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参考人(
西山太吉君) どうも、
西山でございます。どうぞよろしく。
私は、この
NSCというときにいつも思い出すことが
一つあるんですね。それは、沖縄返還交渉の
アメリカの
政策立案の原動力になったのがこの
国家安全保障会議で、今さっきおっしゃったように
ニクソンのときですけれども、一九六九年五月二十八日に対沖縄返還
政策というのを、これは本当の極秘なんですけれども、作って、それに基づいてもう一糸乱れぬ
体制をしいて対日交渉に入ったんです。これ、国務省、国防省、全部超えてメモランダム十三号というものを作って、それに基づいて国務省も国防省もホワイトハウスも結束して当たったと、それはもう全く見事な機能を果たしたという、それをすぐ私は思い出すんですね。
それは、一九六九年中に俺たちが今から言うことを全部のめと。一九六九年の年末までに全部俺たちが今から言うことをのまないと一九七二年の沖縄返還にはオーケーしないよという、第一に核の問題、第二は基地の自由使用、第三は対米支払、この
三つをきちっと作って、一糸乱れずそれこそ
日本に迫ったわけであります。
日本はもうそのときに、大蔵省、外務省、全く、それから密使ですね、こういう
外交というのは私は恐らく
世界史上例のないような
外交だったと思いますけれども、密使が核をやる、財政・経済問題は全部大蔵省がやる、外務省は一言も交渉に入れない。そして、片一方の基地の自由使用の問題だけ外務省がやると。もう各ばらばらで意思の疎通なしにやっていくわけです。そのために、
アメリカは一糸乱れぬ、一致団結してやってきますから、こういう作戦、こういう作戦、こういう作戦という、それぞれ作戦計画を立てるけれども、全部一元的に後でもう一回練り直す、もう一回やると。これで勝てるはずがないんで、結局、一九六九年中に対日要求をはっきり言えば全部のまされてしまったと。
そういう経過を私は、それが今日の密約につながっているわけで、結局、一九六九年中に事実上膨大な要求をのまなくちゃいけないものだから、七二年までに返還しなくちゃいけない、時間がないわけですからもう片っ端から密約していく、そういう状態を私は見たことがあり、聞いたこともあるし、まあ勉強したわけですけれども。
そういうものに照らして言えば、今度の
国家安全保障会議というものが十全に機能すれば、それはすばらしい威力を発揮します。これは、今までのような外務省、防衛省あるいはまたその他の省の縦割りというものを克服して、きれいな調整能力を発揮するという点、そういういいところが発揮されれば私はいいと思います。
ただし、私は、現在の状況を見ますと、必ずしもそれは楽観を許さない、必ずしも全部ウエルカムじゃない。というのは、なぜかというと、今非常に転換期なんですね、
日本の
外交政策は。
御存じのとおり、
アメリカは中東
政策にある程度大きなミスリードして、イラクからも撤退した。撤退したけれども、今年になって七千人死んでいますよ、イラクは。完全な失敗です、これ。何のための
イラク戦争だったのかと。
日本は全部加担しました。参加じゃなくて、応援じゃなくて、加担しているんです、航空自衛隊は。そういうこともあって、失敗した。アフガンのものも二〇一四年から撤退する。そのエネルギーを全部東
アジアに持ってくる。そして、
中国と東南
アジアとの対立
関係を利用して東南
アジアに食い込んでいくと。
アメリカの国際政治経済の主導権を再構築するという
最後の戦略に出てきたわけです。
そうすると、東
アジアですから、まさに
日本の協力がなくちゃこれ実行できないんですよ。
アメリカは十年間に三十六兆もの国防費を削減しなくちゃいけない。それこそかつてのような、二〇〇〇年当時のような状況じゃなくて、今の二〇一三年という年はもう莫大な財政赤字、一千兆を超える赤字を抱えて、国防費をどんどんどんどん減らしていかなくちゃいけない。減らしていきながらも、同時に、グアムを中心にして東
アジアの主導権を握らないかぬという二律背反的なような要因を持っているわけで、そうすると
日本の絶対的な協力が要るんですよ。
そうすると、
アメリカという国は、
政策を東
アジアに全力を集中してくると同時に
日本の協力を得なくちゃいけないという、このダブった
一つの状況が発生してきているわけで、そうすると、
日本がどういうふうに出るかということは、
アメリカのこの空海統合戦略という、
最後の戦略と言われている戦略が成功するかどうかというのは、ある程度鍵を握っている
一つの大きなファクターは
日本なんです。そういう非常に転機に立っているときにこの
国家安全保障会議がスタートすると。
そうすると、私が申し上げたいのは、
アメリカというのは、ある意味では、
日本の
情報を盗聴しながら、聞くところは、
自分たちのメリットになるような
情報は盗聴している、同時に、
自分たちの
情報は、
自分たちの協力を引き出すような
情報を
日本に出してくるという形になってくるんで、そうすると、
情報が必ずしも円滑に交流しないんじゃないかという
一つのおそれがある。
アメリカは追い詰められていますから、この作戦をどうしても成功させなくちゃいけないんです。そのために
日本の協力は絶対要るという視点から
情報を出したり引っ込めたりするというおそれがあると。
それからもう
一つは、
日本の自衛隊と
アメリカの在日米軍というのは、もうかなり共同体化して一体になって、指揮系統も統一化されつつあるし、あるいはまた、基地を共有するというものもどんどん進んでいますね。そうすると、日米の軍事共同体のようなものができていますから、この
国家安全保障会議というものを舞台にして、日米の軍事力の共同体化というのが一層促進されていくという。
そうすると、
日本の主体性が果たして本当に発揮できるかどうかという非常に重大な問題が出てきますね。そういういろんな、これがうまく機能していって、外務、防衛の分割したようないろんな利害錯綜をきれいに調整して統一的な機能をどんどん出していくといういい面が出ればいいんだけれども、必ずしもそのようなわけにはいかない。
アメリカの
日本に対する期待は非常に大きい。例えば沖縄の海兵隊をグアムに持っていくという、これグアムに持っていきたいのは
アメリカなんですね。
日本が撤退しろと言う前に
アメリカが欲しいんですよ。グアムこそが今度の空海統合戦略のハブなんです。そうすると、あそこのインフラ整備というのは、
アメリカの国防総省の予算、なくなってきている。そうすると、
日本の海兵隊の移駐費というのはグアムのインフラ整備にどんどん向けられていくと。もう既に三千億は計上されているけれども、それだけじゃなくて滑走路まで
日本が造るというふうになっちゃう、グアムの。今度の空海統合戦略の、今言ったように、拠点はグアムですから、グアムのインフラ整備は
日本がやらなくちゃ
アメリカはできないような状態になっている。そこまで
日米同盟というのは深く入りつつあると。
そうすると、その
情報というのは、
アメリカは
自分たちの都合のいい
情報は出すけれども、
アメリカにとって
日本の協力を最大限に引き出すためには不利な
情報を出さなくなるというおそれがあるということですね、そういう問題を私は提起したいと思います。
ただ、私は、これを契機に、
一つの大きなターニングポイントに立っているときに
一つ言いたいことは、
中国と朝鮮半島というこの二つが
日米同盟の抑止の対象になって、そしてその緊張
関係を非常に、逆にあおることによって
日米同盟を正当化するという、そういう動きが非常に急進的に出てきていると。これ、必ずしも
日本のナショナルインタレストにとってどうだろうかと。
日米同盟というものを適正に、
日本の主権性を維持しながら
日米同盟をうまく機能させていくということであるのならいいけれども、逆に、その
日米同盟を聖域化するために、要するに外務、防衛官僚というものを中心にして聖域化し過ぎるために、逆に
中国、朝鮮半島との緊張
関係をエスカレートするようなプロパガンダをどんどんしている。
これが今の、非常に大きく私は警戒しなくちゃいけない
一つの動きだと。適正に、緊張
関係じゃなくて共存、中長期的に
中国と朝鮮半島は
日本の生命線なんですから、これをどうやって維持していく、共存
関係をどうやって拡充していくかというのを基調に持った
日米同盟でなくちゃいけない。
アメリカと
中国というのはすごい陰では非常にパイプを強くしているんですから、
日本もまたそういうような、それも
アメリカのいわゆる国防的な見地じゃなくて、
アメリカのいわゆる空海統合戦略に全面協力するというだけで
日米同盟を
強化していくという形じゃなくて、
日本の主権性を維持しながら
日米同盟をうまく運用していくというやり方を取っていただきたいということ。
それから、
最後に私が申し上げたいのは、
情報というのは、これ
国家安全保障会議というものにだんだん集結していくんですね。
国家安全保障会議が機能を充実させるためには、外務省の
情報、防衛省の
情報と全部そこに集結していくでしょう。今度の
国家安全保障会議を事実上運用、機能させるための局長というのは谷内という方がなられるようだけれども、谷内氏は元の外務事務次官であって、外務省におって最も力を発揮できる
存在。そうすると、
情報は私は必ずしも停滞しないと思いますよ、どんどんどんどん入ってくる。むしろ、
国家安全保障会議が
日本の安全保障を中心とした
外交政策の基軸であるということになれば、そこに
情報が集結していく。そして、そこをシャットアウトしていると、もしこれが完全にシャットアウトされたとすれば、主権者、
国民主権との見地から言えば、非常に、
国家安全保障会議対
国民という形になります。
そのときに
一つ、私は
皆さんにお願いしたいことが
一つあるのは、今度の
国家秘密保護・保全法制の中心というのは、よくテロ対策であるとかスパイ防止だとかと言っていますけど、こんなものは、誰もがみんなそういうものの
情報を隠そうとかいうものについては何もそんなに異論はないと思いますよ、私は。
一番の問題は、日米安保
体制を軸とした
外交安保です。これは
日本の
国家の基軸なんだと、
日本の安全保障の基軸は日米安保であるということを今盛んに自民党政権は、公明党政権は
国民にアピールしているわけでしょう。日米安全保障
体制こそが
日本の
国家を存立させる基盤なんだと。であるとすれば、その線に沿って、日米安保
体制がどのように動いているか、どのように機能しているかということを最大限
国民に知らせなくちゃいけないと思うんですよ。私は逆だと思うんですよ。隠すんじゃなくて知らせなくちゃいけないと思うんです。
そういう意味で、私は、ここに非常に気になることがある。というのは、今度の特別
秘密の
外交に関する事項、特別
秘密の対象ですね。ここに、外国の
政府又は国際機関との交渉又は協力の方針又は
内容のうち、
国民の生命、身体保護、領域の保全その他の安全保障に関する重要なものとなっている。こうすると、もう全部、ほとんど全部包括されるんです、
外交に関しては。
ところが、ここで問題になるのは、
外交交渉、軍事、経済、全部、政治、あらゆる分野に
外交交渉ですよ。これ、日米安保に関する、安全保障に関する
外交交渉です、これ
最後は。日米間の折衝です。これを全部隠してしまおうという意思があれば、この条項に基づいてやれば特別
秘密に該当できるわけです、指定できるわけです。それじゃいけない。
私は、
外交交渉のプロセス、過程、あるいは又は向こうとのこういう
意見の交換の過程、こういうものを一々公開する必要性はないと思うんです。私は、外務省でも長い、二回も外務省を
経験して、クラブで
経験して、
最後キャップまでやって、外務省の高官と深い接触をした
経験からいいましても、
外交交渉の過程を一々一々公開する必要性はない。
しかし、ここではっきり言いたいことは、
外交交渉というものは折衝あるいは話合い、もう小さなパターンから非常に大きな条約、協定の交渉まで、それこそすごい幅が広く、また奥行きの深いものです。ランクが非常にたくさんある。だけれども、日米間において、
日本の安全保障及びその他の問題について、重大な問題について、もし
物事が決まった、結論が出た、取決めが交わされた、あるいは又は了解されたと、そういうような事態になれば、それは全部
国民に正確に伝達されなくちゃいけない。それを隠すということになれば、まさに
国民主権、
民主主義は崩壊しますよ。
ですから、
外交交渉というものは一番大事なんです。今度の
国家機密の中の問題でも、一番は
外交交渉ですよ。日米安保
体制が
機密の柱なんですから。だとすれば、このやり取り、了解事項、こういったものがもう必ず起こってきます。特に今のような激動する転換期にあれば、日米間の要するに今度の安保
体制をどうやって運用するかという問題が、これは
日本の存立にとってはもう一番大事なテーマです。だったら、そのプロセスじゃなくて、結論が出たら、必ずそれは一二〇%
国民に正確に伝達し、そしてそれを説明して
国民の共鳴を得ると。そうなれば、私は特別
秘密というのはすごく限定されてくると思いますよ。なぜ、今、期間だとか、恣意的なものを抑制するためにチェックしなくちゃいけないとかということばかり言っているけれども、私は特別
秘密というものをきれいに絞りを掛けられると思いますよ。
プロセスじゃなくて、結論は完全に
国民に正確に伝達すると、そういう合意ができませんでしょうかね。そうすれば、
国家安全保障会議というものが非常にリライアブルな、
国民から見ても
信頼が置ける、ああ、あれは決まったら必ず我々に知らしてくれるんだと、これだけの了解に達したら必ず我々はそれを知ることができるんだと、そこに非常に大きなダイナミズムが発生するわけですから、その点を
一つ頭の中に入れて今後に対処していただきたいと思います。