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水地参考人 弁護士の
水地啓子と申します。
本日は、貴重なお時間をいただきまして、まことにありがとうございます。
日本弁護士連合会には、従来より憲法
委員会という
委員会がございまして、憲法問題に関し、
調査研究、
意見表明などさまざまな活動をしてまいりましたが、本年二月、さらに多くの会員の力を集め、充実した活動をしていこうということで、憲法問題対策本部を設置いたしました。
私は、今年度、副
会長といたしましてこの本部を担当しておりますので、本日、日弁連から
意見を申し述べさせていただくということで、伺わせていただきました。
日弁連は、憲法
改正手続法につきまして、これまで、二〇〇五年、二〇〇六年、二〇〇九年の三回、
意見書を発表しております。また、二〇〇六年には、複数回にわたりまして衆議院憲法
調査特別
委員会
改正手続小
委員会で
発言の機会もいただいておりましたが、二〇〇七年に成立いたしました現行憲法
改正手続法につきましては、さらに
見直しをしていただきたい点があるということで、二〇〇九年十一月十八日付で
見直しを求める
意見書を発表しております。本日はその
意見の
趣旨を抜粋いたしましたものをお手元に配付させていただいておりますので、お目通しをいただければと存じます。
この
意見書では、八点について
意見を述べております。
第一点は、
投票方法について、原則として各項目ごとの個別
投票方式とすることでございます。
第二点には、公務員、
教育者に対する
国民投票運動の規制を削除するということでございます。
この点につきましては、本日
審議されております
改正法案に関するところでございますので、改めて述べさせていただきます。
第三点、組織的多数人買収・利害誘導罪を削除すること。
第四、
国民への情報提供について、
国民投票広報協議会の人選、公費による
意見広告、有料
意見広告放送について、公平と中立が確保されるべきことです。
主権者である
国民一人一人が憲法
改正案について
自分の頭で
自分の考えをしっかり持てるように、多角的な情報が的確に提供されることが必要であるという
趣旨によるものでございます。
第五、発議から
国民投票までの期間について、六十日は短過ぎ、最低でも一年間は必要であること。
これも、
国民が十分に情報や
意見を交換し、一人一人の
国民が十分に熟慮した上で
投票できるようにするためでございます。
第六、最低
投票率を定めるべきであること、また、過半数の算定につきましては、無効票を含めた総
投票数を基礎、つまり分母とすべきであることでございます。
憲法
改正の正当性を確保するためには、有権者のどの程度の賛成が必要とされるべきかということは、最も基本的な問題であると考えます。
第七には、
国民投票無効訴訟の提起期間は三十日では短過ぎること、管轄裁判所が東京高等裁判所だけとするのは少な過ぎること。
第八、各議院の独立性確保の観点から、衆参両院の憲法
審査会合同
審査会や両院協議会の
規定を削除すること。
以上八点の
見直しを日弁連は求めてまいりました。
いずれの項目も、人権を保障し統治機構の基本を定める憲法について、十分な情報をもとに、
国民の間で、さまざまな人生、生活や職業経験に基づく多様な
意見を自由闊達に交換した上で、主権者である
国民一人一人が、改憲案について
自分の頭で考え、
自分の考えをしっかり持って、よりよい国をつくっていくためにどうすべきかをみずから
判断し、
意思表示していくための提案でございます。憲法を
改正するという作業は、
国民それぞれが英知を持ち寄って、熟慮の上に考えを練っていくという、まさに
国民総体の力量を集大成する作業だと考えます。
このような考えから、日弁連は、これら八つの問題点はいずれも極めて重要であるとして本
意見書を発表いたしまして、その後も、
会長声明などにより、これらの問題点についての抜本的
見直しを求めてまいりました。また、現行法の
施行期日に至りましても、ただいま御
審議されております
附則事項について
法制上の
措置が講じられていないことなどに関し、
施行延期を求める
会長声明を発表するなどしてまいりました。
以上、前振りが大変長くなりまして恐縮でございますが、本日
審議されております
附則第十一条に関する
改正法案第百条の二は、ただいま申し上げました日弁連の
意見書でいいますと、第二の公務員、
教育者に対する
国民投票運動について改善をされるものでありまして、その点につきましては賛成するものでございます。
しかし、
改正法案第百二条は、裁判官、検察官、国家、都道府県等公安
委員会
委員、警察官につきまして
国民投票運動を全面的に禁止するというものでありまして、この点につきましては反対し、
見直しを求めるものでございます。
憲法
改正国民投票は、憲法を
改正するべきかどうかについて、主権者としての
国民の
意思決定をするものです。他方、
選挙は、特定の候補者を当選させ、または特定の政党に属する候補者を当選させるために実施されるもので、性質が大きく異なります。したがいまして、特定の候補者あるいは特定の政党に属する候補者を当選させるためになされる運動を罰則で規制する公職
選挙法や公務員
法制の手法を憲法
改正手続法に用いられることには疑問がございます。
先ほども申し上げましたとおり、憲法
改正手続では、いかに主権者である
国民が萎縮することなく自由に憲法
改正についての
意見表明ができるか、憲法
改正の最終決定者である
国民の間において、いかに自由闊達な
議論ができるかが何より重要であると考えます。本法百条が「この節及び次節の
規定の適用に当たっては、表現の自由、学問の自由及び
政治活動の自由その他の
日本国憲法の保障する
国民の自由と
権利を不当に侵害しないように留意しなければならない。」と
規定しておりますのは、これら憲法上の人権は、
国民投票に当たって、とりわけ強調されなければならないからにほかならないと考えます。
したがいまして、憲法
改正手続におきましては、あらゆる公務員を含む
国民の
意見表明の自由が実質的に確保されなければならず、ましてや罰則をもって規制されるべきではないと考えます。
確かに、
投票事務
関係者がその管轄区域内において
国民投票運動をすることを規制することは、
国民投票の公正さの担保のために理解できるところであります。中央
選挙管理会の
委員等についても同様です。しかし、このような規制を裁判官、検察官、公安
委員会の
委員、警察官にまで及ぼすことには反対でございます。
特に、裁判官、検察官は、法曹として、我々弁護士と同様、諸立法について
専門家として
意見を述べることが期待されております。また、現に、
意見を述べるのみならず、立法に関与している
立場にある者も存するということは、
委員の皆様も御承知のことと存じます。このような
立場にある者が、各
法律等の上位にあり、かつ、
法律等が合憲か違憲かの
判断の前提となる憲法
自体の
改正の是非について自由に
意見を表明することが、
投票の勧誘行為をなし得ないとする
国民投票運動の禁止ということで規制されるということは、理解しがたいものがございます。
確かに、裁判官等は中立であるべきですし、その公務の公正性は確保されるべきです。しかし、例えば、商事事件を担当している裁判官が会社法
改正について執筆をしたり各種
意見を述べたりすること、少年事件を担当している裁判官が
少年法の
改正について
意見を述べることが職務の中立性に反する、あるいは公務の公正性が疑われるなどといったことは考えられず、このことわりは憲法
改正についても何ら異なるものではございません。
また、公安
委員会の
委員や警察官につきましても、同様に、
国民投票運動の禁止により、これらの者が憲法
改正の是非についての
意見表明をする自由を規制するということには、何ら合理的根拠がないものと考えます。
むしろ、裁判官や検察官、警察官の
方々は、憲法九十九条により憲法尊重擁護義務を定められている、いわばその名宛て人となっておられるのですから、そのような観点からも、これらの
方々の憲法に対する考え方、憲法
改正に対する
意見を聞くべきであると考えます。また、これらの
方々の職務経験、人生経験などに基づく
意見は、
国民が憲法
改正についての
議論を深める上で極めて重要であると考えます。そもそも、これらの公務員の
方々は、職務上、最もみずからの
政治的中立性を厳しく律しておられまして、
法律上禁じておく必要はないものと考えます。
次に、組織により行われる勧誘運動、署名運動及び示威運動の公務員による企画、主宰及び指導並びにこれらに類する行為に対する規制のあり方について
意見を述べます。
この点につきましては、必要な
法制上の
措置を講ずるとの
検討条項を
改正附則に
規定することとされておりますが、公務員が、公務員の地位を利用して、職務権限に直接絡めて賛成
投票もしくは反対
投票をすることを強制するなどの事態が万一生じた場合には、それは公務員職権濫用罪その他既存の法規にも抵触するものでありまして、改めて憲法
改正手続法に
規定を置く必要はないものと考えます。
そもそも、憲法
改正についての
意見表明を規制すべきでないことは前に述べたとおりでございますし、公務員にも、組織を結成し活動する自由があります。また、組織によりという概念で公務員の活動を規制することは、これらの者の
意見表明や活動を萎縮させる危険性を持つものであり、疑問があります。
組織による企画等という概念は曖昧でありまして、このような
規定が置かれること
自体が萎縮効果を生じさせることを危惧いたします。例えば、学校において憲法
改正についての
議論がタブー視され、本来、これからの
社会を担っていくべき生徒、学生たちにこそ
議論してほしい憲法問題が学校の場では
議論されないという現象すら生じかねないものと考えます。例えば、憲法
関係のサークルで顧問の先生が指導することができないというようなことでは、学生たちの
議論が深まらないというおそれがあると考えます。
したがいまして、この点についてのさらなる
法制上の
措置は不要と考えます。
今回の
改正法に関する
意見は以上のとおりでございますが、さきにも述べましたとおり、現行の憲法
改正手続法には、
投票方法及び発議方式について、いかなる場合に関連性ありとされるか明確な基準が定められていないこと、
国民に対する情報提供についての手続の整備が極めて不十分であること、さらには、最低
投票率に関する
規定が定められていないこと、有効
投票数の過半数をもって
国民の承認があったとすることなど、見直すべき点が多々あります上、今回
審議されております
改正法によりましても、いまだ
選挙権年齢、
成年年齢等についての
検討が了されていないこと、公務員や
教育者の地位利用による
国民投票運動の規制についての制限も今後の
検討課題とされているところであります。
日弁連といたしましては、憲法
改正手続法におきましては、これらの
見直しが必須と考えておりますので、これらの
課題につきまして、引き続き十分な
検討をされることを心から希望いたします。
最後になりますが、御承知のとおり、
日本国憲法は、五月三日の憲法記念日で、
施行されて六十八年目に入っております。
私どもの世代は、戦争を
体験した両親や祖父母の世代と異なり、まさに
日本国憲法のもとで平和を享受してまいりました。私たちの子供たち、さらにはその子供たちの世代も、この平和を享受し続けることができるよう願ってやまないものでございます。
憲法
改正国民投票は、この憲法のあり方を決める手続です。全
国民の自由闊達な
意見交換の上で、
国民総体の英知を集めて行うべきものであるということを再度申し上げまして、私の
意見とさせていただきます。
御清聴どうもありがとうございました。(拍手)