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大西参考人 高知県の
黒潮町というところから参りました
大西と申します。
黒潮町は、人口一万二千五百人、標準財政
規模でいいますと五十億程度の小さい町でございます。
御案内のとおり、昨年、
内閣府の
南海トラフの巨大
地震モデル
検討会から新
想定が公表されました。当町におきましては、資料の表にございますように、最大震度は七、そして最大
津波高三十四・四メートルと、非常に衝撃的な数字が示されたところでございます。
そうなりますと、当然のことながら、次ページにありますような新聞記事になるわけでございまして、住民の
皆さんは、大変御不安と混乱、そして我々が何よりも危惧をいたしました諦め、こういったことが蔓延したということでございます。
以降、当町がとってまいりました
防災対策の
推進につきまして、特徴を少し御紹介させていただいた後に意見を申し上げたいと思います。
当町の
防災に三つの特性があると自覚をしております。
一つはまず
推進体制でございます。それからもう
一つは細分化というキーワード。そして最後に圧倒的ボリュームのコミュニケーションでございます。
新聞記事の下段に、「町を
地域に細分化(
地域担当制)」と書いておりますが、次ページに組織体制を載せさせていただいております。
黒潮町には二百名の行政職員がおりますけれども、その二百名の職員は一義的に町内全土を管轄します十四の
消防分団に配置されます。そして、その
消防分団は、一地区並びに複数地区を管轄している関係から、さらにその地区へ割り当てられるということになってございます。つまり、保母さんから学校校務員さん、そして一般行政職に至るまで、全ての職員がどこかの
地域で
防災担当を行っているという組織図になってございまして、業務フローにつきましては下の図に掲載をさせていただいております。
こういった組織体制の中で昨年一年間取り組んでまいりまして、上がってきた成果物の
一つが、七ページの上段にありますマップでございます。
主にハード的な
課題がどこにあるのか、
地域ごとのハードの
課題はどこにあるのかというものをプロットした地図でございまして、これは住民の
皆さんと行政職員、そういった方々で共同で取り組んで出してきた成果物でございます。これは一地区分でございますので、町内六十一地区ございますから、
黒潮町にはこのマップが現在六十一枚あるということになってございます。
この中に、実は、「道路を新設できないか。」という項目がございます。そして、その項目に沿って
地域で話し合いを続けてきた結果、整備計画を組み、実際に整備をするということになりますと、ここに道路ができるということになります。
しかしながら、私どもが大変危惧をいたしましたのは、マップ上で判断いたしますと、新設された
避難道のすぐそばのお宅、こちらのお宅の方は全員助かる、このような判断をせざるを得ない、これは
津波のお話でございます。そういった判断が本当に適切であるのかどうなのか、そのためには一軒一軒の
調査に入るべきであろう。
そういったことから、町内、
一つの
黒潮町を十四の
消防分団にまず細分化し、その十四の
消防分団を六十一地区まで細分化いたしましたが、さらに現在、ことしになって取り組んでおりますのは、この町を
地域に細分化した後の細分化、
地域をさらに班に細分化した
対策をとっているところでございます。
次ページに、さらに右側に少し余分なものがついた資料があろうかと思います。
六十一地区まで細分化いたしました。その後に細分化したのは、地区地区ごとに十軒から十五軒の単位の、自治会の中では最小単位であろうかと認識しておりますが、四百六十三の班がございます。この四百六十三の班のうち二百八十三班、約四千六百世帯が浸水区域にございます。そして、この一世帯一世帯の
避難カルテ、私どもは
避難カルテと申しておりますけれども、さまざまな聞き取り
調査を行っているところでございまして、この四千六百世帯分が来年の一月をもって全て完了するということになってございます。
その下に、記入シートの様式を紹介させていただいております。実際に住民の皆様にこの記入シートに事前に御記入をいただき、それを持参していただいて、ワークショップでカルテという様式でまとめて、町はこれを更新。情報管理、更新をこれから行っていくというフェーズに入ってまいります。
この細分化、班まで細分化した結果、得られた果実が相当高いものである、そのように認識してございますが、それは十二ページの下段に、戸別カルテづくりの
効果として紹介させていただいております。
まず、
課題の細分化ができたということでございます。
黒潮町も大変長い海岸線を有してございまして、西の端と東の端でやはり
課題が違うわけでございますが、
黒潮町の
防災というような、町にとってのマクロな発言をしている限りは、きっと具体的な
防災対策は進まないであろう、これが根幹思想でございます。つまり、地区の
課題がしっかりと顕在化、明確化されることがまず重要であって、その顕在化、明確化をもって
課題への
対応の単純化、具体化を図っていく、こういったことでございます。
それからもう
一つは、先ほども申し上げましたように、四千六百世帯、二百八十三の班に細分化をし、現在、班単位、つまり十軒から十五軒単位でワークショップを開催しておりまして、こうなりますと、非常に近所の
出席状況が明確でございまして、実は欠席しづらいといったような
効果も出ております。
これは大変重要でございまして、対象世帯の参加率は六一%、カルテの回収率が九六%となってございます。行政が開く懇談会、ワークショップでこのような数字が出ることはまずあり得ないと思ってございまして、非常に高位に位置していると思ってございます。
それからまた、社会的手抜きの排除、これは、要は、複数で取り組むと、どこか一人が手抜きになっていくということでございまして、私どもの
防災の根幹思想であります。よく自助、共助、公助と言われますけれども、私どもは自助、近助、共助でございます。つまり、近所、声の届く範囲で
防災体制をしっかりつくっていかなければならないといったことから、この社会的手抜きの排除にも
効果が非常に高い
取り組みである、そのように認識をしております。
それから、当然のことながら、この記入シートに御自身が御記入をいただくわけでございますから、御自身の住まいのリスク、これを事前に御理解いただける、認識いただける、こういった
効果がございます。
それから、記入シートの中に少し特徴的な聞き取り項目もございまして、「
防災となり組」という聞き取り項目がございます。これは何を
意味しているかと申しますと、隣の地区に住む御親戚、例えば息子さんであったり、隣の地区までの物理的な距離は有事の際には機能しないといったような認識を持ってございまして、有事の際は、声の届く範囲、この最小単位で
防災機能の向上を図っていくべきであろう、そのように思ってございます。
実は、この
防災となり組の
取り組み、大きな根幹思想の変化、変更にもなってございます。つまり、これまでの
防災、誰がやるべきなのかから、誰ならできるのか、こういった哲学の変更、こういったものの性格もあわせ持っていると自負をしております。
それからもう
一つは、このカルテに記入いただく物理的な
作業、この
作業によって記憶の定着が起こり、そしてこの記憶の定着はそのときの行動に作用する、つまり、対処行動をしっかりととっていただける人間をつくり上げていくことができる、そのような心理的な
効果もある。これは、実際に、現在、ナショナル・レジリエンス懇談会の座長をお務めの藤井先生から心理的プロセスの御説明をいただき、こういった
効果があると。
さらに申し上げますと、この
効果の検証のために実際にプログラムをつくり、実際に
地域に入って検証した結果もございまして、当町が進めておりますこの戸別
避難カルテ、この
作業は対処行動の誘発につながる、こういった
効果もあるというふうに申していただいたところでございます。
次ページの上段のグラフを少しごらんいただければと思います。
これまで、三つの特徴の御説明のうち二つを申し上げました。
一つは、全職員による
防災の
取り組み、これが
推進体制でございます。そして、
一つの町を十四の分団に、そして十四の分団を六十一地区に、そして六十一の地区を四百六十三の班に、これが細分化の
取り組みでございます。この上段のグラフは、圧倒的ボリュームのコミュニケーションをあらわしてございます。
昨年の三月三十一日に新
想定が公表されて以降、現在までの約一年半で当町で住民の皆様と積み上げたワークショップは五百三十回にも上りました。そして、そこに御参加いただきました延べ人数は二万五百人。これは、当町の総人口の約一・七倍弱に当たります。
このぐらいの圧倒的ボリュームをもってしなければならなかった、こういった理由が実はございます。それにつきまして、それと絡めて意見を申し上げます。
これまで申し上げました当町の三つの
防災の特徴、
推進体制、細分化、そして圧倒的ボリュームのコミュニケーション、これらを包括して、私はある種のプロセスイノベーションであると認識をしてございます。そして、重要なのは、なぜこの圧倒的な
活動量を要するイノベーションの必要があったのか、こういうことでございます。
それは当然のことながら新
想定によるものであって、
対応しなければならない事態の
想定が大きく変更されたからであり、それは、基礎
自治体のみならず、国においても同様でございます。
今回の
想定に
対応するためにも、国にも強くイノベーションを求める次第でございます。それは、私ど
もと若干相違がございますが、今回の
想定に
対応するために、既存の法律の見直しを図り、そして制度設計をし、そして、何より、
想定される大
規模災害に真正面から取り組むんだ、こういった強い
姿勢を広く
国民にお示ししていただくことでございます。
そういった中、御審議をいただいております
南海トラフ地震に係る
法案につきましては、その意思を明確にお示しいただいたものであると高く評価並びに敬意を表するところでございます。今後は、基礎
自治体が円滑に運用できるような制度設計を期待するものであります。
最後になりますが、現在
想定されている最悪のケースが起こってしまった場合、当町では二千三百人が犠牲になるとされており、この二千三百人という数字は、当町の総人口の約二割に該当いたします。ここで
委員の皆様に深く御理解いただきたいのは、私
たちが向き合わなければならないのは、資料の中の二千三百という大枠の数字ではなく、日々、
地域でお暮らしの、顔が見える
一つ一つの命であるということでございます。
災害列島で暮らす以上、そのリスクは避けることができないことは言うまでもございません。大切なのは、それらに対し、手抜きをせず、いかに真剣に考え、そして全力で
対策を講じ、その日に備えるかでございます。
国におかれましては、何よりも人命を
確保し、そして、しっかりと次の世代にふるさとを引き継げるよう、
取り組みを
強化していただきますことを御期待申し上げます。
以上でございます。(拍手)