてみますと、このような常続的なISR
活動を行ったとしても、
中国はそのISRの網を突破して様々な形で我々の主権を侵害する
活動を取ってくると。
ということは、この動的
防衛力の概念を更にプラスアルファとして加えなければとても今後の時代に
対応できないというのがこの
統合機動的
防衛力の大変大きな
意味だというふうに
理解しておりまして、先ほど来議論されている
海上・
航空優勢というものが強く
意識され、また
統合機動的な部隊展開がいかに重要であるか、つまり、エスカレーションが高まっていく段階の中で、柔軟に
日本側としてもそのエスカレーションの高まりに応じたア
セットを合わせていくということが求められている。これが柔軟
抑止ということの大変大きな
意味だということでございます。
二番目は、余り時間がありませんので急いでいきたいと思いますが、
北朝鮮に関して見ましても、この三年間で、実は核とミサイル開発がかなり発展といいますか継続してしまっているということでございます。〇九年、一三年には
核実験がありましたし、二〇一〇年においては
アメリカの科学者に数千基と言われる濃縮ウランの施設を見せたり、様々な形で
北朝鮮は核の開発
能力というものを着実に進展させているのと同時に、その運搬手段についても開発が続いているということでございます。
こうした
事態が続いていくと何が起こるかということなんですが、将来的に、
北朝鮮が危機的
状況に陥ったときのその破壊力が増してくるというのも、これも大変重要な視点なんですけれども、同時に、短期的に
考えなければいけないことは、仮に
北朝鮮が核及びミサイル
能力に自信を持った場合、つまり、自らの核及びミサイル
能力で韓国及び
アメリカの介入に対する
拒否能力を彼らが持ったと自覚したならどういうことが起こるかというと、
北朝鮮は、仮に小規模な、例えば以前起きた天安事件であるとか延坪島の砲撃事件のような小規模な
軍事攻撃を起こしても、韓国や
アメリカはどうせろくな反撃ができないだろうと思う領域を増やしていくという、こういうパラドックスに直面するわけですね。なぜこれがパラドックスかというと、
戦略的に
抑止がなされている状態であればあるほど実は小規模な
軍事紛争はむしろ生じやすくなるという状態が現在朝鮮半島で起きているというふうに
考えているわけでございます。
したがいまして、このような
中国の台頭と、先ほど申し上げましたパラドックスに
対応するような有事エスカレーションを想定した
防衛体制をこの三年間の中での変化の中でつくり上げる必要性が増したというのが、これがまさに非常に素早いこの情勢の変化ということの大変大きなポイントだということでございます。
そして、なぜ現在立てた
戦略の概念が賞味期限が五年ぐらいなのかと
考える根拠をこれから幾つか申し上げたいというふうに思うんですけれども、
一つは、やはり
中国と
日本の一対一の
軍事バランスが大きく現在も日々変化しているということでございます。
例えば、現在、
中国は第四世代戦闘機をおおよそ七百機近く保有しております。これから新型の
潜水艦、駆逐艦、そして空母、機動艦隊になるかどうかは別として、増やしていく
状況にあると。
海上優勢という点で
考えれば、しばらく
日本に優位な部分があるかもしれませんけれども、
航空優勢ということで
考えてみますと、徐々に
中国側がその優勢の度合いというものを深めているような、こういう展開にあるわけでございます。
したがいまして、いつまでもこの優勢獲得という概念が続くかどうかということに関しては極めて慎重な検討が必要であり、私は最初の
参考人である
香田さんとかなり
意見を共有しておりますけれども、優勢概念ということに拘泥するよりは、むしろ我々が定めた
国益をどのように守るかというまさに
拒否力、相手が力で
現状変更してくることに関して、そのような変更を許さない阻止
能力をつくっていくということが、恐らく五年後辺りから大変重要なコンセプトになってくるのではないかというふうに
考えているわけでございます。
二つ目は、時間の概念が大変大事だということでございます。
時間というのはどういうことかというと、有事
対応型の迅速な展開
能力と、特に南西方面での事前配備、集積の
強化ということなんですけれども、ここでウクライナの
事例を出したいと思います。ウクライナは、プーチン政権が電光石火のごとく併合し、そして住民投票を
実施し、ロシアに組み入れていくということを僅かな期間で行ったわけですけれども、このような時間の概念を可能にしたのは、ロシア軍の事前展開があったからだというふうに私は
考えているわけでございます。
仮にこれを
南西諸島に当てはめると、当然、石垣島から百七十キロの尖閣諸島に我々がいわゆる巡視船、巡視艇を展開する時間と、そして二〇二〇年頃には
中国の海警の船はおおよそ五百隻に増えます。当然、五百隻の運用ということになれば、
中国側も常時監視ということで常に東シナ海に展開している
状況があり、石垣島から展開する時間と常時監視している
中国の海警が尖閣に展開する時間というものがはかりに掛けられる時代がいよいよやってくるということでございます。
このような時間の概念に鋭く
対応するような
防衛体制ができなければ、我々にとってのまさに主権の
防衛というものが著しく危機にさらされる
事態がこれからやってくるということになると
考えておりまして、そのような関係の、そのような時間の概念を盛り込んだ
防衛体制というものをこれからより
強化していかなければいけないというふうに
考えているわけでございます。
さて、具体的にどうするかということを二番申し上げて私の
発言を終わりたいというふうに思うんですけれども、今後の
課題ということで、大変重要なポイントが幾つかございます。
第一番目は、今年の終わりまでに現在予定されております日米の
防衛協力のガイドラインをどのように改定していくかということだと思います。
これは、現在進められている
安全保障の法的
基盤に関する
政府の
見直しにも直結する
課題だと思いますので、まだどのようなオプションがあるかということは、幾つかの政治判断を経てみないと分からない部分はあるわけですけれども、特にその九七年のガイドラインで想定されていなかった
事態、特にこれは
グレーゾーンの
状況に日米がどのような共同行動を取れるか、あるいは日米の分担、
役割分担をどうするかということについて、より具体的に詰めなければいけないということだと思います。とりわけ、この日米
協力における
日本側の
役割の拡大というのは大変重要なポイントであるということを申し上げておきたいというふうに思います。
二つ目、(2)でございますけれども、仮にこの
事態がより緊張を増してエスカレーションが拡大した場合の
日本の
防衛体制と
日米同盟はどうなるのかということについても、より想像力を膨らませた
政策体系が必要になってくるだろうというふうに
考えております。
特に、
中国側がよく言われます、A2ADと呼ばれますけれども、
中国側の例えばミサイル
能力、対
潜水艦能力や対艦
攻撃能力というものがより深刻さを増した場合に有事を迎えた場合どうなるのかということをより
考えてみると、やはり
日米同盟が、
アメリカの現在QDRがよく掲げているまさにA2AD環境の中でも部隊の展開が可能なような環境を同盟
協力として整えていくことが大変重要な
課題になってくるということでございます。
具体的に言うと、この在日
米軍基地がと書いてあるところですけれども、西太平洋の戦力投射プラットホームとして有効に
機能するように
強靱性、抗堪性を
強化して、具体的に申し上げるならば、
米軍施設の滑走路、港湾、そして仮に
攻撃を受けた場合の復元
能力、ネットワークインフラ、地下施設の設置など、こういったところに予算配分を振り分けるということがこれからの厳しい時代を迎えるに当たっては大変重要なポイントになるであろうということです。
最後でございますけれども、
国家安全保障戦略、
防衛大綱、双方で挙げられていた重要なテーマは、アジアにおけるパートナー国との
安全保障協力でございます。特に、フィリピン、ベトナム、韓国、オーストラリア、インドといった国々が注目されているわけでございますけれども、これを見るに当たって、最後のパワーポイントのスライドを御覧いただければと思います。
こちらに書かれているのが、実はアジアにおける主要国を除いた、
白石先生の言葉ですと新興国の国々が一体どの
程度の国防費を使うかということなんですけれども、二〇一〇年と比べますと二〇二〇年代、ぐっとインド、ASEAN、韓国、オーストラリアといった国々が伸びてくるわけでございます。したがいまして、台頭しているのは
中国だけではなくて、実はアジア域内における新興国も相当
程度の力を付けてくる。この力を付けてくる新興国をできるだけ
日本のセキュリティーのパートナーにしていくということがいかに大事であるかということをこの二〇三〇年までのグラフは表しているのだというふうに
考えております。
その点から申し上げましても、
安全保障政策の方向性というのはまさに正しいと私は思うんですけれども、これを具体的に詰めていく作業がまさに今日から求められているということだと思います。
以上で私の
発言を終わりたいと思います。
ありがとうございました。