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参考人(
成田憲彦君)
成田でございます。
私の方からは、
政治学の
立場から
議院内閣制における
内閣の
在り方を
考える前に、どのような
検討課題があるかということにつきまして、特に諸外国の
議院内閣制の国との比較を通じて
考えていきたいというふうに思います。
大変けばけばしい
パワーポイントで恐縮でございますが、
パワーポイントを使いまして御
説明をさせていただきます。(
資料映写)
まず、
議院内閣制の
構造ですが、
基本的に、言うまでもなく、
主権者たる
国民による
選挙、この
構造は
代表制の
構造ということで、ここをどういうふうに
制度設計するかということは大変重要な問題でございますが、今回は扱わないことにいたします。
議会の多数派の
信任、
政権基盤の提供によって
内閣が成立する。それから、
内閣がその
行政を、
国民に対する
行政を行うために必要な
予算、
法案を
議会に対して提案する
権限を持つ、こういう
構造になっております。
この
議院内閣制を
理解するために
大統領制と比較してみますが、
大統領制は国によって大変多様でございますが、これは
アメリカの例でございますが、最大の
特徴は、
議会が
国民によって
選挙されると同時に、
大統領、
行政権の長も
国民によって
選挙される。両者とも
自分は
国民から選ばれたということを主張することができるということでございます。
したがいまして、この
議会と
大統領との
関係が問題になりますが、
アメリカの場合は、
大統領というのは世界で一番
影響力の大きい
政治家というふうに
考えられているかもしれませんけれども、
アメリカの
大統領はそういうふうに思われているかもしれませんが、それは
アメリカという国が大国であり、強力な軍隊を持っているからでありまして、
制度的には非常に
議会の方が強いと言っていいと思います。三権分立で、
議会は
行政監督権を持っておりませんが、その代わり、自律的な
立法権、
法律を自由に作るという
権限を持っておりまして、その
法律で
大統領の
行動を縛る。これに対して
大統領は、教書で
議会に
立法を
要請するということができますし、実際には
依頼立法という形で
議会に
法案を作ってもらいますが、しかし
議会はそれを大幅に修正するということで、極めて自律的な
立法機関であるというのが
アメリカの
大統領制の
特徴でございます。
その結果、
大統領制と
議院内閣制を比較してみますと、これは
議院内閣制の
特徴というものを御
理解いただくために比較しているんですが、まず
行政府につきましては、
大統領制は、
国民から直接
選挙されているために非常に強力な
リーダーシップを発揮できる、その一方で、
議会とねじれた場合には活動を非常に制約される。現在、民主党の
オバマ大統領と下院の多数派の
共和党、ねじれているわけで、こういうねじれた場合の
政治が停滞するという問題がございます。それに対して
議院内閣制は、
国民が直接
首相を選ぶわけではありませんので、
リーダーシップは必ずしも強力に発揮できるとは限らない、これは
首相のパーソナリティーにもよりますけれども。しかし、必要な
予算、
法案は成立する、
基本的に成立するという
関係にございます。
重要なのは、
大統領制の場合と
議院内閣制の場合で
議会がどういうふうに
性格が変わるかということでございます。
大統領制の場合は、
大統領が
国益の実現を図る、
議会の方は、
国益は
大統領に任せて、極めて
地元への
利益誘導型あるいは
有権者を意識した
議会になりやすい。例えば
アメリカの
議会も、
国内政治、内政の面では
地元利益優先型の
議会です。
フランスもそうです。先日、九月いっぱいで次年度の
予算が成立しませんで、しばらく
政府機関が閉鎖ということになりました。なぜあれほど
議会が頑張ったかというと、
議会は
国益を
考えない、あくまでも
地元利益。この間の
アメリカの場合は、
地元の
有権者、
自分に、
共和党に
投票してくれる
有権者たちの
政策選択、
イデオロギー選択、そういうものを非常に意識したために
妥協が成立しない。
議院内閣制ではこういうことはあり得ない、
大統領制の
議会であるからそういう
対立が、極めて強い
対立が生じたというふうに
考えることができます。逆に、
政権競争の場としての
議会の
性格はそれほど強くないということが言えます。
それに対して
議院内閣制の場合は、
議会は単に
地元利益の
誘導ばかりではなくて
国益を実現するという
要請を果たさなければならない。
自民党の
長期政権の
時代には、ここは
自民党システム、大変うまくできておりまして、
若手議員は
地元利益専念、それに対して
派閥の長とか
総理経験者のような
大物政治家は
国益を代弁するというような
役割分担がございました。いずれにしても、
議会が
国益も見なければならないということがございます。同時に、
議会は
政権競争の場としての
性格も帯びるという
特徴がございます。
政党制につきましては、
大統領制というのは全国を一区とする小
選挙区制でございますので、二大
政党ないし二大
ブロック制、例えば
フランスのような二大
ブロック制になりやすい。
議院内閣制の場合は
選挙制度によって大変異なりまして、一般的には、デュベルジェの法則と呼ばれておりますように、
比例代表制は
多党制、小
選挙区
制は二大
政党制になると、こういうことでございます。
これが
大統領制と比較した場合の
議院内閣制の
特徴でございます。
それで、これから
議院内閣制における
内閣の個別的な
テーマについて見てまいりますが、まず、
議会と
内閣との
関係が問題になります。極めて大ざっぱに言いまして、
内閣が強いタイプの
議院内閣制、それから
議会が強いタイプの
議院内閣制、両者が非常に
協調しながら折り合っている
議院内閣制、非常に大ざっぱに分ければこういうことになるかと思います。
内閣が強い
議院内閣制は、代表は
イギリスでございます。
イギリスは与党の
執行部というのはありませんで、即政府が与党の
執行部で、
議事日程を決めるのは政府です。それから、
議会の
審議において動議などを出して例えば議長に採決を求める、そういう動議を提出するのは、これは閣僚でございます。政府が
議事進行の動議を出す。
それから、
フランスは伝統的に
議会が強い
政治体制ですが、第五共和制になりまして非常に政府の強い
体制になりました。
議事日程も、従来、第五共和制においては政府が決めた
議事日程が優先されるということが続いてまいりました。ただ、この点につきましては、二〇〇八年にサルコジ
大統領による
憲法改正がありまして、政府の定めた
議事日程が優先されるのは四週間のうち二回だけというように
議会の
権限及び
野党の
権限を強化する
憲法改正が行われましたが、その他、政府の
権限は大変強いという形でございます。
日本は
議会が強い、
国会が強いというのは、先生方におかれては意外と思われるかもしれません。実感として、政府は強いんだ、こういう恐らく実感があると思います。しかし、類型論的にいいますと、
日本は大変
議会の強い
議院内閣制でございます。
議院内閣制につきましては、第一次大戦後に
議院内閣制の第一次合理化ということが行われました。これは、
内閣が
議会に対して責任を負うという
体制が大ざっぱに言って第一次大戦後に成立をいたしました。第二次大戦後に
議院内閣制の第二次合理化ということが行われました。これは、第一次合理化で強くなり過ぎた
議会に対して政府の
権限を強化するという改革が、第二次大戦後に例えばドイツであるとか
フランスであるとかいうところで行われました。
日本国憲法というのは、私の感想では、第一次大戦後の第一次
議院内閣制合理化の形の
議院内閣制でございまして、したがいまして、
内閣が
議会に対して責任を持つけれども政府は弱い
立場に置かれるという
体制でございます。
議会と
内閣が協働
関係にあるのはドイツ、イタリアでございまして、それぞれ
議事日程につきましても、
議会と政府の
意見もしんしゃくして
議事日程を決める。ドイツなどは
委員会
審議も、政府、具体的には
官僚の政府
委員ですが、政府
委員と与党、
野党、三者が話し合って
法案の修正を図るという協働
関係に立っております。
日本が
議会が強いということの内容について御
説明します。
現在、
内閣は
国会のスケジュールには全く関与できません。諸外国では、
内閣、政府が
審議スケジュールを
決定できるか、先ほど申し上げましたように、
イギリスとか
フランス第五共和制です、あるいは何らかの形で関与ができる。しかし、
日本は全くできない。それから、
内閣は長時間
国会出席を強いられる。これは現在問題になっております、総理の
国会出席の日数を減らすという、あるいは大臣の海外出張の間は副大臣が答弁をすると。
これは、御承知のとおり、
日本アカデメイアという団体が各国の
議会における
首相の拘束時間のデータを出しました。これは、
日本は百二十七日、それから
フランスが十二日、
イギリスが三十六日、ドイツが十一日ということになっております。これは日数ですから、例えば
イギリスでは一日とカウントしているクエスチョンタイムは中身が三十分ですが、
日本は一日というのは朝九時から昼休みの一時間を除いて五時まで拘束されるということで、時間で
考えますと、はるかに
日本は拘束が強いと、こういうことでございます。
なぜ
日本では政府の
国会出席がそれほど長いかといいますと、
国会の
審議が
内閣に対する質疑であるということです。諸外国の場合は、政府に対する質疑ではなくて、与
野党でこの
法案をどういうふうに修正するかということを検討するのが中身でございまして、先ほども申し上げました
フランス、
イギリス、ドイツにおける
首相の
国会出席も、多くは質問、対政府質問とか質問時間ということで、
日本では党首
討論という形で党首だけが総理と議論ができますが、諸外国では総理及び大臣に対して質問ができます、口頭質問ができます。
日本では現在、文書質問になっておりますが、諸外国は口頭質問がございまして、それに答えるために出席するという程度で、質疑は与
野党が
法案の修正を検討するという形のために、諸外国では
首相、大臣の
国会出席時間が短いということでございます。
更に大きいのは、
日本は
内閣の自律性が制約されているということでございます。
行政機関法定主義、
行政機関につきましては、
国家行政組織法で
行政機関については
法律で定めるということになっておりまして、具体的な省庁それから組織、
権限等が
法律で定められております。その結果、大臣一人増やすにも
国会の同意、すなわち
内閣法の改正が要るわけでございます。これは諸外国から
考えますと大変特殊な例でございまして、諸外国では、例えば大臣の数は
イギリスでは
首相は勝手に決められますし、諸外国でも
基本的には政府の方で決められる。主要国の中で省の設置について
議会の
法律が必要なのは
アメリカでございますけれども、
アメリカも
大統領府の構成については
大統領が自由に
大統領命令、エグゼクティブオーダーですることができるということがございます。
それから、
国会同意人事も
アメリカ以外にはございません。例えば、ドイツでは
憲法裁判所の裁判官は半数が上院、半数が下院が決めるというように
議会が人事をすることはございますが、政府の任命を
議会が同意を与えるということは、諸外国では
アメリカの上院の同意権以外にはございません。
アメリカでも、閣僚等の任命について上院の同意が必要なために、この同意が非常に政争の具に用いられるという現象が起きておりまして、つい最近、上院の人事に関する案件については、上院の抵抗手段として有名なフィリバスターは適用しないという改正が、つい数日前だったと思いますが成立いたしました。そのように、
行政の組織それから人事、これらに
議会が関与するというのは
日本の特殊性でございまして、これが
日本が強い
議会であるという中身でございます。
二院制になりますと、この図は
フランスでございますが、これは上院のリュクサンブール宮殿、下が下院のブルボン宮殿でございますが、ねじれという問題がございます、
高橋参考人からも御指摘がございました。ただ、
日本の場合は、私は、
参議院は反省の院とか抑制と補完の院とか言っておりますが、
憲法四十三条第一項によって全
国民を代表する
選挙された議員で構成するとなっておりますから、
衆議院に何ら遜色のない
国民代表
機関だと思っておりまして、
参議院の方が抑制的である理由は何らないというふうに私は
考えておりまして、問題は
衆議院と
参議院の調整のシステムをどうつくるかということだろうと思います。
それから、与党、先ほど
国会は、
議会は
日本は例外的に強いということを申し上げました。じゃ、どういうふうにして政府の
意思を通すか。ここに与党というものが登場する。与党という存在、これが非常に大きな意味を持つのは
日本の統治システムの
特徴でございます。
諸外国では、
内閣は与党に対しても自律的です。しかし、
日本では与党が政府案の事前審査を行う。なぜ行うか。これは先ほどの強い
国会に対して、
法案の成立の責任を持つのは政府自身ではなくて与党であるからという、強い
議会に対する代償措置として与党というものは強くなると。したがって、
日本の統治システムの非常に大きな
特徴を一言で言えば、与党という権力機構が成立している。幹事長は大臣五人分に当たる、こんな強い与党はほかの
議院内閣制ではございません。したがって、与党という存在をどういうふうに
考えるかというのも
議院内閣制を
考える場合の非常に大きな問題でございます。
次に、
首相と
内閣でございます。
首相は、
憲法では
内閣の首長になっておりますが、
内閣法では閣議至上主義と言っていいと思います。
憲法では
内閣の首長ということで、例えば
行政各部を指揮監督するというふうに書いておりますが、
内閣法では、
内閣総理大臣は閣議で
決定した方針に従って
行政各部を指揮監督する、それから所管に争いがある場合には閣議にかけて裁定をする等々、全て閣議で決めなければならないということでございます。
それから、
首相は主任の大臣かと書きましたけれども、
内閣法第三条第一項で、各大臣は、別に
法律の定めるところによって、主任の大臣として
行政事務を分担管理するという、いわゆる分担管理の原則、分担管理の原則それ自体は
憲法で定めておりますが、
法律で分担管理の中身を定めるということを
内閣法で規定しております。
先ほど、
日本は、
行政府は自律性を持っていない、何でも
議会で、
国会で決められなければいけないというふうに申し上げました。分担管理というのは、昨日ですか、成立しました
国家安全保障会議設置法、あれもこの
法律に言う主任大臣、この
法律における主任大臣は
内閣総理大臣とするというふうに書いておりますが、普通、あるチームに何かを任せた場合、そのチームの中でどういう分担をするのかということはそのチームで決める、あるいはリーダーがいる場合はリーダーが決める、誰々さんは何をやってくださいと決めると。ところが、
日本は、どの大臣がどの
行政事務を分担するか、どの
行政事務について主任の大臣となるかということについて
法律で定める、
議会が決めなければいけない、こういうことが、これは先ほどの
議会が強いということのさらに例でございますが。
それで、
首相はほかの大臣と同時に
行政事務を分担管理する大臣かということにつきまして、私は大変疑問を持っておりまして、
内閣の首長というものは
行政事務を分担管理する他の大臣の上にあって
内閣を指導する、諸外国の場合はそういうふうになっておりますので、
日本の総理もそういう地位を獲得すべきだというふうに
考えております。
最後に、現在、
内閣官房と
内閣府がございます。民主党が計画しました
国家戦略局、成立しませんでした。成立しなかったのは残念ですが、
内閣官房と
内閣府に、さらに
国家戦略局ができますと、もう非常に
首相のサポート
機関が混乱するというふうに私は個人的に思っておりまして、現在の
内閣官房と
内閣府につきましても整理ができていない。このサポートの仕組み、対象が
内閣か
首相か、そういうことにつきましても大きな
検討課題だというふうに思っております。
急ぎましたけれども、取りあえずのプレゼンテーションとさせていただきます。
ありがとうございました。