○三木
参考人 情報公開クリアリングハウスの三木と申します。
きょうは、このような機会を与えていただいて大変光栄でございます。と同時に、ここに私が呼ばれたということは、大変複雑な気持ちでもございます。
私どもは、三十年以上にわたりまして、公的機関の
情報公開を進めるという
活動をしてまいりました。その立場から、本日は、
特定秘密保護法案について意見を述べさせていただきたいと思います。
お手元に
資料を用意させていただきました。パワーポイントの
資料ですね。少し部数が多くございますけれども、ぜひ御参照いただければと思います。
まず初めに申し上げておきたいことは、私自身はこの
法案には
反対であるということでございます。
私自身は、この
法案を見てまず最初に考えたことは、
特定秘密の
保護という懲罰的な要素を強くした側面に関しては
政府権限を最大化している、一方で、
特定秘密の
管理という
政府の説明責任を問う
部分については最小限にしか規定がされていないということについて、非常に危機感を持ちました。
私自身は、
政府が持っている
情報について非
公開や
秘密を認めないという立場ではございません。一定範囲については非
公開、
秘密はあるというふうに考えております。
問題は、
秘密をそのままにしておけば、それは、
政府は永遠に説明責任を果たさないということになるということであります。それは健全な
政府とはとても言えないというのが私自身の
理解であります。なので、
秘密や非
公開を持つのであれば、
政府の説明責任の徹底がまず必要であるということを強く考えております。
しかし、この
法案は、その
政府の義務は最小限にしか規定をされていない。そのことをもってしても、この
法案については賛成ができないということであります。
なぜ強くそれを申し上げるかと申しますと、私自身、過去、二年間くらいにわたりまして、
防衛秘密がどういう
実態なのかということを
情報公開制度などを使いながら調べてまいりました。その中でわかったことは、
防衛秘密に関しては公
文書管理法の適用外になっていたということと、それから、
防衛秘密の指定、解除、廃棄の
実態についてはまとまった
資料がどこにもなかったということでありました。
八月の終わりに、どうも公
文書管理法の適用ではなさそうだということに気づいて以来、ずっとこの
法案がどういうことを想定して立案してきたのかということを改めて振り返ってみました。そうしましたところ、どこにも
防衛秘密の課題を
認識してこの
法案を立案したという形跡がございませんでした。
防衛秘密に関して私たちや
報道機関が調べなかった限りは、この
法案においても、
防衛秘密と同じように公
文書管理法は適用外とされ、
秘密の指定の
実態も公表されることなく、この
法案自体が通っていたということを非常に危機感を持って受けとめました。
そういうことを考えますと、この
法案自体は、
政府の説明責任ということをもともとの立案段階から埋め込まずに今に至っているということを言わざるを得ません。そのこと自体をもっても、やはりこの
法案については賛成はとてもできないというわけであります。
それともう
一つ、
防衛秘密の問題を調べていくうちに気づいたことがございます。それは、記録の
管理とアクセス
管理を完全に混同して議論されているということであります。
秘密であればこそ、記録を作成して、
管理して、そして時間をかけてでも
公開をしていくというルールの徹底が必要だというふうに考えています。これは記録
管理の徹底という観点だと思っています。記録
管理が徹底されないと、
政府は説明責任から逃れるということに結果的になるということであります。
法案が規定をしていることは、記録の
管理ではなく、記録にアクセスする人を
管理するという
意味でのアクセス
管理であります。アクセス
管理は、物理的にどのように扱うかということを考えてつくられているものでございますので、これは記録の
管理という視点は完全に欠如しているというふうに思います。
防衛秘密の
管理の
実態を見ましても、これは記録の
管理ではなく、アクセス
管理を重点に制度がつくられているということがよく
理解できました。
そういうことを考えますと、やはりここでやらなければいけないのは、記録の
管理を徹底し、その上で、アクセス
管理をどうするかということをまず検討していただくということが本来の順序ではないかというふうに考えております。
それと、この間、審議等を拝見していまして、ずっともどかしく思っているところがございます。それは、議論、論点の混乱があるということであります。
先ほど申し上げましたとおり、記録
管理とアクセス
管理は完全に混同されているというふうに考えています。
それから、
秘密の
保護と
秘密の
管理というのは、これは本来バランスをとって行うべきものですけれども、そのバランスが
認識をされていないというふうにも考えています。
それからもう一点、
法案では、今回、
特定秘密というカテゴリーをつくるということになっておりますけれども、これ以外に省秘と呼ばれるものとか特別
管理秘密と呼ばれるものがございます。それらとの
関係は、何ら整理も検討もされずにここまで来ているというふうに考えています。
一枚めくっていただきますと、
特定秘密保護法案の範囲というのを、非常に大ざっぱな図でございますけれども、私なりに書かせていただきました。
要件等を加味しますと、
特定秘密や
防衛秘密、特別
防衛秘密というものを超える範囲で特別
管理秘密の要件が記載されている。さらにその外側に省秘があり、さらにその外側に
情報公開法による非
公開という範囲もあるというふうに考えております。
もう一枚めくっていただきますと、
秘密指定の範囲をざっと整理したものがございます。これは、必要があってアメリカの大統領令が入っておりますけれども、日本の
秘密の範囲について整理をしてみました。
これを見ますと、私なりに
理解をしたところは、
特定秘密というものができましても、省秘と呼ばれるカテゴリーはこの
法律の中に全て包括はされないということになります。そうしますと、
秘密の範囲は、
特定秘密というものがありながら、一方で、既存の内規や申し合わせで行われていた
部分についてどうするのかということは、この間全く議論をされていないというふうに考えています。したがいまして、この
法案ができましても、従来からの内規なども含めると、ダブルスタンダード、トリプルスタンダードということが起こり得るのではないかというふうに思っています。
要は、
秘密指定の範囲としてどういうスコープで議論しているのかということも明らかではない。その中で、記録の
管理ですとか
秘密の
管理という観点が完全に欠落をしているということに対して、非常に危機感を私自身は持っております。
さらに加えまして、議論、論点の混乱としては、
秘密指定の解除と、解除された
秘密の
公開というものがどういう
関係なのかということも一切検討がされていないということであります。
情報公開法による非
公開規定というものは、
秘密の範囲よりもかなり広いものでございます。
秘密の解除の要件は、
秘密としての要件を満たさなくなったという条件でございます。したがいまして、素直に読みますと、
秘密の解除イコール非
公開の範囲ではなくなったというふうには読めないわけでございます。そこも、この間の審議の中では明らかではないということは指摘せざるを得ないということであります。
それから、この
特定秘密保護法案に関しましては、
情報漏えいを取り締まるための
法律というのが基本的な枠組みだというふうに
認識をしております。その
認識がかなり欠如したままこの間審議をされているのではないかということを強く
懸念として持たざるを得ないということであります。
私なりにこの
法案を見ますと、
秘密指定に関する権限に関しては、
行政機関の長が独占をするという構造になっていると
理解をしております。
秘密指定に関しても、それから
秘密の期間の設定、更新に関しても、それから
秘密指定の解除に関しても、全て
行政機関の長がその権限を独占するという構造になっています。
それから、記録
管理のルールについてどうなるのかということについても、この
法案は明確に書いておりません。恐らく、各施行令から訓令という
レベルで
行政機関の長が定めるということになりますと、これも
行政機関の長による独占ということになります。
行政機関の長による権限の独占ということをどうやってコントロールしていくのかということに対する視点がこの
法案には欠如していると言わざるを得ないというふうに考えております。
そこで、私の配付した
資料には、視点一ということで、十枚目に少し整理をさせていただきましたけれども、
秘密指定の問題に関しては、私自身は
秘密の
保護という観点ではこの
法案には
反対ですが、
秘密の指定を適切に
管理するということについては、現状は
管理がない状態ですので、ある程度政策的な対応をしていただく必要があるというふうに思っています。
そういう視点から、
秘密指定に関する権限をどうやってコントロールするのかということをぜひ真摯に御議論いただきたいというふうに考えています。
秘密指定制度全体を監察するような機関をつくるということですとか、
秘密指定の不適切な範囲拡大を抑制する効果的な制度設計というものもぜひ検討していただく必要があるだろう。その中には、指定禁止事項のようなネガティブリストもやはり必要ではないかというふうに考えています。
過剰な
特定秘密の指定が始まったときには、私は、単に
秘密が広がる以上の深刻な問題があるというふうに考えています。それは、
特定秘密は、
情報漏えい等が発生した場合に取り締まりを行うという範囲であります。過剰な
秘密の指定は、取り締まる範囲を拡大するということにもなるわけであります。
過剰な
秘密指定というのは、これは結果的に起こっているというふうに考えています。
一枚おめくりいただいて、十二枚目をごらんいただきますと、これは、平成十六年に沖縄国際大学に
米軍ヘリが墜落した際に、その経緯について外務省に
情報公開請求をしたときに出てきた
文書でございます。
これを見ていただくと、いずれの
文書についても、右上に「
秘密指定解除」というふうに書いてございます。一件は「秘」、もう一件は「極秘」でございます。「極秘」の方は「無期限」というふうになってございます。
これは、実際に
文書がつくられた平成十六年のこの時点から数カ月後の
情報公開請求です。これは、外務省の省秘による
秘密指定制度でございますけれども、この時点で「極秘 無期限」というものがつけられていた、
情報公開請求をしたらその
秘密指定が解除された。これは、明らかに過剰な
秘密指定がされているということであるというふうに考えています。
情報公開請求をすればこのような形で出てくる場合もございますけれども、内部統制的に考えますと、この範囲については
処罰の
対象になる、取り締まりの
対象になるというサインを各
職員に対して出しているということでもあるということでありまして、私自身は、過剰な
秘密指定は
情報の内部統制を不健全に強化することにつながるのではないかということでありまして、
政府の説明責任ではなく、
秘密の抱え込み構造を強化するだけではないかということを非常に強く
懸念をしております。
それから、視点二としまして出させていただきましたのが、
秘密指定
情報の記録としての
管理の問題であります。
現在、
防衛秘密が公
文書管理法の適用外になっているということもございます。それから、
特定秘密に関しても、この間の
政府の説明によりますと、
文書の廃棄のルールについては公
文書管理法を適用する、ただし、
管理のルールについては適用するとは明言をされておりません。
管理のルールが適用されていないということは、
文書の作成義務から行政
文書としての体系的な
管理のルールが適用されていないということであります。ここが、
情報管理と記録
管理が混同されていて、整理をされずに議論されているという問題であるというふうに思います。
秘密であっても、
政府職員は記録を作成するという義務は当然ございます。そうした法制度の適用を除外しておくということは、これは、単に除外ではなく、記録がつくられないことによる不利益というものも生むのではないかというふうに考えております。
それから、視点三として出させていただきましたのが、
秘密指定解除の権限の明確化であります。
現在、解除の
判断の引き金になることとしては、
秘密指定有効期間の更新時、それから三十年超になった場合の
内閣の了解というものと、
情報公開請求が行われたときの三分類しかないかというふうに思います。この状態は、
行政機関の長が権限を独占するということから、複線化ということをやはり考えていただく必要があるかというふうに考えています。
それから、
秘密指定の解除と
情報公開の明確化は、これはぜひ
国会の中で責任を持ってやっていただきたい。
秘密指定解除イコール
情報公開とは読めない
法案になっております。ここをはっきりと、
秘密指定解除イコール
情報公開ということなのであれば、
公開というふうにわかるようにしていただきたいということであります。
それから、
罰則も大きな禍根を残すというふうに考えています。
そもそも、
特定秘密が過剰に指定をされる
可能性は当然あるわけでございます。その
特定秘密に関して
罰則を科すという形になっているという
意味では、懲罰の範囲は曖昧であるということを言わざるを得ないというふうに考えています。
そうしますと、
特定秘密に指定をしてはいけないものも、禁止する規定がないということでございますので、やはり不適切な
秘密指定、それから、適切ではない事柄が
秘密に指定された場合に、
情報を外に出すという機能が非常に制限をされるというふうに考えています。ジャーナリズムへの脅威であるというふうに私自身は言わざるを得ないところであります。
そういうことを考えまして、
公益通報者
保護法というものが説明をされますけれども、
公益通報者
保護法は非常に
保護の
対象が限定的でございます。
資料のところに並べさせていただきましたので、ぜひこれを見た上で、
公益通報者
保護法が本当に機能するのかということを考えていただきたいというふうに考えております。
私自身は、
秘密の
管理と
公開についての法制化をまずしていただくというのが先であって、
秘密を懲罰をもって
保護するということは、それがきちっとできてからのことではないかということであります。
この間、アメリカの国立公
文書館から日本の外交や安全
保障に関する
情報が大分
公開をされまして、それをもとに、日本の外交、安全
保障に関していろいろな検証が進んでおります。私は、あれを見ていまして、非常にもどかしく思っております。
というのは、日本側の記録はなく、
関係者からの証言をもとに、アメリカの
資料に頼って検証が行われているということであります。歴史は、日米の問題であれば、日本とアメリカ、双方の記録をもとに検証されるべきものであります。アメリカの記録にのみ依存しているということは、これは大局的には日本の不利益につながる話であるというふうに考えております。
そういうことを考えましても、やはりこの
法案は一旦廃案にしていただいて、仕切り直しをしていただきたいということであります。
このことについては、廃案は無理だという言い方をされる方もいらっしゃいますが、やはり
政府の責任は一体何なのかということを
国民との
関係で考えていただいた上で、ぜひ賢明なる御
判断をいただければというふうに考えております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)