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参考人(
三木浩一君) 慶應義塾大学の
三木と申します。本日は、貴重な
機会を与えていただき、感謝を申し上げます。
本日は、私の
民事手続法の研究者としての知見及び
平成二十二年十月から
平成二十三年八月まで
消費者委員会で開催されました集団的
消費者被害救済制度専門調査会におきまして座長代理として
審議に参加した立場から、また、それに先立つ内閣府の集団的
消費者被害回復制度等に関する研究会や、あるいは
消費者庁の集団的
消費者被害救済制度研究会で座長としての経験な
ども踏まえまして、本
法律案に関する
幾つかの特徴的な点を取り上げまして、
意見を申し述べさせていただきます。
この
法律案でありますが、
消費者の
財産的被害の
回復の
実効性を高めるという政策
目的を実現するために、
民事裁判手続に関して新たな
特例を創設するというものであります。
そこに盛り込まれております内容は、基本的には、集団的
消費者被害救済制度専門調査会において
消費者、
事業者、法曹実務家、研究者等によって慎重に積み重ねられてきた議論の結果をほぼ忠実に反映したものとなっております。すなわち、本
制度の
検討に当たっては、二
段階型の
手続構造を採用するという画期的な
仕組みを基礎としつつ、同時に、我が国の従来の
裁判手続になじむような
制度とするための調整が重ねられてきました。この
法律案は、そうした議論にほぼ沿ったものとなっており、我が国で初めての
消費者被害救済型の集合
訴訟の在り方として高く評価できるものとなっているかと存じます。
この二
段階型の集合
訴訟の
手続構造ですが、具体的には次のように整理することができようかと思います。
まず、一
段階目の
手続では、
被害を受けた
消費者が自ら
訴えを
提起するとか、あるいは
一定の個人又は
団体が
被害を受けた
消費者から
訴訟追行
権限の授与を受けて
訴えを
提起するとかといった
仕組みは採用しておりません。この
制度では、内閣総理大臣から
認定を受けた
特定適格消費者団体が
団体自身の
判断で一
段階目の
訴えを
提起することができます。
次に、この原告となった
特定適格消費者団体と、それから被告とされた
事業者の間で出された
判決、これを前提として、二
段階目の
手続において、
被害を受けた
消費者がこの
適格消費者団体に
権限を授与することで
手続に加入するということになります。つまり、二
段階目の
手続は
消費者自らの参加という
行為が必要であり、この
部分はいわゆるオプトイン型となります。
それでは、この
法案の
仕組みのような
制度を我が国に導入するということの利点といいますかメリットは何であるかということですが、大きく次の三点に集約されようかと思います。
第一に、従来の
裁判手続では
救済が望めなかったような
消費者被害につきまして
被害回復の道が開かれるということが期待されます。すなわち、
被害を受けた
消費者個々人は
裁判を起こしてみても勝てるかどうか分からないということで、なかなか個人個人では提訴に踏み切ることができません。しかし、この
制度が実現すれば、
特定適格消費者団体という
消費者保護を専門とする
団体が一
段階目の
訴えを
提起することが可能となり、そして、その
訴訟で
事業者に責任があると認められたときには、
消費者はそれなりに
裁判の結果についての見通しを持った上で二
段階目の
手続に加入することができます。
また、従来であれば
消費者ごとに別個の
裁判手続となるところ、これを一括した
手続とすることで
消費者側の
費用あるいは時間等の負担軽減を図ることができます。こうした点は、
消費者の
財産的被害の
回復についてその
実効性を高めるという、この
制度に元々期待されている政策
目的に合致した
制度であると評価することができます。また、我が国における市民の司法アクセスの促進と拡充を目指すということをうたった司法
制度改革の
趣旨にもかなうものと言えましょう。
第二として、
共通的な
被害を受けた
消費者の事件を一個の
訴訟にまとめることによって、紛争の一回的解決を図ることができます。
ちなみに、紛争の一回的解決という点では、アメリカのクラスアクションのような、
手続からの離脱をしない限り自動的に全ての
被害者に
裁判の効果が及ぶという
仕組み、すなわちオプトアウト型の方がより効率的であるとも言われております。それに対して、本
制度はオプトイン型の要素がアメリカのクラスアクションよりも強く、二
段階目の
手続では
消費者が
手続に積極的に加入するという
行為が必要になります。しかし、集合
訴訟制度を利用するか否かを
消費者個々人が決めることができる点で、
消費者の
手続保障という
観点ではオプトアウト型よりも望ましいと言えます。また、本
制度では
消費者の二
段階目の
手続への加入を促すための諸
方策が設けられており、そうした
制度的な手当てによって紛争の一回的解決が期待できるというふうに考えられます。
このように紛争の一回的解決が促進されることは、
事業者の側にとってもメリットとなります。通常の
訴訟が、
消費者ごとに
提起されたり、あるいは全国の各地で散発的に集団
訴訟が
提起されるということに比べますと、この
制度によって一括的に事件処理される方が
事業者にとっても望ましいと言えるからです。つまり、
事業者側の負担軽減につながるという側面もあることを強調しておきたいと思います。また、国家の司法
制度の在り方として、司法資源の効率的な活用という
観点からも評価することができようかと思います。
第三でありますが、この
法律案は
事業者側の負担軽減についても慎重な配慮がなされております。
まず、本
制度の
対象となる
請求権でありますが、
消費者契約に関する
一定の
請求権のみに限定されております。さらに、
損害賠償請求における損害の
範囲についても厳しい限定が加えられております。また、先ほど述べましたように、
訴えを起こすことのできるのは
特定適格消費者団体に限られておりますなど、
事業者側の
懸念に対する種々の配慮がなされておるかと存じます。
ちなみに、アメリカのクラスアクションで指摘されることのある
乱訴の弊害ということを言う御
意見もあるようでありますが、そもそも日本の
民事訴訟制度とアメリカの
民事訴訟制度とでは前提が異なります。すなわち、アメリカには
民事陪審という
制度、懲罰的損害賠償
制度、完全成功報酬
制度等々、我が国には存在しない種々の
制度があります。私はこれらをヤンキーパッケージというふうに呼んでおりますが、このヤンキーパッケージを持っていない国では基本的には
乱訴という問題は生じないと一般に言われております。
このように本
制度は、
消費者の
財産的被害の
回復の
実効性を高めるという政策に合致した
手続であると同時に、
事業者側の負担にも配慮するというものとして評価できようかと存じます。
以上述べてまいりましたように、この
法律案に基づく
訴訟制度は十分に評価できるものであると考えます。したがいまして、まずは本
制度を今
国会で
成立させていただき、実行してみることが肝要であり、その後、その運用
状況をフォローして改めるべき点が見付かれば、それに応じて迅速に改善を図るということで
対応すべきものと考えます。そうした実務の運営によって、
消費者と
事業者、双方にとってより良い
裁判手続が実現されていくということが望ましいと考えております。
私の
意見は以上でございます。