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荒木貢君 お手元に
意見陳述書を用意してございます。
特定秘密保護法案には、私は、皆さんと一緒に断固反対する所存でございます。
一九八五年に、いわゆる
国家機密
法案が出されておりました。私は、その当時からこの
法案に反対していた弁護士でございます。
当時、日米ガイドラインというようなものがございましたけれども、背景として、
西山事件というのがありました。この
西山事件における
秘密といいますのは、当時の
佐藤栄作
内閣が、沖縄の地権者に支払う原状回復費をアメリカが負担すると公式発表しながら、実際は日本
政府が肩がわりして支払うという密約でした。これは
国民を欺く
秘密でありまして、本来の意味で
国家の利益として
保護に値するような
秘密ではございません。西山記者が処罰されましたことは、
国民から大きく
批判されました。最近も、山崎豊子が「運命の人」で書いているとおりでございます。
国家機密
法案は廃案にされました。私は、今回の
特定秘密保護法案は、その蒸し返しであるというふうに感じております。
特定秘密保護法案は、日米同盟をさらに一層推進すべく、集団的自衛権の行使を可能ならしめ、
国民への重罰化のもとに、日本の軍事警察
国家化をさらに強力に推し進めようとする
人権抑圧
法案であるというふうに
考えます。
今回、一体いかなる理由によって
法案が
提出されたのか、極めて漠然としております。推測しますに、国は、集団的自衛権を実効あらしめるため、この
法案を成立させ、アメリカからより一層
情報が得られるようにしたいと
考えているようでございます。
しかし、核による支配を中核に据え、他国まで
侵略、占拠するアメリカと、専守
防衛を旨とする
我が国とが、同盟関係を推進、
強化した場合、攻撃的な同盟関係となってしまうことは避けられません。
我が国が他国への
侵略や占拠に加担する結果を招来しかねないということであります。すなわち、イラク訴訟の名古屋高裁判決が重大な憲法違反と断じたような事態を再び引き起こしかねないわけでございます。
したがいまして、
安倍内閣が集団的自衛権を唱えていることは、憲法の空洞化を狙った、日本にとって極めて危険な
行為と言わざるを得ず、重大な憲法違反を招来する
可能性があると
考えます。
また、どの国であれ、自国の利益がないのに、多額の資金と労力を費やして
収集した
情報を、ただ黙って他国に
提供したりはしないものです。そのようなことをすれば、背任
行為として責任を追及されるおそれがあります。
アメリカも例外ではなく、アメリカは、日本が中国等の前線にある国として、アメリカの
防衛に役立つ
情報しか
提供しないであろうことは容易に推測されます。したがいまして、アメリカからより一層
情報が得られるようになる
可能性もほとんど期待できそうもありません。
以上に加え、日本に
秘密保護法制を迫るアメリカは、世界じゅうの
情報を歯どめなく盗聴していたことが明らかになっております。このようなアメリカが日本に対して
秘密保護法制の制定を迫ることは、その資格を欠いていると言わなければなりません。
国民に何が
秘密かも知らせないまま、厳罰をもって臨み、畏怖させ、萎縮させ、沈黙させる
法案であるというふうに
考えます。
今回の
法案では、
指定される
特定秘密は、網羅的であることに加えまして、その他の
安全保障に関する重要なものとか、それから、その他の重要な
情報というように、その他の重要なもの、その他の重要な
情報という
言葉を多用しております。これらが何を意味しているのか、
国民にとっては不明であります。
政府機関が
収集した
情報を、重要なもの、あるいは重要な
情報と言いさえすれば、広範に何でも含まれてしまうおそれがあります。
もし今回の
法案が通るならば、北朝鮮との問題、竹島との領土問題、中国との尖閣諸島の領土問題などの
外交問題に加え、今問題になっている原発問題についてまで、軒並み
秘密指定がなされる
可能性が高いと言わざるを得ません。そして、
国民は、何が
特定秘密として
指定されているのか、あるいは
指定されていないのかを知り得ず、その点を
行政機関に確認することもできません。
現在、
福島県におきましては、国や東電を相手として、原状回復を求める訴訟が複数提起されております。私もそのうちの
一つの副団長を務めております。
こういう訴訟の遂行のためには、事故を起こした原因と目される
原子力発電所の施設、機器、系統などの仕組みを詳細に調査し、原因を
特定しなければなりません。しかるに、その一部が、
テロリズムによる被害の発生もしくは拡大
防止のための
措置に該当するとして、
特定秘密保護法に抵触したとされますと、厳罰を免れず、責任の追及も不可能になってしまいます。
そして、それ以上に、同法によって処罰されるのではないかという恐怖心は、萎縮効果をもたらし、原告ら及びその代理人らの調査を控えさせることになりかねません。これでは、甚大な被害をもたらしながら法的責任を認めない国及び東電を事実上免責するに等しく、効果的な被害者対策を求めることが不可能になってしまいます。
しかも、今回の
原子力発電所事故におきましては、メルトダウンしていた事実が二カ月もたってから発表されました。これは、戦争が起こった場合に例えますと、戦争が始まって二カ月もたってから戦争開始の事実を知らされたようなものでございます。それに加えて、SPEEDIの
情報が住民に迅速に知らされず、住民は放射線の高い地域に避難してしまいました。これも、爆弾の投下の激しいところに避難したようなものでございます。
このように、重要な
情報が秘匿されるという事実は、
国民に多大な犠牲を強いるものであります。
今回の
法案は、
国民のプライバシーを広範に侵害する
法案であります。
今回の
法案におきましては、
特定有害活動それから
テロリズムとの関係に関する
事項について、
行政機関の職員のみならず、適合事業者の従業員まで含む
評価対象者の一定
範囲の親族や同居人についてまで
適性評価を
実施することとされております。
このような調査は、
行政機関の長のみの判断で、
特定有害活動及び
テロリズムとの関係に関する
事項についての調査であるという名のもとに、
行政機関の職員のみならず、適合事業者の従業員、それらの者の一定
範囲の親族や同居人、さらにはそれらの者と接触する知人その他の関係者にまで及んで、広範にプライバシーを侵害する
可能性があります。また、これらの者が抱く萎縮効果も絶大なものがあります。
仙台地方裁判所は、陸上自衛隊
情報保全隊が、イラク派兵に反対する全国の広範な団体、市民の集会、デモ等の動向を
組織的かつ日常的に監視し、個人の実名を含む
情報を
収集、
管理していた、こういう
事件につきまして、国に対して
国家賠償の支払いを命じました。こうした
行為が、
特定有害活動及び
テロリズムとの関係に関する
事項についての調査であるという名のもとに行われた場合、こうした
行為が全て免責され、野放しとされてしまう
可能性があります。
国民が、何も知らされないで逮捕され、勾留され、暗黒の裁判によって厳罰に処せられる
法案であります。
以上述べてきましたように、
国民は、何が
特定秘密として
指定されているのかを知り得ません。そのため、
特定秘密保護法に触れたとして、突然、逮捕、勾留されたり、捜索、差し押さえを受けたりするおそれがあります。しかも、未遂罪、それから独立教唆罪、独立共謀罪、独立扇動罪、過失犯まで、広範に及ぶ規定が置かれております。そうした場合、何が
指定された
特定秘密かが明らかにされないため、弁護人としても弁護の施しようがありません。これは裁判になっても同様で、まさに暗黒裁判と言わざるを得ません。
結論ですが、
我が国には既に、自衛隊法に
防衛秘密についての規定が存在しております。そのほか、
国家公務員法や地方公務員法も存在して、公務員に守秘義務を課しております。これで十分であるというふうに
考えます。
今回
提出された
特定秘密保護法案には、いかなる合理性も認めることができません。説得力のある立法事実もなく、
我が国の平和主義、民主主義を大きく侵害し、多大な
人権抑圧を招く
法案であります。今現在、全国の多数の
国民が反対しておりますとおり、私もこの
法案には断固反対であります。
以上でございます。