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阿部参考人 一般社団法人日本経済団体連合会経済基盤本部長の
阿部でございます。
本日は、少額、多数の
消費者の間に生じております
財産的被害について迅速かつ効率的に対応すべき
法律ができるということで、基本的には現在御
審議いただいております
法案を支持いたしますが、若干の注文があるということで、
意見を述べさせていただいております。
私の
意見は、経団連におきます経済法規
委員会並びにその下にございます
消費者法部会での検討に基づくものでございますので、経団連の
意見としてお聞き取り願えればと
思います。
最初に、ほかの
参考人の方に比べまして、何か、私は何者だということで、このような場にふさわしいかどうかということが疑問かと
思います。一言だけ申し上げておきます。
私は、昭和五十五年、経団連の
事務局に入りまして以来、一貫して経済法制を担当しております。
民事訴訟法の大改正でございますとか、独占禁止法、景品表示法の改正も担当してまいりました。
消費者保護
関係につきましては、例えば
消費者契約法、これは平成十二年創設のときも担当しておりましたし、差しとめ
請求制度が入りました平成十九年改正のときも担当しておりました。
私自身、平成十九年の一月からでございますが、第二十次国民生活
審議会の臨時
委員といたしまして、
消費者政策部会
消費者契約法評価検討
委員会に参加して
議論もさせていただいております。それなりの知見があるということで、
意見を述べさせていただきます。
お手元に、簡単な
レジュメ二枚、それから、七
団体の連名の
意見書を差し上げております。これに基づいて
意見を述べさせていただきたいと
思います。
初めに、今回の
法案に至る経緯でございます。おおよそ五年かけて検討がされてきたと思うわけでありますが、それなりのプロセスを経て、きちんとした
議論がされていたと評価したいと
思います。
最初にこの
議論が始まりましたのは、まだ
消費者庁、
消費者委員会ができる前でありました平成二十年からでございますが、当時の
内閣府国民生活局のもとで集団的
消費者被害回復制度等に関する研究会が開かれております。ここは、このような
制度のもとになります各国の法制の比較検討でありますとか、
我が国にこのような
制度をつくるときの論点を整理したものと考えておりますが、既にその
段階でも、二
段階訴訟制度ということで、フランスのいわゆるグループ訴権
制度の提案あるいはブラジルのクラスアクション
制度がここで示されておりました。まことに御慧眼であったと
思います。
その後、
消費者庁及び
消費者委員会の設立の後は、まず、平成二十一年からの
消費者庁集団的
消費者被害救済制度研究会で
議論が進められております。ここに経済界からオブザーバーとして、パナソニックの坂田東京法務室室長が参加させていただいております。具体的には、二十二年八月の報告書で四案、ABCD案が示されたわけでありますが、その中のA案が今の
仕組みに近いものかなと考えております。
さらに、
消費者委員会におきまして、平成二十二年十月から集団的
消費者被害救済制度専門調査会が開かれております。ここには、経済界からはセブン&アイ・ホールディングスの法務部グループ法務シニアオフィサーの中村さんが参加させていただいております。
その上で、二十三年八月の報告書の中で今の
制度に近いものが示されたかなと思っております。さらに、二十三年十二月のいわゆる骨子案、それから二十四年八月の
制度案と示されてきたわけでありますが、いずれの
段階におきましても、パブリックコメントその他の
手続によりまして、経済界としても十分に
意見を述べさせていただいたと
思います。
その上ででございます。お手元の資料に沿って、まず、基本的な考え方として四点、それから、若干注文ということで三点を述べさせていただきたいと
思います。
最初に、基本的な考え方の一番目でございます。
既存の
民事訴訟制度では
救済が困難な、少額かつ多数の人の間に生じている
消費者被害について、迅速かつ効率的に
救済する
制度を設けることは重要である。
私どもの経団連は、企業行動憲章というものを示しております。会員企業に
行為準則として示しているわけでございますが、そこの中にも、
消費者との
関係を非常に重要視する文言がございます。さらには、具体的な憲章の一項目でございますが、「社会的に有用で安全な商品・サービスを開発、
提供し、
消費者・
顧客の満足と信頼を獲得する。」、
消費者との
関係が企業行動憲章の最初の項目だということでございます。このような
制度をつくること自体については、私どもも積極的に賛意を表したいと
思います。
その上で、二段目でございます。
法律案につきましては、二
段階型の
訴訟制度でございますとか、
対象となります
請求の範囲、
訴訟追行主体等において、
相当の工夫が見られていると
理解しております。
具体的には、二
段階型
訴訟制度につきましては、非常によく工夫された
仕組みになってきたかなと思っておりますし、それから、
対象となります
請求の範囲でございます。
法案第三条にございますが、「
特定適格消費者団体は、
事業者が
消費者に対して負う金銭の支払
義務であって、
消費者契約に関する次に掲げる
請求に係るものについて、共通
義務確認の訴えを提起することができる。」ということで、五項目並んでいるわけでございますが、その中で、四号の「瑕疵
担保責任に基づく
損害賠償の
請求」、これは当然に必要かなと思うわけでありますが、その例で、後ほど若干
問題点ありということで指摘させていただきたいと思っております。
それから、この共通
義務確認の
訴訟の
対象にならないものといたしまして、
拡大損害でありますとか逸失
利益、あるいは人身
損害、
慰謝料等が規定されていることもふさわしいと思っております。
基本的な考え方の三番目でございます。
そういう意味では非常に工夫された
法律案だとは考えておりますが、しかしながら、
民事訴訟制度に関する新たな
特例の導入ということでございます。
制度の設計や運用次第では濫訴の懸念があるということでございます。その結果、健全な
事業活動が萎縮されるようなことになってはならないと思っております。
お手元の資料の三枚目に、ことしの三月に出しました七
団体の連名の
意見書をつけております。私ども経団連のほか、日本商工
会議所さん、あるいは経済同友会さんに加えまして、いわゆる海外企業家の
団体、四
団体もあわせまして、同じような
意見だということで連名の
意見書をつくったわけでございますが、ここの中でも示されておりますとおり、
制度のやり方次第、運用の仕方次第では非常に懸念が残っているということでございます。
ただ、この緊急提言がきっかけかどうかは存じませんが、今回、遡及適用がないということを
法律案附則第二条で示されておりますのは、まことにありがたいと思っております。
基本的な考え方の四番目でございます。
手続の追行主体となります
特定適格消費者団体によります
訴訟追行業務に対して適正な監督を行い、濫訴を招来させることのないよう十分に配慮を願いたいということでございます。
それで、二枚目でございますが、幾つかの懸念と注文でございます。
まず最初に、一番目として、
事業者が代金返還や修理、交換などの自主的な対応をしているにもかかわらず、訴えが行われるという懸念がございます。具体的には、
事業者が
法律に基づき、あるいは自主的にリコール
制度等で対応しているにもかかわらず、それに応じず、
損害が生じるのを待って
訴訟を起こすということは非常に不合理であると
思いますので、これができないような
仕組みにしていただきたい。
本来であれば、
法律で何らかの
担保を置いていただきたいわけでございますが、それが無理であるとしても、この
法律成立後に恐らく
特定適格消費者団体に対する監督指針、ガイドラインのようなものが示されると
思いますが、その中で具体的に定義する。
法案の中では、第七十五条の第二項に「
特定適格消費者団体は、不当な目的でみだりに共通
義務確認の訴えの提起その他の
被害回復関係業務を実施してはならない。」とございますが、この「不当な目的でみだりに」の中身について、十分に、わかりやすく示していただければと思っております。
それから、これに付随いたしまして、瑕疵
担保責任でございます。
法案の第三条第一項第四号の中に瑕疵
担保責任が明記されております。このこと自体は否定いたしませんが、瑕疵
担保責任の中に非常に範囲の広いものがございまして、例えば、製品のふぐあいが一定の割合で生じてしまう、電気・電子部品など、製品の歩どまりということもございますが、どのように努力しても、ごくわずかの割合ではふぐあいが生じてしまうことがございます。これは避けられないことかなと思っております。
それが重要なものであれば確かにと思うわけでありますが、例えば、今、携帯とかスマホが非常に多機能になっておりまして、いろいろなアプリケーションがついているわけでございますが、ほとんどの方が使わないようなものについて、多少のふぐあいが生じることはあるとしても、これをもとに
訴訟ということではないと
思います。
瑕疵
担保につきましては、十分に慎重に御検討願えればと思っております。
それから、
二つ目でございます。
実際に
相当多数の
消費者が
被害の
救済を求めていないにもかかわらず、
特定適格消費者団体が訴えを起こされる懸念がございます。
本来でありますと、
相当多数ということで、実際に
被害がありました
消費者からの授権をもってこの
訴訟を始めるべきだと考えておりますが、それは無理でも、例えば一定数、
民事訴訟制度の中の大規模
訴訟制度では原告百人を目安としておりますが、このようなものであれば
訴訟が開始できるということを十分に
担保していただきたいと
思います。
ここも、具体的には
特定適格消費者団体に対する監督指針などに、この
相当多数性について十分な規定を置いていただきたいと
思います。
三番目でございます。
既に申し上げておりますが、多数に生じている
消費者被害を効率的に
救済するという
制度の目的からは、共通性、支配性、多数性、いわゆる
相当多数について、十分にガイドラインの中で規定していただきたいと思っております。
何度も申し上げますが、
相当数というのは、二人や三人、あるいは十数人ではないと
思います。それなりの数であるということが必要かと
思いますので、これは十分に運用の中でも考えていただければと思っております。
以上が、
レジュメの説明でございます。
最後に一言つけ加えさせていただきますが、経団連としましても、
消費者被害の
救済のみならず、その根絶に向けて最大限の努力を図っていく所存でございます。
それから、いわゆる詐欺商法のような悪徳な
事案につきましては、今回の
法律では余り効果的な対応はできないと思っております。目下、
行政制裁のあり方でありますとか財産の
差し押さえなどの検討もされておるようでございますが、さまざまな
制度を合わせまして、
消費者の権利
利益を守れるような
仕組みをつくっていくことが肝要かと思っております。
これは非常に重要なことかと考えております。
一つだけの
仕組み、
一つだけの
法律で何かが全てできるということではなくて、さまざまな
法律、
制度、手法を組み合わせなければならないということをぜひとも御留意願いたいと
思います。
以上でございます。(拍手)