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山谷えり子君 御
報告いたします。
当班は、九月十八日から同二十八日までの十一日間、ブータン、ミャンマー及びスリランカの三か国に
派遣されました。
派遣議員は、宇都隆史議員、斎藤嘉隆議員、竹谷とし子議員、真山勇一議員、そして、
団長に御指名いただきました私、
山谷えり子の五名でございます。なお、ブータンとスリランカは、
ODA調査派遣団としては初めての
訪問国です。
以下では、
調査を通じて得ました
所見を中心に御
報告いたします。
初めに、ブータンについて申し述べます。
ブータンは、急峻な地形のため耕地面積が狭く、
農業の
生産性も低いため、主食の米もインドなどからの輸入に依存しており、食料自給率の
向上が開発
計画における最優先
課題となっています。
我が国の対ブータン
ODAは、一九六四年に
農業専門家の西岡京治氏を
派遣したことに始まります。以来、
農業・
農村開発支援を中心とした
援助を
実施し、
同国の
農業開発の土台を築いたとして高い
評価を得ております。
ブータンは、
国民総幸福量、GNHの最大化を開発の基本理念として掲げつつ、二〇二〇年までに被
援助国から卒業する目標を定めています。しかし、二〇一三年から一四年予算では歳入の四割強を外国からの贈与に頼っており、対外依存率は深刻です。本年九月に決定した第十一次中期社会経済開発五か年
計画についても、ブータン
政府は、その
実施に要する経費三十億ドルのうち四、五割を外国からの
支援に
期待しており、各閣僚からも
我が国の
支援に対する強い
期待が述べられました。
我が国としては、GNH最大化の基本的理念に配慮しつつ、
同国の
状況や条件を冷静に
認識した上で対ブータン
ODA像を描くことが必要と考えます。
まず、ブータンが直面している若者の
農村、
農業離れ、若年層の雇用機会の不足、
農村部からの人口流出と
農村コミュニティーの高齢化、
都市部と
農村コミュニティーの格差拡大などの大きな変化を指摘することができます。ブータンにとって、
農業の衰退や縮小をいかにして回避するかは重大な問題です。また、産業の高次化に伴う技能労働力不足が深刻化する一方で、若者が単純労働を嫌うため、技能があり給料も安い外国人労働者が産業界の要請にこたえているという問題も深刻です。
第二は、水力発電の潜在力をブータンの開発にどのように結び付けていくかということです。ブータンは、安い労働力を大量に抱え
インフラ整備も進み、消費市場として将来性が見込まれるインド、バングラデシュといった周辺国と異なり、海外
投資を呼び込んで
成長につなげるという条件に恵まれていません。しかし、豊富な水資源を
活用した発電が主要産業であり、
電力は最大の輸出商品となっています。稼働中の発電プラントは、インドの財政的、
技術的
支援でインド
企業が建設したもので、インド人の
技術者及び労働者によって運転、維持、管理されており、現在建設予定のプラントもインドの
支援によるものです。
しかし、将来的な可能性に向けて、
我が国として、水力発電プラント建設のための
円借款、管理運転に係る重要
技術習得の指導訓練、プラントの設計施工、
環境影響
評価などができる
技術者の養成までも視野に入れた
援助を想定の中に含めて検討してもよいと考えます。
次に、ミャンマーについて申し述べます。
ODA調査団のミャンマー訪問は二回目になりますので、一般的な政治経済事情については省略し、
我が国との
関係で、本年一月の麻生副総理兼
財務大臣のミャンマー訪問において
同国の延滞債務五千二十五億円の解消及び新規
円借款の
実施が表明されたこと、五月の安倍総理公式訪問時に
円借款五百十億円と無償資金・
技術協力四百億円の合計九百十億円を本年度末までに順次進める旨の表明がなされたことを指摘するにとどめ、幾つかの開発
課題について述べることといたします。
ミャンマーの開発にとって、民主化の
促進、法の支配の確立、
国民和解などの困難な
課題は今も大きな問題として残っています。
国民民主連盟の指導者アウン・サン・スー・チー下院議員は、現行憲法を非民主的と繰り返し批判しておりますが、改正には国
会議員四分の三以上の賛成が必要であり、四分の一の議席が軍代表に配分されていることから、改正の可否、そしてそれが招く結果は現在のところ不透明、不確実です。
少数民族との和解問題は楽観視できません。六十年に及ぶ国軍と少数民族武装勢力との戦闘は、数十万人の国外・国内避難民、国境周辺
地域の荒廃、行政
機能を担うべき
人材やノウハウの喪失など、政権側にも少数民族側にも重い負の遺産を負わせています。
我が国の対ミャンマー
ODAは、少数民族や
貧困層
支援、
農業開発、
地域開発を含む
国民の生活
向上のための
支援を第一の
基本方針としています。荒廃したコミュニティーの経済的再建とそのための生活インフラの
整備、そして広範に埋設された大量の地雷の除去などを通じて、大量の避難民の一日も早い帰還と再定住に
貢献できるような
支援を優先すべきです。
一方で、大統領及び
政府要人からは、経済特区の開発、鉄道の近代化等の大
規模プロジェクトに対する
支援や
投資が要請されました。これら大型
プロジェクトが将来的
成長と現政権の安定に寄与することについて異論はありません。
問題は、
支援の時期です。
日本人商工会の役員等からは、ミャンマーの政策決定過程におけるガバナンスと透明化に関し、政策全体についても個別の政策についてもマスタープランがなく、国としてどこを目指しているのか、優先順位をどうするのか分からない、
関係各省間に意思疎通がなく責任感に欠けている、総体的に
人材不足が著しいなどの厳しい批判の
意見が聞かれました。
ミャンマー・ブームに惑わされずに情勢を冷静に観察し、大型
案件や
投資の是非は二〇一五年の総選挙の結果を見極めてから判断すべきでないかといった
意見には傾聴すべきものがあると思います。また、競合する大
規模プロジェクトや将来の採算が見通せない
事業については、多角的な視点からの慎重な検討が必要と考えます。
次に、スリランカについて
所見を申し述べます。
スリランカは、
我が国にとって中東、
アフリカに至る海上輸送路の
確保という点において地政学的に極めて重要な国です。国際資金
協力担当上級
大臣は、中東から
日本へのシーレーンの中ではマラッカ海峡とスリランカ南部ハンバントタの二か所が重要地点であり、ハンバントタの
港湾及び空港開発に
日本の
協力を得たい旨、発言されました。
ラージャパクサ政権は、二〇一六年までに一人当たりGDPを四千ドルに引き上げて中進国入りし、ワンダー・オブ・アジアとなることを目標としています。現在、
投資はインフラ関連、ホテル建設などが中心で
製造業分野では僅かですが、潜在的市場となり得る諸国を周辺に持つことから
生産拠点としての魅力は備えており、
政府の取り組み方次第で外国
企業の進出が活発化すると
期待できます。
スリランカの第一の開発
課題は、多数派シンハラ人と少数派タミル人との真の和解と融和の
促進、そして、内戦で荒廃したタミル人が集住する北部、東部の生活再建とコミュニティーの開発です。
政府軍とタミル人武装組織との二十六年に及ぶ内戦は二〇〇九年に終結しましたが、国内避難民の再定住
促進のためには、農漁業インフラの
復旧復興を含む
地域社会の基礎的インフラの再建、そして百万発にも及ぶ地雷の除去を優先的に進めなければなりません。
現地NGOによれば、いまだ手付かずの八十九平方キロメートルの土地は除去作業が極めて困難かつ危険度の高い場所となっているとのことであり、内戦が住民に残した負の遺産を解消するためには今後も十年
規模の長い時間が必要と思われます。
我が国は、スリランカの和平及び内戦終結後の平和構築に
貢献してきた実績を持っており、今後もこの
分野において先駆的、中核的な役割を果たしていくべきであると考えます。
開発
課題の第二は、国土の地理的条件や気候変動に起因する脆弱性の克服です。スリランカでは、サイクロンや豪雨による大
規模な洪水・土砂災害、干ばつ等の災害が毎年のように発生しています。災害管理
大臣からも、崖崩れ防止や洪水・干ばつ
対策など、
我が国の水管理に関する高い
技術を学びたいとの
期待が寄せられました。
我が国にはこれまで培ってきた高度の防災
技術があり、これらを積極的に
活用して
貢献していくべきと考えます。
ブータンは、拮抗する
中国とインド二大国に挟まれ、歴史的にインドに経済、外交、軍事の面で大きく依存してきましたが、近年、
中国の浸透が、また文化的には韓国の浸透が急速に進んでいます。
ミャンマーは、インドにとっては東南アジアへの入口、
中国にとってはインド洋への出口という地政学的に重要な位置にあります。また、六千四百万の人口と豊かな資源に恵まれた将来性のある潜在的な製造工場、市場であり、
我が国にとっても有望かつ有力な
生産拠点となり得ます。
また、スリランカは、これまでインドとの
関係が深かったものの、内戦の終結後は
中国の浸透が進んでいます。二〇〇九年以降、二国間での対スリランカ
援助では
中国が第一位となっています。
ODAの戦略的
活用を考えるに当たって、これらの事情に十分な考慮を払うべきと考えます。
最後に、今回の
調査に御
協力いただいた
訪問先国の
方々と内外の
関係機関の
方々に対し、心からのお礼を申し上げ、
報告を終わります。
ありがとうございました。